とっておきの秘密兵器は小さな雛鳥
「ほいじゃみんないくぞぉ~~~~~!!!!! エアリアル・ドッヂ、クラブチームFES、決勝戦。サンド・ウェイバーズVSチーム・リジャントブイルFC!! 試合開始だぁぁぁ~~~~!!!!!」
実況のミーアスアスが大声で試合開始を叫んだ。
いよいよエアリアル・ドッヂ世界一クラブを決める戦いの幕が切って落とされた。
選手たちはじゅうたん、座布団、水晶玉、ぬいぐるみなど各々(おのおの)が得意とする様々なものに乗っている。
ホウキに乗っているのはフォリオただ一人である。
審判がガードされたレフェリーの席でボールを構えた。
「ジャンプ・ボール!! 両チーム、準備はいいね?」
互いのジャンパーがコクリと首を縦に振った。
「行きます。3・2・1………………」
レフェリーがボールを投げる仕草を見せた。
「ピピーーーーーーーーーーッ!!!!!」
ホイッスルがスタジアムに鳴り響いた。
「へへっ! お先ィ!!」
先にボールを掴んだのはサンド・ウェイバーズだった。
「うっしゃぁ!! ピンボール戦法で行くぜ!!」
水晶玉に乗った男子選手が味方に向けてパスを出した。
彼らの間でパスは続いたが、どんどん速さが加速している。
情報では見ていたが、ピンボール戦法を実際に食らうのは初めてだ。
そして相手チームの女子はこちらに投げてくるかと思いきや、明後日の方向に投げたのだ。
学院生チームのリーダーが警告を促す。
「跳弾がくるぞぉ!! 全員360度警戒ッ!!」
だが、あまりにも反射した球は速く、場所の把握さえ難しくなっていた。
そんなとき、女子先輩のジーネが自分めがけて飛んでくるボールに気づいた。
これは偶然ではない。間違いなく反射も読んだ上で投げている。
背中から飛んできたので彼女は振り向きざまにキャッチするしかなかった。
「これは!! 受けられはするけど指がグニャグニャになっちゃう!! 衝撃を殺して味方に賭けるしか!!」
次の瞬間、なんとか間に合ったフォリオがジーネをかばった。ガッチリと捕球する。
「グギュルギュルギュルギュルギュル!!」
茶色のボールは彼の手の中で暴れた。
「くっ!! なんて勢いだ!! スピンもかかってる!!」
なんとか球を受け止めたフォリオの拳からは煙があがっていた。
「シュゥゥゥウウウウウ………」
思わぬ助っ人に先輩のジーネが声をかけた。
「ヒューヒュー!! フォリオくん、かっこいいぞ!! あんがと!! 助かったよ!!」
フォリオは無言のままハンドサインを送り返した。
すぐにリジャントブイルチームのリーダーが指示を出した。
「フィジカルの強い人は打たれ弱い人を囲んで!! 本当は壁を張りたいけど、これだけ反射力の強い試合会場だと跳ね返って真後ろからも飛んできかねない!! 予測か難しいかもしれないけど、さっきのフォリオみたいに球を捕まえられそうな人は狙われた人を守ってやって!!」
部長がすばやく指示を出す。
すぐに柔軟にフォーメーションが変わり、数人を囲む形になった。
エアリアル・ドッヂはフィジカルの強い選手だけで固めれば有利かといえばそうでもない。
1年のピティのように、打たれ弱いがショットが強烈という選手が結構いるからだ。
逆に攻めはさっぱりだが、防御は強い守護神のようなタイプもいる。
こちらは自ら球につっこんでいって捕球したりもする。
これを絶妙なバランスで配置しないと空を制することはできないのだ。
「みんな!! ビビらずやってこう!! 相手だって同じ人間だ!! 必ずどこかしらに穴はある!!」
そう言いながらフォリオはピティにパスを出した。
「え………先輩……あっ……」
いくら緊張を乗り越えたかと言って、こんな大舞台でいきなり投げることになったらドキドキするに決まっている。
「大丈夫。毎日の練習を思い出すんだ。あの地獄のような特訓を……」
すると自然と小さな少女は精神統一を始めた。
まるで昔のフォリオとダブるようにチームメイトからは見えた。
カッっと目を見開くと彼女は振り向きざまに自分の後方の外野にボールを投げつけた。
サンド・ウェイバーズのリーダーが叫ぶ。
「情報通り、バウンドタイプのエースだ!! 予測不可能なところから来るぞ!! 目で追うな!! 感じろ!!」
そうこんなに小さな1年生の女子が選手に選ばれていたのには理由がある。
彼女は球の威力もさることながら、その軌道を予測するのがとても上手かった。
そのため、この反射強化型ステージとの相性が抜群で、大会では10人を超える選手をステージに叩き落としてきた。
そうしているうちに茶色の球体は恐ろしく加速し、ほとんど目で追えなっていた。
それでも味方には当たらないのだからやはり偶然を狙ったスローでないのは明らかだ。
これでは避けるに避けられない。完全に相手チームは翻弄された。
「ぐっ!! 実際に受けてみるとエグいぜこいつぁ……。どっから来やが……グッ!?」
そうつぶやいたサンド・ウェイバーズの1人の顎をアッパーするかのようにボールが直撃した。
「ガゼーーーー!!」
チームメイトたちが吹っ飛んだ相手の名前を叫ぶ。
彼のつけていたゴーグルはバッキバキに割れて宙に投げ出された。
「こぼれ球を――――」
しかしボールは天井で跳ねて床を抉り、コートを暴れた。
それでも次第に速度が落ちてきた。
ピティの集中力が切れてくるのに比例してボールの急速は遅くなっていく。
魔術使用禁止とは言ってもピンボール作戦やこういった魔力を込める類簡単でシンプルな魔術ならルール違反には当たらない。
なにかしら特殊な効果をつけたりするとそれはレギュレーション違反だが。
そもそも通常のショットやキャッチでさえ魔力を消耗しているわけであるし。
勢いが衰えたピティの一投は残り6人のサンド・ウェイバーズにキャッチされてしまった。
「いくぞ!! ファントム・ミラージュ!!」
相手チームのリーダーが声をかけると自コートの中を縦横無尽に高速移動し始めた。
そのままパスを出し合う。すると誰がボールを持っているかがほとんどわからなくなった。
学院の部長は焦った。
「くっ!! 映像ではみたけど、ここまで速いとは……!! 尋常でない速度なのによく互いにぶつからないな!! よっぽど訓練して、チームワークも完璧だからできる技だ!! これだけ加速してパワーショットを食らったらボーリングのピンみたいになってしまう!! みんな、こちらも散開だ!! 留まることなく移動しまくってくれ!!」
部長の指示でリジャントッブイルチームは囲うフォーメーションを解除して相手チームと同じような動きで回避行動をとった。
「ムダだぜ!! まずはガゼーのカタキ!!」
人影で見えないところからボールが飛んできた。
大柄でキャッチが得意なブルーズンにボールが襲いかかる。
「んむぅ!! 受けきれん!! お前らすまん!!」
ボールを受け止めようとしたが、彼は弾き飛ばされて外野の壁に打ち付けられてしまった。
実況のミーアスアスが叫ぶ。
「あ~っと!? 天井ではありませんが、これはルール的には場外。つまりアウトとなりま~す。ブルーズン選手、KOで~~~す」
解説が一言はさんだ。
「リジャントブイルチームがいくら強豪とはいえ、社会人チームのサンド・ウェイバーズではさすがに分が悪いかもしれません。さきほど投げた選手はピオッチ選手です。強烈なショットに定評があります」
気づくと反射したボールはまたもやピオッチが握っていた。
「うし!! この調子でガシガシいくぜぇ!! ガキンちょ共にはプロのプレーってのを見せつけてやらねーとな!! サンシーラ!! いくぜぇ!!」
ピオッチは味方に向けてボールを投げた。
するとサンシーラと呼ばれた女性は無言のまま腕を振り抜いた。
ボールにラケットでスピンをかけるように、手のひらでボールに猛回転をかけたのだ。
猛回転したボールを見て女子のリスケーが前に出た。
「とてもじゃないけどこれはキャッチできない!! 弾き上げるのが限界だから誰かカバーして!!」
彼女はそういうと空飛ぶカーペットの上でライネン・バレーのレシーブのような姿勢でドッヂ・ボールを受け止めた。
スピンでボールが体に食い込む。
「うぅっ!! きっつ~~~!!!! あたしがダメでも勢いが殺せれば……いっつぅ!!」
球は速度を落としながら山なりに天井に近づいた。
次の瞬間だった。フォリオが急上昇してオーバーヘッド・シュートで強襲をかけた。
豪速球は女性選手の顔面に直撃して彼女を気絶させた。
「サンシーーーーラーーーー!!!」
彼はそのまま真っ逆さまに落下して床にぶつかった。
「社会人チームがなんだって言うんだ。僕らだって負けちゃいない!!」
フォリオはグッっと拳を握ってガッツポーズを取った。
審判の判定が挟まる。
「だれかが被弾したときは、コート外にボールが出る前に触れればいいことになっています。ですので必ず手でキャッチしなければいけないということはありません。つまり、先程のオーバーヘッドはキャッチと同じ扱いであり、セーフ判定となります」
アリーナは爆発的に盛り上がった。
特に女性からは黄色い声援というか悲鳴に近い声が上がった。
小さい頃は誰も気にしなかったが、成長したフォリオは少しあどけない感じも含めて母性本能をくすぐるタイプで、なかなかのイケメンであった。
そんな中、リスケーが両手を上げた。
腹部の制服が焼ききれており、下のシャツも燃えて地肌が露出していた。
お腹には痛々しい擦りむき傷ができていた。
「へへ……痛つつつ……。骨は折れてないんだけどあちこちの筋肉がズタズタでさ……。もう足手まといにしかならないんだわ。ギブアップで退場を宣言します……」
さっきまで騒いでいた会場は一気に静まった。
あまりの真剣勝負に空気が引き締まりつつあったのだ。
実況のミーアスアスは熱中し始めた。こうなると彼女は気絶するまでアナウンスし続ける熱血系女子である。
「確認します!! 学院チームはフルーズン選手、リスケー選手が脱落。サンド・ウェイバーズはガゼー選手・サンシーラ選手が脱落となっており、5vs5の互角となっています。こ~れ~は~いい勝負だ~!! どうなるか全くわからないぞ~~~!!!!!」
解説のハウゼントは状況を分析した。
「今の所、サンド・ウェイバーズはチームワーク系のスキルで攻めていますね。一方のリジャントブイルは個人技ですね。ですが、どちらのチームも両方できるはずなのです。ですから今まで使ってこなかった方法での攻めが出てきてからの本番と言えるでしょう。そう、まさにここからです」
こぼれ球をキャッチ拾っていたジーネがコートの中央にやってきた。
「これ以上、選手が減るとまずい。攻めるなら今だ!! フォーメーション・スクウェア!!」
部長の提案に残りメンバーは頷いた。
そして残っているフォリオ、部長、ジーネ、コッティの4人でボールに4方から力をこめた。
茶色い球が注がれた魔力でグニャグニャと歪む。
物理的エンチャントであり、特殊付与の類ではないとレフェリーは判断し、ストップはかけなかった。
そして相手に背中を向けるような形で残る1人のピティが拳をギュッと握って構えた。
サンド・ウェイバーズの面々は混乱した。こんな技や陣形を見たことがないのである。
まさにこのときのためにチームに組み込んでおいたピティ、そして秘密の必殺技なのだ。
いままで公式試合でこれを使ったことはない。データーにないのはあたりまえだ。
これを編み出すために地獄のような毎日を送ってきたのである。
「せええぇぇいい!!!! ピティ、いきまあああぁぁぁす!!!」
小さな少女はボールに力いっぱいパンチを食らわせてショットした。




