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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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阻止せよ!! 虚ろの砲

ROOTSルーツの軍勢は一気にウルラディール家の中庭に突撃をかけた。


だが、すぐに様子がおかしいことに気づく。


「な、何? 物家ものけからですって? そ、そんなバカなこと……。ルーブはどこへ行きましたの!?」


レイシェルハウトは動揺どうようし、同時に胸騒むなさわぎを感じた。


屋敷はネズミの子、一匹も居なかった。


その時、西の空がキラリと光る。ファネリ教授が叫び声をあげた。


「ま、まさか、あの気配はうつろのほう!? あれは封印されしラマダンザの技術だったはず!! こんなところに使われるわけが……いや、ルーブのことじゃ。やりかねん!!」


その場の全員の顔が緊張でこわばった。


ジュリスが確認するようにつぶやいた。


うつろのほうって直撃したものの生命いのちを奪って不死者アンデッドにさせる魔術兵器か!? まずい!! このままじゃウォルテナ都市の全体が死に満ちた”虚都きょと”になっちまうぞ!!」


それを聞いたレイシェルハウトは小型の騎兵きへいドラゴンに飛び乗った。


「お嬢様!! 何をなされるんじゃ!!」


「あれの軌道を変えますわ!! ヴァッセの宝剣なら弾き返せるはず!!」


サユキが悲鳴を上げた。


「無茶です!! お嬢様だけでもいいからお逃げください!!」


ドラゴンの上の少女は大丈夫とばかりに笑っていた。


手綱たずなにぎって青白いオーラのかたまりに接近していく、


「うっ、流石に近づくと死のプレッシャーが来ますわ。でもわたくしは皆と……大好きなこのウォルテナをまもってみせます!!」


死のエネルギー体に抜刀して斬りつける。


普通の剣ではこの強大なる負のかたまりに影響を与えることは出来ないだろう。


だが、聖なる力を帯びたSOVソーヴの効果は抜群ばつぐんだった。


「お父様……ご先祖様……私をまも……いや、わたくし、やりますわ!! はあああああああああああぁぁぁッッッ!!!!!!!」


ドラゴンから飛び降りながら全力を叩きつける。


浄屍じょうし輝刃きじん!! ピューリファーズ・ウライト・エッジ!!」


レイシェルハウトと死の波動は激しく押しあった。


それは地上からでも見えて、屋敷のものだけでなく都市部の住人も見ていた。


ピリピリと感じられる死の恐怖に小さな少女が1人であらがっている。


ウォルテナ中から徐々に応援する声が上がり始めた。


「くうううぅぅぅ!!!!! なんて力なの!? このままじゃ……押し負ける……」


その時、足元から自分の名を呼ぶ声が聞こえた。


「あの剣の輝き……次期当主のレイシェルハウト様じゃないかね!?」


「お嬢様、ああ、確かにお嬢様だ!! ヴァッセの宝剣を持ってらっしゃる!!」


「元当主は……そういえば剣を抜いてるのを見たことがないないな。この輝きこそ真なる後継者の証では!?」


そんな声が集まってきて心なしか彼女がうつろのほうを押し返し始めた。


「レイシェルハウト!!」


「レイシェルハウト!!」


「レイシェルハウト!!」


ウォルテナ上空はまばゆくきらめいた。


声援をパワーに変えて次期当主は自分の何倍かもある死のかたまりを弾き飛ばした。


「バシュウゥゥゥゥ!!!!!」


はじかれた球体はウォルテナを大きくそれてシャルネ大海に着弾した。


無事に危機を救った少女は力なく地面に落ちていった。


このままでは墜落死ついらくしする。そんなときだった。


「ふんむっぐ!!」


モコモコしたなにかに包まれてレイシェルハウトは助かった。


「このケモノくさいニオイ……耳にさわる鳴き声……ピリエーね……」


小型恐竜のような体型をしたハツカネズミが彼女を救ったのだ。


「チュッ。チュチュッ」


立ち上がろうと思ったが、もみくちゃにされてしまった。


「アンタら頭悪いからキライよ!! ……アレンダの飼ってた子らはキライじゃなかったけどね」


抜刀したままだったので住人たちは彼女が正真正銘しょうしんしょうめいのウルラディール後継者こうけいしゃだとわかった。


すぐにピリエーは追い払われて、レイシーは立ち上がることができた。


気づくと街中の人々が頭を地面にこすりつけるようにしていた。


きっと自分を指名手配犯として追いやったことに負い目があるのだろう。


ましてやそんな自分に命を救われたのである。謝らない訳にはいかない。


次期当主は剣をさやに収めた。


(ありがとう……ヴァッセの宝剣……)


自分の足で屋敷へ戻るとサユキとパルフィーに抱きつかれた。


サユキは普段見せないような顔でボロボロと泣いている。レイシーを心から心配していたようだ。


一方のパルフィーは無邪気むじゃきに飛びついてきた。かなりの怪力で抱きしめてくる。


「ば……ばるふぃ~……苦しい。ぐるじい。死んじゃう……」


「おっと、ごめんよ」


すぐに彼女は腕をゆるめた。


まだ終わっては居ない。家を奪還した宣言をせねばならなかった。


レイシェルハウトは染めていた群青の髪の染料を落とした。真紅しんくの美しい髪があらわになる。


そしてある程度、伸びた毛を元の髪型であるツインテールに戻した。


逃亡生活でバッサリ切ってしまっていたので短めの丈になってしまったが。


そしてマギ・アイ・レンズを外すと燃えるような赤い瞳が映えた。


それを見ていた学院生組は驚いた様子だった。


「こう見るとマジで指名手配書まんまだな。だが、気品ある立派な出で立ちだぜ」


「確かに。こう見てみると高貴なお嬢様といった感じがしますわね。わたくしとお揃いといったとこかしら……なんてね」


「ふ~む……しかしうまい具合に化けていたでござるな。クラスの皆も誰も気づいてござらんかったし……。元から少年っぽいのでござらんか?」


百虎丸びゃっこまるのその指摘は流石に聞き捨てならないとばかりにレイシェルハウトは反論した。


「んもう!! あんなの全部、演技でしてよ!? わたくしはあんな無愛想ぶあいそ粗雑そざつな人間ではないわ!! イクセントなんて仮初かりそめとは今日限りでおさらばですわ!!」


とはいえ、イクセントの人格はあまりにもしっくりきていた。


別人だと言い切るのは苦しかったので学院組はニタァっと笑みを浮かべて冷やかした。


「もう!! 意地悪な方々ですこと!!」


その場は笑いに包まれた。


そして、レイシェルハウトはウルラディール家の城門の正門のおどり場に立った。


ウォルテナ中の住民が全員集まっているかと言うほど見物人は多かった。


「諸君!! 先々代、ウルラディール家当主、ラルディンの疑念は今、ここに晴らされる!! 彼に兄弟などおらず、軟禁なんきんされていたのは影武者である。これはルーブ・エッセンデルによるはかりごとであった!! その証拠として、影武者がヴァッセの宝剣を抜刀した事が一度でもあったろうか? 否、それはありえない。なぜならわたくしがこの手に持つのが本物のSOVソーヴなのだから!! 見よ!! そしてとくと目に焼き付けよ!! 死に打ち勝ったウルラディールの……いや、我らの宝を!!」


そう演説しながらレイシェルハウトはヴァッセの宝剣をさやから抜いた。


宝剣は日が昇りきった後だというのに金色こんじきに輝いていた。


あまりの神々しさに住民たちはおのずとこうべれていった。


これですべてが片付けばいいのだが、事態はそう単純ではなかった。


まず、ルーブが行方をくらましている件、それとうつろのほうの件についてだ。


ROOTSルーツが攻め入るとわかっていて大量殺戮兵器たいりょうさつりくへいきを使ってきた。


そう考えるとルーブが絡んでいると考えるのが自然だった。


同行していたスヴェイン教授が魔法円を構築して校長につないでくれた。


「……そうか。屋敷は取り返したか。しかし、問題はルーブだな。この調子ではまだうつろのほうを撃てる状態にあると見ていい。それに、アレはもともとラマダンザの魔術兵器だ。そのあまりの非人道さで賢人会からハブられた。今になって封印が解かれつつあると見ていい。不完全なうちに叩かないと射程が全世界まで広がる。学院からはだいぶ距離があるから、打とうにも手間がかかる。よって、お前らが潰してくれ。こちとら色々と支援してるんだ。バチは当たるまい」


そう言って通信は切れてしまった。


「しかし……どこからアレが飛んできたかなんて予測することができるのかしら?」


レイシェルハウトの疑問にスヴェインが目を輝かせていた。


「私がやってみよう!!」


彼は指にはめたリングから下がるペンデュラムを宝剣に当てた。


そしてそれを世界地図の上にぶらさげた。すると、ピーンとある地点を指し示した。


「わかった!! うつろのほうのオーラはノットラント北西部……町の名はリンガリーだ!! ドラゴンなら半日で到着できるだろう!!」


レイシェルハウト達はくつろぐ暇もなく、出撃準備を整えた。


今のタイミングで屋敷を落とそうという者は居なさそうだったので最低限の防衛部隊を残した。


そして残りを全力でほうの破壊に割り振った。


リンガリーの街が今どうなっているか全くわからないので出来る限り武力があるに越したことはない。


もしかするとルーブの軍勢が待ち構えている可能性もあるわけだし。


世界のどこに向けても、うつろのほうを撃たせる訳にはいかない。


屋敷に攻め入る以上のプレッシャーがROOTSルーツのメンバーにのしかかった。


もし王都に撃たれたら、ミナレートに撃たれたら……。


その街は一瞬にしてしかばねの住む街になってしまう。


それだけはなんとしても避けねばならなかった。


もはやルーブへの恨みなどといった浅い戦う理由では済まされなくなってきた。


この国の、いや、世界の存亡をかけた戦いが始まろうとしていた。


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