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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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助けて!! スカル・パイレーツ

無事に地下教会を抜け出した3人は一息ついていた。


カバンをあさってルルシィが拳ほどの四角い何かを取り出した。


「それってもしかして……マギ・C-デヴァイスですか?」


ファイセルの問に彼女はうなづいた。


「そうよ。それがなにか?」


青年は驚きを飛び越えてあきれてしまった。


「ホントM.D.T.Fって何でも持ってるんですね。遠距離通信のマジックアイテム……おまけに秘匿機能ひとくきのうもついてるという」


腕を組んでオベリスクに寄りかかっていたコフォルは微笑ほほえみを浮かべた。


「なるほど。かなり真面目に授業を受けていたとみえる。関心、関心」


ルルシィがそれをこすると一瞬でアンテナが立ち上がった。


「こちらルルシィ。地下教会の偵察ていさつは完了したわ。得るものはあったような、無いような」


一行は互いの経験をアルクランツ校長をシェアした。


そんな中、ファイセルがたずねた。


「僕らもその……秘密結社ひみつけっしゃROOTSルーツでしたっけ。そこに合流するんですか?」


だが、通信先の幼女はそれを否定した。


「それがだな。ROOTSルーツは本来、ウルラディール家の奪還だっかんの為にあつまった連中だ。それが屋敷を落とした今は目的を失いかけている。過ぎた戦力はそれだけで凶器となる。あまり考えたくはないが、ROOTSルーツを敵に回すことがあるかもしれない。特に、ノットラント西部へ勢力を伸ばしでもしたら内戦を蒸し返しかねない。しかも、連中とは同盟の口約束くちやくそくをしただけだからな。向こうがいきなり殴ってきても文句は言えん」


アシェリィと戦うことになるかもしれない。それを想像してファイセルは絶望した。


「まぁそれは最悪のケースだ。今のところはそういった動きは全くない。だが、いつ動いてもおかしくはない。だからこそお前らは学院所属で動いてもらう。その為のチーム編成だからな。ちなみに内通者……ユダはジュリスという男だ。若いながらうまい具合に監査役かんさやくを演じている。ROOTSルーツに接触した場合は彼を頼れ」


ひとまず青年は安心した。


3人は了解の返事をして、続いてコフォルが質問した。


「で、我々の今後の活動内容はなんでしょう?」


アルクランツは考え込んだ後に返した。


「ザフィアルだろ、教会のフラウマァだろ、M.D.T.F、エッセンデル家のルーブ、北方砂漠諸島群ほっぽうさばくしょとうぐんの悪魔、それとラマダンザと不死者リッチー、それに学院……か」


これだけで8勢力も居る。誰がってもおかしくない血を血で洗う争いになるのは間違いなかった。


校長は現状確認した。


「フラウマァは損害が大きくてしばらくは動けんはずだ。砂漠出身のデモンはお前ら2人が迎撃したヤツだな。M.D.T.Fは精鋭せいえいだが組織が小さすぎる。魔術局が権力を欲するならあるいはだな。ルーブとラマダンザはセットだ。不死者アンデッドも混ざっているが。障壁しょうへきを完全に破るつもりでいるんだろう。不死者は虚都きょとクリミナスに引きこもってるから根絶やしにするのは難しい」


通信を聞いていたルルシィは目を泳がせた。


「う~ん。この間、発射されたうつろのほうの威力を見るに真っ先にラマダンザとパトロンのルーブを潰したほうがいいと思えますが……。ただ、それだと少人数で攻めきれるかわかりませんし、ザフィアルは追えなくなります」


アルクランツの決断は速かった。


「申し訳ないがノットラントの破滅思想主義者には痛い目を見てもらう。ザフィアルはしばらく泳がせておけ。アイツは本当に楽土創世らくどそうせいのグリモアに敏感びんかんだからな。何か事が起こればそれが争奪戦そうだつせん合図あいずだ。ルーブの暗殺に関しては取り巻きは多いかもしれないがザコばかりだ。M.D.T.Fからくすねてきたマジックアイテムでなんとかしろ。ヤツを潰せばラマダンザも折れるだろう」


いつもの無理難題を幼女はおしつけてきた。


「おっと。そろそろオヤツの時間なんでな。またな~」


目的を果たすとマギ・C-デヴァイスは証拠隠滅しょうこいんめつのために粉々に吹っ飛んだ。


3人は顔を見合わせた。


「ここからだと徹夜で強行軍してもドラゴン便のある街までは1日ちょいはかかるぞ……」


「まったく、かわいい顔して平気で無茶なこというんだから。ヘッドハンティングされる相手を間違えたかもね」


「しかもラマダンザってノットラント北西部から手漕てこぎボートでしか行く方法が無いんですよね?」


コフォル、ルルシィ、ファイセルは大きなため息をついた。


結局、一行は徹夜てつやで強行軍し、最寄りの街についてドラゴン便で爆睡ばくすいした。


そのままノットラント西部に飛んだが、リンガリー手前の街で便が止まっていた。


「アナウンスいたします。ただいま、リンガリー周辺は荒れ地が広がっていて不死者アンデッドが出現しています。よって、ドラゴン便はこのアンスレイまでで終点となります。ご迷惑をおかけしてすいません」


3人はドラゴン便から降りると北西の荒れ地を目指した。


どちらを目指すべきかはすぐにわかった。うつろのほう残骸ざんがいが不気味にそびえ立っていたのである」


とんがり帽子をいじりながらコフォルは情報を整理した。


「ここは既にROOTSルーツが破壊した。再発射は不可能だ。1発目はウォルテナに、2発目は学院とミナレートめがけて発射された。いずれも妨害されたり、回避されたりして幸い不死者アンデッドだらけの虚都きょとにはならなかったようだ。しかし、不死のオーラの影響でリンガリーはこの有様だ。かつては平和な港町だったはずなのだが……」


人気ひとけを感じるが、それは生者のものではない。


「こんなところに長居したくはないわね。さっさとラマダンザへ向かいましょう」


波打ち際にはあちこちに小舟が乗り捨ててあった。


その中でも大きすぎず小さすぎず、かつ程々に強度のありそうな船を一行は選んだ。


「じゃ、男性陣、頑張ってね♥」


しかたなく無言のまま青年とキツネ顔の男は船をぎ始めた。


だが、いくらいでも対岸が見えない。


「あたりまえですね……大陸間をこんなボートで渡り切るってのが無理な話なんですよ……。こういう時、なにか便利なマジックアイテムはないんですか?」


疲労困憊ひろうこんぱいのファイセルはコフォルとルルシィに聞いた。


「そんなものがあったらとっくに出して、いるよっ!!」


いつの間にか日は暮れて疲れ果てた男性陣は眠りこけてしまった。


さすがに夜の警戒はルルシィの担当だった。彼女があくびをした直後、海水が飛んできた。


「敵ッ!?」


水をかぶったファイセルとコフォルも飛び起きた。


「スカル・パイレーツだわ!! 船幽霊ふなゆうれいって言うじゃない!! 水をふっかけて船を沈没させようとしてるのよ!!」


スケルトンが柄杓ひしゃくでバシャバシャと水をかけてくる。


可愛い程度のものだったが、これが小さい船にとっては意外とバカに出来ない。


早くも舟の半分くらいは水没してしまった。


「ほら!! ボサッっとしてないで!! 飛んでッ!!」


3人は高く跳んで幽霊船に乗り込んだ。


すると武装した野良のスケルトンの船員に囲まれてしまった。


だが、このメンバーにとっては大したことはなく、次々と骨体を粉砕ふんさいしていった。


あっという間に一行はスカル・パイレーツを倒しきった。


そして骨を片っ端から海に投げ込んだ。


キャプテンらしい帽子をかぶったスケルトンも容赦なく海に叩き込む。


「うっし!! ハイジャック完了!! 操舵室そうだしつにいくわよ!!」


ファイセルは後頭部をガサガサといた。


「あのぉ……もしかして僕ら、かなり酷いことしてしまったんじゃ……」


コフォルはレイピアを納めた。


「まぁ仕掛けてきたのはあっちだしな。自業自得さ」


船幽霊ふなゆうれいは撃破したが問題が残った。


「ところで、コフォルさん、ルルシシィさんって航海術こうかいじゅつとか身につけてるんですか?」


コフォルはえんじ色の帽子をクシャクシャとした。


「いんや。カンだよ。いつものカン。ただ、これだけ立派な船ならよっぽどのことがない限り沈まないだろう。まぁ彼女を信じることにしようじゃないか」


青年はガックリと肩を落とした。


それから数日、3人は見事に遭難していた。


ただ、食料はライネンテ海軍のレーションがあるのでえ死ぬということはなさそうだった。


栄養満点で空腹感も満たせるがとにかくマズイ。


一行はノイローゼ気味になっていた。


「ぐええぇ~~~いつ食べてもこの海軍レーションは無いですね……」


甘じょっぱい中にセロリのような風味が混じる。


「最新のレーションはなかなかイケるんだが、なにしろ高くてな……」


さすがのコフォルもこの食生活には参っているようだ。


「肉ゥ~!! 肉ゥ~!!」


スリムな体型に似合わずルルシィは肉食系女子らしい。


ヤケクソで操舵そうだしていると紫色むらさきのモヤがかかった陸地が見えた。


「着いた!! ラマダンザの大陸だ!!」


コフォルは船頭せんどうに立って観察した。


「大陸が見える……ということは部分的に障壁しょうへきが解除されているに違いない。あそこからうつろのほうのパーツを運び出して組み上げたのだろう」


ファイセルは若干じゃっかん戸惑とまどっていた。


「でもラマダンザって賢人会けんじんかいから外されるくらい野蛮やばんな国なんですよね? うかつに上陸して大丈夫なんでしょうか……?」


どっしりとコフォルは構えていた。


「なぁに。利害関係が一致いっちしているとはいえ、外部者であるはずのルーブを受け入れているんだ。私達も関係者を名乗れば容易ようい潜入せんにゅうすることが出来るだろう」


不安げに青年は他のパターンを想定した。


「言いたいことはわかった。そういう場合はコレを使う」


とんがり帽子はひらひらと紙のたばを振った。


「それは……外国の……お金ですか?」


「ザッツライト。ライネンテでは硬貨こうかしか存在しないが、海外ではこんな紙を使ったりするんだ。これをワイロに渡せば大抵たいていの下っは通してくれると思うよ。これもM.D.T.Fのお土産みやげさ」


操舵室そうだしつのルルシィが声をかけた。


「そろそろ対岸から目立つ距離よ。くくりつけておいた小舟で接岸しましょう」


3人はこうして未知の地、ラマダンザに上陸した。


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