陸・海・空!! SEALsトリオ!!
アシェリィ達は希少種の白いドラゴン「ファオファオ」に乗ってノットラント上空を高速で飛行していた。
このアイスヴァーニアンと呼ばれる種類のドラゴンはワイバーンやドレイクより丸みを帯びている。
そのため、乗り心地と安定性は抜群だった。白くてフサフサな毛が生えているというのもある。
教授のフラリアーノが後ろの3人に大きな声をかけた。
「先行しているウルラディールの人たちと今から連絡をとります。あなたがたもよく聞いておいてください。ハーヴィーの持ち出した魔術術式の内容は把握しているので。学院の研究生達が研究の末に作り出したゴーレムを持ち出したものです。相手が1人だとなめてかかると痛い目を見ますよ。では、連絡します」
スーツの男性はポーチから水色の宝石を取り出した。
「こちらリジャントブイル班のフラリアーノ教授です。そちらの様子はどうですか?」
先にダッザ峠のそばに潜伏していたレイシェルハウト達が応答した。
「こちらウルラディールよ。通信良好。明らかな異物を確認しているわ。6本脚の岩の塊がダッザニアを覆うように出現してる。こんなものは無かったはずよ。最近出現したのは間違いないわ。今の所、かなり遠距離から様子をうかがっているところよ。詳細をおしえてくださる?」
脇にはサユキとパルフィーが控えていた。
「岩の塊ですか……。よ~く見てみてください。実はそれはゴーレムが3体で三角形のスクラムを組んだような姿勢で待ち構えているのです」
そのアドバイスを聞いて再びレイシーが確認するとそれは確かにゴーレムだった。
街を覆うほどであるくらいで、かなり巨大である。
しかし、泥儡のアーヴェンジェの駆っていたマッディ・ゴーレムとサイズはそう変わらない。
全く太刀打ち出来そうにないわけではなさそうだった。
「続けますね。このゴーレムはSEALsトリオというコードネームがつけられています。それぞれSEa、Air、Land……つまり陸海空に特化して異なった戦闘能力を持っているのです」
それを聞いていた全員がその戦い方を思い浮かべた。
それに対してウルラディール家の当主は疑問を投げかけた。
「AirとLandはわかりますわ。しかし、この陸地のど真ん中でSEaとはどういうことですの?」
ちょっとした間を挟んですぐに彼女は予測を立てた。
「ダッザ峠の下には大水脈があると聞いたことがありますわ!! その水源を使えば厄介な相手になるかもしれませんね」
フラリアーノは作戦立案をした。
「全員の力を集結して各個撃破が理想なのですが、1体でも暴れられると不利になりかねません。ここは3班に分けて1体ずつゴーレムを撃破すべきです。ハーヴィー……術者本人はゴーレムの体のどこかのコックピットにいます。3体のゴーレムの内部ならいつでもどこでもテレポートできるのでピンポイントで術者を潰すのは不可能に近いでしょう。全部撃破して露出したハーヴィーを倒すしかないかと」
苦渋の策といったところだろうか。
「と、いうわけで3体のゴーレムを貴女がた、召喚術師チーム、そして私で分散させます」
レイシェルハウトは教授1人なのが気になった。
「いくら学院の教授とは言え、単身で大丈夫ですの?」
細目なせいで彼の表情は読みにくかったが、にっこり笑っているようにも見えた。
「ええ。一応、勝算はあるので。それに、命がけで闘うのは私だけではありませんしね。私も含めてここで誰かを犠牲にするつもりは毛頭ありませんよ。さて、担当を決めましょうか。私は一番やっかいな空を落とします。貴女がたは物理寄りのようですので陸をオススメします。召喚術師チームは属性攻撃を中心に海を討つといいでしょう。ミッション開始は10分後で、ドラゴンが見えると同時に一斉攻撃をかけてください。疑問や不満などはありませんか?」
ウルラディール家の班は全員がそれに同意した。
「ええ。あなたがたのほうがゴーレムに関しては詳しいですし。作戦通り私達は陸を倒すことに専念しますわ」
教授は見えても居ないのについジェムごしに頭をペコリと下げた。
「ありがとうございます。作戦の変更などあれば逐一連絡しあいましょう」
フラリアーノは後ろのアシェリィに宝石を1つ手渡した。
「通信ジェムです。作戦の変更や、救難要請する時はそれを使って下さい。念じて喋りかけるだけで大丈夫ですので。ああ、それと言い忘れましたがファオファオを危険に晒すわけにはいきませんので高高度からの奇襲という形になります。今より更に高い硬度から飛び降りる事になります。心の準備はいいですね?」
女生徒3人は一気に血の気が引いた。
「こっ、この高さから……生身で!?」
「おいおい。いくらなんでもシャレになんねーぜ!!」
「着地のショックでつぶれたトマトになっちゃうし~!!」
フラリアーノは顔色1つ変えない。鬼である。
「まぁまぁ。しっかり対策はありますから。ロッキング・ケイジ・ダークカーキ!! サモン!! イワ太郎!!」
ファオファオの背中の平らな部分に岩石が出現した。ドラゴンの高度が重さで落ちる。
「おい!! 先生、これで何をす―――」
次の瞬間、イワ太郎から腕がニョキっと伸びてラヴィーゼを飲み込んでしまった。
「う、うわぁ!!」
「なんだしコレ!?」
幻魔はそのままポイポイっと抵抗する2人を飲み込んでしまった。
そのままゴロリと転がると岩石の塊は地上へ落ちていった。
「説明している時間が惜しいですからね。大丈夫。イワ太郎の中身は衝撃や各種ショックに耐久できるシェルターなのです。おまけに見てくれよりはるかに広い。さて、私も行きますか。一番危険な先制攻撃を買って出ねば」
教授はファオファオの首筋まで移動すると胴体をポンポンと優しく叩きながら指示を出した。
「ここにいると戦いに巻き込まれてしまいます。あなたは……そうだな、ウルラディール家あたりまで後退して下さい。よろしくお願いしますよ」
フラリアーノが飛び降りると同時に白いドラゴンは飛ぶ向きを変えて来た方向へ戻っていった。
落下していたイワ太郎は地面に衝突して砕けたが、アシェリィたちに怪我はなかった。
そこまで分散もせず、チームとしてのフォーメーションも維持できていた。
「あいっつ~」
「いって~」
「尻もちついたし~」
だがすぐに召喚術師3人娘は臨戦態勢に入った。
ゴーレムとの距離がかなり接近していたからだ。
「こちらサモナーズ。ゴーレムの間近に迫りました!!」
「こちらウルラディール。同じく射程範囲に入りましたわ」
2チームのスタンバイを確認したフラリアーノは落下しつつタイミングを見計らった。
「まずは全体にッ!! ゴーレムの弱点かつダッザニアに被害が及ばないのは!! グラン・オブ・フォールメイデン!! サモン!! 出よ!! 飽水の女神!!」
教授が召喚した幻魔は人間サイズの天使のような見た目だった。
体は透き通るように水色に輝いている。彼女はポツリと1滴の涙を流した。
するとその涙はまるで大瀑布のようになり、SEALsトリオを包み込んだ。
「うわっ!! 初めてみたけどこれがフラリアーノ先生の本気!? な、なんて力なの!! 脚がガクガク震える……」
アシェリィ達はプレッシャーを感じて気圧された。
一方のウルラディール3人娘もこれには驚いていた。
「ッ!! ピリピリと魔力が伝わってくる!! 凄まじい!!」
パルフィーが目をまんまるにした。
「おいおい。ありゃ下手するとお嬢より火力あるぞ。心配する必要ないだろアレ」
これで決まるかとアシェリィ達とレイシェルハウト達は思ったが、そうはいかなかった。
水が引くとゆっくりとゴーレムが動き出したのだ。
まるで今ので昼寝を邪魔されたと言わんばかりの動きである。
効いていないかといえばそんなことはないが、これでKOできなかったのは一目瞭然だった。
ゴーレム達はスクラムを解除してゆっくり立ち上がった。
何メートルかわからないほどの巨大さだ。3体で街を覆っていたほどの大きさであるわけだし。
彼らは起動するとすぐに各々(おのおの)の個性を発揮し始めた。
まず動いたのはAirである。あたり一帯に強風を噴射しながら宙に浮かび始めた。
あんなに大きいものが浮かぶとはとフラリアーの以外は度肝をぬかれた。
次はSeaだ。なんとこちらは体を液状にして地面に染み込んでいってしまった。
レイシェルハウトの予想通り、地下水脈を活用するつもりなのだろう。
そしてLandはしばらく立ち尽くしていたのでウルラディール3人娘が奇襲をかけた。
「教授の攻撃を見るにコイツらは相当、硬いわ!! 全員が総火力で挑まなければまともなダメージは与えられない!! 近接が得意なパルフィーが仕掛けるのを合図に攻撃を集中させるわ!!」
それを聞くと同時にパルフィーが猛スピードで走りだした。
「あいよ!! こんなでくのぼうの岩、打ち砕いてやるぜ!!」
Landは強烈で重いパンチを亜人めがけて放った。
だが、彼女はそれをひらりとジャンプで回避し、相手の腕を駆け上がっていった。
そしてゴーレムの頭部に掌底を連続して打ち込んだ。
「昇日昇陽ッ!!」
その直後、レイシェルハウトが詠唱した。
「範囲を狭めて圧縮させる!! 断流のウオルタネイトッ!!」
鋭い水の刃が出現し、Landの左手に深い傷を負わせた。
この状態ならうかつに動かすと腕がもげるくらいだ。
サユキも息を合わせて攻撃を仕掛ける。
「縫影のかんざし!!」
こちらは右腕に刺さった。外傷は殆どないが、動きを封じた。
これで陸のゴーレムは頭部をふっとばされ、左右の腕を封じられた。
鮮やかな連携とパワーにサモナーズは驚いたが、同時に負けてはいられないとも思った。




