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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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死ぬのはどっちだ死亡遊戯

ザティスもアンナベリーも臨戦態勢が整うと先に仕掛けてきたのはアンナベリーだった。


幅広の大剣を縦振りにして斬りかかってくる。


「ぐぬうッ!!」


ザティスはそれを両手の白刃取しらはどりで受け止めた。なんとか持ちこたえる。


「あら~。強くなってるじゃない。期待を裏切らないでねェ……」


不気味な笑いを浮かべる女性を因縁いんねんのある青年は腕をひねって横に投げ飛ばした。


当然、相手はローリングして受け身をとってスキを見せなかった。


今度は真っ二つにしようとばかりに横斬りを放ってきた。


だが、ザティスはジャンプしてそれをかわし、剣の上に立った。


「タンタンタンタンッ!!!!」


刃の上を走って一気に距離を詰める。頭にりを一発くれようとしていた。


だが、そう簡単にはいかない。アンナベリーは大剣を大きく上に振り上げて青年を空中に放り投げた。


体格にまったく似合わないまるでオモチャを振るうかのような大剣の扱いに周りは驚いた。


こういうときに中、遠距離魔法の全く使えないザティスは不利だ。


「あ~あ。残念。もうちょっと楽しめるかと思ったのに!!」


ジャンプした浄化人ピューリファー串刺くしざしをねらって物凄ものすごい勢いで迫ってくる。


「へへ。甘いぜ。俺が成長してないとでも思ったのかよ? アイギス・ホワイト限定の魔術だぜ!! スキップ・アトモスフィアー!!」


彼は宙の何もない空間を足がかりに蹴飛けとばし、軌道きどうを一気に変えて強烈な突きをかわした。


彼はすぐに着地するなり姿勢を正して反撃に出た。


「背後とったぜ!! うおらあああああぁぁぁッッッ!!!!!!」


突き攻撃に集中していたアンナベリーの背中にザティスのアッパーパンチが直撃する。


「ぐぐっ!?」


確かに手応えはあった。死角からの攻撃によってのけぞりも生まれた。


「今だ!! デッドリィ・ダンス!!」


両手拳をにぎっての叩きつけ、右パンチ、左パンチ、首刈くびかりハイキック、回転するかのようにもう片方の脚で拾い上げてからのエルボー、裏拳、両手の掌底しょうてい


流れるように一連の格闘術がクリティカルヒットした。


だが、アンナベリーは大剣に寄りかかりながら立ち上がった。


「ハァッ……ハァッ……相変わらずタフでやんの。サイアクだぜ……」


周囲で声援を送っていた教会の軍勢は大声を上げた。


「多分……これが最後になるわ……。命乞いのちごいして私と来ない?」


筋肉質の青年はき捨てるように言った。


「はは……冗談。馬鹿言え。おめぇみたいな未練たらたらの女は大嫌いだぜ」


アンナベリーは大剣を構え、殺意をむき出しにした。


「そう。ざ・ん・ね・ん。じゃ、焼き尽くしてあげる。ヘルフィア・ダッシャー!!!!」


相手がそうであるようにザティスもこの魔術には熟知していた。


(ぐっ、突きの攻撃は回避できてもあたりをおおう炎は避けられねぇ。おまけに爆発まで起こされたら耐えきれねぇ!! さて土壇場どたんばだぞ!! どうする!?)


浄化人ピューリファーは青い炎をまとって突進してきた。


格闘家はなんとかしてこれをかわすが、どんどんフィールドが炎で加熱されていく。


対戦相手はこれを爆発させることもできるのだ。どんどん追い詰められていく。


「チッ。ちょこまかちょこまかと逃げ回って。こざかしいわァ……。なら、これでどうかしらッ!!」


あきらかに彼女はイライラし始めた。剣の鋭さが増す。


(そろそろ頃合いだな。いくぜ!! 加速魔術アクセラレイト!!)


ザティス以外の周囲の動きが急に遅くなった。


いや、周りが遅くなって言うわけではない。それは体感的なものだ。


実際は彼のスピードがね上がっているのである。


術者には時間の流れが遅く感じる。


それに対して他者から見ると高速で動作しているように見えるというのがこの魔術の特徴だ。


ザティスはすんでのところで迫りくる刃を何度もかわす。


「あ~あ、い~ら~い~ら~す~る~わ~。ま~る~こ~げ~に~し~て~や~る~わぁ~」


アンナベリーのスローモーションのような間延まのびびした声が聞こえる。


(残り10秒!!)


ザティスは水の中を歩くように相手にゆっくり近づいた。


(4……3……2……)


アクセラレイトが切れて時間の流れが元に戻った。次の瞬間。


「……かぁっは!!」


ザティスの拳はアンナベリーの心臓を貫いていた。


青年がぐっと力を入れるとそれは跡形あとかたもなく爆散した。


「あんたマジでバカだな……。爆発の直前にちょっとだけスキが出来るって前に稽古けいこのときにネタラバシしたのはアンタだぜ? これだから手の内ってのは明かしちゃいけねぇもんなのによ。あとは冷静さを欠いたのも敗因だぜ……」


アンナベリーは両膝りょうひざをついて傷口を手で押さえた。


「うふふ……。ごぼっ!! そう、それでいいのよ。ぼごっ……ざてぃすくぅん……わたし、うれし……」


彼女は立膝たてひざをついたまま絶命ぜつめいした。


「………………」


ザティスはなんとも言えないと言った表情で死体を見下ろした。


その時だった。観戦していたサランサがわめき出したのだ。


「そんな!! バカな!! 団長が負ける!? 団長が負けるなんて、そんなのありえないッ!!」


彼女は取り乱しているようだった。


ザティスが周囲の残存勢力に声をかける。


「おい。おめぇら。降参すれば危害は加えねぇ。戦意のねぇやつは武器を捨てて、腕を後ろ手に組んでせろ」


ぞろぞろと神殿守護騎士テンプルナイト達はギブアップの意を示し始めて砂浜にせた。


だが、サランサは立ちくしたままだった。


「ふざけるな!! こんな……こんな事、認められるか!! 貴様らのように不浄なやから蹂躙じゅうりんされるくらいならば生きている価値はないッ!!」


彼女はそう言うと懐刀ふところがたなを取り出した。


「馬鹿!! やめろッ!!」


ザティスの声が響いたその直後、サランサは自分ののどやいばで思いっきりっ切った。


「かはぁ……。こふっ……こふっ……」


すぐに治癒師ヒーラーや魔法薬学の生徒が駆け寄って治療をほどこそうとした。


しかし急所に極めて深い傷が出来ている。


もうどう見ても致命傷ちめいしょうであり、間に合わなかった。


いくら優秀な治療班でも今回のようにどうしようもないケースもある。


直視できないほど彼女は苦しげにもだえた。



死にゆく彼女の瞳には誰かが薄っすらと見えていた。


「あははは!! サランサ!! サランサ~!!」


「うふふふ……サランサ……」


確かにシャンテとマルシェルが声をかけてくれるのが聞こえた。


その表情は怒りや悲しみではなく、ただ穏やかなみを浮かべていた。


(シャンテ様……マルシェル……。これで、これでよかったのですね……)


彼女は死を目前にして毒気から開放されたのだった。


やがて彼女は力尽きて砂浜に倒れ込んだ。


ザティスとファイセル、リーリンカが走り寄る。


「このバカ野郎がーーーーッ!!」


ザティスはサランサの上半身を抱えると思いっきりすった。


「やっぱり……気のせいじゃなかったね。彼女はシャンテ様のおつきのサランサさんだったんだ。すごく乱暴だったけど、悪い人じゃなかったよ」


リーリンカはバンドエイドでサランサの首の傷をふさいだ。


「ああ。とんでもない革新派だったが、かといって悪人ではなかった。シャンテを護りたい一心だったのだろうな」


ファイセルは言い忘れていたとばかりにリーリンカに伝えた。


「そういえば……シャンテ様とマルシェルさんはお亡くなりになったよ。話によるとサランサさんが殺ったらしいんだ。もうその頃にはおかしくなっていたのかもしれないね」


ファイセルもリーリンカも身近な人がゴミのように死んでいく現実に苦しめられていた。


「このままじゃこの馬鹿は不死者アンデッドになっちまう。遺体を運んでどっかで処置してやるか」


ザティスの目が赤かったのは気のせいだったのか。真相はアイネだけが知っていた。


こうして東軍と西軍の友好度はそれなりに上がった。だが手を組んだのはあくまで非常事態だからである。


みぞ依然いぜんとして深く一触触発いっしょくそくはつの状態に変化はなかった。


ROOTSルーツのスヴェインからアルクランツ校長は報告を受けていた。


「ああ。んああ。ルーンティア教会が落ちたか。教会本部は魔術局の犯罪処理課が捜査そうさに入ることになった。どうせ残ってるのはフラウマァと一部の騎士くらいだしな。アイツ自身にはなんの能力もない。教会はこれで間違いなく終わったな」


それを聞いていたROOTSルーツの面々はとりあえず解決したと思っていた時だった。


白いワンピースの幼女は頭が重そうな様子で語りだした。


「う~む、厄介者が片付いたのはいいんだが、戦場というのはバランスだ。教会はロザレイリアやクレイントスらリッチーの抑止力よくしりょくになっていた。教会の使う聖水などのアイテムは魔術全般は不死者アンデッドにはよ~く効くからな。その連中がつぶれたとなるとリッチーをはばむものはかなり減ることになる。下手をすると遺品探しをしつつの戦いになるかもしれん。これはかなり面倒だぞ……」


思わず一同はため息を付いた。


「状況を確認するぞ。まずは我々のリジャントブイル、そしてロザレイリアの不死者アンデッド軍団、ザフィアルのカルト教団、ルーブとラマダンザはクレイントスとして一体化、北方砂漠諸島群ほっぽうさばくしょとうぐんのは単身で行方不明ゆくえふめい。軍としての勢力を持つ陣営は4つまで減ったことになるな……」


アルクランツの通信先からは何か食べている音がした。おそらくまたなにかのスイーツだろう。


「まぁ教会の早期退場は想定外だったが。学院の動きとしては悪くない。どうせロザレイリアにもザフィアルにもさとられているだろうが、それでも動きまで読まれていないわけだからまぁ上々と言える。遅かれ早かれノットラントでの総力戦になるわけだからそれまで出来る限り戦力を温存する。それまでのことだ」


通信の向こうからレイシェルハウトが声をかけてきた。


「ノットラントを戦場に!? そんなこと!!」


その言葉をさえぎるように校長は答えた。


「なんだ。わかりきったことだろう。ノットラントに楽土創世らくどそうせいのグリモアが出現するのはほぼ確定だ。私が参加した過去6回全てがそうだし、それに敏感びんかんなザフィアルも決まって最終的にはノットラントに顔を出す」


ウルラディール家当主は恐る恐るたずねた。


「それで……いつまで戦いは続きますの?」


相手はシリアスに答えた。


「互いが戦えなくなるまでだ。その結果、残った陣営じんえいによる楽園を分割する賢人会けんじんかいが開かれる。もし、誰かが頭一つ抜けた場合はソイツの願う楽園が実現されるってわけだ。もっともここ最近は不毛な争いを避けるために賢人会けんじんかいで落ち着いてるんだがな。だが、誰かに出し抜かれるいうこともありうる。油断は禁物だ」


想像以上に争奪戦そうだつせんは厳しいものになる。


レイシーはなんとかしてノットラントを戦場にしない方法はないかと考えていた。


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