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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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怒ッ弾の毒弾オバサン

あっさりと盗掘者の1人を倒した直後、ラヴィーゼはピリピリするようなプレッシャーを感じて叫んだ。


「アシェリィ、リコット!! ライン・フォーメーションだ!! あたしの後ろに一直線につらなって攻撃に備えろッ!!」


リコットは次の衝突に備えて妖憑フェアリー・ポゼッションを解除した。


そしてピンク髪のいつもの姿に戻った。


「フフフ……1、2、3、4……。4人か。そのうち取るに足らないメスガキが3人。こりゃあ楽勝だねェ……」


あやしげなディープパープルのドレスにロングスカートをいた女性がいつの間にか現れた。


脚部は黒いタイツをいていた。


割とケバい化粧けしょうで明らかに中年女性といった顔つきをしている。


「わかってるよォ。密猟者の残党ざんとう狩りに来たんだろう? でもねェ、今回は完全にそっちの落ち度なんだわァ。あんたらのお仲間はアイスヴァーニアン目当ての密猟者をメインだと考えて掃討作戦そうとうさくせんを行った。でもねェ、実のところあたしら氷晶石ひょうしょうせき盗掘団とうくつだんがメインなんだわ。密猟者の連中は完全にオトリ。だからザコしか居なかったわけ。ってわけであたしを相手にするなんてあんたらツイてないねェ……」


フラリアーノ教授は珍しくけわしい顔をして問いかけた。


「あなたは……全国的にも有名な盗掘の指名手配者……毒弾どっきゅうのキャルク・ナンテですね? その調子ではコレクションを増やすために氷晶石ひょうしょうせきの結晶を盗みにここにきたんでしょう?」


なぜだかキャルクは目を見開いた。


「アンタ、い~い男だねぇ。食べちゃいたいくらいだよ。でもまったくる気が無いねェ。どういうことだい? まさか、そのメスガキ3人だけであたしを倒そうってのかい?」


教授は自信ありげにうなづいた。


「ええ。貴女あなたの相手は私ではありません。そこの3人組です」


中年女性は青筋を立てて態度が豹変ひょうへんした。


「そんなカスみたいな小娘があたしを倒すゥ!? ふッざけんじゃないよ!! 冗談も大概たいがいにしなァ!! そんなガキ、何人、たばになってもあたしに勝てるわけがないンだよォ!! 死ね!! いや、ぶっ殺してやる!!」


これが彼女の本性なのだ。強烈な殺気に思わず女生徒達は押された。


貴女達あなたたちが力を合わせれば勝てるはずです!! 自信を持って立ち向かってください!!」


そうは言っても相手は二つ名持ちだ。プレッシャーだけで押しつぶされそうになる。


ラヴィーゼが叫んで恐怖を吹き飛ばした。


「いいか!! こういうときこそビビらず斬り込め!! ネクローシス・パニッシュメント!!」


骸骨剣士スカルナイトは剣を上向きに空振りした。


ただ、闇雲やみくもに素振りしたわけではなかった。


相手が避けにくいように時間差で闇の斬撃が放たれたのだ。


「うっっとぉ!!」


毒弾どっきゅうは横にローリングして間一髪かんいっぱつでこれをかわした。


さすがに身体能力と反射神経は一流だ。


「キーンキーンキーンキーン…………」


闇の斬撃によって氷の砕ける音が洞窟中どうくつじゅうに響いた。


「クソッ!! ウザいメスガキだよ!! お返しをくれてやるよ!!」


キャルクはいつの間にか右手の五本指の間にむらさきの小石くらいのたまはさんでいた。


「おらぁ!! 苦しんで死にな!!」


相手の二つ名とその構えからラヴィーゼはどんな攻撃が来るかおおよそ予測した。


「アシェリィ、リコット!! あたしから離れて距離を取れ!! そしてスキあらばあたしを無視して攻撃を仕掛けていけ!!」


特にサインを送るでもなく、息ピッタリに2人は散開した。


その直後だった。


「いくよォ!! P2!!(ポイズン・パラダイス)」


目で負えない速さでキャルクは毒の弾を発射した。


すかさずラヴィーゼは骨の盾でこれをガードした。


だが、その弾は破裂して毒霧どくぎりへと変化した。


「ヒャーッハッハッッハァ!!!!!! どうだ? 苦しいだろぉ!?」


骨のフルアーマーを着た少女は両方のひざをついてダウンしてしまった。


「ううっ……くぅっ……」


二つ名はスカッっとした様子でラヴィーゼを見下ろした。


「まずは1匹!! チョロいもんだねェ!! ザコザコォッ!!」


その時、アシェリィに異変が起こっていた。


この環境のあまりの寒さにエネルギーを吸い込みすぎだのである。


行き所のないパワーは大剣のように変化し、両手から氷の柱が飛び出した。


「せやあああああぁぁぁぁ!!!!!!」


暴走気味になってそのとがった柱を振り下ろした。


斬撃の効果は無いようだったが、一面にするどい氷のトゲが吹き出した。


もはや召喚術師サモナーの戦い方とは思えないが、これも立派な召喚術サモニングの一部である。


「くっ!! 活動限界が近い!!」


同時にアシェリィは猛烈な寒気を感じたのでフラリアーノのそばへ避難した。


「あれだけ大量に鋭い氷が出せたなら……あっ!!」


二つ名は天井にアンカーを打ち込んでワイヤーでぶら下がっていた。


「2人目ェ。力の使い方がなっちゃいないねェ。そんな鼻息荒くして攻撃が当たるとか本気で思ってるのかい? まだまだジャリん子だねェ。お姉さんが徹底的に思い知らせてやるよ!!」


残るはリコットだ。


「なーにがおねえさんだし!! こんのオバサン!!」


「なっ……」


中年女性の表情がぐにゃりと怒りにゆがんだ。


「オバサンっつってるんだし!! いい加減にしろし!! あたしがラヴィとアシェリィのかたきってやるし!!」


キャルクは氷の床に着地すると禍々(まがまが)しいオーラを放ち始めた。


「だ~れ~が~おばさんだと~~~~!? お前は殺す。ぶっ殺す!! 絶対殺す!!」


ピンク髪の少女も戦闘の構えをとった。


またもやキャルクは毒の弾を指で弾いて連射してきた。


「おらおらおろらおらおらぁぁぁっ!!!!!」


ラヴィーゼの時の何倍もの量が飛んでくる。


「エアリアル・グリーン・ミント・フレッシュ!! シューラーズ!!」


ミント色の小さな可愛らしい妖精ようせいがリコットの周りをおおった。


「ヒャーッハッハァ!!!!! どうだぁ? 息が出来ねぇだろぉ!?」


だが、毒霧どくきり妖精ようせいの羽ばたきに浄化されてリコットには届かなかった。


「オバサンの毒はあたしには通用しないし。ただ、展開できるのは1人分。あたし1人でオバサンに勝たなきゃなんねーし」


何度もおばさん呼ばわりされた女性は半狂乱はんきょうらんで怒り出した。


「ふっざけんじゃ、ふっざけんじゃ、ふっざけんじゃないわよォォォ!!!!!」


それを冷静に見ていたフラリアーノは確信した。


(あれが毒弾どっきゅうのキャルク・ナンテで間違いないですね。怒ると見境がなくなる事からきゅうのキャルクという別名もあると聞きます。特に年齢に触れられると。だとするとおそらくここからが本番。大幅に相手の毒は強くなっていくはずです。リコットさん、貴女ならやれますよ。実力を見せて、この場をしのいでください!!)


キャルクは不気味は笑みを浮かべだした。怒りが頂点に達して吹っ切れてしまったようだ。


誰が見てもそれは明らかだった。


「ハハハ……紫の毒弾どっきゅうは一番毒性の弱いもんなんだよ。他にも無数の色の毒を用意してある。更に、それらを混ぜるとあたしの手にも負えないほど強烈な毒素が発生する!! 人の致死量をアッサリ越えるくらいのなァ!! 氷結窟ひょうけつくつで欲しいものはもう手に入った。こんなクソ寒い洞窟、クソ喰らえだ。まるまるココを毒で満たしてやるよ!! 今日からここは毒洞どくどうだァ!! そうすりゃ氷晶石ひょうしょうせきの希少価値もあがるってもんさね!!」


ここに居るのはフラリアーノと生徒達だけではない。


多くの採掘員が今も採掘を続けている。もし洞窟が毒で満ちたら犠牲者300人はくだらないだろう。


実はキャルクは盗掘団であると同時に見境みさかいのないテロリストとしても名が知られていた。


(くっ、まずい。一瞬で息の根を止めるか!?)


教授が身構えた直後、二つ名は舌なめずりをしはじめた。


「でもなぁ、ただ殺すんじゃ面白くねぇよなァ? 特にそこの”だし””だし”言ってるピンクのガキ。お前、あたしに向かって何度おばさんつった? お前だけは地獄を味わいながら死んでいってもらわねぇとあたしの気が収まらねぇ。とっておきの毒をこってり、たっぷり味わいながら死んでいきなよ……」


一層プレッシャーが高まっていく。


フラリアーノは攻撃の構えを解いた。


(しめた!! ターゲットがリコットさんに絞られましたね。生徒たちが撃破するのが一番ですが、今のうちに設置式の幻魔げんまを密かに展開して万が一に備えます。あわよくば捕縛ほばく、さもなくば抹殺まっさつ!!)


彼は背後に指を伸ばして召喚契約のサインを刻み始めた。


それを脇で見ていたアシェリィは彼がび出そうとしている幻魔の強大さに恐怖した。


それだけの相手ということなのだろう。


このままではリコットが一対一でぶつかることになる。


焦れば焦るほど回復が遅くなってしまうのをアシェリィは痛感していた。


その時、フラリアーノがささやいてきた。


(アシェリィさん。集中コンセントレーションです。落ち着いて深呼吸するんです。常温では無理ですが、この環境なら急速に冷気をマナに変換して吸収することができるはずです。しかし、まだ貴女あなたは氷属性の攻撃には慣れていません。新たに強力な氷の幻魔げんまを呼ぶのは難しい。ですから慣れた武器……釣り竿ロッドを使うんです!! 耐寒のフォルム・チェンジをしつつ、リコットさんを援護えんごしてください)


そう言われてアシェリィは腰のロッドに手をやった。


新たな能力に夢中になりすぎていて、すっかり愛用の武器の存在を忘れていた。


(あちゃ~。こりゃ『人生いつ何時も釣りである』って教えのウィナシュ先輩に怒られるぞ~。しっかりしなきゃ)


高額なブランド品のエヴォルブ・スコルピオ4式はミナレートの一軒家いっけんやに匹敵する。


これを使わないのはもったいないとしか言いようがなかった。


キャルクはいつのまにか毒の弾を再び構えていた。


今度は弾の色が違う。間違いなくやばいとアシェリィは思った。


気づくと彼女のマナはほどほどに回復していた。


釣りガールが竿さおを抜き取ると一気に折りたたみ状態から展開されて長めのたけになった。


「せえええっっっ!!!!!」


そのまま素早くスイングして中年女性の手のひらをヘヴィ・ルアーで狙った。


直撃かと思われたが、シュッっと手のそでから手甲てっこうがせり出してきて彼女の手の甲をルアーからガードした。


「見事な狙いじゃないかい!! でも、甘い!! 甘いんだよォ!! 手は硬いんだなこれがァ!!」


その直後だった。リコットが鮮やかなライトグリーンに輝きだしたのである。


「アシェリィ、時間稼じかんかせぎサンキューだし!! 甘いのはオバサンのほうなんだし!! これでぶっ飛ばしてやるし!! いくら痛いって言っても勘弁してやらないし!! フルボッコだし!!」


リコットは滅多に取り出さないサモナーズ・ブックを取り出して開いたページをスラリとぜた。


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