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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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赤のデモン、灰のデモンズ

バレンは猛ダッシュして赤い悪魔に殴り込んだ。


「劣等種ごときがって、てめぇらを生み出したのも劣等種に過ぎんだろうがァ!!」


全力の右ストレートパンチを胴体の真ん中の目玉に向けて叩き込む。


だが、その拳は相手の片手で止められてしまった。


「ザフィアルハショセンフミダイニスギヌ。ワレワレマカイノジュウニンヲシタガエルモノナシ」


赤の悪魔デモンズに拳がめり込む。


「シカシ、オドロイタナ。レットウシュゴトキガトオモッタガ、ナカナカドウシテタノシマセテクレル……。スグニコワレテクレルナヨ?」


魔物はニタァっと笑った。


「相手にとって不足はねぇ!! 行くぜ!! 愛の鉄拳制裁てっけんせいさい!! ソウルフル・ラッシュ!!」


バレン教授は手を引き抜くと目に見えないほどの速度でパンチを連射した。


明らかに胸の目玉が弱点なのだが、これはおとり両脇りょうわきから生える牙に引っ掛けるための罠だった。


「上等上等!! そんなキバ、へし折ってやるぜ!!」


ムキムキマッチョのアフロはバキンバキンと白くて硬いキバをぶち折っていった。


「その目ン玉、もらったぁ!!」


大きな眼球にパンチを打ち込むとデモンズが急に胸の瞳を閉じた。


ギョロっと露出していただけあって、カバーが出来るとは誰も予想できなかった。


次の瞬間、再び牙が生えてきてバレンを猛烈な圧力で抱き込んだ。


「う、ぐ、うおおおおおおお!!!!!」


するどい突起がバレンに食い込む。


だが、彼も並大抵なみたいていに鍛えているわけではない。


普通なら串刺くしざしで絶命するところを筋肉で弾き返したのだ。


バレンの戦法を研究していたザティスは次の一手を読んだ。


(あれだけ密着してるなら、密着していればしているほど威力が上がるクローズ・ユア・ハーツを放つに違いねぇ!! いくらバケモンとは言えど、アレをくらったらひとたまりもねぇはずだ!!)


ザティスの予想通りでバレンは赤い悪魔デモンズにがっしりと抱きついた。


「愛の鼓動こどうは愛!! クローズ・ユア・ハーツ!!!!」


激しいエナジーの暴走による爆発が起こった。


爆炎の中からアフロがチリチリになったバレンが飛び出してきた。


吹っ飛んではいたが、しっかり着地を決めた。


「くっ、ダメージは通ってるんだが!!」


煙の中から3人のデモンズが堂々と現れた。


3匹とも爆破に巻き込まれたのだが、あまりダメージを受けている様子がない。


「フン。チョットバカシキイタガ、カイカブリ……カ。オマエラニハガキドモヲクレテヤル。スキニシロ。タダシ、ゼンインゼッタイニコロセ」


「ツマラヌ、ツマラヌ」


「オデ、ガキクウ」


バレンの全力のアタックでこの程度とはと学院生達は圧倒された。


「お前ら!! しっかりしろ!! 連中も全くの無傷ってわけじゃあねぇ!! 今までの訓練はウソをつかねぇ!! お前らなら何とかなる!! いいな、なんとしても勝つぞ!!」


誰はともなく、アタックチームの面々は拳を突き上げて互いを鼓舞こぶした。


ファイセル達は前衛と交代しながらバックアップするポジションについていた。


いざとなれば前衛と入れ替わって前線に立つことになる。


リーダーは的確に指示を出した。


「ザティス、ラーシェは敵の動きの分析!! リーリンカとアイネは治癒ちゆ担当!! それと、アイネは悪魔デモンズ対策のシングもお願い!!」


それぞれが返事をした。


「♪じゃあくな~ たましいを~ あらいて~ きよき~ こころをもどさん~♪」


アイネがそう歌い出すとグレーのデモンズ2体が耳をふさいだ。


「ウググ……ミミザワリナ」


「アタマガイダイ……」


上級生のアドバイスが飛ぶ。


「いいぞ!! だが、あまり続けるとヘイトがそちらに向かう!! ちょいちょい妨害ぼうがいするように歌ってくれ!!」


この歌はかなり効果的で即死クラスの攻撃を繰り返す悪魔デモンズの攻撃を鈍らせるには最適だった。


「後方からでも攻撃できる僕はッ!!」


ファイセルは紅蓮、深緑、群青の制服を脱ぎ去ってサバイバルジャケット姿になった。


フワフワと制服達が浮き上がる。


「まだ回復手段が残ってるから全力で行くよ!!」


腰から剣を抜いて投げ、同くベルトに差してあったブーメランを取り出した。


「これが僕の編み出したフルアーマード・マジカル・クリーチャーだ!!」


その時だった。助走をつけたバレンが飛びりを放った。


ワン・ツーと赤い悪魔デモンにクリティカルヒットする。


「グ……グヌゥ!!」


相手は地面をりつつ後ろに大きくのけぞった。


この手応えある一撃に学院生達は戦意がいた。


今、当たっている前衛はアタッカー3、治癒術2(ヒーラ)の安定した構成だった。


そのため、かなり手強いグレーのデモンの攻撃にも耐えていた。


大きな斧を装備した男子が斬りかかる。


「ムゥ……」


魔物は片腕でその攻撃を受け止めた。鈍い金属音があたりに響く。


「コイツ硬って~!! 牙じゃないとこ狙ったんだぞ!? やっぱり弱点の目玉を突くしかねーのか!!」


彼と入れ替わりに女子生徒が声をかけた。


「この高速のショック・ウェイブなら!!」


彼女はてのひらを突き出して衝撃波を放った。


だが、敵は瞬時にまぶたを閉じて目玉を保護した。


攻撃自体は効いたようで少しだけ後ろにのけぞった。


「ここで追撃、決めるぜ!! パイソンズ・ヘッズ!!」


3人目のアタッカーは手を伸ばす魔術で的確に閉じた瞳を狙った。


だが、どうしてもかわされて牙にひっかけられてしまい、腕の負傷が激しくなった。


「くっ。あのまぶた、かなり分厚ぶあついぞ!! 牙を避けつつなにか強烈な攻撃で打ち破る必要がある!!」


負傷した先輩は後退して治癒ヒーリングを受け始めた。


「チッ!! やっぱバレン先生ぐらいじゃないと接近戦はリスクが高すぎるぜ。ふところに抱き込まれたら大怪我じゃすまないぞ!!」


その直後、高速回転した諸刃もろはのブーメランがデモンの右腕に傷をつけた。


スパッっと切れた傷口からは紫の体液が流れ出している。


「グゥア……イダイ……イダイ!! ガキドモガ!!」


確かな手応えがあった。手強いがデモンズは無敵というわけではないらしい。


「うっし!! よくやった!! 追撃かけるぞ!! エアスラッシュ・トマホーク!!」


研究生エルダーの先輩は斧を投げるような挙動をした。


ただの空振りかと思われた時、ブーメランが切り開いた傷を風の斧が更に広げた。


ブシューっと音を立てて体液が吹き出る。


「ゴアアア!!!!!」


グレーのデモンが痛みの叫びをあげた。


「ショセンハカトウノデモン……コンナモノカ」


よそ見をした赤い悪魔にバレンが格闘の連撃を浴びせる。


「てめぇ、ふざけんじゃねぇ!! 余裕ぶっこいて余所見よそみなんかしてんじゃねーよ!!」


だが、筋肉ムキムキアフロマンの攻撃は受け流されてほとんど通らなかった。


(やはりコイツだけは別格!! 刺し違えるつもりでやらねぇと生徒に被害が及ぶ!! こうやって出来る限り引き付けねぇとまずい!!)


もう一方のチームも順調でグレーのデモンをお手玉のようにいなしていた。


「いいぞ!! だが、油断するな!! こいつら何をしでかすかわからんからな!!」


ファイセルたちの前衛は空気の斧と見えない衝撃波で着実に相手の体力を削っていった。


このままならいける。そう思ったときだった。


「コオオオ……オアアアア!!!!!!」


悪魔デモンが口からオーラのかたまりを吐き出したのである。


それは着弾すると辺り一帯に拡散して、前衛は一瞬で戦闘不能におちいってしまった。


唖然あぜんとするファイセルたちだったが訓練の賜物たまもので、すぐに対策を練った。


「ザティスとラーシェはフロント、僕はミドル、リーリンカとアイネはかなり距離を開けて!! 牙に捕まらないように!! それとオーラを吐くスキも与えちゃダメだ!! みんな、一気にいくよ!!」


ファイセルチームの気持ちが1つになった。


まず動いたのはラーシェだった。


彼女はそこまでパワーがあるわけではないが、武器を破壊することに関してはエキスパートである。


このデモンの牙も彼女にかかれば破壊可能というわけだ。


ラーシェは勇敢ゆうかんに敵の目玉を狙いにいった。


案の定、灰色の悪魔は彼女を包むように牙を伸ばしてきた。


するとラーシェは思いっきり手足を大の字につっぱって尖った部位を内側から押し始めた。


あれだけ硬かった部位がメキメキと音を立てている。


「これをこうして……もうちょっとこんな感じかな!? ザティス!! 続いて!!」


「言われなくてもな!!」


青年は全身にあおい炎のようなオーラをまとった。


身体能力が飛躍的に向上し、炎属性も帯びるブルー・ファングという高等魔術だ。


ラーシェの動きを観察しつつ、クラウチングスタートの姿勢で構える。


「いくよ~!! せーのッ!!」


彼女は一度に6本の牙をへし折った。


それとほぼ同時にザティスが後方の2人にハンドサインを送った。


アイネがささやくように歌う。


「♪あくまとて~ ひとのこころ~ けっして~ わすれまい~♪」


この魔術で悪魔デモンにスキが生まれた。


その絶妙なタイミングをリーリンカは見逃さなかった。


パチンコで相手めがけて催涙弾さいるいだんを打ち出したのだ。


見事に強力な薬物が閉じた瞳に直撃した。


「アアアアア!!!!! メガ!! メガアアア!!!!!」


巨大な気味の悪い血走った目玉がダラダラ涙をながしている。


次の瞬間、ザティスの右アッパーがその目玉をぶち抜いた。


「ゴボ……ゴボボ……ゴボ……」


ズシーンと音を立てて灰色の悪魔は仰向あおむけに倒れ込んだ。


どうやら眼球は再生しないらしい。やはり弱点だったようだ。


向こうのチームもオーラ弾に警戒しているのでなんとか撃破することができるだろう。


こちらは死者こそいないが、かなり被害が出てしまった。


前衛の班の治癒術者ヒーラーとこちらのアイネとリーリンカで手当をほどこしていく。


幸い、魔術修復炉まじゅつしゅうふくろを使うほどの重傷者は居なかった。


「よし!! グレーのやつはなんとかなる!! 今度はバレン先生を助けるんだ!!」


立ち直った前衛チームのリーダーがバレン教授を援護しようとした。だが、彼は叫んだ。


「来るな!! もう一体の灰色のデモンを倒したらお前らは全員逃げろ!! コイツだけは桁外けたはずれだ!! いいな!! 俺が持ちこたえられるうちに逃げるんだ!!」


鬼気迫ききせまる彼の警告にその場は騒然そうぜんとした。


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