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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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チームワークだけでどこまでやれるのか

(オ……ジオ……ジオ。起きてジオ……)


彼女は誰かが呼びかける声で目を覚ました。


「痛っつ……、あれ? 私達、確かすごい衝撃波に巻き上げられて……」


ジオがはっきり目を開けるとはっぱちゃんが無数のツルを伸ばして他の班員たちを繋ぎとめていた。


「はっぱちゃん!!」


他のチームメイトも次々と意識をとり戻し始めた。


本来なら一発KOといったところだが、リーダーが打ち込んだ花火のソウルが彼女らをギリギリでみとどまらせた。


とはいっても衝撃波と全身に氷のつぶてを浴びてメンバーは酷い傷を負っていた。


さらに未だに激しい上昇気流に襲われている。


ジオは苦しそうな表情を浮かべながら指示を出した。


「ぐっ、み、みんな……お空のドーナッツ……お空のドーナッツ作戦だよ!!」


本当に色々な作戦を考えついては練習してきたが、まさかこの作戦を使う時が来るとは思っていなかった。


ジオ、はっぱちゃん、キーモ、ニュル、田吾作たごさくの5人は互いに手をつなぎ合って円を描くようなフォーメーションをとった。


すると彼女ら自身が魔法円となって下から吹き上げる強烈な風圧を大幅に軽減したのである。


「まだ嵐は止んでないから向こうからこっちは見えてないはず!! おまけに音もすごいからこっちの声は相手には聞こえてない!! アナウンスも聞こえてないし、総攻撃をかけるなら今しかないよ!!」


だが、班員達は苦しそうだ。タコ人間のニュルは顔をゆがめた。


「そうは言ってもな……キズだらけだし、足も何本かもってかれちまった」


「おらぁも全身ボコボコだぁよ……」


拙者せっしゃもあちこち痛めつけられて腕があがらんでござる」


「くぅ……いいとこまで来てるんだけどなぁ」


ジオが悔しそうにしたその時だった。


はっぱちゃんがツタに乗せて生体エナジーを送り込んできたのだ。


ふくよかだった彼女の体型がみるみるガリガリになっていく。


「はっぱちゃん!! ダメだよ!! そんな事したられちゃう!!」


リーダーの叫びを無視して植物の亜人はパワーを注ぎ続けた。


やがてカラカラになった彼女は輪から離れて落下していった。


すかさず残りの4人でお空のドーナッツを組み直す。


「みんな!! この戦い、負けられない!! 一気に行くよ!!」


ジオの目から涙がこぼれた。


同時に4人は一致団結し、一斉攻撃の構えをとった。


「キーモくん!! お菓子ブースターでいくよ!! まずは私がバリアーを破壊するからニュルくんと田吾作たごさくくんは追撃!! 内側から一気に叩くよ!! 前線からイン・アウトを交互にやって。その合間をぬってあたしが攻撃!! キーモ君は敵味方の識別ができるから常時攻撃!! いっくよ~!!」


まだ上昇気流は続いていて、視界は不明瞭ふめいりょうだ。


しかし、奇襲きしゅうをかけるにはもってこいの状態とも言えた。


キーモは腰のポーチから一本のチェルッキィーを抜き取った。


「チェルッキィー・ジャイアント展開!!」


するとそのお菓子は巨大化し、拳で握れるくらいの太さになった。長さは2mほどだろうか。


ニュルと田吾作たごさくがそれをギュッとつかんだ。


これをヴァレリィ達めがけて打ち込もうというのである。


まずは菓子自体が攻撃手段になるし、つかまっている2人を一気に前線に送り出すこともできる。


「すーはー。いくよ!! 全力爆発花火弾!! キリング・ミリオンズ・シューティア・ライカミルキィウェイズ・ミティリアシズム!! カラフルフレア・バースト!!」


ジオは何度も拳を突き出して破壊力絶大の花火弾を発射した。


この攻撃は勝利を確信していたヴァレリィ側からすると完全に想定外で、非常に効果的だった。


「なんだって!? あの暴風を避けきったっていうの!? ぐぅ!! まずい!! クールーンの上昇気流だけでもバリアーの許容量の92%を越えてるんだぞ!! これであの花火を受けたら130%は越える!! バリアーがブレイクしてしまう!! クールーン、幻魔げんまを引っ込めてくれ!!」


自分の思い通りにいかなかった天才は気に食わ無い様子だ。


「フン……」


彼の召喚サモニングが止むとバリアーに余裕が戻ってきた。


「花火のカバー率は76%といったところか。さすがにクールーンほど火力は出ないが、同時に受けていたら危ないところだった………」


ヴァレリィが立て直したと安堵あんどした直後、巨大化したチェルッキィーが飛来してきてバリアーに突き刺さった。


オートンが白熱して実況じっきょうする。


「花火弾に立て続けてチェルッキィーに乗っての奇襲攻撃です!! これはかなり効果的に思えますん!! バリアーが耐えきれますかね~!?」


ヴァレリィは思わずジトっとした汗をかいた。


「しまった!! ピンポイントで突かれるとは!! 局部的にだが負荷が150%を越えている!! ええい!! 突っ込んでくる箇所かしょに集中してバリアを張れば……いや、押し切られる!! ハンク、クールーン、来るぞ!! 迎撃体制を整えてくれ!!」


銀髪の美少年はカウボーイハットの無骨ぶこつな男に声をかけた。


「ハンク、お前は時間を稼げ!! 今度は確実に仕留める!!」


クールーンの発言に特になにか言うでもなく、彼は高速の投げ縄を投げた。


だが、いくつもの武器で武装しているニュルにはロープが通用しなかった。


それなりに頑丈な素材でできているのだが、タコの亜人のパワーもあって切り落とされてしまったり、巻き取られてしまう。


「ハンク!! 何してるんだ!! しっかりしないか!!」


ニュルが盾になってくれている間に、田吾作たごさくはバリアーの内側へと侵入することに成功した。


口に野菜を放り込みながら地面めがけてパンチを打ち込む。


絶氷ぜっひょうブロッコリーのえれんてぇ・あたんちだぁ!!!!」


ステージの氷属性と反応してとがった剣山のような氷の柱がヴァレリィ、クールーン、ハンクを襲う。


「私が受ける!! 散開しろ!!」


相手のリーダーが盾になってバリアーを張った。


かなり出力が落ちていて、もう3人をおおう強力な盾は展開できそうになかった。


散開した直後、クールーンが詠唱えいしょうした。


「シューチング・グリーン・ウェイブ!! サモン!! オルゾン!!」


天才少年の腕から波動型の幻魔げんまが発射された。追撃するようにして田吾作に直撃する。


彼は肉体強化フィジカルエンチャントがまだ効いていたがみるみるボロボロになっていった。


「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!」


そのまま彼は吹き飛んでいって闘技場コロシアムの天井に叩きつけられた。


「あ~!! 田吾作選手たごさくせんしゅKOノックアウトです!! クールーン選手、技のキレが素晴らしいです!!」


(たーちゃん……)


観客席でファーリスが人一倍、心を痛めていた。


それを見ていたジオとキーモはすさかず花火とお菓子で追撃をかけた。


だが、けに専念した3人は素早く、攻撃がまともに当たらない。


さすが準決勝まで残ってくるエースと言ったところである。


「くっ!! 2人の弾幕でも当たらないの? 回避に集中されたらこんなものなの!?」


「ヴァレリィに頼り切っているように見えて、その気になればなんとかなるといったところでござるか!! しかし、攻撃するときに必ずスキができるはず!! あきらめずに狙っていくでござるよ」


まだ対空していた2人はうなづきあった。


地上ではニュルが攻撃をしかけようというところだった。


「タコは僕がやる」


クールーンが攻めの構えをとったが、それをヴァレリィが静止した。


「まだだ!! まだ余力を残しておいてくれ!! ヤツは私とハンクで倒す!!」


またもや不機嫌そうに大気の使い手は前髪をいじった。


「ハンク、バリアーコーティングだ!!」


「了解」


ハンクはニョキニョキと投げ縄を伸ばした。


そしてその縄をヴァレリィがつかんだ。


「ふっ!!」


彼女がちからを込めると縄がバリアーをびた。


「ゴートゥ・ヘル!!」


着地したニュルをバリアーコーティングされたロープが襲いかかる。


「へん!! そんななわ、何度でも叩き切ってやるぜ!!」


そう言ってタコの亜人は投げ縄をハンドアックスで切り下ろそうとした。


「あ、あががががが!!!!!!!! しびっ!! シビビビビビ!!!!!!!」


なんとバリアーがロープを伝ってニュルに流れ込んだのである。


「あれ? 言わなかったか? 私のバリアーは攻防一体こうぼういったい。攻撃を防ぐだけじゃなくて、触れたものにダメージを与えることもできる。どうだい? 結構ビリビリくるだろう?」


司会はエキサイトして手に汗握あせにぎった。


「なんとぉ~!! バリアーの攻防一体こうぼういったいとはこういうことだったんですね~!!」


ハンクはヴァレリィとクールーンに問いかけた。


「……タコの首ってどこだ?」


「わからないな……」

「知らん」


バリアーの使い手はより強く、ギュッと拳を握った。


すると投げ縄に流れる攻撃の威力が上がった。


「あがががが!!!! ぷしゅーーーーー!!!!」


するとニュルはゆでダコのように真っ赤に煮え上がってしまった。


オートンは汗をぬぐいながら続ける。


「ニュル選手もKOです!! ジオチーム、残るはジオ選手とキーモ選手!! 後がない!!」


2人とも遠距離攻撃の手段を持っていたが、強力な使い手であるクールーンににらまれているようで攻めに転じづらかった。


きっとこちらから攻めれば瞬時に彼のカウンターが来るだろう。


「私はもう余力がない。ハンク、クルーン、頼んだよ!!」


そう言うとハンクとクールーンに軽くバリアを張ってヴァレリィは後退した。


「俺が気を引く。クールーン。お前が決めろ」


カウボーイハットの男は投げ縄をぐるぐる回し始めた。


「ま、当然の流れだね。ボクにまかせておけばいいよ」


召喚術師サモナーはサモナーズブックを取り出してさらりとぜた。


直後、投げ縄が放たれた。


「ソニック・ロープ!!」


いままでにない高速の一投だ。花火とチェルッキィーをすり抜けて飛んでくる。


「2WAYツーウェイ!!」


途中でいきなりロープは二手に分かれた。


どちらもジオとキーモの足首を捕まえて引っ張り始めた。


引っ張られると2人は密着してぐるぐる巻きになった。


「こ、これは!! 明らかに手加減していたでござる!!」


間髪かんぱつ入れずにクールーンが幻魔げんまんだ、


「喰らえ!! 熱と風の混合熱風!! レッド・エン・グリーンズ・ヒートウェイブ!! サモン・グーシャラズ!!」


頭が赤く、しっぽが緑にグラデーションしたトカゲのような幻魔げんまだ。


だが、格が低い龍族のようにも思える。


2人は熱波にあぶられてOKKOオーバーキルノックアウト扱いで退場した。


「きゃあああああああああああああぁぁぁ!!!!!!」

「ぬわああああああああああぁぁぁ!!!!!」


会場は割れんばかりの歓声に満ちた。オートンがまとめに入った。


「ハイ!! ジオチームVSヴァレリィチームの準決勝はヴァレリィチームの勝利でした。いや~、いい試合でしたね!! ヴァレリィチームは決勝に、ジオチームは3位決定戦に期待です!!」


その後、ジオチームは3位決定戦を懸命けんめいに戦ったがヴァレリィ戦での消耗しょうもうが激しく、総合4位に終わった。


だが、クラスメイトに誰も彼女らを責めるものはおらず、各々が健闘けんとうをたたえた。


厳しそうなナッガンもその戦いを認めていたくらいなのでジオ達はベストを尽くしたといえるのだろう。


もっとも、ジオチームはお世辞にもナッガンクラスで一番とは言いがたいという事もあっての評価だったが。


チームワークだけでどこまでやれるのか。それを見極めたかったというのもあった。


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