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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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どういう5人組?

うつろのほうの攻防戦が行われている頃、ファイセルたちは呑気のんきに釣りにきょうじていた。


メンツはコレジール、ファイセル、アシェリィ、ウィナシュ、キュワァの5名だ。


一見すると関連性のない組み合わせに思えるが、コレジールとファイセル、アシェリィは師弟してい関係にある。


アシェリィは最近になってファイセルからコレジールを紹介された。


師匠の師匠が居るとは聞いてはいたが、実際に会うとビックリするものである。


おまけに物凄い魔術の使い手らしいとわかれば彼女は目を輝かせた。


だが、彼女はコレジールより気になっていることがあった。


恋人のシャルノワーレがなんの連絡もなしに行方不明ゆくえふめいになってしまったのである。


かれこれ3日は経つだろうか。いくらなんでもいきなり居なくなれば心配せざるを得ない。


放浪癖ほうろうへきがあるわけでもないわけであるし。


だが、アシェリィは心を通じた彼女の考えていることがわかっていた。


もし、彼女が急に旅立つことがあればそれは復讐目的に間違いなかった。


確か悦殺えっさつのクレイントスと言っただろうか。


ノワレはそのリッチーへ同胞どうほうかたきつつもりなのだろう。


アシェリィを巻き込むまいという気持ちは嬉しいのだが、一言もかけずに行ってしまうのはこくだと彼女には思えた。


「ハァ……」


「どうした、アシェ。ためいき、ばかりだ」


キュワァに指摘してきされてアシェリィは作り笑いをした。


こんなふうに創雲そううんの一派がたむろしているのがウィナシュとキュワァの釣り場というわけである。


この堤防ていぼう人気ひとけも少なく、秘密のやり取りをするのにはちょうどよかった。


ウィナシュが地獄耳なのが気になる点ではあったが、彼女は人畜無害じんちくむがいだったので気にかけられなかった。


「あー、ダメだ。またエサだけ食べられちゃったよ……」


ファイセルが針だけ残った釣り竿を引き上げる。


「ファイ、いちばん、つり、へた」


キュワァの一言に笑いが起こる。


「ん!! これはええのぉ!! なかなかデカい!!」


コレジールは本日3匹目の大物を釣り上げた。


「ふ~ん。じいさんあなどれねぇな。アシェリィとキュワァよりいい線行ってると思うぞ。私の入ってる釣りグループにこないか?」


この人魚に釣りを認められるというのは相当である。


だが、コレジールは遠慮がちに答えた。


「いや、ちょ~っとばかしかじった程度じゃよ。本気でやっとる者の中に入っていくのは失礼と言うもんじゃ」


ウィナシュは残念げに尾っぽをパシャパシャ動かした。


「そうかぁ? じいさんなら大歓迎なんだけどなぁ」


彼女はコレジールが2人の師匠ということは知らなかったが、にじみ出るオーラで彼の実力をはかっていた。


彼はそんじょそこらの老人ではない。出来る者にはひしひしとそう感じられるのだ。


だが、和やかな釣りの場は一転した。


コレジールとウィナシュがそろって北西の空に釘付くぎづけになった。


「いかん!! なんという殺気じゃ!!」


「まずい!! この威力じゃミナレートごと死の都だ!!」


ファイセルとアシェリィ、キュワァは死のプレッシャーに押されて立ちすくんでしまった。


すぐに冷静を取り戻したコレジールが動いた。


「アルクランツ、さすがにむざむざやられるわけではあるまい!! 学院の音声を傍受ぼうじゅするぞ!!」


彼は水色にキラリと光るジェムを取り出した。宝石から少女の声が聞こえる。


「リンガリーからだろぉ? ヘーキヘーキ。到達まであと15分はある。何? ああ、もちろんケース・エマージェンシー発動だよ。お前ら手をつなげ」


「うひひ。みんな驚くだろうなぁ。これ動かすの何年ぶりだぁ? 300年くらいだっけか? 実はリジャントブイルは亀龍ちゃんの背中の上に作ってあるのだ。よって遊撃はもちろん、こういう兵器の回避も朝飯前!!」


その直後、グラグラと地面が揺れた。


そして学院がミナレートから離岸しはじめたのだ。


「そんな!? リジャントブイルが移動してる!?」


「えーっ!? あれって動くんですか!?」


コレジールはとてもけわしい顔をした。


「おんしらも聞いたことがあるじゃろう。直撃した場所を不死者アンデッドの街に変えてしまう非人道兵器……うつろのほうが学院とミナレートを狙っておる。校長は学院をおとりにしてこれを回避するつもりなんじゃ」


マーメイドは危機感をあらわにした。


「ラマダンザの攻撃か!! こりゃあ戦争が始まるぞ!!」


あながち間違っては居ないのだが、ウィナシュは”らない”。


今現在、大部分のラマダンザは封印されているのだ。


今回の砲はルーブによって部分的に解かれた場所から運び出されたに過ぎない。


だからラマダンザが直接、攻めてくるというのは誤った認識なのだ。


沖合おきあいで大砲が炸裂さくれつすると死の気配は消えた。


学院は何事もなかったかのように元の位置に戻った。


コレジール以外は呆然ぼうぜんとしていた。


「ファイセルや……以前、おんしに話したのう。戦が始まったら秘密の真実を話すと。ワシはそろそろかと思っとったが、思ったより早く来たようじゃ。アシェリィにも聞いておくんじゃ。我々、創雲そううんは代々、”ナレッジ”になる決まりがあるからの」


ファイセルが声をかける。


「密談ですか? パーラー・コクーンとかでどうです?」


師匠は不満げだ。


「あんなどこに漏れてるかわからんところで話すわけなかろう!! こういうのはここみたいにシンプルに人気のない場所がベストなんじゃ!!」


水面に寝そべるように浮いていたウィナシュがたずねた。


「ほ~ん、で、ナレッジってなんだよ? 秘密の真実って?」


創雲そううんの師匠は難しげな顔をした。


「フ~ム。悪いが部外のウィナシュのじょうちゃんには教えられんわい。席を外してくれまいか。あとキュワァも連れてってくれ。もっともこの子にはなんの話だかわからんじゃろうがな」


ピンクのしっぽの人魚はくちをとんがらせた。


「ちぇっ。つまんねーの。ほら、キュワァ、乗れ!!」


彼女は背中にモグラの亜人を乗せると勢いよく泳ぎ始めた。


「キャッ!! キャッ!! キュワァ、これすき!!」


2人は遠海むけてバシャバシャと泳いでいった。


「さて……おんしらに伝える時が来るとは正直、思わんかった。もっとも戦の有る無しに関わらずこの真実を知ることにはなるんじゃが。ちなみにこれはオルバもっておる」


そう前置きをするとコレジールはノットラント内戦が捏造ねつぞうされた歴史であること。


そして楽土創世らくどそうせいのグリモアの争奪戦について真実を語った。


また、数日前にだっかん還されたウルラディール家とROOTSルーツの話もした。


ファイセルもアシェリィも口をぱくぱくするばかりで声がでない。


「ワシをうたぐってもいいが、120年くらい生きとるからのぉ。それなりに信憑性しんぴょうせいはあると思うぞ。本来、賢人会けんじんかいの連中以外は記憶を捏造ねつぞうされてしまうんじゃが、ワシの場合はうまい具合にすり抜けたからのぉ。多くはないがそうやってナレッジのままでいられる者もおる。ワシの師匠もそうじゃった。自分の記憶と師匠の証言。これはもう確定じゃろ」


ファイセルは例のマジックアイテムが実在することに驚きを隠せなかった。


同時に一歩間違えば世界がほろぶ危険性をひしひしと感じていた。


一方のアシェリィはなにか思いついたらしく、コレジールに聞き返した。


「師匠!! ROOTSルーツはリッチーを相手にすることも想定しているんですよね!? その学生グループの中に、水色の髪をしたエルフの女の子がいませんでしたか!?」


コレジールはすぐに答えた。


「ああ、ちょっと見ただけじゃがおったぞ。あの見た目じゃ大層目立つからのぉ……」


少女の顔が明るくなった。


「やっぱり!! ノワレちゃんだ!! きっと、今頃、ウルラディール家に居るはず!! 会いに行ってお説教してやらなきゃ!!」


立ち上がろうとしたアシェリィをコレジールが止めた。


「これ!! 人の話を聞いとったのか!!  楽土創世らくどそうせいのグリモアに関わってはならん。十中八九じゅっちゅうはっく、悲惨な目にあっておしまいじゃ!! それにノットラントに渡るなんて自殺行為じゃぞ!! あそこはザフィアルの言うようにいつ全面戦争の舞台になってもおかしくはない!!」


考え込んでいたファイセルが意見をはさんだ。


「もし楽土創世らくどそうせいのグリモアがあったら……身分とか奴隷どれいとか無くって誰も苦しまないみんなの楽園を創りたいと思っていました。でも話を聞くにそんなに甘い戦いじゃなさそうですね」


師匠は驚いているようだった。


「おんし、そんな簡単に信じるのか? 今まで捏造ねつぞうされた世界で生きてきたんじゃぞ!?」


だが、ファイセルは胸を張って答えた。


「それでも僕らの生きる世界であることには変わりませんから。それに、コレジール先生がウソをつく理由がありませんし。僕としてはそのマジックアイテムを争ってまで手に入れようとは思いません。ただ、悪用されるかもしれないのにむざむざ見ているわけにはいかない」


アシェリィも続けた。


「私は……楽土創世らくどそうせいグリモアで創りたい楽園とか、全然思いつきません。でも、大好きな人と一緒にいたい。それだけです」


老人はひたいに手をやった。


「かーっ!! 師匠の言うことを聞かん弟子を持つと苦労するわい!! ええじゃろええじゃろ好きにせい!! ただな、創雲そううんが絶えるとライネンテ中部から南部が荒れ放題になるのはよっくきもにめんじておけよ!! ワシは一緒には行かんからな。この歳でいくさはゴメンじゃ!! そもそもな、2人しかおらんでどうするというんじゃ!!」


背後でチャプンと水音がした。


海藻かいそうを頭からかぶった水死体のような人魚が上がってきた。


「ふふふ……面白い事、きーいちゃった。これであたしもナレッジの仲間入りってわけだ。これで3人揃そろった」


コレジールは顔をゆがめた。


「そんなこったろうと思ったわい。こんの地獄耳じごくみみ!! おんしはこの手の話は信じないと思ってたんじゃが!!」


ウィナシュは海藻を投げ捨てて美貌びぼうをあらわにした。


「じーさん。面白げなチャンスがあるのにそれをみすみす逃す手はねぇよなぁ? あんたの言ってることはムチャクチャだが辻褄つじつまはあってる。リジャスタークラスになりゃあ多少、驚く程度だろ。それより楽園つったら釣り天国に決まってんだろ!! 釣っても釣ってもガンガン釣れる!! 食って寝て釣りしてるだけで暮らせる世界だよ!! フィッシャーズ・ヘイヴンだ!!」


人の数だけ楽園は存在する。彼女のそれも1つの正解ではあるのだ。


「やれやれ、今回の争奪戦は荒れるぞい。早いとこ隠居いんきょするか……」


老人はここまで来るとあきれる気も起きなかった。



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