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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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諦めたら負けチュウ

ルーンティア教会本部のカルティ・ランツァ・ローレンは悪魔デモン、キスプの襲撃を受けてかなりの被害を出していた。


並の神殿騎士テンプルナイトでは敵わないと踏んだ教会側は中庭にデモンをおびき出し、やり手で囲む手段をとった。


腕利きの女騎士が挑みかかる。


「いざ、参る!!」


だが、彼女は走りだした直後に真っ二つに割れた。勢いよく鮮血が吹き出す。


キスプの背中の鋭い羽で切り裂かれたのだ。


「おらぁ!! なにがいざ参るだクソアマがぁ!!」


彼は死体の肉片から骨を引き出して他の神殿守護騎士テンプルナイトに投げつけた。


「みゅぬわぐっ!!」


片方は頭蓋骨ずがいこつが衝突して頭がスイカのように割れた。


「ほぼぉっ!!」


もう1人は腕の骨で心臓を貫かれた。


あまりの速度についていけず、騎士が2人死んだ。


「お前らちょっとはデキるやつだと思ってたんだがクソザコだな!! ケヒヒ!! もしかして俺オンリーでも教会ブッツぶせんじゃね~の? ギャハハハ!!!!!!」


ゲスで非道な態度はまさに悪魔としか言いようがない。


「しかし、層の厚さだけは認めてやるよ。これだけ殺してもまだ沸いて出てきやがる。だが、今ので中堅ちゅうけんちょい上ってとこだろ? 出てこいよ。さもないとそこらへんのザコをもっと殺すぜ」


あたりの雰囲気が変わった。いよいよ浄化人ピューリファー達が出てきたのである。


対不死者たいアンデッドと思われがちだが、デモンスレーヤーとしての顔も持ち合わせている。


確実に勝つには相手の戦闘スタイルを知る必要がある。


そのため、悔しさをこらえて味方がやられるのを見ていたのである。


大人数で一度にかかるとこの狭い中庭ではかえって危険だ。


そのため彼らは3人チームをいくつか編成してキスプを迎え撃った。


ズズンと大剣を地に立てたのはアンナベリー・リーゼスだ。


毒々しい紫色の髪、ルージュ。そして酷く小柄な体格。


服装はスカートをあしらったブレスドプレートに黒のニーソックスを着用していた。


「よくも私の兄妹を殺ってくれたわね。粉々にしてやるわ……」


彼女からは静かな怒気がわきあがっていた。


「グランテン、ビュール。私が盾になる。いざというときは私もろとも殺るのよ」


ダマスクスのこん棒を持つバカでかい大男と鈴のついた杖を構えた女性はうなづいた、


それを見ていたキスプは妙に嬉しそうだった。


「おっ、いいねェ!! そうでなくっちゃ!! じゃ、こっちもくれてやるよ!! おるぁ!!」


デモンは右、左と翼を振り抜いた。鋭利な真空波が発生して3人を襲う。


「ガキン!! ガキンガキン!! チュゥン!! ガキンガキン!!!!!!」


アンナベリーは大剣でこの攻撃をガードしきった。味方にも被害はない。


その直後、ビュールが詠唱した。


「悪魔ベッタベタ!! アトラスバインド・デモンホイホイ!!!!」


するとキスプの接地していた面がベッタリと地面にくっついたではないか。


彼は必死にもがいたが、いくら羽ばたいても宙に浮かべないし、移動もできない。


悪魔用のとりもちといったところだろうか。


そこにグランテンが襲いかかって容赦ようしゃなく滅多打めったうちにした。


並の相手ならミンチになっているところだったが、キスプはアザ程度しか喰らっていなかった。


だがそれでは終わらなかった。


「ウムム……じょう!!」


そう大男が念じるとデモンは苦しみ始めた。


「てめぇ!! 何、しやがった!? 体が……体が熱ぃ……。ゼェゼェ……ぐ、ぐるじい!!」


再びダマスクスのラッシュが始まる。今度は追い打ちする形になり勝利が濃厚だった。


それを見守っていた神殿守護騎士テンプルナイト達は歓声をあげた。やはり浄化人達ピューリファーたちは素晴らしいと。


いままでやられっぱなしだったのでスカッっとしたというのもある。


グランテンは常日頃、鍛えているので息が切れる事など無いのだがこれだけ本気でやれば汗もかく。


「ハァ……ハァ……」


キスプは上半身をのけぞらせてのびていた。だが、それはフェイクだった。


「っしゃあああああ!!!!!!」


不意打ちで羽を振り回してかまいたちを浴びせる。


だが、見事にアンナベリーはこの攻撃も大剣でガードしきった。


「見きった!! 私の目の黒いうちはこれ以上やらせない!!」


それを聞いていたキスプはゲスな笑みを浮かべた。


「お~。カッコいいこといっちゃって!! でもおめぇら程度じゃ俺を殺せねぇよ。なにがじょうだよアホくせぇ。そんなの中級のデモンにしか効かねぇよ。俺は超級だからな。あー、もう飽きてきたわ。お前ら俺の秘密兵器でまとめて始末してやるよ」


そう言うとデモンはものすごい勢いでヘビの尻尾から赤い気体を吹き出し始めた。


「ハッハァ!! 俺の特製ネズミガスだ!! こんなヘンテコリンな呪いを考えるのは俺くらいだから相当、イカれてないと解呪不可能!! しかも完全にネズミになったら元には戻れねぇ!! あ~、ネタバレしちまったけどお前らもう一生ネズミだもんな。カンケーねぇよな!! ギャハハハハ!!!!!!!!!!」


すぐに治療役のビュールにアンナベリーが声をかけた。


「ビュール!! 早くチュウわ魔術を!!」


だが彼女の口の形はすでにネズミに変化していた。


「チュウ!! チュウチュウ!!!!!」


もはや中和魔法が展開できなくなっていた。


その場には無詠唱むえいしょうや魔法円で解呪できる者もいたが、いかんせんガスの進行が速い。


すぐに魔術は使えなくなり、ぐんぐんと体が折れ曲がって小さくなっていった。


「あ~あ。ネズミになっちまいやがんの。戻れなくなるまであと3分ってことか。な~にが神殿守護騎士テンプルナイトだ。浄化人ピュリファーだ。なにがカルティ・ランツァ・ローレンだ!! お前らまとめてクソくらえだ。心配するな。殺しやしねーよ。一生楽しいネズミライフを送れや。 ギャハハハ!!!!!!!」


ほぼドブネズミになった教会の騎士たちは絶望した。


アンナベリーは弱気になったがまだ諦めては居なかった。


「くっ、無念でチュウ……。いや、まだでチュ!! ビーチェ、なんとかするでチュ!!」


だが、声をかけられた女性ヒーラーは進行が早く進んでいた。


「チュッ。チュチュッ。チュウチュチュ……」


既に意思の疎通そつうが出来なくなっていた。


「グランテン!! お前はチュウなんだ!?」


振り向くと彼はこん棒の下敷きになっていた。


「お、重いですチュウ。でも体を鍛えていたから潰されはしないでチュウ。しかしこれでは身動きもとれないし、ダマスクスも振るえないチュウ。万策尽ばんさくつきたでチュ」


チームノリーダーは必死ではげました。


「グランテン!! ビーチェ!! 諦めるなチュウ!! 諦めたらまけチュ~~~~」


真剣なやりとりなのだが、語尾がネズミになってしまうのでシリアスさに欠けた。


その様子を観察しているものが居た。


教会の高位の姫君ひめぎみである神姫しんきであるカロルリーチェだ。


彼女はアシェリィと見た目が非常によく似ている。


教会を脱走した際にアシェリィが追われることになったいわくつきの人物である。


彼女は高層階の窓枠にに腰掛けて高みの見物をしていた。


「ふ~ん。揃いも揃ってバッカじゃない? それなりに強い騎士も出ててこの始末? 全員修正が必要ね。ここはあたしが一肌脱いでやるか」


後ろから老執事ろうしつじが声を掛ける。


「カロルリーチェ様!! 落ちたら危ないですぞ!! それに、無断でうるおいの聖杯を持ち出すとは!! じいはかなしいですぞ!!」


それを聞いて少女は後ろを向いたままひらひらと手を降った。


「あ~、も~、うっさいうっさい。じいやは黙ってなさい」


そう言うと神姫しんきは中身が空っぽの聖杯を傾けた。


彼女たちにしか使えない不思議なマジックアイテムだ。


さかずきからは清く美しい水が吹き出した。中庭に凄まじい量と勢いでドッっと流れ込んでいく。


中庭は小さな円柱型の湖のように変化した。


呪われた騎士たちが人間に戻っていく。水中なので息ができなさそうな気もしたが、まるで魚のように呼吸が出来た。


「な、なんだこれは……神姫様しんきさまのマジックアイテムか!!」


一方のキスプは冗談なしに苦しんでいた。


「ぎゃああああああああああああッッ!!!!!!!! なんだこの水はァ!! ぐるじい!! ぐるじい!! 身体が焼ける!! あっちいいいいいぃぃぃぃ!!!!!!」


彼は飛び立とうと必死でもがいたが、さきほどのビュールの悪魔ホイホイの魔術で飛ぶことができなかった。


やがてデモンは白目をむき始めた。


「あが……あがが……。俺は超級デモンなんだぞ……こ、こんなザコどもに……こ、こんなところで……グギギギギ……呪ってやる……呪ってやるぞ……」


大剣を持ったアンナベリーは浮き上がらなかったので水中で得物を振り回した。


「くたばれええええええぇぇぇッッッ!!!!!」


斜めに切り下ろしてデモンを真っ二つにした。気づくと聖杯の水とキスプは消滅していた。


「あ~、アホくさ。神殿守護騎士テンプルナイト全員を更にスパルタにするようにお父様に頼まなくちゃね。練度が低すぎ。神姫しんきはそれこそ奥の奥の手でなければならないんだから」


アシェリィにそっくりのカロルリーチェは聖杯をじいに放り投げた。


「お嬢様!! なんてことを!!」


「しまうのめんどくさいんだもん。しまっといて」


そう言うと彼女は天蓋付てんがいつきのベッドでゴロゴロし始めた。


その頃、自室に居たカルト教団、ザフィアルの代表は悪魔が浄化されたことを悟った。


「ふむ。教会の連中め。手堅くキスプを殺ったか……。だが、殺した数や呪いのガスなどそれなりに手応えはあった。68点といったところだな」


ザフィアルは自分とマナを共有している悪魔の行動がおおまかだがわかる。


さすがに視界や意識をリンクさせることは出来ないが、どこでなにをやってどうなったかくらいはわかるのである。


「一般人を15人、生贄いけにえにしてこのレベルか。腕利きの魔術師を素材にすると飛躍的ひやくてきに伸びるが、連中は捕まえるのにも苦労するし、合成しようとすれば抵抗されるからな。面倒くさいこの上ない」


教祖は誰かに見られているような感覚を覚えた。


「ふむ。そろそろこの地下教会も場所が割れるころだな。ノットラントへ移るか。あそこは東西の争いでライネンテより信者が集まりやすい。それに、蠱毒こどくの舞台といえばノットラントと相場が決まっているからな。そこを拠点きょてんにあちらこちらにちょっかいを出して、そして楽土創世らくどそうせいのグリモアの肥やしとする。さて、次はどこにデモンをプレゼントしようかな」


ザフィアルは度の薄いワインを堪能たんのうしていた。



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