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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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3つ鐘を鳴らして

ファイセル、コフォル、それにレジスタンスの男はポトトより内陸のウィチアという都市を目指していた。


あえて内陸でのここにルーブが拠点を構えるには海路や空からの急襲に備えてのものである。


3時間ほど経つとと都市が見えてきた。かなり巨大でポトトの2倍近い規模の街である。


「レジスタンス”光の矢”は国中に点在してるだぁ。今、総出でその連中が集まってルーブの宮殿を襲撃しようとしてるだ」


それよりファイセルは気になることがあった。


(あれ? ここ外国だよね? 隣国のノットラントならともかく、なんでこんな遠い土地で言葉が通じるんだ……? 確かに楽土創世らくどそうせいのグリモアによればかつて世界は1つだったって言われているけど。コフォルさんもまったく気にしていないみたいだし、これも記憶改変の影響なのかな……微妙に言葉がなまってるし)


男性は遠くからでも見える丘の上のキンピカ宮殿を指さした。


「ほら、あんれだぁ。どうだ? 嫌らしい住まいだんべ? あんれは住民の血の上に成り立ってるだ。この国は苦しむのはいつも市民だよ。だがな、ルーブにケンカを売って帰ってきたものはおらなんだ。だからみんな反撃したくても怖がってる。でもな、おれらぁあんたらに期待してるんだぁ。まぁ、どこの馬の骨ともわかんねぇという奴もいたが、生きてこの大陸に戻ってきただけでも大したもんだなや」


そうして3人はウィチナの城門をくぐって市街地に入った。


ポトトと街の雰囲気は全く変わらず、宮殿以外はそろってスラム街といった感じだ。


「今頃、レジスタンスの連中が都市中に潜伏せんぷくしてるはずでさぁ。徐々(じょじょ)に宮殿を囲んでいるにちがいねぇ。いいか。合図は鐘の音だ。宮殿近くの教会の鐘が3回鳴ったら突撃の合図あいずだべ。おらがの仲間が一気に屋敷に火を放つだ。その混乱に乗じてあんたらはルーブをってくんろ。もちろん援護えんごできるもんは全力であんたらをサポートする。こっちが無茶をいってんだ。あんたらを守る義務もあるってもんだ。お互いに生きて会おうや」


まだ彼との付き合いは短かったが、コフォルの言う通り利害りがい一致いっちというのは強いもので、息はピッタリだった。


男達は誰もいない教会にたどり着いた。


そして長椅子ながいすの上に宮殿の詳細な見取り図を広げた。


「ほぉ……。これはなかなか素晴らしい出来だ。ここまで入念に調べ上げるのは骨が折れただろうに」


レジスタンスは頭をいた。


「いんやぁ。もぐり込むスキはいくらでもあったんで。でぇ、こことここが正門、裏口ならこことここ。でもって当主の間の階段はここで、そのまま階段を行けば将軍の間でさぁ」


宮殿はお手本のようにシンメトリーでわかりやすい造りとなっていた。


「この見取り図、拝借はいしゃくしてもいいかな?」


キツネ顔の男はニッっと笑った。


「ええ。ええでやんすよ。ぜひ、もっていってくだせぇ!!」


勝算ありげなコフォルの様子を見て男は期待を抱いているようだった。


「おっと。誰かに見られるといけねぇ。おれらはここらで解散しましょう。宮殿から付かず離れずの位置でお待ちくだせぇ。まもなくかねが鳴るはずでさぁ」


レジスタンスはペコリを頭を下げるとそそくさと教会を後にした。


「ファイセル、どう思う?」


突如、とんがり帽子が声をかけてきた。


「どう……って?」


コフォルは肩をすくめた。


「屋敷には2つ進入口がある。1つの入口に2人で突入し、正面突破するか。あるいは進入口を分けて別のルートで進み敵を撹乱かくらんするか。君の腕に自身があるのならだが、後者のほうが戦力の分散をはかれる。一気に屋敷の戦力がゾロゾロということにはならないだろう。それに”彼女”もいるからな。万が一というときには助けに来てくれる……かもしれん」


ファイセルは受け取った見取り図を指でなぞった。


「えーっと、こちらから入るルートとこちらから入ると……最終的には将軍の間の手前で合流するんですね。にしても都合のいいつくりだなぁ。もっとも、戦闘を想定せず、装飾そうしょくばかり気にしてるからこうなるんでしょうけど……」


コフォルはとんがり帽子をクイックイッっと整えた。


「で? どうするファイセル? 私はどちらでもかまわんよ」


彼は特に言及(げんkゅう)しなかったが、これは青年を試しているような問いに聞こえた。


割と乗り気だったファイセルはすぐに返事を返した。


「ええ。2手に別れましょう。ただし、マジックアイテムはいくつか分けてくださいよ」


思わず彼は苦笑にがわらいを浮かべた。


「それは構わないが、タスクフォースの使うような高度なアイテムは君には使いこなせないと思うぞ。まぁ、使える範囲のものでも上手く使いこなせばかなり有利に立ち回れると思うが。まぁ実力次第だな」


君ならやれるだろう? と言わんばかりにコフォルはとんがり帽子を深くかぶった。


「わかりました。コフォルさんはこっちの通路を、僕はこっちの通路をそれぞれ行きましょう!!」


コフォルは拳を突き出した。それに青年も拳で返した。


「おっと、言うまでもないが宮殿の中では魔術を使っても構わない。健闘を祈るよ」


2人は関係性を探られないように素早く距離をとった。その直後だった。


「カーーーン……カーーーーン……カーーーーン!!!!!!」


鈍い鐘の音が都市に響いた。


それと同時にげ臭いニオイが辺り一帯を包んだ。


「火事だーーーーーーーーーーッッッ!!!! 水をーーーー!!!! 水をもってこいーーーーッッッ!!!!!!!」


「キャーーーーーー!!!! ゲッホゲホ!!! ゴッホゴホ!!!!」


計画通り、宮殿からはもくもくと黒いけむりが立ち上り始めた。


実のところ、コフォルもファイセルもレジスタンスを完全には信用しきっていないところがあったが、この確かな計画実行に意識を改めた。


2人は別の入口から忍び込む猫のように屋敷へ入った。


入り口は消火しようとする者と、逃げ惑うものでパニック状態になっていた。


そんな状況なら潜入せんにゅうするのも容易で、コフォルもファイセルも宮殿の敷地内へ入り込めた。


だがそのまますんなり将軍の間には行けなかった。


キツネ顔の男の前にレイピアを装備して青白く発光するスケルトンが現れたのだ。


「……スケルトン・ルミナスか。残念だったな。よりにもよって私の得意武器のレイピアで挑むとは。一瞬で昇天させてやる!! いくぞッ!!」


とんがり帽子を片手で抱えながら男は右腕で目にも留まらぬ速攻の突きを放ちまくった。


スケルトン・ルミナスは先制攻撃も反撃も出来ずにバラバラとただの骨片こっぺんと化した。


あなどられたものだな。まったく」


彼は手堅てがたく敵の先鋒せんぽうを撃破した。


一方のファイセルも階段を駆け上がっていた。


「う~ん……これにこれにこれ……。幸い、どれも使い方はわかるけど、コフォルさんの言う通りそこまで強力なマジックアイテムは無いなぁ。自力で突破するしかないか」


大きくぐるりと回った階段を登っていくと彼は急ブレーキをんだ。


「!?」


それは正体不明の大きな塊だった。


「ご、ごおぉぉぉ……」


あくびをするようにしてその化物はふりむきながらゆったりと起き上がった。


「これは……サイクロプスか!!」


相手は鋭い1つ目の眼光をこちらに向けてきた。ごっついこん棒を構えている。


ファイセルは素早すばやく巨人とかべ隙間すきまを見つけた。


すぐさま深緑ふかみどり紅蓮ぐれんの制服をそこめがけて投げつけた。


するとその2つの制服は腕とそでの部分でサイクロプスの脚をひっかけて転ばせた。


「お、おわ……おわあああ!!!!!!」


鈍い動きのまま、化物は仰向あおむけに倒れて後頭部を床に強打した。


「ズシーーーーン!!!!!」


床がグラグラと揺れる。


(サイクロプスは恐ろしくタフだ。ここでまともに相手をしていたらコフォルさんとの合流に遅れてしまう。さて……)


青年は受け取っていたポーチの中をガサゴソと漁った。


「たしかここに……あった!! ツルツル・オイリーだ!! そらぁ!!」


彼は透明な液体を床にまいた。すぐにそれは張り付いてテカテカになった。


「勢いをつけて~。スイングッ!!」


制服達はマスターの指示をうけてサイクロプスをボーリングのようにすべらせた。


モンスターはかなり重かったが、制服の魔術のパワーと潤滑油じゅんかつゆ性質が合わさった。


魔物はツルツルと物凄いスピードで転がってきたが、ファイセルはうまい具合に横っ飛びで回避した。


階段は下りの傾斜けいしゃがついていたので、止まることなくサイクロプスは滑り落ちていった。


ガタンガタンと物音を立てて魔物は転がり落ちていく。


「あ~……こりゃあもどり道には使えないなぁ。まぁ別の通路も有るみたいだし、今は先を急ごう!!」


布使いはポーチの中のマジックアイテムを整理して先へと進んだ。


コフォルは小走りしながら窓から外を見下ろした。


煙がもうもうと上がっている。階下の高さから見るにだいぶ登ってきたようだった。


「あと一息で将軍の間に着くな。けむに巻かれるのも良い気はしない。とっとと目的を達成して脱出するとしよう……む!!」


男は神経質にとんがり帽子をいじった。


「イーヒィ!! イーヒイィ!!!!」


小柄なさるがピョコピョコねていた。


あやうく男は帽子を盗られそうになった。


「コイツは……ピンキー・マンキーか!! 非力ではあるが恐ろしく素早すばやい。かといって無視してもおけん。うっかりすれば何かを盗まれたり、仲間を呼ばれたりされかねん。ええい!! まさかこんな珍獣がこんな場所で飼われていようとは!!」


このサルに油断する者は多いが、実際はとてもずるがしこい。


これは厄介な戦いになるとコフォルは腰をえた。


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