●楽土創世のグリモア~おるたなてぃぶ~
楽土創世のグリモア~おるたなてぃぶ~
※当読み切りはIf展開です。本編とは一切リンクしていません。
ノークタリア4号星の衛星軌道上……中型強襲戦艦アリアンヌ艦内において―――
「アリアンヌ、252.6カンデをワープ航行し目標座標1421-788-369-5527β帯に到達しました。SDAを継続展開します!!」
艦は宇宙空間の暗礁に擬態し、目視できなくなった。
「ふむ。この星は発見以来、宇宙空間での活動は全く観測されていない。また、各種メッセージコードやサインによる呼びかけにも反応しない。調査書どおり、文明レベルは地球で言う15世紀程度なのだな。星の外部には干渉できていない……か」
その艦の艦長は勲章のついた帽子を深くかぶり直した。
「コルテス艦長! やはりソララ星系のノークタリア4号星から異常なエネルギー反応を感知しました。間違いありません!! 我々の持つどのデータ波形にも一致しない、未知のエネルギー体反応です!!」
コルテスは副艦長から資料を受け取った。
「ソララ星系探査中、32年前に発見された星、ノークタリア4号星……地形や大気成分などは地球に近いか。知的生命体……ヒューマノイドやデミヒューマンの生息が確認されているようだな。デミヒューマンの存在はともかく、ヒューマンは地球のそれと大差がないと。それより死人が転生するというのはにわかには信じがたいな……」
艦長はペラリペラリとページをめくった。。
「オゼ、私はここに向かうまでこの星のことについてはそれなりに勉強したつもりだ。なんでも、この星の人間は”魔術”が使えるというのだ。どうもその点や死人の転生が納得いかなくてな。スパイ・バグの写した映像資料も見た。魔法のじゅうたんやホウキで空を飛ぶ。サイコキネシスで物体を移動させる。オモチャのような武器で敵を倒す。死者が動く。確かにこれらが映っていたが、そんなオカルトじみたパワーが本当にあるとでもいうのか? 実際にこの目で見ないことには……現実とは思えんのだが」
オゼと呼ばれた副艦長は資料を受け取ると脇に挟んだ。
「32年前、ヒューマノイド型の棲息が可能とされて以来、この星には多くの我が星の諜報員やスパイ・ボットの類が送り込まれています。どの者も艦長と同じ思いを抱いて4号星へ降りましたがいずれも事実であるという報告が入っております。地球の人々がこの星の存在を知ったらさぞ困惑するでしょう。もっとも、それに関しては厳重に秘匿されていますが。その理由は艦長もご存知でしょう?」
艦長は顎に指を当てて思慮にふけった。
「地球には存在しない可能を不可能にする未知のエネルギー体、マナ……か。これに満ちた世界ならば楽土創世のグリモアなるオーパーツの存在もあながち否定できない……。だが私は正直、地球連合の上層部から話を聞いたとき、耳を疑ったよ。自分の欲する楽園を創るオーパーツが存在しているなどと……。宇宙はまだまだ広いものだな」
そうこうしているうちにデッキ前部の女性オペレーターが通信をキャッチした。
「潜伏先の隊員No162、マーカス隊のウォールフからです。回線、つなぎます」
男性の声が聞こえてきた。割と音声はクリアだったが、爆発音のようなものが混じっている。
「アリアンヌか? こちらウォールフ。……ああ。間違いない。監視を続けて32年目にしてどデカいオーパーツのご登場だ。楽土創世のグリモアを巡って戦争が勃発している。このままこの星の勢力がそれを発動するとなると厄介なことになりかねない。この星、全体の文明レベルの衰退も考えられる。早急に手を打たないとまずい」
女性オペレーターは振り向きざまに声をかけた。
「艦長!!」
コルテスは座席シートから立ち上がって腕を振り抜いた。
「うむ。AFT、スタンバイ!! そのオーパーツは彼らには過ぎたものだ!! 手荒な手段だが、武力介入して接収する!! マナを研究して耐久性を高めた特注のA.M.B.Sとマナ弾を発射するM-Rなら少数精鋭でも任務を遂行できるはずだ。いいな、邪魔をする者だけを撃て!! それ以外はむやみに危害を加えず、ターゲットを確保しろ!! 諸君、ノークタリアの運命は君らの双肩にかかっている!! 頼んだぞ!!」
ガスマスクに黒尽くめ、特製アサルトライフルを装備した隊員たちがテレポーター・マシンで次々とノークタリアへと降り立っていく。
30名ほどが部隊を作って戦場に飛び込んだ。
発破をかけたコルテスだったが、内心では釈然としていなかった。
(ここまでして、他の星からオーパーツを無理矢理に奪い取る……。もしやこの人をひきつけ、狂わせる力が楽土創世のグリモアにはあるのか? ノークタリアの文明保護を名目に介入したが、これを手に入れれば間違いなくグリモアは地球連合の研究対象になりる。そしてやがて欲にまみれた権力者の手に渡るだろう。場所が変わるだけの話ではないか……)
コルテスはそれ以上に考えないことにした。
なぜなら彼には楽土創世のグリモアにふれる資格さえないのだから。
彼の背後で地球連合直属の部下であるオゼがニヤリと笑っていた。
~to be Continued?~




