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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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お姉さん……? いや、違ったんだ

ミナレートのスタジアム、ホット・ウェーブ・ハウスは観客ですしめになっていた。


普通の会場に人が入り切るわけもなく、学院の協力でコロシアムにも観客を入れて試合の様子をマギ・スクリーンに映し出していた。


そのため、実際は大箱を2つ用意したことになるがそれでも人はあふれかえっていた。


フォリオはソワソワしながらボールガールと手をつなぎながら会場への廊下ろうかを歩いていた。


(アシェリィ見に来てくれてるかな? きっと来てくれてるよね?)


そう。なんとフォリオの意中の女性とはチームリーダーのアシェリィだったのだ。


最初はお姉さんのように頼り、したうことから始まった。


だが、最近それが恋愛感情に発展したことに彼は気づいてしまったのである。


アシェリィと一緒に居たい、手をつなぎたい、もっと近づきたい。


(いけない。こんな大事なときに……しっかりしろフォリオ!!)


彼はアスリートらしく、すぐさま思考を試合へと切り替えた。


本戦に入ってからアリーナはずっと満員だったので、それにはチームメイトは慣れていた。


しかし、決勝特有の異様な雰囲気が彼らを飲み込もうとしていた。


フォリオはすさかずフォローを入れた。


「みんな!! いつもどおりやればいいんだよ。僕らのやってきた練習の辛かった日々はウソはつかない。相手チームが誰であろうとね」


危うくムードに飲まれかけていたチームはこの一声で再び一丸いちがんとなった。


その頃、観客席にはアシェリィ、シャルノワーレ、ジュリスが観戦に来ていた。


「あ、フォリオくんだ!! お~い!! フォ~リオく~ん!!」


アシェリィは彼の思いを知るよしもなく無邪気に手を振った。


ノワレは悪いみを浮かべてアシェリィをのぞき込んだ。


「で、貴女あなた、学院チームにいくら賭けましたの? わたくし、今回は10万シエールほどつぎ込みましたのよ?」


そう問われたつやのある緑髪の少女はのけぞった。


「うっわ!! 私の2倍じゃん!! それはそうとノワレちゃんその資金力はどっからでてるの……?」


エルフの少女の隣にいる紅蓮色の制服を着た上級生はどうやってお金を得ているかを当ててきた。


「どーせ武器の売り買いだろ。闇バザーに繰り出していって業物わざものWEPウェップメトリーで探す。んで、買い取ってからちゃんと鑑定している店で売れば差額さがくが儲かるって寸法だ。なにしろ闇バザーだからな。逸品いっぴんが二束三文でたたき売られていることも少なくねぇ。ボロもうけだよ。そんなとこだろ」


自分から自慢しようと思っていたところを他人に当てられて彼女はムスっとしてしまった。


「あ、あはは……ジュリス先輩はいくらけたんですか?」


美しい赤い髪の青年は片手の指を3本立てた。


「3……万ですか?」


アシェリィはギャンブルが好きなジュリスにしては少額だったので拍子抜ひょうしぬけした。。


だが、彼は3万で収まる男ではなかった。


「バーカ。30マンだよ。それにこれはただのけじゃねぇ。愛校心ある学院生なら当然の金額だぜ。別に俺に限ったことじゃねぇ。リジャスターや教授連中はもっと出してるやつもいる。勝ったら勝ったでwin-winの万々ばんばんざい。負けたら負けたで大会の運営費とか、慈善事業に行ったりするからな。個人がもうけたそんしたって話はスケールが小さすぎるんだよ。お前らももっと大局的たいきょくてきな物の見方をするこったな」


ジュリスはなんだか教師っぽい発言をした。教職志望なので自然とそうなるのだが。


「んも~。ジュリスくん、説教くさいの良くないよ~」


3人分のドリンクを抱えてやってきたのはセミメンターとしてアシェリィ達のチームに付き添ってくれていたラーシェだ。


彼女はファイセルが初等科エレメンタリィの時の班員でもある。


今はジュリスの彼女となっており、美男美女のお似合いのカップルと評判だ。


「んあ? ああ。悪い悪い。いつものクセでな。いいから座れよ」


赤い髪の青年は空いた席をポンポンと叩いた。


「うん!! フォリオくんどこかな? まさかこんな大舞台に出られるくらい成長するとはね~。意外っていうのは失礼なんだけど」


そんな中、アシェリィは残念そうに語った。


「今に始まったことじゃないけどさ……。本当にイクセントくんってこの手のイベントに来てくれないよね。ラーシェさんまで来てくれるのにイクセントくんは来てくれないの。やっぱ自分に関係のないくだらない事だと思ってるのかな? だとしたらすごく悲しいな……」


実情を知っているシャルノワーレとジュリスは返答に少し困った。


そもそも、イクセントなどという人物は実在しないからだ。


「まぁアイツはこういうお祭り事とか、人混みが嫌いだからな。しょうがねぇよ」


実際問題、こういう人目につく場所に出てくると身分が身分だけにトラブルになりかねない。


全国指名手配犯に指定されているのだから、見つかれば血眼ちまなこになって追われるだろう。


その頃、話題の本人は秘密結社ROOTSルーツの部屋からマギ・スクリーンで試合会場をながめていた。


イクセントは身長も伸びず、声変わりもしなかった。女子なのだから当たり前である。


レイシェルハウト・ディン・ウルラディール。よわいにして16歳。


ノットラント東部の名家、ウルラディール家の正統後継者せいとうこうけいしゃである。


3年経っても身長はほとんど伸びず、140cm前半と子供と大差がない。


それが強いコンプレックスとなっていた。ちなみに胸も真っ平らである。


「ふ~ん。フォリオのやつ。最近、急に男らしくなってきたじゃない。女でも出来たのかしら? なんかナマイキね」


ポップコーンむしを口に放り込みながら彼女はソファーにもたれかかった。


「ふふふ……お嬢様じょうさま、お行儀ぎょうぎが悪いですよ。なんだかんだでエアリアル・ドッヂの試合を楽しんでらっしゃるじゃないですか」


レイシェルハウトの乳母うばであり、姉のような存在のサユキが笑う。


すぐ脇で目を輝かせているのは家来であり、組み手友達のパルフィーだ。


いかにも物欲しそうにしているのでレイシェルハウトはポップコーンむしの箱を渡した。


すると猫耳の生えた亜人はたぬきしっぽをふりながらムシャムシャとガッつきはじめた。


あっという間にお菓子は空っぽになってしまった。


「な~な~。もっとないの~? これ、大きな大会の開催期間とかじゃないと売ってないんだよぉ~」


彼女はレイシェルハウトとは正反対で180cmを越える身長に出るとこは出るナイスバディの持ち主だ。


さすがにここまで背丈せたけがデカくならなくてはいいが、胸にはあこがれざるを得ない。


そんな目で彼女を見ていると部屋のすみにポップコーン虫の箱が大量にテレポートされてきた。


「わぁ!! やったぁ!! きっとボルカが調達してくれたんだな!! それでは早速!! ムシャムシャ……」


パルフィーは爆発的な戦闘力の持ち主だが、それは空腹が満たせている状態であって空腹だと拳が鈍る。


安定して食料が供給できる環境で真価を発揮すると言えるだろう。


試合そっちのけで虫を食う亜人の少女を放って令嬢れいじょうはマギ・スクリーンに目をやった。


実況の声が聞こえる。


「は~い!! みんな元気~!? ミナレート公認ご当地アイドルのミーアスアスちゃんで~す!! みなさんのおかげで全国区のアイドルになれたけど、あたしはやっぱミナレートが大好きで~~~ス!! 今日もよろしくね☆」


会場は割れんばかりの声援に包まれた。


「そして~~~、解説を担当してくれるのは元・エアリアルスポーツ全般の選手、ハウゼントさんで~す。よろしくお願いしますね!!」


ガタイの良いごっつい中年はコクリとうなづいた。


「はい。よろしくお願いしますね。元気なお嬢さんで大変よろしいですね」


ミーアスアスはペロっとしたを出した。


「そこはカワイイお嬢さんって言ってほしかったなぁ~。なぁ~んておバカな冗談は後にして、早速、今大会のルールを確認します。エアリアル・ドッヂは早い話が地上のドッヂ・ボールを空中でやっているようなものです。ボールをキャッチできずに手放すのはアウトです。なお、取りこぼしを味方がキャッチすればセーフです」


実況は床と天井を交互に指差した。


「床に体が接触するとアウト。天井への接触はセーフです。あと、この競技に外野はありますが外野選手は存在しません。キャッチしそこねたボールは壁でね返ってコート中を飛び回ります。このスタジアムでは跳ね返るたびに威力、速度があがる設定になっています。じゃ、ルールの説明は司会さんにお任せ☆」


ハウゼントは自分の経験もからめて説明し始めた。


「今大会のルールは1チーム7名制のプレーンスタイルです。魔術弾などの特殊な魔術が使用禁止のシンプルなルールですね。ただし、ショットやキャッチをカバーするエンチャントは可能です。これが簡単そうに見えて難しいのです。乗っている物のバランスを取りながらキャッチしたり、避けたりを同時かつ瞬時にやるのはかなり高度な魔術力が必要になってきます。それに魔術を使わない分、小手先こてさき誤魔化ごまかしは一切効きません。おまけにこのスタジアムでは反射した球が加速されるので予測不可能という点でも厄介です。確かな実力と運の女神に愛されないと勝利は難しいでしょう」


ハウゼントは空球くうきゅうの二つ名を持つ。


飛行系の球技を極めたとされる人物なのだ。


エアリアル・ドッヂをやる者の間でハウゼントを知らないものはいないというくらいだ。


ちなみに今回の対戦相手のサンド・ウェイバーズで活躍した時代も有る。


そのため、サンド・ウェイバーズからしたらかつての英雄の前で情けない姿をさらす訳にはいかないというプレッシャーがあった。


だが、それを察してか、彼は両チームにエールを送った。


「私は見栄みえを張るのは大嫌いだ。かざることのない、君たちの実力が見てみたいのだ。勝っても負けてもな。だから互いにしがらみを捨ててやろうじゃないか」


ハウゼントのスポーツマンシップあふれる発言に観客達は拍手を送った。


すぐに彼はそれを静止した。


「おいおい。拍手はくしゅするのは私にではない。選手にするのだよ。それでは、試合を始めよう」


ミーアスアスがマギ・マイクをにぎった。


「ほいじゃみんないくぞぉ~~~~~!!!!! エアリアル・ドッヂ、クラブチームFESフェス、決勝戦。サンド・ウェイバーズVSチーム・リジャントブイルFCフライトクラブ!! 試合開始だぁぁぁ~~~~!!!!!」


アリーナは大歓声につつまれた。


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