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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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ビック・ピンク・ボミング・パーマの誕生

ニコニコと笑っているように見える召喚術科サモニング・クラスのフラリアーノ教授がアシェリィ達の班を呼び出した。


なんだかイヤな予感がする。そうラヴィーゼとリコットは思った。


ひとみを輝かせているのはアシェリィだけである。


「はい。なぜ呼び出されたのかわかりますね? そう、また遠足に行きます」


髪の毛の色がコロコロ変わるきまぐれやのラヴィーゼは不満げだ。


今は真っさおなブルーハワイのような髪色をしている。


「え~~~。まぁ場所にも寄るんだけど、普通のピクニックになるわけないし……」


リコットはもっと強く反発した。


「うえぇ!! センセー、どーせまた辺鄙へんぴなところへ引っ張ってく気だし!!」


いっぱしの冒険者イクスプローラーであるアシェリィは期待に胸をふくらませた。


「それで!! それでそれで!! 今度はどこに行くんですか!?」


完全に興奮してしまっている。このリーダーの有様ありさまに他の2人はあきれた。


それと同時にリーダーだけを放っておくわけにもいかず、各々(おのおの)が腹をくくった。


「え~とですね。前回の遠足は熱いところでした。ですから今度は……」


真っ先にリコットが耳をふさいでしゃがみこんだ。


「ぎゃび~!! サムいところは絶対カンベンだし~!! 第一、ライネンテ東部とどんだけ気温差あると思ってんのかしマジで~~~!!」


そんな彼女のかたにラヴィーゼが手を置く。


あきらめろリコット……。単位を人質に取られている以上、私達はたとえ地獄じごくの果てにでも遠足しなきゃいけないんだから……。それに見ろ。あのアシェリィの燃えっぷり。もしかしたら案外、暖かい遠足になるかもしれないぞ……」


リーダーのアシェリィはにっこり笑って遠足の詳細を待ち遠しく感じていた。


「うわぁ~!! 寒いところってあんま行ったこと無くって!! すっごく楽しみです!! で、先生、一体どこへ遠足するんですか? ノットラント島とかですか?」


彼女のみを見て、満足気まんぞくげにフラリアーノは返した。


「いえ、もっと寒いところ……氷結窟ひょうけつくつに行きます」


まだ現地に行ってもないのにこおったように3人の表情は固まった。


さすがのアシェリィもこの回答にはフリーズだ。


「ひょ、氷結窟ひょうけつくつ……マイナス90℃を下回ることもあるっていうあの氷結窟ひょうけつくつですか?」


アシェリィが恐る恐る聞き返した。


「ええ。そこへ遠足しに行きます。これはボルカ先生からの依頼でして。氷のドラゴン”アイスヴァーニアン”の巣を荒らした密猟者が残っていないかチェックしに行きます。もし、彼らが残っていれば超低温下での対人戦ということになります。私も付いていきますからいざというときはヘルプに入りますが、原則げんそくとしてあなた方だけで撃破してもらいます。極限の環境下でどこまで戦闘できるのかを試すいい機会でもあります」


アシェリィ達は顔を見合わせた。


彼女らの顔は不安に満ちていた。


「え、あ……でも、センセー。あたしら、寒さに有効な幻魔、居ないんだけど……」


アシェリィは難しげな表情をした。


「た、確かに……。私は海龍様との契約で手持ちの炎属性の幻魔は全て消滅してしまいましたし、今後、新たに契約することもできないはずです」


ラヴィーゼはかたをすくめた。


「あたしの不死者アンデッドは特別有利なわけでも、かといって不利なわけでもないな。良く言えば手堅てがたいが、逆に言えば決め手にかける……か」


幻魔を自身に憑依ひょういさせる妖憑フェアリー・ポゼッションの使い手のリコットは首をかしげた。


「う~ん。2人とも環境との相性がイマイチだし。これではあたしは本領発揮できないし~。あっと、ラヴィーゼの幻魔はクッサいし、フケツだから絶対、憑依ひょういさせないし!! 一応、あたしも炎のフェアリーが召喚できるけど、お世辞にも戦闘用とは言えないし……」


3人は頭を抱えてしまった。


そこで、フラリアーノが本題に入った。


「そこで、今回、君たちには幻魔の属性を無属性化するヌル・エレメンタルというテクニックを覚えてもらいます。これは信頼度の高い幻魔の術式に加筆して無属性……というか万能属性として召喚するものです。万能属性なのでどんな相手にも使っていけるという強みがあります。もちろん持ち前の属性も使えます。また、見た目は変わらないので相手のウラを突く戦法が可能ですよ。闘技場コロシアムなどで役立つでしょう。ささ、まずはあなたがたのブックから一体選んでみてください」


そう言われてアシェリィ達は真剣な顔をしてそれぞれのサモナーズ・ブックをめくった。


「ああ、出来るだけ見た目がなんらかの属性をびているものがいいですよ。例えば燃え上がっていれば、まずは水や泥、土で仕掛しかけますよね? ですが、万能属性に出来ていればそれらの攻撃を受けても不利になりません。逆にそのすきを突いて仕掛けることも可能です」


一番最初に声を上げたのはラヴィーゼだった。


「よし、コイツに決定。今まであんたらの前では見せなかった秘密幻魔だ!!」


骨で二足歩行のオオトカゲに乗ってたけの長い黒いローブを深く羽織はおったスケルトンが現れた。


「これがあたしのエース幻魔!! ダイナシア・シュバリエイだ!!」


禍々(まがまが)しい雰囲気ふんいきをイメージさせる見た目だが、不思議と恐怖や嫌悪感けんおかんを感じさせることはなかった。


これはきっと不死アンデッド属性を押し殺して万能属性にしているためだろう。


2人はすぐそれに気づいた。


ラヴィーゼは見事、一発でヌル・エレメンタルを成功させたのだ。


「うわ~」

「ほえ~」


アシェリィとリコットは驚いて自分の背丈の倍より更に大きいのではというほどのシュバリエイの頭部を見上げた。


「バカラッ、バカラッ!!」

「ギャオオオッ!!」


オオトカゲの骸骨がいこつが足踏みして、いなないた。


「オオオオオォォォォッ!!!!!!」


目を爛々(らんらん)と黄色く光らせてオオトカゲの上の騎士は雄叫おたけびを上げた。


この威圧感は尋常じんじょうではなく、それなりにやり手のアシェリィとリコットでもプレッシャーを受けた。


「へへん。どうだ。じっちゃんの血のにじむような訓練の賜物たまものだ。そう簡単にゃ追いつけねーぜ!!」


ラヴィーゼはギュッっと拳をにぎってそう宣言した。


アシェリィとリコットはビビるかと思いきや、逆に張り切った。


「前から思ってたけど、ラヴィーゼはちっと調子に乗りすぎだし~。2人共、まさかあたしが幻魔げんま憑依ひょういしかのうがなくて、せいぜい妖精ピクシーしか召喚できないとおもってるし? な~め~ん~な~し~!!!!!」


そう言うと滅多に取り出さないサモナーズ・ブックをリコットは取り出した。


「ディープ・ディープ・レッド・スカーレッド!! サモン!! フラムディーネ!!」


炎をまとった美しい女王のような幻魔がび出された。


ひらひらと布のようにほむらを帯びている。


半端でない熱気が押し寄せてくる。


この完成度には思わずフラリアーノが感心した。


「リコットさん!! 素晴らしいですよ!! 普段からこの調子で課題に取り組んでください!! 私は氷の幻魔でガードしていますが、これはかなり熱いはず!! このままでは2人が焼けとろけてしまいますよ!!」


しかし、それは杞憂きゆうだった。


まもれ!! ノン・エレメンタルのシュバリエイ!!」


ラヴィーゼは先程さきほどび出した幻魔げんまを盾にし、かばってもらっていた。


リコットが悔しそうに顔をゆがめる。


「チッ!! そうだったし。今のソイツはただの不死者アンデッドじゃないし。だから炎の攻撃は弱点にはならないし!!」


一方のアシェリィは瞳を閉じてリラックスしていた。


まるで故郷のポカプエル湖の底にいるような感覚だ。


(レイク・レスト・レイクズ・ブルー・サモン……アーリエス)


アシェリィの体を分厚ぶあついジェル状の水分の層が包んだ。


この幻魔げんまは耐熱シールドの効果を持つ。


海龍との契約で無名下級ノーネームドから昇格した幻魔げんまだ。


かなりの高温にも耐えることが出来るようになっていて、リコットのフラムディーネ程度ではビクともしなかった。


「ムッキー!! こっちも予想外の反応だし~!! せっかくの私の見せ場が台無しだし~!! フラムディーネ!! 燃やし尽くせェェェ!!!!!」


更に火炎の勢いは増したが、アシェリィとラヴィーゼはうまくやりすごした。


「限界だし!! ぷしゅ~~~~~~!!!!!!」


しばらくするとリコットが膝をついてダウンした。


「ふむ。リコットさんはこのフラムディーネでいいでしょう。ここまで派手に燃えがあっていれば相手はまず炎属性と思い込むでしょうからね。ヌル・エレメンタルに最適と言えるでしょう。それでは最後にアシェリィさん。何か良い幻魔げんまは決まりましたか?」


水のジェルが弾()けてアシェリィが防御姿勢を解いた。


「そうですね~。やっぱりこの子かな。スプラッシュ・ネオン・イエロー!! サモン、フェンルゥ!!」


熱帯魚のライネン・ベタに見た目がよく似た雷を帯びた幻魔が出現した。


「ほう。雷ですか。これも確かに明らかに属性を帯びていますね。相手は地面やゴム属性で攻めてくることでしょう。ですが万能属性化が出来ていれば、それらは弱点ではなくなります。見たところ、かなり速い幻魔げんまのようですからこういったトリックのたぐいとの相性は抜群ばつぐんです。相手が一瞬でも弱点を突いてこようとしたらそのスキを狙うことが出来るでしょう」


フェンルゥはジリジリと電撃を帯びながらちゅうを泳いだ。


ラヴィーゼは腕を組んでその幻魔げんまながめていた。


「ふ~ん。センセーの言う通り、かなり速攻タイプと見た。だが耐久力はどうかな? そっちはゆずれないね」


張り合ってきた彼女にアシェリィは笑って答えた。


「きっといい勝負になるね!! 今度、手合わせしてみようか!!」


それを聞いていたフラリアーノは微笑んで首をたてに振った。


そのわきで忘れかけられていたリコットが立ち上がる。


「な~め~んな~し~!!! あたしだってまだとっておきは何体もいるんだし!!」


これはウソでも大げさでもなく、本当のことだとフラリアーノも、アシェリィも、ラヴィーゼも思った。


皆がまさかここまでリコットが優れた使い手だとは思っていなかった。


だが、なぜだか彼らは苦笑いをしている。


「り、リコット……悪いんだけど……頭プスプスいってるよ」


すぐにピンク髪の少女は自分の頭に手をやった。


毛がちぢれて強烈なパーマ状になっていたのだ。


焦げくさい臭いを放って髪の毛がチリチリしていた。


これはフラムディーネが力負ちからまけしたすえの反動であった。


そう、リコットは強力な幻魔を隠し持つ代わりに不発や力負けすると何かしらのダメージが体に帰ってくるのだ。


「頼むし~!! 遠足の前に髪の毛、整えさせてほしいし~!!!!」


アシェリィとラヴィーゼは強烈な幻魔げんまを呼んだリコットに対して「そんなうまい話、あるわけないよなぁ」と内心で思っていた。


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