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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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雪女!? アイシクルール・エレメンタル・フォルム

クリジュナの雪原は深く、何も対策をしないで移動すると埋もれてしまうほどだった。


なので、教授の幻魔は都市ギリギリにつけて着陸した。


「昼だと悪目立ちしますからね。夜まで待つことにしました。ささ、街に入りましょう」


小都市ジュナムの近辺に降り立った3人の生徒達は足早に雪原を抜けて市街地へ入った。


そこには驚きの光景が広がっていた。


「うわ~。建物が全部、雪で出来てるよ~!!」

「”カマクラ”ってやつだな。それにしては凝った作りで本物の家みたいだ。っていうかどの家も城みたいな装飾そうしょくだな」

「こんな寒いのに雪の中に居るとかアホだし~!! 絶対、こごえ死ぬし~!!」


ジュナム市街地は小さな城が集まったような見た目をしていて、それぞれ異なった色の明かりで照らされていた。


とてもロマンティックな夜景である。


思わず女子3人はその美しい景色にうっとりした。


だが、しばらくすると3人の体はガタガタと寒さのあまり震えだしていた。


「さ、さ、寒くない?」

「あ、ああ、ああ。さ、寒い……」

「ぶっしぇ!! さ、寒すぎるし~~~~!!!!!」


こんな雪国に軽装できているのだ。無理はない。


だが不思議なことにあたりを見渡すとそうやって騒いでいるのはアシェリィ達だけなのである。


待ちゆく人々は皆、涼しい顔をしているし、ミニスカートの女性さえ居る。


3人をみかねた引率教授は幻魔げんまび出した。


「レッド・モス・グリーン・グリーン・レッド!! サモン、モジーニ!!」


召喚術士サモナーの足元に赤いこけが出現した。


「このこけのそばに居れば寒さはなんとかなるはずです」


すぐさまアシェリィとラヴィーゼとリコットはフラリアーノを中心とする幻魔げんまにひっついた。


「……あのですね。年頃の女性がむやみに異性に密着するのはどうかと思います……」


寒さにおびえる3人は担任の声に聞く耳を持たない。


「はぁ……。ここの住民の人たちはオーギュの洗礼せんれいを受けているのですよ。洗礼せんれいですよ。セ・ン・レ・イ」


それを聞くと熱心に冒険譚ぼうけんたんを読みあさっているアシェリィが反応した。


「えっ? オーギュって……。もしかして寒い地域で生まれたばかりの子供に炎のオーブの欠片かけらを埋め込むっていう、あの儀式ぎしきですか?」


教授は満足げに首を縦に振った。


「ええ。そうです。よく勉強していますね。アシェリィさんには加点しておきましょう。クリジュナの人たちはほとんどがオーギュ教の教徒であり、誕生して間もなく洗礼せんれいをうけます。すると寒さに対する耐性がつきます。さきほどのムカデに乗ったときのようにいつも体がポカポカしているのですよ」


言われてみれば待ちゆく人たちの顔は生き生きとして、紅潮こうちょうさえしているようにも見える。


「まぁその反面、暑い気候……いえ、常温でさえ苦手になってしまうのですが……。オーブの欠片かけらを除去することも可能ですが、かなり高度で精密せいみつな技術と施設が必要になります。ちなみに自分でオーブの埋め込みを選択する権利はありません。クリジュナのたみの96%は代々の敬虔けいけんなオーギュ教徒ですから。先程言ったようにほぼ全員が生誕時せいたんじにこの炎のオーブを埋め込まれていることになります。そうでない人は限られたホットスポットでしか生活することが出来ません」


フラリアーノはなんとも言えないといった様子だ。


「ん~、なんだかなぁ。熱の加護はありがたいっちゃあありがたいけど、自分で選択できないってのはちょっとなぁ……。ましてや常温まで厳しいとなるとな」


ラヴィーゼはワザとフラリアーノに体を擦り付けた。


(う~ん、いいオトコ♥)


色気づいた少女はドサクサにまぎれてイケメンを堪能たんのうした。


「う~ん、でも、ここで暮らしていくならオーギュ教徒の家に生まれたほうが無難だし~。ホットスポットもそう多くはないはずだし~」


リコットも震えながら教授の左腕にしがみついた。


「常温や暑いところに行けないなんて、冒険するなって言ってるようなもんじゃない!! 私はクリジュナに生まれなくてよかったかな~」


アシェリィまでもが寒さに負けて先生の右腕にくっついた。


生徒にイタズラで抱きつかれることも少なくないフラリアーノはこの濃厚のうこうなボディタッチになんの劣情ももよおさなかった。


別に男性として死んでいるわけではないが、少なくとも生徒とは恋愛関係を持つ気が全くないだけだ。


はたから見るとイケメンが3人の少女をはべらせているという異常な光景に移った。


「あのですね、皆さん。繰り返しになりますが、いくら寒いからといって町中で女子が男性にベタベタとくっつくのはどうかと思いますよ。特にラヴィーゼさん。わざとくっついてるでしょう? このこけじんとして展開しているので私に密着していなくても効果はあります。試しにちょっと離れてみてください」


アシェリィとリコットはフラリアーノの腕から離れて赤いコケの上に乗った。


「お~!! あったかし~!!」

「わあああぁ!! 春みたいだね!!」


2人とも、必死で気づかなかったが、確かにこけの周辺は暖かい。


1人だけラヴィーゼは男性教授に抱きついていた。


(ムッフッフ~♥ こんな抜け駆け、他の女子連中に見られたらぶっ殺されるぞ。あ~いい香り~♥)


「はぁ……。しょうがないですね。ラヴィーゼさん、それ以上抱きついていると減点にしますよ」


それを聞いてベッタリ抱きついていた少女は飛び退いた。


「ちょ、ちょちょ、ちょっとした冗談ですってば!! ああ!! そんな冷たい目で見つめないで!! 真面目に!! 真面目にやりますからぁ!! 何卒なにとぞ、減点はご勘弁をぉ!!」


アシェリィとリコットはこれを見ていてゲラゲラ笑った。


フラリアーノは軽くき込むと解説を始めた。


「コホン!! これは追尾タイプの陣魔法サークル・マジックですので私についてきます。ですから、私から離れすぎると効果が薄れてしまいます。そこそこ広範囲をカバーできますが、それでも限界はあります。私も気を配っておきますが、みなさんも不用意に離れすぎないようにしてください」


温暖な空間が確保されて女生徒3人に笑みがれた。


「あぁ、あとまだ言わなければならないことがあります。皆さん、そこの路地裏ろじうらへ入ってください」


そこは人気のないような暗がりだった。こんな場所に来て何をすると言うのだろうか?


「アシェリィさん、貴女あなた、気づいていないのですか?」


緑髪の少女は首をかしげた。


「ん? 何のことですか?」


フラリアーノはサモナーズ・ブックを開いた。


そのまま後ずさりしながら私から離れてください。


意図いとのわからない指示にアシェリィは怪訝けげんな顔をした。


戸惑いながらも一歩、また一歩と後退していく。


段々と温もりが薄れてきた。このままではカゼをひいてしまうレベルだ。


「クリスタリル・ジパーニ・アイス・クリアブルー!! サモン・氷鬼トウキ!!」


ジパに住むとされる鬼という怪物の大きな顔が出現した。


出現したのは顔と太い両腕だけだ。見た目からすると氷属性に違いなかった。


明らかな殺気を持ってその幻魔げんまは拳を振り上げた。


「せ、先生!! 何を!?」


あまりのあつにアシェリィは腰が抜けそうになって動けない。


「荒っぽい手段ですが、気づいていないならこじ開けるのもまた一つの手段です!!」


教授しか現状を把握できない中、鬼は冷気に満ちた拳を叩きつけた。


「アシェリィ!!」

「アシェリィ~~~!!!!」


これだけの使い手の本気を受け止めたのだ。ただで済むわけがない。


だが、気づくと氷の一撃はアシェリィを避けるように割れていた。彼女本体にダメージは無いようだ。


強烈な攻撃を受けたはずの少女は尻餅しりもちをついたまま恐る恐る片目を開いた。


「あ、あれ……? 痛くもかゆくも……。寒くもないよ?」


ラヴィーゼとリコットがこちらを指さしてわなわなしている。


「アシェリィ、髪!! 髪!!」

「い、いつのまに染めたんだし!? 目まで水色になってるし!!」


「え……?」


アシェリィが自分の毛先をつかんで自分の髪の毛の色を確認するとそれは美しい水色になっていた。


キラキラ光っていて、シャルノワーレそっくりだ。


目の方は自分では確認しようがないが、どうやら瞳も水色になっているらしい。


「気づきましたか? 氷属性は水属性と非常に親和性の高い属性です。つまり、ちょっとした工夫で氷属性の適性や耐性も大幅に上がるのですよ。貴女あなただけではこの覚醒かくせい……アイシクルール・エレメンタル・フォルムに気づくのに時間がかかりそうでしたので体に叩き込ませてもらいました。今の貴女あなたはほとんど冷気を通しません。むしろ吸収しているくらいです。……もしかして、その様子だと気づいていないかもしれませんが、今の貴女あなたならおぼれることもありませんよ?」


思わず水色の髪のアシェリィは吹き出した。


「ぶっふぅ!! 先生、それは流石に冗談ですよね!?」


フラリアーノは目をつむって首を左右に振った。


「いいえ、たとえ息継いきつぎしなくとも、水が体中に満ちても何ら水中での活動に問題はないでしょう。たとえ塩湖えんこや海水であっても。海龍様の加護ですね」


アシェリィは自分の体の変貌へんぼうに素直に驚きを感じた。


「はえ~。なんか人間離れしちゃって……すごいことになってきちゃったぞ。これならウィナシュ先輩と水中旅行出来たりしちゃうのかなぁ……」


普通はこれくらい体の特性が変わると多少なりとも恐怖を感じるところだが、アシェリィは全く気にしなかった。


間もなくして彼女の髪の色が緑に戻った。


「うわ、寒っ!!」


彼女はあせりながら赤いこけに転がり込んだ。


「今はその程度の時間しかフォルム・チェンジ出来ませんが、鍛錬たんれんをつめば長時間、維持することもできるはずです。あれこれやってみて、自主トレしてみてください。もっとも、今回の一件でごく短時間ではありますが氷属性をやり過ごせたのでタイミングさえ誤らなければ氷の攻撃は喰らわずにすむということになりますね」


フラリアーノは両方の泣きぼくろを引き上げてニッコリと笑った。


「すっげ~なぁ!! あたしにもそういううらテクないの?」

「あたしもなんか覚醒かくせいしたいし~」


ラヴィーゼとリコットは期待の目でフラリアーノを見つめた。


「2人はまだこれといって爆発的な伸びはありませんが、地道に努力していけば確実にその時は来ます。順番に関して言えばたまたまアシェリィが早かっただけです。ですから焦らずにやることですね」


「チェッ」

「そんなこったろ~と思ったよ」


不死者アンデッド使いと妖精使ピクシストほほふくらましてむくれるのだった。


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