学院生活1年目終わり!!
ナッガンクラスは高級レストランの”海老ロブスター軒”で期末の打ち上げをしていた。
男子は伝統的な白いローブを。女子は思い思いの色のドレスで着飾っていた。
普段はオールバックな髪を下ろしたナッガンが軽いスピーチを挟んだ。
彼は髪を下ろすと意外と優男風に見え、その姿はかなり好評だった。
「お前ら、一年間ご苦労だったな。かなり厳しくやったつもりだが結局、落伍者は1人として出なかった。落とすつもりでやってきたはずなのだが、大した根性だ。称賛に値するぞ」
クラスメイト達は苦笑いを浮かべた。
「この調子なら残りあと3年間、俺の指導で落ちぶれるものは居ないだろう。なんだその嬉しく無さそうな顔は」
またもやあたりは苦笑いに包まれた。
「ふむ。俺があれこれ長くしゃべっているのも興ざめだからな。お前らの行く末に幸あらんことを。乾杯!!」
ナッガンの声に合わせて一同は乾杯した。
「かんぱーーーーい!!!!!」
試合後、しばらく落ち込んでいたジオチームもすっかり調子を取り戻していた。
ジオが疑問をぶつけた。
「ナッガン先生、実のところカーニバラー・バトレーエで上位を狙うとしたらどの班を選んでいたんですか? 私達に花を持たせてもらったのはわかるんですが……」
教授はグラスの酒をくるくる回しながら答えた。
「始めに行っておくが、お前らをお情けで出場させたわけではない。そうだな……強いて言えば賭けてみたかったといったところかな。予定通りに事が進んでも面白くなかろう? 多少スリリングな方が面白いといったところだ。それに、見ただろうキルレーテクラスの鼻息の荒さを。俺も大概だがキルレーテも相当らしいぞ。授業がまるで拷問だと聞いたことがある。何が何でも優勝したかったに違いない」
だが、なにやらナッガンは吹き出すように笑った。
「しかし、結局キルレーテの連中は準決勝の消耗が激しくてな。決勝でオーセン教授のクラス代表にボロ負けだ。オーセンもスパルタなクラスだな。ジオ、お前らの頑張りはムダにはならなかったわけだな。というか相打ちだな。もっと自信を持っていい」
いい雰囲気になってるところにジュリスが水をさした。
「で、結局のところどのチームが強いんですか?」
ナッガンはため息をつきながら首を左右に振った。
「ハァ……。お前な、わかりきった事を聞くな」
先輩は後頭部を掻いた。
「いや、一応、参考程度に聞いておきたいなと思いまして……」
ナッガンは低い壇上に立ってクラスメイト達を眺めた。
「そうだな。やはり総合力ではアシェリィチーム、個々の力で言えばスララチームだな。前者は上級生が混じっていてレギュレーション違反だし、スララに関しては一騎当千なのだが、悪魔憑きということで大騒ぎになりかねん。学院なら差別意識は薄いが、それでも異形の悪魔であることには変わりない。悪魔狩りにも狙われかねんからな。どちらもエントリーとしては不適格だったのだ」
それでも名指しで挙げられた2チームは喜んだ。
アシェリィは素直に受け取った。
「おー、やったね!! 本戦には出られなかったけど私達、褒められてるよ!!」
フォリオはかなり懐疑的だ。
「そそそそっ、そうかなぁ? おおおお、お世辞じゃないのかなぁ?」
シャルノワーレは鼻で笑った。
「もっとリーダーがしっかりしてくれて、そそっかしくなければいいのですけれど」
イクセントもニヒルな笑みを浮かべた。
「ああ。全くだ。とんだお転婆だからな」
班員からのいまひとつの反応にアシェリィはガックリ来た。
「そ、そんなぁ~。そこ息がピッタリ合うところでしょ!! っていうかノワレちゃんとイクセントくんなんかミョ~に仲良くなってない?」
裏では毎日、剣を合わせて特訓する間柄である。思わず息があっても仕方なかった。
それをもみ消すように2人は見つめ合うとわざとらしくそっぽを向き合った。
「誰がこんなやつと仲がいいものか」
「こちらこそ、こんな方なんてまっぴらゴメンですわ!!」
思わずアシェリィが仲裁に入る。
「ま、まぁまぁ2人とも……」
ジュリスが口を挟んだ。
「まぁ俺らのチームはアクの強いのが多いからな。いいダシは出るが不純物も多いってこった。ただ、アシェリィはもうちょっと周りを見てリーダーらしい振る舞いをしたほうが良いと思うぞ」
繰り返される指摘にアシェリィはまた肩を落とした。
「そ、そんなぁ~」
これには思わずクラスメイト達も笑った。
そんな中、スララもコメントした。
「わタし、ちョっトあバれテみタかッたカも。さイきン、よッきュうフまンでネ……」
それは食欲なのか、はたまた破壊欲求なのか。誰も聞くに聞けなかった。
ナッガンがスララの班について言及した。
「スララの班は他にクラティス、ドク、レーネ、ポーゼが居る。スララの攻撃範囲は広いからクラティスは避けながら戦うことになる。ただ、ポーゼのポータブル灯台とレーネのボーリングはスララとの相性がいい。チームの相性としてもまずまずではある。ドクは難しい魔術を扱っているからなんとも言えんが、今はお荷物だな」
それを聞いたインチキドクターはクイクイッっとメガネのフレームを押し上げた。
なんだか神経質気味に上げては下げてはしている。
少なからず気にしているのだろう。
クラティスは口をとんがらせて不満を言った。
「まったくだよ。避けるのが精一杯だし、こっちが攻撃するとはじかれるし。悪魔ってのはおそろしいもんだ」
レーネとポーゼも同意しているようだった。
「私の球が当たってもビクともしないの」
「焼き切れる……気がしないよ…………」
悪魔憑きはニッコリ笑った。
「まァ、そノぶン、わタしニかカるフかモおオいカら……。おスすメはシなイわヨ。ぜッたイに……」
彼女は笑ってはいたが、なんだかそこはかとない悲壮感が伝わってきた。
クラスメイトはあえて触れないが、彼女は強力な悪魔と契約している以上、なんらかのデメリットがあるようだ。
「ほら、お前ら、おごりなんだからボサっとしてないで料理と飲物を味わえ。ここの海鮮は絶品だぞ。酒に関してはまだ飲めない者もいるだろうがな。ライネンテの飲酒許可年齢は16歳からだ。だから14歳組ならば2年、15歳で入学すれば入学後1年で飲めるようになる。まぁ東部なんかは規制がゆるくて14歳くらいから酒を飲んでる地域もあるがな……」
ナッガンクラスはおよそ半分が飲酒可能な年齢に達している。
だが、アシェリィ達の班はジュリスとシャルノワーレしか飲酒できない。
今まで何度か酒の席に同席したが、ジュリスはとにかく酒に強い。
おまけにかなり量を飲む。それでも潰れたり、あまり酔ったりしないのだ。
それに対して、ノワレは度数の高いものを好んで飲む。
ちょっと酔って勢いづくこともあるが、常識の範囲内であってあまり問題にならない。
問題は一部の男子連中である。彼らは酔うと決まって騒ぎ出して醜態を晒すのだ。
そんな風になってしまうのを見ているアシェリィとしてはお酒に関する興味が削がれていくのも無理はなかった。
アシェリィが料理に舌鼓をうっていると酔ったクラティスが寄ってきた。
「ア~シェリィ~。いつになくカワイイじゃないのん~~~キスしちゃお♥」
「むわっっぷ!! お酒臭ッ!! クラちゃん飲み過ぎだよ~!!」
彼女は飲みすぎるとキス魔と化す。手当たり次第、女子の頬にキスをするのだ。
だが、ひっついてくるクラティスをノワレが引っ剥がした。
「ちょっとちょっと!! アシェリィをキズモノにはさせませんわ!!」
キス魔はムスっとすると近くのミラニャンにターゲットを変えた。
「み~らにゃ~~~ん♥」
ミラニャンは可愛らしい悲鳴を上げた。
「うひゃぁ!! クラ姉、や、やめてよぉ!!」
なんだかすごく華かしいやり取りに思わず男子連中は聞き耳を立ててしまった。
「いいよなぁ……女子はよぉ!! 女子は華があってよぉっ!!」
ニュルは拳を作ってギュッと握った。彼は男泣きしていた。
ドクは引きつった笑いを浮かべながらタコ男を励ました。
「にゅ、ニュル……。そんな本気で泣かないでくださいよ」
さすがにこれには周りの男子もドン引きして何か明るい話題はないかと考えた。
百虎丸が思いついたように話題を振った。
「そういえば女子同士のカップルの話題を聞いたでござるが、このクラスに男子同士の浮いた話はないのでござるか? ちなみに拙者はおなごがいいでござるが……」
アンジェナがそれに答えた。
「このクラスは既に彼氏彼女が居たり、許嫁持ちの連中が多いんだよ。俺とニュル、レールレールには女子の嫁候補がいると聞いてるし。そうするとフォリオとかグスモとかポーゼみたいにまだ恋愛には早いのも混じってる。きっと掘っても面白い話はでてこないと思うぞ。もしかしたらコッソリ付き合ってるやつがいるかもしれんが」
田吾作とファーリスはじわりと汗をかいた。
だがそれはそれで話題が盛り上がり、男子ウケしそうなのは誰だとかいう話題に発展していった。
他愛のない話に興じる教え子たちを見てナッガンは上の空だった。
(ナレッジ……識る者と識らぬ者……か。もし楽土創世のグリモアが顕現すれば何も識らぬまま、こいつらは戦いに巻き込まれていく。それがくだらない権力争いの場だったとしてもだ。もっとも、くだらんと言い切ると校長はいい顔はしないだろうが。それでも手塩にかけた教え子をむざむざ死なせるような戦いには臨みたくないものだ。フッ……何が地獄教官だ。激甘だな……)
ナッガンは古酒を飲み干すと虚ろな目で天井を眺めた。




