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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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魔女のホウキの修復は難しい

部長、フォリオ、ジーネ、コッティの4人はボールに力を込めた。


球体が外部からのエネルギーでグニャグニャとゆがむ。


そして、相手チームに完全に背を向けたピティがショットの構えをとった。


彼女はネズミのぬいぐるみにまたがっていた。


まるで背中に目でもあるような彼女の仕草にサンド・ウェイバーズはプレッシャーをかけられた。


巨人タマネギに乗った相手のリーダーのカローナが叫ぶ。


「無理だ!! これは避けきれん!! 密集してキャッチするクローズ・フォーメーションに切り替えろ!!」


その掛け声と同時にサンドウェーバーズは残った5人が体を密着させる形で球を迎えうつ作戦に出た。


「せええぇぇいい!!!! ピティ、いきまあああぁぁぁす!!!」


ついにピティが全力で球を殴りつけるようにショットした。


ボールは学院生チームの後方の外野にぶつかると殺人的な加速を見せた。


そのまま何度もあちこちにリバウンドしてどんどん手がつけられなくなっていく。


それでも針に糸を通すようにリジャントブイル生たちの間には引っかからず抜けていく。


予測した軌道を飛んでいるわけだからもちろん迂闊うかつに移動すれば味方といえど直撃は避けられないが。


そうこうしているうちにボールはサンド・ウェイバーズのど真ん中に襲いかかった。


「くっ!! ぐっ!! くぬぅっ!!!!!」


1列に密集した真ん中の男性にボールが直撃する。


乗り物同士がくっついてギュウギュウと音を立てる。


「グギュルギュルギュギュル……!!」


彼は群れから引き剥がされそうだったが、仲間ががっしりとつかんで食い止めようとした。


しかし、ピティの放った球速は尋常じんじょうではなく、男性は列からすっぱ抜かれるように吹っ飛んでしまった。


彼は壁に強打されてずり落ちていく。


「オルソーーーーン!!!!!!!」


実況のミーアスアスはヒートアップしてきた。


「あーっとぉ!! オルソン選手、アウトです!! これで5vs4!! 学院生、前に出た~!!」


解説のハウゼントは驚いた様子だった。


「おぉ……これは。隠し技ですね!! ですが、苦労して編み出したのでしょうからこれでは終わらないでしょう。まだ続きますよ!! ちなみにたとえ味方がキャッチできたとしても受けた本人が気絶や大ダメージを負った場合はアウト判定となります。なので、1人ずつ潰す気でいけばたとえキャッチされてもアタック側が有利になっていくルールとなっています」


天井に向かって跳ね上がったボールのスピードが落ちてきたが、ピティは全身に力を込めた。


消耗しょうもうも激しく、もう汗でじっとりという状態である。


するとまたたまは回転とリバウンドを始めてサンド・ウェイバーズに襲撃をかけた。


4人になってしまったが、相手チームは落ち着いていた。


「ヘイ!! ここ1本だ。ここ1本止めてくぞ!!」


またもや彼らは密着の陣形をとった。


「あと2人くらいはいける!! ぐっ!!」


ピティのショットはまたもや列の中間を狙った。


空飛ぶゴザの上に乗った女子選手の脇腹に強烈な一投が直撃する。


「ぐっ、なんてパワーなの!? 5人で打ち出してるんだから当然といえば当然か……。み、みんな!! あとを頼みます!!」


彼女は吹っ飛んでいって床に激しく叩きつけられたが、そのかわりに捨て身でボールの勢いを殺しきった。


「あーーーっとぉぉぉ!!!!!! サンド・ウェイバーズ!! 久しぶりのボールキャッチです!! しかし、もう3名しか選手が居ません!! こーれーはー学院が……お?」


ジャントブイルの部長がタイムサインを出した。


「ピティの消耗しょうもうが激しいのでギブアップします。これじゃあ外野で休憩きゅうけいしても回復は見込めない……」


それを聞いた本人は抵抗した。


「部長!! わ、私、まだやれます!! あと何回かこのショットを撃てれば……」


大きな花びらにまたがったジーネが彼女に近づいて腕に触れると彼女は鈍い悲鳴を上げた。


「う”ッ……」


先輩がピティのそでをめくると腕がパンパンにれて紫色になっていた。


それがマギ・スクリーンに映し出されるとあまりの痛々しさに人々は目を背けた。


ハウゼントが語る。


「あれだけ強烈なショットですから、負担がかからないわけがない。ましてや4人の魔力がこもった球を打ち込んだのです。腕がああなるのも仕方ないでしょう。これ以上の試合続行は不可能ですね。しかし、1年生なのによく活躍したと思います。私からは拍手を送りたい」


彼がそう言うとどこからともなく拍手はくしゅが巻き起こってスタジアムを包んだ。


ピティはジーネに付きわれながらコートを後にした。


その顔は悔し涙でぐちゃぐちゃだった。


ミーアスアスは実況で空気を仕切り直した。


「は~い!! これでリジャントブイルは残り4名、サンド・ウェイバーズは残り3人となりました。1人の差はあるものの、まだどちらも余裕の残ってる選手ばかりなのでわからないぞ~!!」


アリーナはまたにぎわいを取り戻した。


ボールはサンド・ウェイバーズにある。


「お前ら!! バウンド・スパイクやるぞ!!」


そう言うとリーダーは浮き輪にハマったピオッチにボールをパスした。


そしてピオッチは残ったハニワにしがみついたカーレンにパスを出した。


そして彼は大きなタマネギに乗るリーダーめがけてトスを上げた。


一連のライネン・バレーの動作で魔力が引き出される仕組みだ。


「シュウウウウウゥゥゥゥーーーーーーー!!!!!」


強烈なスパイクが飛んでくる。


「ぎゃふん!! 俺、出番がない……」


皿に乗っていたコッテスがスパイクの直撃を受けて吹っ飛んでいってしまった。


床に思いっきり叩きつけられる。これもまたかなり痛そうだった。


ただ、彼の皿は頑丈で傷一つ、つかなかった。


「あー!! あー!! 3人だから出来るライネン・バレー・ショットだぁぁぁ!!!!!! ついに3vs3!! どっちが勝つか、もうわからな~い~!!」


その頃、観客席ではけをしている連中が狂ったように一喜一憂いっきいちゆうしていた。


思わずジュリスも歯を食いしばる。


「おい……頼むぞマジで……負けんじゃねーぞマジで!!」


その顔には先程さきほどの余裕は微塵みじんもなくなっていた。


まぁ30万シエールもかけていれば必死になるのも仕方ないことだが。


「タァイム!!」


部長がタイムを取った。相手も3人が輪を作って作戦会議をする。


残ったのは部長、フォリオ、女子先輩のジーネだ。


「ここはやっぱり一番オフェンスに長けているフォリオを全面に出して一気に潰していく!! タイミングを見計らって例のヤツでいくぞ!! ワン・フォー・オール、オール・フォア・ワンだ!!」


学院生チームは互いにアイコンタクトをとった。


「ピピーーーーーーーーッ!!」


タイム終了のホイッスルが鳴った。


生き残った相手のエースのピオッチが全力投球してくる。


浮き輪にハマっているというマヌケな見た目に反してその実力は確かなものだ。


小細工のない豪速球ごうそっきゅうだが、これをまともにキャッチできる選手はリジャントブイルにはいなかった。


「かち上げるぞ!! ジーネ、フォリオ!! 構えろ!!」


部長は飛んでくるボールをさえぎるように立ちはだかった。


その直後、ジーネが部長の背中と自分の背中をくっつけてん張った。


「部長!! なんとか耐えきって!!」


みるみる部長がズタボロにり切れていく。


「うおおおおああああ!!!!!!」


そして彼は空中高くににボールをね上げた。


すかさずフォリオがホウキの先端に足をついたまま急上昇する。


この挙動でこの後どう出るか、サンド・ウェイバーズには全くわからなくなった。


「くっ、またオーバーヘッドか?」


気づくとホウキが急降下してきて視線がそちらにひきつけられた。


一方のフォリオは落下スピードを生かして平手で強烈なスパイクを打ち込んだ。


「でやああああああぁぁぁっっっ!!!!!」


相手のリーダーであるカローナ、エースのピオッチとダグスーンをボールが襲う。


「密着戦法は解除だ!! このショットは3人でたばになってもでは受けられん!! ダグスン!! 勢いを殺すのに専念しろ!!」


大男のダグスーンはコクリと首を振るとスパイクを受け止めた。


「ぬぐうううう!!!!!!!」


彼の手からたまは弾き落ちたが。ピオッチがそれを拾って打ち付けた。


ダグスーンはセーフ扱いである。


一方、奇襲がリジャントブイルチームを襲う。


「しまった!! フォリオのたまを受けきるとは……ぐぐぐぐぐ!!!!!」


部長は単独でボールを受ける形となってしまった。


「うおおおお!!!!! フォリオ、もういっちょいくぞ!! お前にかかってんだからな!! あとは全力打ち尽くせ!! 頼んだぞ!!」


宙に浮いたままのフォリオに部長はボールを持ち上げた。


それと同時に部長は反動で後方へ吹っ飛んでいった。壁に激しく衝突する。


ルール的にはここでフォリオが触れればアウト扱いではないが、明らかに部長はもう試合続行不可能に見えた。


「コルトルネー!!」


低空をただよっていたホウキが一気に上昇してくる。


それをキャッチするとフォリオはコルトルネーごとぐるんぐるんと回りだした。


あまりにも激しいスピンで小さな竜巻のように見えた。


「あーっと!! フォリオ選手、めちゃくちゃ回転してます!! 目が回らないんでしょうか!?」


司会のハウゼントは大きく目を見開いた。


「おぉ……。あれはGを無効化するG・キャンセラァですね。空中で高速移動したり、回転することの出来る選手が身につけていることが多い魔術ですね。しかしこれだけスピンがかかると軌道が読めません!!」


フォリオは猛回転をかけたボールをキープすると思いっきりそれを足でシュートした。


ギュルギュルと回転をかけながらサンド・ウェイバーズコートに侵入する。


ターゲットは……ピオッチと思わせてリーダーのカローナだった。


「くっ!! 空中でバウンドするようなこの動き!! なんてスピンなんだ!! うおおおおお!!!!!! 身をていして防ぎ切る!! ピオッチ!! 任せたぞ!!」


カローナはジリジリとコート際に追いやられていったが、なんとか弾き飛ばしてピオッチに回した。


「僕の全力シュートが……ウソだろ!? なんてフィジカルなんだ!!」


部長が抜けたことによって学院側はかなり不利になったと観客達は思った。


「あーっとぉ!! ついに2vs3!! サンド・ウェイバーズ、まだ余裕があります。アタッカーのピオッチ選手も健在だぁ!!」


腑抜ふぬけたエースに先輩がかつを入れた。


「ほら、ボサっとしない!! まだ終わったわけじゃないんだから!! これからだよ!! 私の知ってるフォリオくんはこれくらいじゃ諦めないんだよ!!」


相手チームのピオッチはジーネを狙ってショットを放った。


「へへっ!! もらったぁ!!」


ジーネは顔をしかめる。


「くぅ!! 万全で受けてもこれはヤバい!!」


その時だった。フォリオがジーネをかばった。


「ギュルギュルギュルギュルギュルギュル!!!!」


彼は両手でボールをキャッチしきった。


「フォリオくん!!」


振り向きながら顔をゆがめ彼は苦笑いを浮かべた。


「はは……これじゃ両手はもうダメですね。ホウキが傷むからできればこれは使いたくなかったけどやるしかないか……」


ジーネはぼんやりしている自分の心に気づいた。


(ヤダ~。カッコいいじゃん。れちゃいそうかも~~~)


そしてフォリオはコルトルネーにまたがったまま回転し始めた。


そしてその勢いでホウキのく側で相手めがけてボールを叩きつけた。


足でのシュートと比べ物にならない速度を出したボールがピオッチに飛んできた。


「おごっ!!」


あまりの速さに彼は対応できなかった。


「いち!!」


こぼれたまはこちらのコートに跳ね返ってきた。


こんどはの部分で突くようにしてアタックする。


ダグスーンの顔面にボールが直撃して彼は壁に叩きつけられた。


こぼれだまも速く、サンド・ウェイバーズ最期の1人であるカローナも拾えなかった。


「にぃ!!」


ラストの一撃は前方に宙返りするような動きでホウキでボールを叩きつけた。


「こちらとしてもプライドがある!! ただでは負けん!! まけんぞぉぉぉぉ!!!!!!」


カローナは踏ん張りに踏ん張ったが、気づくと背中が壁にくっついていた。


「さん!! おーわりっと!!」


あっという間だったこの攻防のせいでスタジアムは静まり返っていた。


「ミシ……ミシミシ……」


コルトルネーからきしむ音がする。


「う~ん、なかなか修復が難しいからこれはホントに奥の手なんだよね」


時が動き出したかのようにアリーナは湧いた。


「げ、ゲームセットぉ!! エアリアル・ドッヂ、クラブチームFESフェス、決勝戦。サンド・ウェイバーズVSチーム・リジャントブイルFCフライトクラブ!! 優勝はリジャントブイルFCフライトクラブ!!  リジャントブイルFCフライトクラブ!!でーーーーす!! これにて試合終了です!! みなさんお疲れ様でしたーーー!!!!」


この結果は世界中に報道され、しばらくはこのニュースで持ち切りだった。


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