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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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ふかふかやわらかドラゴンファオファオ

コレジール、アシェリィ、ウィナシュ、ニャイラの4人は衛兵えいへいに引き連れられて屋敷の中に入った。


室内はフレイム・オーブがかけてあり、ポカポカと暖かかった。


「ご当主との謁見えっけんをご希望ですかな?」


先頭を案内する屋敷の者が尋ねた。


「ああ、そうですじゃ。ご当主に会わせて下さい」


それを聞いて衛兵えいへいはコクリと首を縦に振った。


謁見えっけんの間まではそれほどかからなかった。


「こちらです。どうぞ」


4人が入るとそこには大きなイスに老人が座っていた。


「ようこそ。ウルラディールへ……って、コレジール老じゃないですじゃ!? ご存命だったのですかじゃ!?」


それを聞いたコレジールはプンスカ怒った。


「勝手に殺すな!! この青二才のバカモンが!!」


アシェリィも彼のことを知っていた。


「あ……ファネリ教授じゃないですか!!」


教授と呼ばれた老人は首を縦に振った。


「いかにも。ワシが炎焔えんえんのファネリじゃ。まぁ学院生の知名度は高いからおぬしが知っておっても何ら不自然はないがの」


だがコレジールは気になることがあるようだ。


「しかし、なぜおんしが当主のイスに座っとるんじゃ? 肝心のレイシェルハウド殿どのはどうした?」


ファネリはシリアスな表情に変わった。


「フーム……。泥儡でいらいのアーヴェンジェの孫を名乗る者がダッザニアを盾にとってそやつの遺体を要求して来たのですじゃ。それだけならともかく、相手はアーヴェンジェをった者達を指定してきまして……。それでお嬢様がわざわざ出向くはめになったというわけですじゃ」


コレジールは頭をガサガサといた。


「絶対おびき出して殺す気じゃろ……。殺られるかどうかは別として援軍を送らなくていいのかの?」


ファネリはいいところに座っているの言い訳にスパスパと煙草たばこを吸っていた。


「う~む。もう少しで到着するはずなんじゃが。学院に依頼したから質の心配はないと思うんじゃが……。おお、それはそうと君らはなにか用事があって来たんじゃろ? コレジール老は特に用事は……いや、なんでもないですじゃ」


彼が目的もなしにフラフラしているのはいつものことだった。


ファネリとどういうコネで繋がっているのはよくわからないが、親しげな様子だ。


「あっ!! あのっ!! このお屋敷に水色の髪をしたエルフの女の子はいませんか?!」


ようやく肝心のことが聞けたとアシェリィは少し胸のつかえがとれた。


しかし、すぐに会えそうにはなかった。


「ああ、シャルノワーレ殿どのの事じゃな。悦殺えっさつのクレイントスの手がかりを追って毎日、裏山にこもっとるよ。帰ってこない日もしょっちゅうじゃ。エルフには厳しい環境なのに熱心なことじゃわい」


それを聞いて彼女はすぐにノワレに会いに行こうとした。


「私、ノワレちゃんを探してきます!!」


だが、その行く手をニャイラがはばんだ。


「ダメだよ。今のキミが行ったら殺されちゃう。ハッキリ言うけどキミはリッチーに対する経験も実力も足りない。たとえ私が同伴どうはんしたとしても今のキミをヴァルー山に登らせる訳にはいかないよ。護りぬく自信がないからね。大人しくシャルノワーレさんが帰ってくるまで待つんだよ」


少女はすがりつくようにニャイラに寄りかかったまま立てひざをついて絶望した。


こんなに近くに居て次にいつ会えるかわからない。


そんなもどかしさと焦燥感しょうそうかんがアシェリィの理性を奪いつつあった。


直後、扉を誰かが開けて入ってきた。


「おいおい。アシェリィ。恋人にちょっと会えないくらいでダダこねかぁ?」


「そんななさけね~やつだとはおもわなかったし~」


振り向いたアシェリィは驚いた。


「ラヴィーゼ!! リコット!! それに……」


ひょっこりと雪の結晶マークの付いたネクタイをつけたスーツの男性が現れた。


「私も居ますよ。忘れてもらっては困りますね」


「フラリアーノ先生!!」


なぜかサモナーズクラスの担当教員とチームメイトの2人娘がそこには居た。


「み、みんなぁ……で、でもなんでこんなところに?」


フラリアーノはネクタイを調整しながら理由を伝えた。


「学院からの依頼です。あなた方の良く知っている人物を狩ってもらいます。こくですが、性格や相手の手の内を一番知っているこのチームが最適だと判断されたのです。いくら強くてもあなたがた3人で力を合わせれば撃破は不可能ではないでしょう。討伐難易度Bプラスといったところですか」


それを聞いたアシェリィはあたふたした。


「ま、待って下さい!! あなた方の良く知っている知人を狩る!? 知人って誰ですか!? そんなの、たとえ誰だったとしても倒せませんよ!!」


フラリアーノの表情がわずかにくもったのがわかった。


「ダッザニアを盾にとっている魔女というのはあなたがたのセミメンターであるハーヴィーなのですよ。実は彼女は泥儡でいらいのアーヴェンジェの血縁なのです。身内を殺された恨みからウルラディール家を根絶やしにする気ですね。家のほうはともかく、ダッザニアの人々の命をおびやかしているのは看過かんかできません。彼女がコーレムで荒らせば死屍累々(ししるいるい)は不可避ふかひです」


アシェリィは更に力が抜けたように床にアヒル座りになってしまった。


「は、ハーヴィー先輩が……? う、ウソだよね……?」


ラヴィーゼもリコットも気まずそうにうつむいた。


だが、ラヴィーゼは強い意思を感じさせる瞳で自分の意志を示した。


「たとえお世話になって、愛着のある先輩だからといって無差別な破壊、殺しをするとわかっちゃあ黙ってはいられない。たとえそれが身内の愛から来るものでもやっていいことと悪いことがある。あたしはる気でいく。それが恩を返すってことだ」


意外にも主体性の薄いリコットもこの件は納得がいかないらしい。


「そりゃ確かにプライベートの付き合いも深かったし~。気が引けないわけではないし~。でも~、もし事前にそんな人だってわかったら近づきさえしないっていうし~。でも~ラヴィの言うようにやっぱケジメはつけなきゃっしょ~。あたしたちがやらなきゃ誰がやるのさ~」


2人はかなり強いメンタルでこの場にのぞんでいた。


「さて、どうしますアシェリィさん。相手も本気ですし、中途半端な覚悟でのぞめば殺されますよ。無理なコンディションなら断ってもらっても結構です。私とこの2人で行きますから」


色々と立て続けに起こったことに放心状態だったアシェリィだが、つぶやきながらよろりと立ち上がった。


「ハーヴィー先輩を……止めなきゃ!!」


その瞳にはラヴィーゼと同じ覚悟が宿っていた。


「ふ~む。すると大人数になりなちじゃの。アタックチームは多くても5人以下がちょうどいい。あまり人数が増えすぎると味方の被弾とかも気にせんといかんからな」


状況的にフラリアーノ、アシェリィ、ラヴィーゼ、リコットでハーヴィーの撃破に向かうのが適切だった。


「アシェ。エルフの娘が来たら屋敷で待っているように伝えておく。死ぬんじゃねーぞ」


少女と人魚は拳を軽くぶつけあった。


「ボクは単身でクレイントスのラボ調査してみるよ。1人のほうがかえって安全だったりするしね。アシェリィちゃんも無茶はしないようにね」


同じく背の低いリッチー研究家とも拳をぶつけた。


「ホントはワシもいきたいところじゃが、相手が身内のようじゃからの。当人同士で決着をつけるとええ。ただし、常にる気で闘うことじゃ。相手を救えるかもしれないなどの甘えがあると足元をすくわれるからの。どうせ相手だってこちらを殺す気でかかってくるわけじゃしな」


残った3人と挨拶あいさつをすますとフラリアーノ達は庭園に出た。


庭には大きな白いドラゴンが待機していた。


「うわぁ!! アイスヴァーニアンじゃないですか!! デッカくなったなぁ!!」


アシェリィは感嘆かんたんの声をあげた。


真っ白でフサフサな毛をして愛くるしい真っ赤な瞳をしている

体長は4mいくかどうかというところだ。


「キュルキュル……クキュルキュッル……」


教授はドラゴンをでた。


「この子はファオファオと言います。ボルカ先生が二転三転してつけた名前で。古代セレクタ語で”遠く高く”という意味があります」


いささか名前にギャップがあるのではないかとラヴィーゼとリコットは思った。


同時にフラリアーノは思わずひたいに手を当てた。


「希少生物ですから本来はこんな場所に居てはいけないんですが、つい乗り心地が良くてですね。ボルカ教授のところにはレンタル申請が殺到さっとうしているようですよ。もっとも、暑さには弱いので冷涼な気候でないと飛行できないんですけどね。今、ミナレートをった直後はぐったりしていたんですが、ノットラントに入って急に元気になりましてね。やはり雪国出身といったところでしょうか」


野生のドラゴンは凶暴なものも多いが、人が育てるとこのように従順じゅうじゅん人懐ひとなつっこくなることもある。


「キュルル……クキュ~~~……キュルルルル」


アイスヴァーニアンは長い毛をなめて毛づくろいしている。


「こいつでダッザニアまでいくとどんくらいかかるんだ?」


教授は大体の予測を立てた。


「1時間半ってところですね」


ラヴィーゼは思わずのけぞった。


「ウッソだろ!? ウォルテナって東部の端っこだぞ!? 大陸の真ん中まで1時間半とかありえねーって!! そんな速さで飛んだら落っこちるだろ!!」


興奮気味の彼女をフラリアーノは落ち着けた。


「いや、ですから、乗り心地が良いといったじゃないですか。大丈夫ですよ。しっかり脚をひっかけて抱えるようにして乗れば落ちません。落ちたという話も聞きませんし、運動音痴うんどうおんちでも大丈夫だと思いますよ」


いつのまにかまた髪の色が変わったラヴィーゼはうなだれた。


「ホントかなぁ……。別に運動音痴うんどうおんちじゃないけど、なんか不安だなぁあたし……。こうツルっと……」


そんなやり取りをしているうちにアシェリィは優しくドラゴンをでると早くもその背に飛び乗っていた。


「ファ~オファオちゃ~ん!! わ~!! ふかふか~!! やわらかいソファーみたい~!!」


リコットも尻込みしていて、その光景を見てあきれた。


「……アシェリィに怖いものは無いんだし?」


「ああ、全くだ。ちょっとは怖がれよ……」


いつのまにかフラリアーノもアイスヴァーニアンの首根っこに乗っかっていた。


「2人とも!! 急ぎましょう!! まだ連絡は入ってませんがいつゴーレムが破壊行動を始めるかわからない!! 一刻も早く出ますよ!! 大丈夫。この子は温厚ですから人を襲ったりはしませんよ。」


ラヴィーゼとリコットは互いに視線をかわすとあきらめて真っ白なドラゴンに向けて走り出した。


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