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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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あ~。男ってバカね~。

ファイセル、コフォル、ルルシィは小舟でラマダンザへと向かっていた。


コフォルがとんがり帽子をクシャクシャしながら思いついたように警戒をうながした。


「待てよ。今まで私達はあの幽霊船とボートで大陸を渡ってきた。だが、ルーブだったらどうするだろうか? 立派な船で来るか、ドラゴン便でくるんじゃあないのか?」


ファイセルとルルシィは互いに視線を合わせた。


「そういえば……」


盲点もうてんだったわね……」


だがキツネ顔の男は妙案みょうあんがあるとばかりに笑った。


遭難者そうなんしゃよそおって港に入る。もっとも、港が整備されているかは怪しいが」


するといきなりコフォルが舟に水を流し入れ始めた。


「うわぁ!! 何するんですか!!」


青年は膝丈ひざたけまで海水に浸かって足をバシャバシャした。


遭難者そうなんしゃは水をかきだす気力はない。適度に水がたまっていたほうがリアル感がある」


コフォルがあごをさすっているとルルシィが思いついたように提案した。


「そうだ!! お化粧けしょうセットで血色を悪くしたり、クマとか作ったり、ほほがこけた感じとかにしましょうよ!!」


彼女はなんだかノリノリだ。


「でも……それって顔をぬぐわれたらアウトなんじゃ……」


とんがり帽子はまんざらでもなさそうだった。


「見も知らぬ者の顔をぬぐう物好きは居ないだろう。やってみようじゃないか」


こうしてルルシィのメイクが始まった。


さすがに女性だけあってこういうところもプロ級だなと思えた。


「そうだ。ファイセル。ラマダンザでは緊急時以外は魔術を使ってはならないよ」


噂話うわさばなしに聞いていたが、ラマダンザ人は瘴気しょうきによって一切の魔術が使えないという。


生命維持に必要な分のマナはある。ライネンテで言われる”エンプ”という存在と似ている。


アシェリィも幼い頃はエンプだと思われていた。


世間一般では就ける職業が限られたり、ハンディキャップを負うことも多いが、全員が魔術を使えない国ならその心配はないだろう。


こうしてバッチリ、メイクの決まったガリガリの3人組はラマダンザに上陸した。


ラマダンザ大陸と呼ばれることもあるが、実際は北西、西、南西とラマダンザという軍事強国が領土を広げる状況となっている。


一行はポトトという港にたどり着いた。


やはりルーブの手が入っているのか、港町の規模に見合わない船着き場が造られていた。


しかし他に一切の船はなかった。生活感もない。


ノットラントやライネンテとの国交が絶たれてから100ウン年も経ってしまった。


そのため、この街には一般人が使う港としての機能は完全に無くなっていた。


だからラマダンザにはボートでいくしかないと言われているのだ。


それは羅国ラマダンザでも言われることで、ノットラント等に渡るにはそれこそボートで行くしか無い。


まれにドラゴン便やルーブの客船に密航みっこうするものがいるとかいないとか。


だが、たとえ海を越えたとしても魔術の使えない者にとっては厳しい世界であって、野垂のたれ死ぬのがせきの山とはコフォルの談だ。


ボートの先端せんたんがゴツンと防波堤ぼうはていに当たった。


(いいか、私が助けを求める。ファイセルとルルシィは気絶してぐったりしたフリをしていてくれたまえ)


3人は息を合わせて身構えた。


「おとーさん!! 人が!! 人がいるよ!!」


小さい女の子が大きな声を上げると男性が近づいていた。


「あんれま!! ホントだぁ!! どうしてこんなところに……」


絶妙のタイミングでコフォルが声をあげた。


「う……うう。いや。ルーブ様の客船から事故で投げ出されてしまってな。なんとかここまでたどり着いた。もう3日3晩、めしを食ってないんだ」


ファイセルとルルシィはよくもまぁこんなでまかせがペラペラ出てくるなと感心してしまった。


助けに来た男性は船をそばにあったロープでくくりつけた。


幼い少女は心配そうにこちらをみている。


コフォルは気絶のフリをしている2人を軽くった。


「うう……ううう……」


「ふぅ……はぁ……」


ファイセルとルルシィはうまいこと演技をして衰弱すいじゃくしてはいるが、意識があるように見せかけた。


「さ、3人とも動けます。だ、大丈夫ですよ」


男性は不安げに青年たちを見ると家に来ないかと誘ってきた。


「うちで休んでいくとええ。たいしたもんはないけどな」


3人は顔を見合わせた。さすがに罠ではなさそうだったが、リスクはある。


「おにーちゃんたち、うちにおいで。やすんでいくといーよ」


コフォルは深く頭を下げた。


「そ、それではお言葉に甘えて……。2人とも、いくぞ」


この街全体がスラム街といった感じで丘の上に建つ宮殿以外は立派な建物がなかった。


建造物の様式は違ったが、パッと見る限り人買いや麻薬らしきものが出回っている。


雰囲気はライネンテ東部とよく似ていた。


「ここがあっしらの家でさぁ。さ、きたねぇところなんだけど、お入りになって」


ファイセルはひどく驚いた。


というのも故郷であるシリルにはこんなボロ屋がなかったからだ。


それどころかここまで貧しい家はアルマ村にさえないはずだ。


薄っぺらい木の壁に、びきったトタン。


突風でも吹いたなら一瞬で瓦解がかいしそうな家である。


だが、家の中に入ると小ぶりだが暖炉だんろが燃えていて暖かさと共に家庭的な空間がひろがっていた。


「あんれま。その人達は?」


父親達は事情を妻に語り始めた。


「そりゃ大変な思いをしたねぇ。こんなところで良ければ休んでいってくんなまし」


一行は普段は家族が雑魚寝ざこねしているであろう寝室に通された。


その時、ファイセルは不自然さを感じていた。


(あれ……。ラマダンザって野蛮やばんな国じゃなかったのか? 僕らと変わらない……。いや、むしろ優しいんじゃないだろうか?)


相変わらず帽子をかぶったままのコフォルはそれに返した。


(レポートどおりだな。ラマダンザは軍事強国だが、代わりに国民を犠牲にしているんだ。ここに来る途中に宮殿が見えただろう? あれは領主であり、将軍の住まいなのだよ。もっともここは前線ではないからのうのうと将軍は私腹しふくを肥やしているだろうが……)


廊下を歩く足音が聞こえて3人は黙り込んだ。


「これでよければ体を温めてくだし」


母親はお盆から3杯のおわんを運んできた。


彼が部屋をあとにするとルルシィは戸惑うこと無く3つの飲み物を少しずつ口にした。


「彼女、毒見役どくみやくもできるんだ。マルチな才能だろ? まったく」


彼女は首を左右に振った。


「ただのスープよ。ただ……具はお豆が2~3つ入ってるだけね。よっぽど生活が苦しいと見えるわ。しかもこれはこの家だけの話じゃない。街全体がきっとこんな感じなのよ。見たわよね? 街ゆく人の生気せいきの無い土気色つちけいろの肌。よっぽど栄養が足りて無ければああはならないわ」


その場の面々はなんとも言えない気分になりつつ、あっという間に具のないスープを飲みきった。


「これからどうするんですか?」


一息入れたファイセルがコフォルとルルシィに聞いた。


「そうね……。ルーブの行方ゆくえはすぐにわかるでしょう。どうせそこらの宮殿に居座いすわってるだろうし。問題はどうるかよ。精鋭とは言えど3人では正面からは無理ね。となると暗殺か……」


さりげなく物騒ぶっそうなな事を口にする女性であった。


「ふむ。アルクランツ校長は魔術局タスクフォースのマジックアイテムでなんとかしろと言ってたな。アイテムを総動員すればあるいは……。とはいっても相手側にはリッチーも、ラマダンザの兵士も護衛についているだろうし、なかなかそう簡単にはいかないと思うぞ。やはり無茶を言ってくれる……」


話し合っていた3人は沈黙した。主人がやってきたのである。


「あんたらぁ。もしかして、事故じゃなくて、ルーブに逆らって海に投げ込まれたんじゃ?」


どう言い訳するものかとコフォルが考え込んでいると、主人は小声で話し始めた。


「ルーブの奴が裏切り者を見逃すわけはねぇ。逃げ出したり裏切った連中は大抵たいていが死体になってここに流れ着く。だから、あんたらみたいなのはとてもめずらしいんだ。実はおれと娘ぁ生き残りを探してる。生き延びたあんたらはかなりのやり手とみただ」


3人は何を言うでもなく、聞き手に回った。


「そこでだ。ここだけの話、おらあ”光の矢”っちゅうレジスタンスに所属しとる。組織の目的は重税や取り立てで言いなりにされてる市民を救うことだ。おれらはルーブのヤツの鼻を明かしてやりてぇ。もし、あんたらがルーブをってくれるならおれらは宮殿に放火して気を引いて撹乱かくらんするだ」


ルルシィは首をかしげた。


「どうしてそこまでするの? 見返りとかは期待しないワケ?」


レジスタンスは苦笑いした。


「いんや。カネやら財宝はいらね。それらを根こそぎ奪ったら街中にばらまいて回るだ。それがレジスタンスの総意だあよ」


話が出来すぎている気がしたが、彼がウソをついているとコフォルには思えなかった。


わざわざ自分をルーブからの危険にさらす必要もないわけであるし。


キツネ顔の男はチラッチラッっとルルシィをアイコンタクトをとった。


「あ~。男ってバカね~。正義感マンマンの義賊ぎぞくのレジスタンスとでも言うわけ? 私は降りさせてもらうわ。ついてけないわ」


彼女は立ち上がった。思わず主人が頼み込んだ。


「おねげぇだ!! 今の話は内密ないみつにしてくろ!!」


女性はなじるような冷たい視線で主人を見下ろした。


「こんなくっだらない話、これ以上関わり合いになるなんてまっぴらゴメンよ」


そう言うとツカツカと彼女は寝床から移動して家から出ていってしまった。


「あっ……ルルシィさん!! ルルシィさんってば!!」


ファイセルも立って追いかけようとしたが、コフォルがそのそでつかんだ。そして無言のままアイコンタクトを取ってきた。


(ん? ……ルルシィさんが抜けたのは保険……とでも? 確かに不確定要素が多すぎるし、3人まとめて行動するのは得策じゃない。いざというときに彼女がなんとかしてくれる……かもしれないってとこかな?)


とんがり帽子の男はすそをクイックィッっと動かしながらうなづいた。


「2人になってしまったが、私達はルーブをつ気でいるよ。こちらとてうらみがあるからね。早速、ルーブの宮殿に向かおうか」


主人は家族と一時の団らんを過ごした後、あたりのレジスタンス達に伝言を渡した。


ファイセルとコフォルは密かにルルシィから受け取っていたマジックアイテムの調整に入って暗殺に備えた、


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