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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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レットウシュゴトキガ

ファイセルが旅の準備を整えていると、リーリンカが血相けっそうを変えてやってきた。


2人は夫婦ではあるが、清い付き合いということで別居している。


「お、おい!! ファイセル!! 助けてくれ!!」


普段、冷静沈着れいせいちんちゃくな彼女が焦りに焦っている。


声をかけられた青年は嫌な予感がした。


「ちょっと前にルーンティア教会がザフィアル討伐とうばつに乗り出すって告知があったよな!? これが思ったより衝突が早くて!! ザフィアルの奴が凶悪な悪魔デモンび出したんだ!! よりにもよって私の故郷、ロンカロンカのすぐそばだ!! あたりの集落は酷くやられていて、都市部に到着するのも時間の問題だ!!」


大慌おおあわての彼女をファイセルはなだめた。


「落ち着いてよリリィ。神殿守護騎士テンプルナイトが派遣されているんじゃないの?」


少女は首を左右に振った。


「まさかザフィアルが高位のデモンをぶとは想定していなかったんだ!! 適当な神殿守護騎士テンプルナイトなんかじゃ相手にならない!! 今、学院が撃退用のアタックチームを編成してくれているところだ。私は立候補したんだが1人でも戦力が欲しい!! このままだとロンカ・ロンカが血でまみれることになってしまう!! 頼む!! 一緒に来てはくれないか……」


ファイセルは無言で彼女に近づくと肩をポンポンと叩いた。


「相変わらずリリィは水臭みずくさいなぁ。もっと信頼しなよ」


リーリンカは流れる涙をぬぐった。


そしてサプレ夫妻は早めに学院の最高位である研究生エルダーの紅蓮色の制服にそでを通した。


ファイセルはアシェリィとの旅に備えていた持ち物を戦闘向けに選び変えてリーリンカと出かけた。


後輩との集合場所は学院前だったので事情を伝えるのにちょうどよかった。


「あ、ファイセルさんに、リーリンカさん。お二人揃そろってどうかしたんですか? もしかしてリーリンカさんも私達とご一緒するとか?」


ファイセルはアシェリィとウィナシュに事情を話した。


「それは大変……私も行きます!!」


青年は首を左右に振った。


「大丈夫だよ。人数はもう足りてるし、アシェリィを危険にさらすすわけにはいかない。コレジール師匠によれば今のところはまだノットラント東部は安全だろうって言ってたから君は恋人を探すことに専念するといいよ。僕らは……なんとかしてみせる」


ウィナシュが声をかけてくる。


「あたしもついてってもいいが、こっちの無鉄砲なガキんちょのおもりが居なくなるのはまずいからな。アシェは任せときな。デモンは半端はんぱなく手強い。お前ら死ぬんじゃないぞ。まだ争奪戦さえ始まってないんだからな」


それを聞いてリーリンカは怪訝けげんな顔をした。


「……そう……奪戦?」


「あッ。やっべ!!」


思わずマーメイドは口をふさいだ。


「まぁ、つってもここまで来たら情報の取扱とりあつかいも何もないわな。好きにしたらいいんじゃねぇの? ザフィアルの戦いに巻き込まれてる時点でもう関係者なのは間違いないし」


ファイセルはうなづいた。


「でも今はそれどころじゃない。まずはデモンを何とかしないと!! じゃあ、アシェリィも気をつけてね。もしこっちの件が片付いたら僕もウルラディールの屋敷を訪ねてみることにするよ。無事にお互いが再会出来ることを願って」


勇ましい紅蓮ぐれんの制服の青年は拳をさしだした。


「はい。先輩、勝ってくださいね!!」


それにコツンとアシェリィは拳を打ち返した。


そうしてサプレ夫妻とアシェリィ達は別れた。


学院前までやってくると見知ったメンバーが待っていた。


「ザティス!! アイネ!! それにラーシェも!! 来てくれたのか!!」


リーリンカは得意げだった。


「当たり前だ。それぞれのスケジュールを合わせるのが大変だったんだからな」


ザティスは後頭部に手を組んだ。


「大変っつーほどのものか? アイネとラーシェは大概たいがい、ミナレートにいるだろが。ま、アイネと俺はべったりだしな」


恥ずかしげにグラマーな女子がほほを染める。


「ちょっとぉ……ザティスさぁん……」


予定を合わせた少女はムキになって答えた。


「問題はお前とファイセルだ!! まったく、旅に出てでもいたりしたらどうしようかと思ったんだぞ!! しかし、ベストなチームを考えたときに私はこの5人しか思いつかなかった。私の故郷の話だというのによく集まってくれたな……」


ラーシェがひじで彼女をつっついた。


「なーにしおらしくなってんのさ。リリィらしくもない。そういうの水臭いっていうんだよ」


リーリンカは頭をいた。


「はは……全く同じことをファイセルにも言われたよ……」


アタックチームは練度が高いため集結が早く、10分程度で出撃準備が整った。


引率の教授はバレン先生だった。


色黒アフロのムキムキマッチョは生徒たちにハンドサインを送って乗船をうながした。


「おらおら、ドラゴン便に乗り込め。ミーティングは上でやる」


すぐにゴンドラを下げたドラゴンが学院の裏から離陸した。


今回集められたのは満研究生エルダー含む4チームの精鋭20名だ。


「現地のリジャスターが情報を送ってくれている。悪魔デモンズはこちらと同じく少数精鋭。明らかに格上なヤツが1体、強力なヤツが2体だけだ。正直、格上のやつはお前らには荷が重い。よって今回の作戦は俺も前線に出て戦う。1匹は引きつけるからお前らは何とかして残り2体を殺れ。万が一の代わりの教授は船に待機させておく」


学院生達はピリピリとした緊迫感に包まれた。


「あまり大人数になるとフットワークが落ちる。5人1組でスイッチ。1体あたり合計10人で当たることになる。20対2。これで互角と見ていい。あと一応、このゴンドラには5人分の魔術修復炉まじゅつしゅうふくろが積んである。だが正直、それにすがって戦うと死につながる。リアクターは運が良ければ程度に考えておくことだ。だが不安に負けるなよ。短時間ながらこのメンバーはベストを尽くした編成といってもいい。それでも俺が死ぬケースはあるだろう。……最低でも相打ちにはもっていく。だからなんとしてもお前らは全員生きのびろ。以上だ」


生徒たちから信頼の厚いバレンのこの発言にすすり泣くものも居た。


普段、ポジティブな彼がこういうのだ。捨て身覚悟というのは嘘偽うそいつわりがないようだ。


バレンは船頭で腕を組みながら頭を冷やした。


(本当ならばここであと2~3名、戦力として教授を割くべきではある。だが、このご時世じせい、次に何が起こるかわからない。むやみやたらに戦力を消耗しょうもうするのは得策ではない。学院の為に、アルクランツ校長にけて命散らすならばそれもまた本望……)


そう、彼はすべて承知しょうちの上でアタックチームの引率を勝って出たのだった。


アルクランツは彼を止めたかった。


それでも、彼女はGOサインを出した。


今までそうやって残酷ざんこくな決断をしてきたのは他でもない彼女自身なのだ。


校長は窓の外をボーッとながめて独り言をつぶやいた。


「早かったな。まさかこのタイミングで悪魔デモンズんでくるとは……。ザフィアルのヤツ、今度は本気でかかってくる気らしい。もっともまだ教会も全力を出しているわけではない。教会の増援が早く到達すればバレンはなんとかなるかもしれんが……。いや、厳しいな。学院生からも犠牲者ぎせいしゃが出るかもしれん。はは。私は罪深い魔女だな。だが、もう半身が血につかかっている。今更、綺麗事きれいごとを言っていたら死んでいった連中が浮かばれん」


そう言いながら彼女は片手に握っていた岩石リンゴを粉々に砕いた。


学院のドラゴンは一般のものより早く、1時間半程度でロンカ・ロンカそばのボークスに到着した。


悪魔に気付かれないように郊外こうがいに着陸する。


「ボークスって……アッジルさんとレッジーナさんの住んでる街じゃないか!! 無事に避難してくれているといいのだけれど!!」


ファイセルはリーリンカとの結婚式の手伝いをしてくれた伝統装束”ノダール”の店の夫婦のことを気にかけた。


「戦場は街中だ!! GO!! GOGO!!」


バレンが先人を切って走り出す。


間もなく一行が見たのは絶望的な光景だった。


神殿騎士テンプルナイト残骸ざんがいがそこらに散らばっている。


関節がぐにゃぐにゃにねじれた者、体に大きな穴が空いている者、肢体が欠損した者……。


阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄だった。なんとかリジャスターがこらえている程度である。


「あっ!! バレン先生だ!! バレン先生が来てくれたぞ!!」


絶望しかけていた生き残りのリジャスターの目に希望が満ちた。


なんとか耐えていたとは言え、彼らの傷は浅くなかった。


「お前らよく踏ん張ったな!! 俺らの背後にリアクターが用意してある!! 死にそうなやつはけてやれ!! あとは俺らが代わりに殺る!! いくぞ、お前ら!!」


3体横に並んだデモンの見た目は禍々(まがまが)しかった。背の丈は3mはありそうだ。


両腕を組むそのさまは威圧感に満ちていた。


頭にはヤギのような黒い角が2本生えていて、顔はスケルトンに近い。


だが、胴体はガッチリしていて肋骨あばらぼねのような尖った牙が左右から胸を包むようにせり出している。


その中央では目玉がギョロギョロとせわしなく動いていた。


牙は背中や、膝、足にも生えていた。刺されたら重症はまぬかれないだろう。


3体のうち、1匹は赤く、残り2体はグレーだった。


「レットウシュゴトキガ。ムダダトワカッテイテナゼムカッテクル? ワレ、ツマラヌ」


赤い悪魔がそう喋った。


この個体は人語を解するらしい。かなり高位に違いなかった。


「オデ、ザフィアル、クイマス」


「コロ……コロコロス……」


それに比べてグレーのほうは明らかに知能が低い。


ひと目でどいつが格上なのかがわかった。


「っしゃああぁ!! 俺が赤いのとる!! お前ら気合入れてけやーッ!!」


バレンと学院生達は臨戦態勢で身構えた。


ファイセルたちのチームはスイッチの後衛要員だ。


先に研究生エルダーの先輩たちがデモンズに向かっていって戦いは始まった。


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