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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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氷結窟とB・ORCA

フラリアーノ教授とアシェリィ、ラヴィーゼ、リコットの3人チームは学院裏のプライベート・ビーチに集まっていた。


細目でいつも笑っているように見える教授は生徒たちに語りかけた。


「今回、遠足に行くのは氷結窟ひょうけつくつのあるクリジュナ共和国です。氷結窟ひょうけつくつの周辺は飛行許可がないと付近の上空を通過することは出来ません。よって、上陸して陸路で向かいます」


ラヴィーゼが思わずツッコミを入れた。


「ってぇ!! 飛行許可降りてないのかよ!! あたしたち、一応は環境保護目的だろ!? なんでダメなのさ!!」


教授は残念そうに首を左右に振った。


氷結窟ひょうけつくつは生態系だけでなく、別の意味でも厳重保護地域ですからね。授業で習ったはずですよ? あそこからはクリジュナの貴重な資金源である氷晶石ひょうしょうせきが多く産出されているんです。だから、洞窟どうくつに立ち入る許可が出ただけでも異例中の異例なんですよ? 国家機密の中枢ちゅうすうに土足で人を上げるようなものです。国際的に知名度や信頼度の高いボルカ先生の紹介状がなければ探索さえ許可されないでしょう」


そう言うとフラリアーノは紹介状をペラリと開いてみせた。


「ふ~んだし……ボルカせんせーってそんな評判良いんだし?」


リコットを含め、思わず生徒3人は顔を見合わせた。


生物全般に詳しくてデキるお姉さん的な存在という認識はあったが、国際的にも有名だとは初耳だ。


「そりゃ確かに自分で『国際的に有名でーす』なんて言うわけ無いし、あたしらが知らないのも無理はないか」


担任教授は額に手を当てた。


「はぁ……。ラヴィーゼさん。勉強不足ですよ。生物関連の研究レポートの最後の署名にBビーORCAオルカという名前を見たことはあるでしょう?」


ラヴィーゼは難しげな顔をして頭をひねった。


「言われてみれば……しょっちゅう見かけるな。……まさかその名前って……」


フラリアーノはうなづいた。


「ええ。BビーORCAオルカとはボルカ先生の本名なのです。ボルカはニックネームなのですよ。だから本当はビー先生、もしくはオルカ先生と呼ぶのが正しいのです。まぁ先生自身が愛称を優先しているので誰もそんな呼び方はしませんが」


それを聞いた3人は三者三様さんしゃさんように驚いた。


「えー!? じゃあ生物学Ⅱ-βの著作者のB・ORCAってボルカ先生じゃないですか!! 教科書まで書いちゃうとか半端ないですって!!」

「むむむ……私も魔法生物学のレポートを書いてたときに大抵の研究レポートに個人や連名であちこちに載ってたぞ……」

「あたしが小さい頃によく読んでた生物図鑑の著者、確かB・ORCA先生だったし!!」


教授は開いた紹介状をたたんだ。


「そういうことです。……と、いうわけでボルカ先生の依頼をしっかりとこなしにいきましょうか。まずはクリジュナ南西のジュナムという小都市に上陸します。そこから北東の位置に氷結窟ひょうけつくつはあります」


話を聞いていたリコットが寒くもないのにガタガタふるええだした。


「せ、センセー……クリジュナまでどうやって行く気だし? ま、まさかこの間みたいに空を猛スピードで飛んでくわけじゃないし?」


フラリアーノは顔色一つ変えずに答えた。


「いえ、猛スピードで行きます。空を」


流石にこれにはアシェリィも顔がひきつった。


「せ、先生……さすがに何かしらの防寒対策はしていくんですよね……?」


雪だるまがらのネクタイをしたスーツ姿の教授はかたをすくめた。


「ハァ……。別に私はスパルタ派ではないんですけどねぇ。よっぽど遠足にイヤな思い出でもあるのでしょうか? 安心してください。ちゃんと防寒対策はこちらでしていきます。それに遠足なんですから見聞けんぶんを深めることも大切です。余裕を持ってジュナムを見学する時間をとりますよ」


火山の遠足とは全く違う待遇たいぐうに3人は安堵あんどした。


同時に絶対に裏では何かあると思わざるを得ないのもまた事実だった。


「では、早速行きますか!! ルビー・レア・クリムゾナー!! サモン・グリステルテラ!!」


フラリアーノがそう詠唱えいしょうするとまるで溶鉱炉ようこうろから取り出した鉄のような見た目をした幻魔げんまが現れた。


「ジュウウウウウウウウウ!!!!!!!!」


モクモクと白い煙があがる。目をらすとそこには赤みを帯びた大きくて長いムカデが居た。


「彼はグリステルテラ。炎と金属属性の幻魔で、触れているものを保温する能力を持っています。つまり、またがっていれば寒い思いをせずにすむということです。落っこちたりしなければ……ですが」


先生はそう言うが、オレンジ色に輝くムカデの見た目は温かいを通り越して滅茶苦茶めちゃくちゃ、熱そうに見えた。


時折ときおり、ジュウジュウと音を立てて水蒸気を放っている。


「どうしました? 乗らないんですか?」


自分から乗れば良いものを、フラリアーノはあえて3人の勇気を試したのである。


こうなるともう間違いなくアシェリィが一番乗りだ。


「ほっ!! よっと!!」


彼女は走り出すと勢いよくジャンプしてムカデの幻魔げんまに飛び乗った。


ラヴィーゼとリコットはあきれたようにその反応を見ていた。


「やっぱりこうなるよなぁ」

「もうちょっとビビってもいいと思うし~」


グリステルテラに乗った少女は不思議そうな顔で自分の体をながめた。


「うわ~。なにこれ~。あったか~。っていうか暑いくらい。ポカポカだよ~。体のしんからあたたまる感じ。2人もおいでよ~!!」


2人ともあまりいい顔はしていなかった。


「ムカデってのがな~。生理的に厳しめ」

「それ同意だし~。カサカサしてるの気持ち悪いし~」


愚痴ぐちる彼女らにフラリアーノ教授は声をかけた。


「別に急かすわけではありませんが、ここで時間をつぶしているとジュナムでの見学時間が減ってしまいますよ? ジュナムは氷の宮殿、フリージング・パレスをはじめとして世界でも屈指くっしの美しいみやこと言われています。到着が遅れると駆け足で見て回ることになりますが……」


彼がそう言うとラヴィーゼとリコットは手のひらを返した。


「乗る!! いますぐ乗りますぅ!!」

「仕方ないし~。そこまで言うなら仕方ないし~」


2人は駆け出して燃えるようなムカデに飛び乗った。


「ほおおわああああ!!!!! 全身がポッカポカだぜ!!」

「おおお~~~!!!!! これなら雪国の上空でもいけそうだし~!!」


チーム全員が幻魔げんままたがったのを確認した教授はムカデの頭部に同じようにまたがった。


「クリジュナ共和国までは3日と半になります。食料のレーションは幻魔の中央、トイレは最後尾の尾っぽに寄りかかりながらしてください。では、ジュナムめがけて一気に行きますよ。落ちると死ぬほど寒い思いをするのでくれぐれも滑り落ちないでくださいよ」


するととぐろを巻くようにして幻魔げんまはミナレートの空に急上昇していった。


前回も思ったことだが、フラリアーノ教授の幻魔げんまは恐ろしく速い。


その気になれば1週間かからずに世界一周出来るくらいのレベルだ。


火山のときは風に吹かれて寒いこともあったが、今度はグリステルテラのおかげで体が火照ほてるように温まっている。


しかも見てくれに似合わず、オートで暖房を切ったりつけたりする機能もあるらしい。


暑い地域ではほどほどに、寒い地域ではガンガン熱を放つのである。


クリジュナ共和国は北方砂漠諸島群ほっぽうさばくしょとうぐん……ジュエル・デザートの東部に位置している。


ノークタリアは北に行けば寒く、南に行けば暑いという道理は通用しない。


砂漠と雪国が隣接していることも珍しくないのである。


クリジュナの飛行規制エリアを北方砂漠諸島群ほっぽうさばくしょとうぐん寄りに避けて飛行していく。


「わあ~。ジュエル・デザートかぁ~。なんか懐かしいな~。まだみんなとの遠足から半年とちょっとくらいしか経ってないんだね」


アシェリィは日差しを手のひらでさえぎった。


一方のラヴィーゼはまたの下のムカデを見つめた。


「しかし、この幻魔げんま、ほんと良く出来てるな。砂漠が間近になるとポカポカが無くなったぜ」


リコットも見つめながらピタピタと軽く叩いた。


「おまけに慣れるとすごく座り心地がいいし。なんか愛着わいてくるし~」


それを聞いていたフラリアーノが笑い声をあげた。


「ははは。現金なお嬢さんたちですね。び出した時点でマナを支払っているので、今の私に負担はかかっていません。しかし、性能がいいということはそれなりに格が高いということ。この幻魔げんまを呼ぶと氷属性との仲が悪くなるんですよ。だからそこをうまい具合に埋め合わせないといけなくなります。これがまた頭の重い問題で、同じ属性の幻魔や偏った召喚サモニングをすると本来の力を発揮できなくなってしまうんです」


ラヴィーゼとリコットはあまり多くの属性の幻魔げんまを使わないのでピンと来なかったが、アシェリィにはそれがよくわかった。


「私もまさか水龍様とのパイプ役としての契約で炎属性が全解約されるとは思っても見ませんでした。他にも、同じ属性の幻魔げんまばかり呼んでるとやはりいい顔はされませんし、コミュニティからの扱いも悪くなりますもんね。確かに複数属性を使いこなすのは有利に働く事も多いのですが、ラヴィーゼみたいに吹っ切れた使い方はできないですね」


ラヴィーゼは結構ある胸を張った。


「まーな。他の属性には嫌われる傾向があるし、そのための不死者アンデッド属性だからな。これはじいさんのじいさんのそのまたじいさんからの教えでもある。中途半端に属性を使い分けるなら1本にしぼれってな。炎を軽減するテクニックはあったが、この間のヌル・エレメンタルでよりその精度があがったからな。1本でやってく自信がついたよ」


リコットはなんとも言えない表情だ。


「あたしは属性のなかがむっちゃ悪いし。気まぐれでび出してるからだと思うんだけど。だからムラが生じるんだし。それはわかってるけどし……」


そうこう会話をしている間にちらほらと雪が舞い始めてきた。


感嘆かんたんの声を上げる前に小雪は一気に吹雪ふぶきへと姿を変えた。


ムカデは煌々(こうこう)と輝き、熱を放って一行をまもった。


吹雪ふぶきの音で大声を出さないと声が聞こえない。


「皆さん!! 見えましたよ!! あの光が小都市ジュナムの光です。このまま一気に付近の荒野に着陸しますよ!!」


フラリアーノがそう声をかけると一気に4人の乗った幻魔は降下し、都市の近くの雪原に着陸した。


彼らを待ち受けていたのは色とりどりに光る美しい都市だった。


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