あたしを信頼してほしいし
フラリアーノが様子をうかがっていると何と空のゴーレムが体からジェット噴射のように大気を吹き出し始めた。
そして徐々に浮上していく。あれだけ大きいのに飛ぼうというのだ。
かなりの高度まで上昇すると空気砲を地上へ向けて発射しだした。
これは非常に強力で大地をえぐった。進行方向にはダッザニアがある。
「くっ!! 予想はしていましたが、想像以上の完成度ですね!!」
彼はキュッとネクタイを締め直した。
レイシェルハウト達が無力化したはずの陸のゴーレムはそれで終わらなかった。
右手をペタペタとくっつけたのである。どうやら粘土質な一面も持っているらしい。
そして器用に左腕の木のトゲのようなカンザシを引き抜いて束縛を解いた
こうなると切断はあまり有効でないように思えた。
木っ端微塵にでもしない限りは再び立ち上がるだろう。
今度は体の向きを変えて頭を探し出した。
だが、パルフィーは速かった。
「させるかよ!! こんにゃろ!!」
彼女は走り出した後、強烈なキックで陸の頭をシュートした。
決して小さくも軽くもなかったが、パルフィーの馬鹿力ならなんとかなった。
「空の奴に当ててやる!! おっっちろ~~~~!!!!!!」
渾身のシュートは移動を始めた空のゴーレムに直撃した。
ゴイ~ンと鈍い音が響いた。同時に陸の頭は空の体にひっついた。
「くっそ~!! 手応えなしか!!」
別の場所でフラリアーノは彼女を褒めた。
「いえ、攻撃が止まりました!! 上出来です!! プランティング・グリ―ン!! サモン・メレオーレ!!」
教授の右腕をカメレオンタイプの幻魔がつつむ。
「射出ッ!!」
するとその幻魔は舌を伸ばして空のゴーレムにピタッっとくっついた。
「巻取りッ!!」
すると物凄い勢いでフラリアーノはAirとの距離を詰めた。
「フラリアーノ先生――――――ッ!!!!」
「さぁ、ここからどうするおつもりでして!?」
アシェリィもレイシェルハウトも息を呑んだ。
敵にぶら下がった教授は暴風に煽られていた。
(Airの構成要素の中にはガスが多く含まれている。故に全力で可燃性の幻魔をぶつければ爆散させることが可能!! しかし、全力で打ち込まねばならないために防御や回避は不可能!! こちらも全くの無傷というわけにはいきませんね。しかしこのままではダッザニアが!! バレン先生は死を覚悟しておられた。皆にああ言いつつ、私もいよいよその時が来たのかもしれませんね)
そうこうしているうちに空のゴーレムはダッザニアの街へ空気砲を打ち出しながら接近していく。
フラリアーノは空いている方の左手を上に突き出して炎の幻魔を喚んだ。
「今です!! イービル・ローゼン・レッド!! サモン!! ブレーズ・テンタクラァ!!」
無数の真っ赤な触覚が燃える炎のようにAirを炙った。
それから間もなくして、空のゴーレムは大爆発を起こした。
「チュドーーーーーーーーーム!!!!!」
ギリギリでダッザニアには被害が及ばなかった。
だが、あまりの炎と衝撃でフラリアーノの生存は絶望視された。
「先生!! 先生!! 答えてくださいよ!! 先生――――ッ!!!!!」
アシェリィが通信ジェムに叫んだが反応はなかった。
「ハーヴィー先輩!! どうして……どうしてこんな事をするんですか!! 私達が戦う理由なんてあるんですか!?」
どこに居るともわからない彼女にアシェリィは問いかけた。
辺りに響くようにハーヴィーの声がする。
「とんだアマちゃんね。あなたみたいな能天気のガキ共にはわからないでしょう。血縁者が氷漬けにされて弄ばれている気持ちを。そしてその仇が目の前にいるというのよ!! アシェリィ、ラヴィーゼ、リコット。たとえあなた達でもウルラディールをかばうなら躊躇なく殺すわ。逃げるなら今のうちよ」
必死に少女は訴えかけた。
「先輩!! 冗談ですよね!? 冗談だって言ってくださいよーーー!!!!」
その直後、地面からゲル状の拳が出てきてアシェリィをつかんだ。
「ええい!! うるさいッ!! やかましいお前は真っ先に死ねッ!!」
握り潰されるかと思ったときだった。
命の危機に反射的に氷のフォルム、アイシクルールが発動した。
彼女を掴んでいた拳は冷気でひるんだ。
「アシェリィ!! 急ぐし!! 雷の幻魔を!!」
リコットがそう叫んだ。
波立つ白髪のアシェリィはサモナーズ・ブックをノックした。
「サモン!! エレキトリカル・ライトイエロー!! サモン!! フェンルゥ!!」
熱帯魚のような姿をして電撃を放つ幻魔が現れた。
「いくし!! 妖憑(フェアリー・ポゼッション!!) フェンルゥ!!」
リコットはアシェリィの幻魔を憑依させた。
すると髪の毛が黄色に変化してバチバチと逆だった。
「海……つまり水のゴーレムなら雷も効くはずだし!! 地下に潜ったなら地面めがけてブチ込んでやるし!! 最大出力なら地面ごと通電するし!! く~ら~え~~~~!!!!!!!」
幻魔を憑依させた少女の片腕はまばゆく輝いた。
「ジリジリ…バチバチバチッ」
直視できないほど電光がスパークしている。
そしてチャージを終えると右腕を地面に突っ込んだ。
「仇をうつのはあんただけじゃねーし!! これはフラリアーノ先生の仇!! せやああぁ!!!!!」
彼女は攻撃を打ち込むと同時に泣いていた。
海のゴーレムはたまらなくなって地中から球体になってポーンと飛び出した。
ダメージを受けたからか、大きさが半分程度になっていた。
だが、すぐに首を大地につっこんで水を吸い始めた。見る見るサイズが元に戻っていく。
ラヴィーゼはなんとも言えない顔で不死者を召喚した。
「う~ん、まさかコイツがここで役に立つとは思わなかったなぁ。サモン!! ブラック・ロッテン!! ドザえもん!!」
ガリガリにやせ細ったゾンビがSEaの体内に出現した。
ゾンビはぐんぐんと水を吸い取って水死体のように変化していった。
「きもちわる~わる~」
リコットは嫌悪感をあらわにした。
だが、この幻魔のおかげで巨大化を防ぐことが出来た。
「まだだね。コイツは吸い込んだ水分をエネルギーに変換できる!! 爆破!!」
ドザえもんはエネルギーを暴発させて海のゴーレムをふっとばした。
思ったよりこれが強烈で、SEaは原型をとどめられなくなって液体と化した。
だが、しぶとく相手は大地に染み込んで再生を試みはじめた。
兵器としての完成度が非常に高い。これならば際限なく水分がある海では手がつけられないだろう。
フラリアーノに並ぶ覚悟がないと撃破できそうになかった。
「しかたねぇし、あたしがやるし」
リコットがずいっと前に出た。
「アシェリィもラヴィも炎の幻魔が使えないし。するとあたししか残ってねーし。もう一回、なんとかして地中から引きずり出すし。そして液状になったら炎属性の幻魔で一気に蒸発させるし!!」
ラヴィーゼが怪訝な顔をして声をかけた。
「おい!! リコット……お前もしかして敵もろとも……」
ピンク髪の少女は笑みを浮かべていた。
「アシェリィ、ラヴィ。あたしはあんたたちと過ごせて本当に楽しかったし。それまではずっと1人だったし。そんな中、こんなに仲良くしてもらって……。あんたらを生かすためならこの生命、惜しくはねーし!!」
アシェリィは腕を振り抜いた。
「ダメだよ!! そんなの許さない!! リコットが死んじゃったらわたし……私!!」
リコットは首を左右に振った。
「ただで済むとは思えないし。でも、実際のところやってみね~とわかんねぇし。だからあたしを信頼してほしいし。誰かが待っててくれるならきっと生きて帰ってこれる……そう思うし」
アシェリィは黙ったままフェンルゥを地面に潜り込ませた。
再び通電するとそれがたまらないらしく、SEaがまたもや地中から飛び出してきた。
ラヴィーゼが気合を入れる。
「行くぞ!! サモン・パープル・ワイト!! スケルトン百烈斬り!!」
魔力を帯びた骸骨の剣士たちが大地から沸き上がってきた。
そして飛び出してきた球体のゴーレムをめった切りにした。
「今だし!! アシェリィ、ラヴィ、離れるし!! この生命今こそかけるべし!! 炎天の魔神!! ヘルファイア・レッズ!! すべてを灰燼と化せーーーーッ!!!!」
リコットが召喚すると小さな太陽のような幻魔が現れた。
つぶらな目がついていてキョロキョロしている。
人畜無害なのではと思われた直後だった。
それは周囲の大気を巻き上げて一気に大爆発を起こしたのである。
あまりにも激しい炎上に誰も近づけなかった。
「リコット!! リコットォーーーーーー!!!!」
助けに入ろうとするアシェリィをラヴィーゼが抱えて止めた。
「バッカ!! あんなのに近づいたらまっ黒焦げだぞ!! リコットがどういういう気持ちであれを喚んだのかわかってやれ!!」
こうして海は跡形もなく蒸発した。残るは陸だけである。
一方のウルラディールは手慣れたものだった。
「パルフィーは衝撃や貫通するような攻撃を繰り返して!! 相手をアナボコだらけにするわ!! サユキはこまめに相手の動きを封じて妨害!! スキが出来れば私と連携して属性アタッチメントで攻撃!! 私も攻撃魔法でしかけるわ!! いきますわよ!!」
掛け声と同時にパルフィーがジャンプした。鳥よりも速い。
そのまま、Landに接近していって蹴りを放った。
「うらぁ!!」
ゴーレムの胸に風穴が空いた。
それを見ていたレイシェルハウトはある事を思い出した。
「たしか、術者はゴーレムの体内を自由に移動していると言っていたわね。しかし、肝心のゴーレムはもう1体しかいない。つまり、この陸のゴーレムを蜂の巣にすれば中の術者は……」
すぐに彼女は抜刀してヴァッセの宝剣を突き出すように構えた。
「パルフィー!! かわしなさい!! 鉛海の襲砂!! レッド・シー・パニックサンズ!!」
レイシェルハウトから無数の球体が発射された。
陸のゴーレムの逃げ場が無いくらいに全身にブチ込んでいく。
相手は沈黙したように見えた。
「やった!?」
アシェリィ達とウルウラディールの班達はLandを見上げた。




