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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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勝利はボクらに約束されている

冷気への対策を終えたジオチームとヴァレリィチームの本格的な戦いが始まった。


リーダーのジオは素早くフォーメーションの指示を客員に出した。


「フロントはニュルと田吾作たごさく!! ミドルはあたし!! バックはキーモとはっぱちゃん!!」


息のピッタリ合ったそのリアクションは練度の高さをうかがわせる。


おっとり実況じっきょうのオートンがめる。


「さすがにここまでくると違いますね~」


田吾作がバリバリスイカで筋力パワーアップすると同時に相手チームのノモスが氷山を回り込むようにして横から突っ込んできた。


作戦もクソもない。どう考えても無謀むぼうな突進でしかなかった。


ただ、彼は想像以上に俊足しゅんそく怪力でだった。


「しまった!! ノモスは自分の体を粘着質ねんちゃくしつにする魔術の使い手なんだよ!! ニュル、田吾作たごさく!! けて!!」


2人は左右に退いて散開した。


「バーカ。遅えんだよ!!」


大男のノモスは両腕を広げてラリアットを繰り出した。


腕にニュルと田吾作たごさくがひっつく。


オートンは大きな声を上げた。


「あ~。2人がノモス選手にひっつかれてしまいました~。これはまずい!! ノモス選手はかなりの怪力なことで知られています!!」


「ぬうおおおおおお!!!!! くっついて、離れねぇ!! しかも田吾作たごさくが近くて武器が使えねぇ!! それに、ツルツルすべってん張りがきかねぇ!!」


「おらの筋肉でもはがれねぇ!! しかも2人がかりでも少しずつ押されてるだ!! なんつー馬鹿力ばかぢからだぁ!!」


それを見ていたヴァレリィは不敵にみを浮かべた。


「ノモスは本当にあれだけに命をけてるからね。飛び道具とかそういうセコい攻撃手段は一切ないけどそれが彼の持ち味だから。さて、どうする? このままだと氷の壁に押しつぶされて終わりだよ?」


ジオチームの前衛2名は前線からそれて明後日あさっての方向へ押しやられていく。


ノモスは足を一歩一歩スパイクのようにめり込ませて押し込んでいった。


それに気を取られた瞬間、アーニィが動いた。


「おら、喰らいな!! すらっぴんぐ☆わんすもあ!!」


ジオは誰かに全身をビンタされたようなダメージを受けた。


司会兼、実況は白熱した。


「で、でた~!! ドMホイホイの別名を持つアーニィ選手の魔術だ~!!」


ジオはデーターを思い返して身構えなおした。


「まずい!! あのビンタは障害物を無視して中距離での攻撃が可能!! しかも往復ビンタの回数が増えれば増えるほど威力が上がっていく!! 相手は氷山の向こうに陣取ってるし、魔術の出が早い……ぐうぅぅ!!!!!!」


2発目なのによろけるレベルである。あと1発くらうとどうなるかわからない。


実はビンタはフェイントで気づくとハンクが投げ縄を放り投げてきた。


器用に氷山を回り込むようにして縄が飛んできた。


「悪いが、一切手加減はせん。お前には窒息ちっそくしてもらう」


ロープはうまい具合にジオの首にひっかかった。避ける暇もない高速の一投だ。


そのまま彼女は締め上げられながら一気に相手の陣地へ引かれていく。


オートンは両頬りょうほほをてのひらではさんだ。


「あ~~~~!!!!!! これ~は~苦しい!! ジオ選手、苦しい!! しかも~このままだとヴァレリィ選手の攻防一体こうぼういったいのバリアーに引きずり込まれる事になりますん!!」


早くもナッガンクラスのチームはキーモとはっぱちゃん以外はまともに戦えなくなっていた。


「……拙者せっしゃが……かくなる上は拙者せっしゃがやるしかないでござる!!」


キーモはそう言うとチェルッキィーというお菓子25本入りの箱を取り出した。


彼は不思議な感覚を感じていた。なんだかやれそうな気がするのである。


キーモは多くの仲間が同時にピンチになると覚醒かくせいするタイプだった。


「ターゲット捕捉ほそくでござる!! レイニーデイズ・メランコリィ25(トゥエンリィ・ファイ)!!」


狙撃手そげきしゅは頭上に向けて山なりにチェルッキィーを一斉発射いっせいはっしゃした。


一気にアーニィ、ヴァレリィ、ハンク、クールーンが射程に入る。


この発射は当てずっぽうではない。マナの生命反応を感知して狙いをさだめているのだ。


しかも敵味方を判別できるのでジオに当たる心配はなかった。


真っ先に菓子かしはハンクの投げ縄に突き刺さり、燃え尽きてそれを焼ききった。


「ごっほごほ!! げっほ!! き、キーモくん!!」


突然の頭上からの奇襲にヴァレリィチームは驚きはしたが、リーダーとハンクとクールーンは黄色いバリアーで保護された。


チェルッキィーはバチバチと音を立てながら迎撃されていく。


ただ、アーニィはそこまで退避することが出来ず、射撃の雨を喰らった。


そう思われた瞬間、彼女はコロシアムから姿を消した。


「あ~~~!!!! これはOKKOオーバーキル・ノックアウトです。もし、キーモ選手の攻撃が直撃していたら頭部と心臓部を貫通すると予測されてその判定となりました~。アーニィ選手、本領発揮ほんりょうはっきできないまま退場で~す!!」


闘技場コロシアムはキーモへの声援とアーニィにたいする不満が入り混じって不協和音に包まれた。


相手チームが呆気あっけにとられているうちに、素早くジオは転倒に気をつけながら後退した。


「げっほげほ!! キーモくんナイス!! まだヴァレリィ達にはカードがある。まずはこっちの前衛を立て直さないと!!」


ジオがニュルと田吾作たごさくに目をやるとだいぶ氷の壁際に押しやられていた。


「拙者がノモス殿どのを背後から撃てば!!」


リーダーは腕を差し出して彼に静止をかけた。


「キーモ君は臨戦態勢りんせんたいせいで待機!! 抑止力よくしりょくがないと向こうがどう動いてくるかわからないから!! 大丈夫。あの2人なら……!!」


そう言うと彼女は大きな声を上げてニュルと田吾作たごさくにメッセージを伝えた。


「押してダメならカッチコチ!! 武器デパート!!」


これはヴァレリィチームにも筒抜つつぬけだったが、彼女らには意味がわからなかった。


もしこれが作戦なのだとしても、暗号じみていてはどうしようもない。


一方のニュルと田吾作たごさくそろってうなづいた。


先に農家風の青年が動いた。灰色の野菜をいくつか口に放り込む。


「ストーン・パプ・パプリカだぁぁ!!!!!!」


すると彼の体はカチンコチンに固まってしまった。


ノモスの顔がかすかにゆがむ。


「こ、コイツ……押し返しては来なくなったが、半端なく重たくなってやがる!!」


粘着男ねんちゃくおとこの押すペースが少し鈍った。


するとタコ男がぐるんぐるんと足を振り回し始めた。


「うーし。これで田舎っぺの心配はしなくてすむ。俺の武器が火を噴くぜぇ!! ラリアット喰らったときに思ったが、お前あんまりフィジカル強くねーだろ? こうやって一方的に押しつぶすことに全力注いでるのが丸わかりだぜ。まずは……そうだな。ハンドアックスか? それとも剣か? やりか? ハンマーか? へへ。遠慮するなよ。全部いっぺんにくれてやるぜ!!」


頭の切れるヴァレリィは暗号の意味をすぐに理解した。


「そうか!! 押し返しが通用しないのならばその場所にとどまって硬化こうか。そしてもう一人の亜人が多種多様な武器を振り回す……普段から無数の暗号を決めてあって、それに沿って動いているんだ!! みんな、気をつけろ!! 意味不明な発言の裏に作戦指示が練り込まれているんだ!!」


ノモスもヴァレリィから距離が離れてしまったのでバリアーの保護は受けられない。


しかも、タコ人間の思い通り、彼はそこまで頑丈がんじょうではなかった。


「喰らえ!! 一日三食武器三昧いちにちさんしょくぶきざんまい!! おらおらおらぁ!! どんどんズタボロになっていくぜぇ!! 勢いもガタ落ちだ!! すぐにKOだぜ!!」


ニュルが手数を活かした無数の攻撃をしかけるとノモスもキズだらけになった。


だが、彼はギリギリまでこらえた。


「クソッタレが!! こんなタコと団子っ鼻に負けるかってぇんだよ!!」


だが、抵抗もむなしくノモスは両膝を地面についた。


ここでハンクが彼を投げ縄で救助することも出来たが、ヴァレリィ達はお得意のバリアーへの籠城ろうじょう作戦の重視を選んだ。


「あ~!! ノモス選手ダウンです!! 戦況は5vs3!! ジオチーム、かなり有利かー!?」


「みんな、フォーメーション立て直しだよ!! 氷山を盾にして一旦、攻撃回避!!」


ナッガンクラスの5人はひとまず障害物をはさんで様子をうかがった。


このとき、観客席のアシェリィは思わず立ち上がった。


「まずい!! クールーン君が動く!!」


銀髪をサラリとなでながら美少年は素早く詠唱した。


「ランペイジィーズ・アップドラフター!! サモン・ホワイトグリーン・ライムズ!! サモン・ペティット・ウィンドラーン!!」


小さな可愛らしい緑色のドラゴンが出現した。翼で羽ばたいて低空飛行している。


その可愛らしい姿に会場は笑ったりして和んだが、直後に腕利うでききき以外は顔がひきつった。


フィールドの全体から凶悪なまでの上昇気流が発生したのである。


竜巻のような衝撃波はジオチームを根っこから巻き上げてステージの上までぶっ飛ばした。


氷山も氷中もバラバラにくだけてそれがつぶてになって彼女らを襲った。


一方のヴァレリィ達はバリアーでその上昇気流を防いでいた。


「ふっ……さすがはクールーン。全開出力でも私のバリアーも壊れそうだよ。許容レベルの92%の威力が出ている。日々の特訓のおかげで君も私も耐久と出力の微調整ができるようになった。この威力の召喚術サモニングを受けたらまず助からないでしょう」


クールーンはキザに笑った。


「フン。ボクの才能をもってすれば当然さ。こんなところでくだらない足踏あしぶみをしていないでさっさと決勝に行こう。ボクらには勝利が約束されているのだから」


ノモスとアーニィはともかく、このクールーンには痛い思いをした様子が一切ない。


このチームの実質的な核はヴァレリィ、クールーン、ハンクなのだ。残り2名はおとりに近い。


嵐はとどまるところを知らない。フィールドは旋風せんぷうで真っ白に染まっていた。


あまりの圧倒的で衝撃的な幕引まくひきに闘技場とうぎじょうは静まり返った。


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