シュートが撃てる方のストライカー
フォリオは残りのクラスメイトに目をやった。
4班はカーニバラー・バトレーエーで活躍したジオさんたちのチームだ
まずはカークス……じゃなくてリーダのジオさん。
最初の頃は本当にもう手のつけようのない乱暴者と思われてたけど、蓋を開けてみればいたって普通の女の子だった。
きっと彼女も僕がそうであったように鬱屈した何かを抱えながら学院に来たんだと思う。
結果的に彼女も僕もいい方向に落ち着けたように思う。
そういう意味では似た者同士なのかもしれないけど、いきなり似た者同士って言われても反応に困るだろうから心の中の同志ということにしておこう。
なんだかこれは調子に乗りすぎかな。
彼氏は居ないらしいなぁ。そういうとこ、鈍いらしいし。
でも彼女も可愛い部類だから、誰かが告白してもおかしくはないね。
次はタコ亜人のニュルだ。正式な名前はニュル・ドゥ・ニュルル。なんか貴族みたいだなぁ。
彼は人と別の生物の混ざり者、亜人の中でも人間から遠いタイプに属する。
イラストとかでデフォルメされたものじゃなくって、海に住んでるのがそのまま陸に上がってきたようなものだ。
性格は人情に厚く、熱しやすく涙もろい。
ちょっとむさ苦しいなと思うこともあるけれど、いい人だから憎むに憎めないかな。
ちなみに彼にも許嫁がいるらしい。
相手は同じオクトパスラーの女の子って言ってたけど……タコの女の子?
う~ん……よくわからないなぁ。まぁ人間の女の子が相手だったらそれはそれでインパクトあるけどさ……。
そして同じ班のキーモさん。
失礼だけどナッガンクラスで一番恋愛に遠いとされるのが彼だ。
女子はおろか、男子にもモテない。また、そういった浮いた話も一切ないんだ。
う~ん、そもそもその頭の赤いバンダナに指穴開きグローブスタイルがアレだと思うんだけどなぁ。
拙者って言うけど百虎丸さんとはなんかニュアンスが違うし。
悪い人じゃない、いや、むしろいい人なんだけど……。
恋の季節だから誰かしら告白する可能性は無くはないけど、今回は分が悪いかなぁ。
頑張ってキーモさん!! って人の心配をしてる場合じゃないんだけどさ。
他には……田吾作さんか。
だいぶ前まではキーモさんと揃ってモテないと言われてたけど、まさかファーリスさんと付き合ってたとはなぁ。
隠してたつもりらしいけど、すぐにバレたんだよ。
こっちはもうアツアツって感じで見ていると目が焼けるくらい。
タイプがまったく違う2人だけどだからこそ相性が合うのかもしれない。
なんでもジャングルのサバイバルで仲が深まったらしいけど……。
にしてもこのカップルにはクラス中が驚いたもんだよ。
お世辞にもカッコいいとは言えない田吾作さんに彼女ができたんだから。
それまでキーモさんと田吾作さんは相手ができないと言われたくらいだからね。
いくらなんでもひどい言いようだとは思うんだけど、他の男子連中が言うんだからそうなんだろうな。
もしかして僕もこんなふうに裏でウワサされてたりして。
みんな決して悪気があるわけじゃないんだけど、野次馬根性というかなんというか。
僕も人のことは言えないね。それなりに気になって、そわそわして他の人の動きを見てるフシもあるしね。
ジオチーム最後ははっぱちゃん。
彼女はドライアドっていう樹木に近い亜人だ。
上半身は女性向けの樹皮のドレスを着ているように見えるけど、ノワレさん曰くこの亜人には性別がないらしい。
ドライアドには個体識別の名前というものも存在しないらしい。
はっぱちゃんって名前は彼女と唯一意思のやりとりのできるアシェリィがとりあえずつけたものだよ。
ニュルとは違って話すこともできないし、根っこなので歩くスピードも遅い。
そういう意味ではニュルよりも亜人寄りって言えるだろうね。
おまけに意思の疎通ができない。
こっちの言ってることはわかるんだけど彼女自身の意思を伝えることはできないんだ。
他のチームからしたらどう扱っていいかわからず困るところだけれど、なぜだがジオチームでは違和感なく溶け込んでいる。
戦闘中のストレスの軽減とか、緊急時の回復とかなにげにサポートもすごいしね。
はっぱちゃんに限らずにジオチームは一番、フィーリングが合っていてここぞというときに強いと思う。
だからナッガン先生もカーニバラー・バトレーエーに出したんだろうけどね。
ちなみにはっぱちゃんの恋愛事情はなんとも言えない。
だってこちらから声をかけてもこのクラスではアシェリィしか通じないんだもの。
もしかしたらはっぱちゃんが誰かに告白する可能性が無くはないけど、もし彼女が告白するとすればアシェリィくらいしか……。
ん、待てよ? もしかしてこれは強烈なライバルの出現?
心でアシェリィとリンクしてるとか羨ましくない?
い、いや……。さすがにそれは……。さすがにそれは……。
だが、全くありえない話ではないのがおろそしいところだ。
出来る限り早くアシェリィに告白しなきゃ……。でも、先に誰かが告白していたら?
もし断られたら?
若干の焦りをかかえつつ、僕は5班の面々に目をやった。
5班のリーダーは占星術……星を詠んで危険を予知するアンジェナさんだ。
ナッガンクラスの中では百虎丸さんに次いで歳上に入る。
割と珍しい色黒な肌が特徴的だ。
彼の魔術もスララさんと同じに激しく体に負荷をかけるタイプだから、実戦のここぞというときまでとっておく必要がある。
だから普段は何もしてないように思えるけど、遠足とか実習の際にはとても活躍している。
モンスターの遭遇だけじゃなくて、危険な地形とかへの接触とかも予知できるからね。
彼にも故郷に許嫁がいるらしい。
クラス内に3人も許嫁持ちがいる。
これは多分、土地柄によるものなんだと思う。
王都だとそんな話自体聞いたことも見たこともなかったからね。
都心部にはなかなかないパターンだと思うよ。
次に罠使いのグスモくん。拳術も出来るスキのない人だ。
彼も無事に成長期を経て僕、ポーゼくん、グスモくんと3人共大きくなることができました。
やっぱそう考えるとイクセントくんは成長が遅いのかな?
パワー系のポーゼくん、しなやかなグスモくんって感じかなぁ。この2人と僕は境遇が似ていただけあって仲がいい。
グスモくんは時々、かくれ里に帰っては罠の技術を学んていて、今はエースでもひっかかればただでは済まないやっかいなブツを多数持ち運んでる。
どうも年齢に対して悟ったところがあるみたいで、あんまり恋愛ごとには興味ないらしい。
歳からすると全く無いってことはないと思うんだけどなぁ。
「あっし、恋愛事には興味がねぇでやんすよ」
な~んてみんなの前では言ってるものの、僕やポーゼくんにはバレてるんだけどね。
もっとも、誰が好きだとかどういうタイプが好みだとかそういうところを隠すのは上手くって誰もしっぽを掴めていないんだけど。
同じくアンジェナの班のリーチェさん。
赤く美しい髪を武器に変形させて戦うタイプのヘアバトラーさ。
彼女はかなり好戦的で勝ち気なタイプかな。模擬戦とかでは積極的に攻めを狙ってくるし。
バトル=スポーツくらいの感覚なんじゃないだろうか。
その性格のおかげか、女子にモテるらしい。もしかしたら今回、誰かに告白されるかも。
でも、実は女の子らしいというウラ情報が入ってきてるけど真偽はさだかではないね。
こういう人が一番読めない。告白されるかもしれないし、するかもしれないタイプ。
僕自身、恋愛には疎いほうだからこういう情報には惑わされるんだよ。
まぁ考えて仕方のないことはいくら考えても仕方がない。
5班の他のメンバーは……ファーリスさんか。
いわゆるクールビューティーで割とドライに見られがちだけど、接してみると普通に優しい。
なんていうかな。ノワレさんにはない包容力みたいなのがあるかな。
ただ流石に田吾作さんとくっつくと誰も思っていなくて、発覚したときはみんな絶句したものさ。
人間は見た目によらないって結論で落ち着いたけど、それ地味に失礼じゃない……?
ただ、この件で告白は当たって砕けてみろって風潮が出来たのは間違いないね。
結局、誰も後を追わなかったけど。
最後にガンくんだ。
やっぱり今回の”恋の季節”で一番注目されていると思う。
4年間に渡るレーネさんへの片思いを果たすことが出来るのかな?
まぁガンくんのことだ。毎度のようにお茶を濁して終わるに決まっている。
告白する、しない以前の問題だなぁ。
ほぼすべてのクラスメイトがそう思っていると思うよ。
4年間シュートが撃てなかったストライカーがここでいきなり決めることなんてできる?
それでもガンくんは好青年でありイケメンだ。
出来るものなら応援してやりたい。
そう思わせる魅力があるけど、それと同じくらい残念さが目立つんだなぁ。
戦闘などでは臆すること無く戦えるけど、レーネさんを前にすると突如としてチキンになっちゃうし。
レーネさんから声をかけても急に挙動不審になってしまうので話が進まないし。
そんなもどかしい関係を4年も続けてきたわけだし。
さすがにみんな見るに見かねているらしくて最後の助け舟を出すらしい。
個人的にはうまく行ってほしいなとは思うんだけれど。
おっと。人より自分の事だ!!
アシェリィに声をかけていかないと……
「ん? フォリオくん。どしたのボケ~っとして?」
気づくと彼女が目の前にいた。
「あ、ああ、アシェリィ!! ちょっと用事があるんだ。放課後に2-Cブロックの防波堤まで来てくれるかな?」
アシェリィは無邪気に笑いながら返事を返した。
「2-C ? あんな辺鄙なとこ? べつにいいよ~。じゃ、放課後ね~」
フォリオはもう臆病者などではなかった。
だが愛の告白となると話は別だ。
(ああああ!!!!! どどどっどッ!! どおしよ、アシェリィ、誘ちゃったよ!! うわあああ!!!!!)
彼は放課後まで何も考えることが出来なかった。




