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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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人斬りの紫、護りの白

ザティスとアンナベリーは盛り上がった泥の上で完全に1vs1の構造になった。


「ザティスさん!!」


思わず恋人のアイネが声を上げる。それをバレン教授は制止せいしした。


「待て。もしここでザティスが勝てば相手の戦意を大きくげるはずだ。ここはアイツにまかせろ。それにな、サシの真剣勝負に割って入るのは無粋ってもんだぜ。大丈夫だ。ここは俺が見届ける。万が一でもザティスは死なせねぇ。お前らはノットラント連合軍を援護してやれ!!」


気づくと泥がスーッと退いていった。


学院のアタックチーム約30名はゴンドラから飛び降りて教会の軍勢に向かっていった。


これで教会の残存兵は3方向から囲まれる形となった。


それでも相手は強敵ぞろいで思ったより進軍は遅かった。


一方、盛り上がったステージの周りには戦いそっちのけでアンナベリーを応援する人だかりが出来ていた。


大抵たいていがもう為すすべもない雑兵たちだった。


その中にはサランサも混じっていた。


「おい貴様!! リーネ奉武大祭での戦い、忘れんぞ!! 卑怯な呪文(カーズ・スペルなぞ使いおって!!」


ザティスはしばらく考え込んでいたが、思い出してポンと手を叩いた。


「あぁ、あのときの三下さんしたか。戦いの邪魔だぜ。すっこんでな」


女騎士は頭に血がのぼった。


「さ、三下さんしただとぉ!?」


そんなやりとりをしているとアンナベリーが声をかけてきた。


「まぁ。また女? あなたって軽薄けいはくね。そうやって何股なんまたもかけてるんでしょう? そういうところ……殺してやりたいほど大嫌いよ」


茶髪で背の高い青年は不本意とばかりに腕組みした。


「あのな、バカいってんじゃね~よ。俺がそんな男じゃないの、あんた知ってるだろ」


今までの彼女とは別人のようだ。楽土創世らくどそうせいのグリモアの毒気どくけに当てられるとこうなっていくのだろう。


そうザティスは同情せざるを得なかった。


「でもねぇ、ザティスくぅん? あなたの必殺魔術のブルー・ファングは元々、私の魔術を教えただけ。だから逆立ちしてもあたしには勝てない。だってモノマネの域を出ないんだもの。それに、あなたの手の内も手に取るようにわかってる。それでも私がこんなつまらない戦いをするのは……ザティスくんの一生をもらうのはあたし以外ありえないからよ」


とんでもないヤンデレ具合に青年は冷や汗をかいた。魔術的プレッシャーというのもある。


だが、ザティスはそれをはねのけた。


「手の内がわかってるのはアンタだけじゃねぇよ。だってアンタ、人魚の姉ちゃんとのインビテーション・マッチで負けてたじゃねぇか。しかも戦術は俺に稽古けいこしてた時と大差がねぇ。もし、俺が新たな魔術なり戦術なりを編み出してたら……どうなるだろうなぁ?」


浄化人ピューリファーはニターッと不気味に笑った。


「大歓迎よ。むしろ、手応えがなかったらつまらないわ。せいぜい命の限りをくして私をたのしませてちょうだ~い。 うふふ……。ざ~てぃすくぅ~ん。あ~そび~ましょぉ~」


「アンナベリィィィィーーーーーッッッ!!!!!」


マッドラグーンの上でそれをながめていたバレンは息を飲んだ。


「2人ともリジャスターレベルに達している。どちらかが死ぬまで戦いは終わらないだろう。ザティスがピンチになったら救出するとは言ったものの、ゴンドラ内の魔術修復炉まじゅつしゅうふくろでは回復が間に合わない可能性も高い。ここ一番だぞ、ザティスよ!!」


アフロの教授はグッっとこぶしにぎった。


その頃、泥が消えたことによって動ける神殿守護騎士テンプルナイトが増えた。


レイシェルハウトは雷のように速い斬撃で敵兵を斬り捨てていく。


炎華えんかのバーニ・フラワレイド!!」


地を舐めるように炎の花びらが広がる。それに連携してファネリも追撃をかけた。


炎の花びらは竜巻に変化して一般兵達を丸こげにした。


パルフィーは攻めにてっしてザコ、強敵問わずになぎ倒していく。


月覇乱蹴げっぱらんしゅう!!」


鮮やかなハイキックの連発で敵兵の頭を次々と跳ね飛ばしていった。


一方のサユキは遠くから狙撃をしていた。地べたにして構える。


(この距離からなら捕捉されないはず……ヒュッ!!)


彼女のてのひらから打ち出されたかんざしが強敵の眉間みけんを貫いた。


警戒外からの攻撃は察知さっちするのが難しいのでサユキはこういった強敵を狙うには最適だった。


姉のカエデも切断効果のあるつむじを発生させながら次々と敵兵を切り倒していく。


彼女も武家の娘なので人を斬ることに抵抗はない。だが百虎丸びゃっこまるは人を斬った事がなかった。


背中同士を合わせあってカエデがフォローする。


「トラちゃん大丈夫? キツかったら後退してもいいよ? 無理すると死んじゃうからね!!」


ウサミミの亜人は初めての戦場に疲労感は隠せないが、メンタルはしっかり保っていた。


「ハァ……ハァ……伊達だてに厳しい修行はしてきていないでござるよ!! それにここまで乗りかかったら武士として途中では退けないでござる!!」


カエデはそれに笑顔で返した。


リクは多くの兵士を相手にしていた。攻撃を盾で受け流す。


そしてスキを見つけるとワイヤーのついた巨大なタワーシールドと小柄なバックラーを一気に解き放ち、周囲の兵士をなぎ倒していった。


また、やられそうになっている味方をかばい何人もの命を救った。


その自分をかえりみない献身的けんしんてきな守りが自軍に伝わるほどだった。


東軍に西軍が加わってじわじわだが前線が後退し始めた。


学院生もどんどん教会の軍勢を押していく。


「オークス!! 剛速ごうそくパンチ!!」


制服は見えない拳で思い切り敵兵をなぎ倒した。


リーリンカはラーシェに怪しげな薬を手渡した。


「よし。これで行け!!」


「何”よし”なのよぉ~。んも~」


そう言うとラーシェは紫色で泡立った液体を飲んだ。


すると彼女の体がムキムキのはちきれんばかりの筋肉質になった。


「うえ~ん。こんなのでおヨメにいけないよぉ……」


その直後、敵兵が斬りかかってきた。


なんとラーシェは人差し指と中指でやいばを止めた。


「ブレイク&ラリアート!!」


剣はポッキリ折れて、敵が死にかねないレベルのラリアットがきまった。


その後も加減の聞かない情け容赦ない格闘技が続く。学院生達は思わず相手に同情してしまった。


アイネは味方を治癒ちゆしつつ、余力で死にかけた神殿守護騎士テンプルナイトを救っていた。


残っていた上位の神殿守護騎士しんでんしゅごきし浄化人ピューリファーも3方から集中攻撃をくらえばひとたまりもなかった。


もう、この段階になると降伏こうふくする者も多く、特に神姫しんき巫子みこ達は手厚く保護された。


東軍、西軍で協力して戦意喪失せんいそうしつした兵士たちを拘束こうそくしていく。


そんな中、マッドラグーンのそばだけ異様に盛り上がっていた。


教会の敗北は確定したが”最終決戦”はまだ終わっていないのである。


多くの騎士たちがすがるように泥のステージにむけて応援やらヤジを飛ばしている。


味方の軍勢はこの群れを殲滅せんめつしようとしたが、バレンが首を左右に振った。


「これが最後の戦いになる。今は水をささないでやれ。コイツらは包囲ほういしておきゃあいい。そうすりゃ済むことだろう。これが本当にコイツらの最後の抵抗になるんだからな」


言われる通りに学院生達は残存兵力を取り囲んで、彼らと同じくザティスに注目した。


「あなたナマイキね。いつから先輩にそんな口、開けるようになったのかしら?」


アンナベリーは毒々しい紫色のオーラを炎のようにしてまとった。


「キリング・リング・キリング……これが私の究極形態……」


するとザティスもすぐに青い炎を身にまとった。


「なんだァ……やっぱりあたしのモノマネじゃない。失望したわ」


だが青いオーラをまとった青年は更に力を込めた。


あなどってもらっちゃいけねぇよ。俺にはアンタと違って護るモンがあるんだ。いくぜ!! 守護の翼!! アイギス・ホワイト!!」


ザティスの炎が白色に変化した。そしてやがてそれは炎の形からザティスを薄くおおうオーラに変形した。


この光景には思わず誰もが息をんだ。


どちらも桁外けたはずれのプレッシャーを放っていたからである。


「ハァ……いいわァ……。ザティスくぅん。私、興奮しちゃう」


彼は堂々としていたが、内心はヤバいと思っていた。


(この魔術は攻防ともに跳ね上がるが、消費が激しい!! これに加速魔術アクセラレイトを重ねがけしたら30秒で戦闘不能になっちまう!! それに対してアンナベリーのアレは何の小細工こざいくもないマジモンだ。全くスキを感じられねぇ!! さぁどうする!? やれるのは5分、加速するなら30秒!! それは本当に奥の手だぞ!!)


まともにやって勝てる気は全くしなかった。かといってアクセラレイトは本当に博打ばくちだった。


アンナベリーはザティスの必殺技であるその魔術をしっかり把握はあくしていたからだ。


よくよく考えると博打ばくちにさえならない。


だが、今は前に教会で稽古けいこをしていたときとは違う。


この白いオーラでぶつかってどれだけやれるかはわからない。


相手も当然、あれから腕をみがいているだろう。


でも、もしかしたらイチかバチかがあるかもしれない。


ザティスはそういう大ヤケドしそうな危ないギャンブルが大好物だった。


結局、この化け物じみた相手に勝つには加速呪文アクセラレイトしかない。


そう彼は確信していた。


確実にトドメがさせるようにどこまで相手の体力を削れるか。それが前半戦の課題だった。


もちろんスタートをないがしろにしたら負けるとも彼は肝にめいじていた。


要するに1コンマも予断を許さないという現状である。


「あら~。ビビっちゃったぁ? じゃあ、私から……いくわよ~~~!!」


アンナベリーは明確な殺意を突きつけて大剣を抜刀した。


ザティスは腰を落として格闘の構えをとった。そして軽くうつむいた。


「あんたとはこんな形で戦いなくなかったぜ……」


相手に聞こえないくらいの小声で青年はつぶやいた。


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