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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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透き通った氷の世界で

フラリアーノと女子3人組はジュナム北の門から外へ出た。


あるのは細い道が1本しかなく、その道の両側には何メートルも雪が積もっていた。


「なんじゃこら!? これじゃ自由に行き来できねーじゃん!! クリジュナどうなってんだよ!?」


思わずラヴィーゼがツッコミを入れた。


アシェリィが思い出すようにしてして語った。


「ん~、どっかの国では雪が降りすぎて、荷車がすれ違うのにギリギリくらいの小道しか無いって冒険譚ぼうけんたんで見たことあるよ。きっとクリジュナの事なんじゃないかな。でも、ノットラントのピリエーはクリジュナの低温下には耐えられいらしいし、この気温で運搬用に使役できる動物、いるのかなぁ?」


教授は首を左右に振った。


「居るには居ますよ。ヌー・ヌーという毛皮をかぶった4つあしの動物が。運搬だけでなく、食用にもされています。雪を食べるのでエサには困りませんが、なにしろ足が遅くてですね。クリジュナの流通は”運び屋”と呼ばれる人達によって人力で行われています。彼らは道の整備員も兼ねていまして、小道が雪で埋もれた時などは迅速じんそくに除雪するシステムができています。彼らは互いに助け合って仕事をしているので運び屋同士の結びつきは強いんです」


細い小路こみちながめてリコットは顔をしかめた。


「っていってもこの道、かなりウネウネしてるし。こんな道に沿って歩ったらヒョーケツクツに着くまでどんだけかかるかわからないし!!」


確かにそれは正論で、ひと目で道が曲がりくねっているのがわかった。


「仕方ないのです。雪がこおってかたい場所は迂回うかいせずにはいられませんから。ごく一部の一流の運び屋でなければ直線にっていくことは難しいんです。まぁ、研究生エルダーくらいの学院生なら相性もありますが、かなり硬くてもれるはずですよ。もちろん氷結窟ひょうけつくつまでは一気に氷の壁を突破していきます。マーダーズ・レッド・ブラッド・モーリー!! モルモラ!!」


ツメが真っ赤に燃える大きなモグラの幻魔げんまが出現していた。


「ふぅ。クリジュナに来て炎や温かい属性ばかり使っていますね。そろそろ氷や冷たい属性がスネはじめるころです。いざというときにパワーダウンしているとマズイのでそろそろご機嫌取りをしなければなりませんね……」


この悩みはアシェリィとリコットにはよくわかったが、不死者アンデッド一本のラヴィーゼにはあまりピンと来なかった。


「皆さん、モルモラに乗ってください。揺れますから落ちないようにしっかりしがみついてくださいよ!!」


フラリアーノが先に飛んだ。次いでアシェリィ、ラヴィーゼ、リコットが飛び乗る。


すると炎のツメを持つモグラは物凄い勢いでカチンコチンに固まった氷に近い雪をいとも簡単に蹴散けちらして進んでいった。


「ヒューヒュー!! GOGOだし~!!」


「こいつぁすげーや!! まるで氷の壁がプリンみてーだぜ!!」


「わあぁぁ……すごい熱量!! こんな幻魔げんまと契約できるなんて……」


10分経つか経たないかといったところで一行は目的地についた。


「ここが氷結窟ひょうけつくつです。ここからが本番です。モルモラの熱源を切りますよ。それと同時に洞窟内に入ります。各々(おのおの)が最適と思われる方法で低温をやり過ごしてください。では、行きますよ!!」


その洞窟はただただ美しいとしか言いようがなかった。


透明、水色、青で埋め尽くされた場所でところどころ鏡のように透き通っている。


だが、あまりにも過酷で吐いた息さえこおる寒さだ。


アシェリィは早速、覚えたてのアイシクルール・フォルムを試してみた。


彼女は一瞬で水が氷に変化するイメージを思い浮かべた。


すると髪と瞳の毛がすぐさま水色に変色し、キラキラと輝き出した。


「おお。すごい。寒くない!!」


すぐにフラリアーノが警告した。


「アシェリィさん!! 当然ですが、フォルム・チェンジには制限時間があります。できるだけ弱く、長く維持するように心がけてください。寒さを感じ始めたらすぐ私の近くまで戻って休憩きゅうけいすること!!」


アシェリィはそれを聞いてこっくりとうなづいた。


ラヴィーゼはび出したスケルトンで体をおおっていた。


「ヌル・エレメンタルで万能属性化した骸骨共がいこつどもで身をおおう。こいつらアーマーとして運用すると各種属性防御が上がるんだ。極寒でも通用するかと思ってね。かなり寒いが、逆に言えば寒いですむレベルで活動には支障がない。打たれ強くもなるしな。まぁ引剥ひっぺがされちまったらあたしも先生のところへ避難だな」


リコットはまた隠し種を用意してきた。


「ホット・トマティ・ファイア・フライズ・サウザンス・サモンッ!!」


彼女の足元からふわふわと無数の赤い灯火ともしびのようなものが浮き出てきた。


「これはトマティ・サウザンズ・ファイアフライ。対象者の体温を保つ妖精だし。オートサーモスタットだからいつでも適温なんだし。ついでに近づく敵をあぶる能力があるし。ここぞというときのために温存してたし」


最初の頃はリコットに対して他人の幻魔げんま憑依ひょういさせるしか能がないと思っていたアシェリィとラヴィーゼ。


しかし実はかなりの実力者であることがわかってきた。したたかに能力を隠し持っていたりするのである。


まだまだ底知れない力を秘めているとフラリアーノも認識を改めた。


「見事です。3人共、寒さの突破は問題ないようですね。では課題2つ目。盗掘している密猟者を探して撃退します。これもあなた方に任せますのでよろしくお願いします。危なくなったらすぐ助けに入るので思いっきりやってください」


アシェリィは得意げに腕まくりをした。


「よーし。犯人探しなら私の……」


「ダメです」


骸骨犬がいこつけんのバルクをぼうとするとフラリアーノにさえぎられてしまった。


「アシェリィさん。あなた、不死者アンデッドの幻魔を呼ぼうとしたでしょう? それは禁忌属性きんきぞくせいです。ラヴィーゼさんのように適正のある者でないと体や精神をむしばまれるのです。今後、絶対に呼ばないように」


珍しく強い口調の教授に押されてアシェリィは引き下がった。


「ま、そういうこった。こういうまわしい魔術はあたしみたいなやつが使えば十分なんだよ。確か……ガードマンと鉱山の人がられたんだよなぁ? その無念が固まった怨念おんねんが犯人にくっついてるはずだ。それをあたしの直感で追う。この調子じゃ間もなく戦闘になるから警戒をおこたらず着いてきてくれ」


ラヴィーゼはスケルトンの鎧と剣と盾をまとって先頭を歩き始めた。


骨というと軽く見えがちだが、彼女の場合はかなり重装備になっていて、分厚ぶあつ甲冑かっちゅうを着ているのと大差無さそうだった。


ガシャン、ガシャンと重厚感じゅうこうかんのある音を立てて歩いていく。


「このままあたしが斬り込んでいく。今日はリコット先生が絶好調だからな。アシェリィは一番後ろからフォローして妖憑フェアリー・ポゼッションに回ってやってくれ」


ラヴィーゼはさきほどの出来事で調子が狂い気味のアシェリィのフォローをした。


彼女の的確な指示に3人は団結した。


一応、班長はアシェリィということにはなっているが、3人の間ではあまり意識されていない。


3人の実力がほぼ同じなのと、対等な関係なためにそんな感じになっている。


実際に作戦立案をラヴィーゼがすることもままある。


リコットだけはリーダーっぽい立場から退いている部分もあるが、アシェリィとラヴィーゼは互いによく意見を出す。


そして、メンバーが納得してより良い方の案を柔軟に選択することがほとんどだ。


アシェリィが立てるのは柔軟性のあるもの、ラヴィーゼが立てるのは斬り込み寄りの作戦となる事が多い。


ということは今回は一気に攻め立てる攻撃型の戦略になるのがわかっていた。


「そこだ。氷の柱の影。隠れてるつもりだろうが、怨念おんねんがまとわりついてるぜ。あたしが右側から突っ込むから、左に飛び出してきたとこをリコットとアシェリィで頼む。リコット先生、アシェリィ、やりすぎないようにな!!」


2人は無言でOKサインを出した。


フラリアーノは少し離れているところで万が一に備えて臨戦態勢りんせんたいせいをとっていた。


「いくぞ!! くらえオラァ!! チェストォォォ!!!!!!」


ラヴィーゼは重たい骨の剣を振り下ろした。おびき出すためにあえて直撃を避けた。


「ガキィンキィンキィンキィン…………」


氷が砕かれる音が洞穴どうけつに響く。


「ひっ、ひいいい!!!!!!」


すぐに骸骨剣士スカルナイトは声をかけた。


「こいつぁ三下さんしただ!! 確実に決めてけ!!」


アシェリィが腰のサモナーズ・ブックを何回か暗号のようにノックした。


するとヒレの美しい黄色の雷の魚、フェンルゥが出現した。


妖憑フェアリー・ポゼッションいくし~~~~~!!!!!!!!」


リコットはフェンルゥを体に取り込んだ。


すると髪の毛が逆立ち、色は金色に変化してバチバチと激しい電撃を帯びた。


展開しているファイア・フライと混ざってまるで怒りに燃え上がっているようにも見えた。


「う~ん、手加減しないとショック死しちゃうし?」


彼女は雷のエレメンタルがついており、反射速度が尋常じんじょうでなく加速していた。


「とりあえず、手刀くらいならしなないっしょし~~~」


目にも留まらぬ早業わやわざ密猟者みつりょうしゃに一撃を浴びせた。


「あっ、あっ……ぐうっ……」


相手はバチバチと音を立てて、無数の火の粉であぶられた。そしてひねり出すような悲鳴をあげてダウンした。


「ふふ~ん。余裕だし。所詮しょせん、密猟者なんてこんなもんだしぃ?」


慢心まんしんしきったリコットに向けてラヴィーゼが叫んだ。


「まだだ!! まだひそんでるやつが居る!! 構えろ!! ……へへ。コイツはダンチだぜ」


骸骨がいこつの少女はじっとり冷や汗をかいていた。


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