我が友よ、永遠にさようなら……
ROOTSの軍勢は夜明け前にウォルテナ沖の海上に集結しつつあった。
どんどん戦力は集まっていき、これならば屋敷を落とせる。そう皆が思ったときだった。
「ホロホロホロホロホロホロホロホロ!!!!!」
鳥の鳴き声のような絶叫があたりにこだまする。
それと同時に骸骨の鳥たちがこちらの軍に襲撃をかけてきた。
互いのドラゴンが見えなくなるほど骸の群れは大挙していた。
「お嬢様―――――ッ!!」
ファネリの叫びは虚しくかき消されていった。
それだけではない。4mはあろうかという骨の大鷲が舞い上がってきたのだ。
その背には継ぎ接ぎの腕と脚をくっつけた少女が乗っていた。
いや、乗せられていたといるというのが正しいかもしれない。
肌の色は明らかに死体のそれで、あちこちが腐り落ちていた。
「オ……オジョオ……サマァ……グハ!! ゲハハ!! ゲヒヒ!!!! イダ……イダイ……グ、グルシッ……オエェッ、エエッ!!!!」
間違いない。あれは戦死したはずの親友、アレンダの成れの果てだ。
フッっと突然、悦死のクレイントスが現れる。
「どうです? い~い素体でしょう? 才能ある彼女を失うのはもったいないと思いまして、私が回収しておいたんですよ。親友とのご再会、さぞかし感動しているのでは?」
レイシェルハウトは唇を強く噛んで怨嗟の叫びをあげた。
「クーーーーーーーレーーーーーイーーーーントスーーーーーーーッ!!!!!!!!」
すかさずシャルノワーレがリッチーめがけて矢を射った。
だが、彼は満足げに瞳を輝かせて余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)にパッと消えた。
レイシェルハウトとパルフィとサユキは命を預けあったアレンダとの再会に戸惑いを隠せなかった。
しかし、もうそこにいるのはアレンダではない。不死者だ。
そう割り切って3人は動いた。
「よっ!!」
パルフィーがいきなりドラゴン便の甲板から飛び降りた。
すぐにジュリスが身を乗り出す。
「バッカ!! アイツ、無茶なことを!!」
しかし、彼女の反射神経は想像を絶するものだった。
「ほっ、よっ、そらっ!!」
飛んでいる骸骨の鳥を蹴って縦横無尽に立ち回ったのである。
「マジかよ。ロンテールとはウワサに聞いてたが……」
驚くジュリスの肩をサユキが叩いた。
「八艘飛びよ。彼女のことは良いから!! 貴方に出来ることをやって!!」
そうこうしているうちにパルフィーが先手を打った。
両手の拳を組んでアレンダ本体めがけて叩きつける。
「成仏しろよ!! 陽魂塊!!」
だが、図体に似合わぬ速さでアレンダの大鷲は技を回避した。
すれちがいざまにブレスで追い打ちをかけてくる。
「ボアアアアアアァァァァッッッ!!!!!!!」
パルフィーは身をよじってこれをうまい具合にかわした。
ジュリスが警戒を促した。
「ありゃ高位の不死者が使う死の吐息だ!! 触れると命を吸われるぞ!! なんとかしてかわせ!!」
サユキは焦りが隠せなかった。
「くっ、まずい!! 早く仕留めないとROOTSの戦力が削られてしまう!!」
パルフィーは足元を飛んでいた骸骨を足場にして滞空している。
リクは魔導盾をかまえるとバックラーを射出した。だが、簡単に回避されてしまう。
不死者だというのにかなり速い。
明らかにクレイントスに改造されているのがわかった。
サユキも簪を素早く打ち込んだが、やはりよけられてしまう。
シャルノワーレも追撃をかけるが相手はひらりとかわした。
カエデと百虎丸は間合いが悪く、雑魚を潰す程度しか出来なかった。
そんな中、レイシェルハウトが強力な呪文をスタンバイし始めた。
それを遮るかのようにジュリスが大声で叫んだ。
「おい、お前らどうした!! 焦ってんのがまるわかりだぜ!! このままじゃ相手のやりたい放題だぞ!! 個人技に頼り過ぎだ!! せっかく味方がいるんだから、息を合わせて動くんだよ!! 確かに俺達は一緒に居た期間は短い。だがな、同じ目標に向けて走った日々はウソをつかない。自分のできること、できないことをよく考えて味方と歩調を合わせろ!! ほんじゃまぁいくとしますかッ!!」
その言葉を聞いて、チームメイトは我に返った。
この強大な敵に打ち勝つには一致団結したコンビネーションしかないと。
言い出しっぺのジュリスが先制を切った。
「いいな!! 俺のレーザーを起点にして、攻撃を絶やさず一方的に殴れ!! で、トドメは火力のあるパルフィーかレイシーで締めろ!! 今のアイツはどうみても苦しそうだ。お前ら仲間だったからこそしっかり開放してやれ!!」
骸骨の大鷲の少女は暴れながら叫んでいる。
「オジョッ……ジョーサマ……ド、ドボシテ……タ、タスケ……レナイノ……ハハ、グハハハハ!!!! ゲハハハハ!!!!」
ジュリスはあからさまに不快な顔をした。
そしてジャンプし、回転しながら無数のレーザーを放った。
1つとしてムダな光線はなく、多くの取り巻きを撃破した。
もちろん、大鷲にもそれが何発か届く。
「ビキィィィィン!!!!!」
翼に当たった一撃にちゃんとした手応えがあった。
「ホロホロホロホロホロホロホロホロ!!!!」
巨大な鳥の骨はもがきだした。
「チッ!! やっぱ光属性にコーティングされてるか!! この調子じゃ耐火性能も高い。 だが、怯んだぞ!! 一気に畳みかけろ!!!!」
入れ替わるようにリクがバックラーとタワーシールドを交互に投げた。
両方にワイヤーが付けてあって遠距離攻撃が可能となっている。
もちろん、本来の盾としての活用も可能だ。
この一撃で大鷲はバランスを崩した。
だがこのままではリクがゴンドラから引きずり降ろされそうだった。
それに、このまま攻撃が途切れさせるわけにはいかない。
レイシェルハウトはヴァッセの宝剣を抜いて素早く呪文を打ち込んだ。
「縛閃のバインディング・スパークラー!!」
光のワイヤーが展開して巻き付き、ギリギリと敵を引っ張った。
魔導盾だけではパワー不足だったが、この光の束縛は凄まじい力で相手をたぐりよせた。
サユキとシャルノワーレが背中を合わせて息ピッタリに簪と矢を放った。
どちらもアレンダの頭部を貫く。
だが、彼女はビクともしていないようだ。
「イダイ……イダイ……ドボシテ……ドボシテ……オジョ……オジョ……コロ……コロス……ゴロォォス!!!!」
ドラゴンから伸びた2つのワイヤーをカエデと百虎丸が駆け上がっていった。
「はあああぁぁぁ……西華西刀流・合奥義!!」
2人は構えると同時に技を放った。
「桜花交煌!!」
確かな手応えがあって、骨の大鷲は更に苦しみだした。
ジュリスが叫んだ。
「あと一息だ!! 核が露出したらそいつを潰せッ!!」
パルフィーが片手に力を貯めだした。
「うおおおおおおおおぉぉぉ!!!!! 受け取れアレンダ!! 爆・陽掌底ッ!!!!!」
ジャンプした彼女は思いっきり熱く輝く掌底を放ち、鳥の部位に命中させた。
そのまま宙の鳥を蹴ってこちらに戻ってくる。
「ぐちょぁぁ……」
すると死んだ少女の胸から肉片が盛り上がった。
それを確認したレイシェルハウトは瞳を閉じた。
そして取り出した占術コインを親指で打ち出した。
それはアレンダの核を見事、射抜いた。
「アリクイゾウ……今日の占いの結果は……大吉。さようなら、アレンダ……」
そう言いながら彼女はアレンダの愛用していた遺品の木の笛を投げて弔った。
「オジョ、オジョボザ……アリ、アリガ…………ガトウ……」
不死者たちは一斉にバラバラになり、海へと落ちていった。
大鷲とて例外ではなく、四散して粉々になった。
「ホロホロホロホロホロホロホロホローーーーーー!!!!!」
不死者が砕け散ってあたりの視界がクリアになった。
ファネリが向かいのドラゴン便から声をかけてくる。
「お嬢様!! ご無事ですか!? 攻撃がそちらに集中したのでROOTSのほうには殆ど損害はありませんでしたじゃ。このまま行けますじゃ!!」
夜明け前の空はほんのり太陽の光で明るくなっていた。
いよいよノットラント島が目視できる距離まで近づいてきた。
レイシェルハウトはあたりに響くように大声を張り上げた。
「この中にはウルラディール家にこだわって集まってきてくれた者も多いと思いますわ。ですが、今のわたくしは屋敷には固執していませんの。それより、楽土創世のグリモアをなんとかすること!! それがわたくしの使命だと思っております!!」
この宣言に識る者たちは笑みを浮かべ、識らぬ者は困惑した。
無理もない。突如、自分たちのリーダーがお伽噺をし始めたからだ。
だが、その凛々(りり)しい姿にカリスマを感じ、多くの者が例のマジックアイテムの存在を信じた。
彼女は大局的な物の見方をしている。
家来たちはレイシェルハウトの父、ラルディンの姿を彼女に重ねた。
しかし、このままだと共通の目的を失いかねない。
レイシェルハウトは再度宣言した。
「とはいえ、まずはウルラディール家を取り戻すことが先決ですわ!! 全力を持ってしてルーブを討つのです!! そして、お父様の仇を!!」
彼女が天高くヴァッセの宝剣を突き上げると家来たちは一斉に得物を掲げて叫んだ。
それを見ていたファネリは泣きそうだった。
(お嬢様。校長の発言のせいなのかもしれぬが、家にこだわらぬとは……。成長なされた。わしは……いや、わしらはつらい思いをしてきた貴女こそが創れる楽園を見てみたい。そう強く思いますじゃ)
宝剣を突き上げたまま、次期当主は声を張り上げた。
「皆のもの構えーッ!! 進撃ッーーーーーー!!!!!!」
ドラゴン便は次々と屋敷めがけて襲撃をかけていった。




