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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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あててんのよ

フライトクラブの一線で活躍するフォリオにおっかけが出始めた。


ツヤのある栗毛くりげにくりんとしたまんまるまなこ


第二次性徴期前の男子特有の中性っぽさ。


それらが相まって非常に愛くるしいルックスとなっていた。


声変わりもしていないし、これなら女装してもバレないのではないかというレベルだ。


普通、おっかけが出ると調子に乗る者が多いが、フォリオはそんなことはなかった。


また、男子にファンができようものなら鼻の下を伸ばしたり、ちょっかいを出すのが普通だ。


しかし、フォリオの場合は未熟なこともあって鼻を下を伸ばすという概念がいねんがないのである。


それが異性に目もくれず健気けなげに頑張っているように見えて、余計に人を引きつけていた。


彼のおっかけは年上のお姉さん方を中心に彼と同年代の少女も混じっていた。


今日も試合会場の前でもみくちゃにされたばかりだ。


「フォリオきゅ~ん♥」

「フォリオちゃ~ん。がんばってぇ~!!」

「今日も活躍、カッコかわいいとこ、見せてね~!!」


フォリオは身長が小さいので女性にひっつかれるとどうしても胸が顔に密着する。


「むぐっ!! あ、あっ……あのぉ……むっ、む、胸が。む、胸がぐるじいです……」


毎回こんな感じなのでフライトクラブの男子はうらめしそうな顔をして彼を羨望せんぼう眼差まなざしで見つめていた。


そんな彼のリズムを乱す存在が居た。


いきなり誰かに尻を平手で強打される。


「ひひっ、ひぃっ!!」


振り向くと見知った顔がそこには居た。


乳触ちちさわってデレデレしてんじゃね~よ」


前に屋敷で親善試合をしたときに、一緒に犯人を捕まえたメイドだ。


確か名をシャーナーと言った……気がする。


フォリオにとっては名前より彼女とのエピソードが印象深く残っている。


「は、初めてなのにあんなホウキの乗り方して……も、もうおまたは痛くなくなったの? おお、お転婆てんばメイドさん」


シャーナーはいっちょ前に乙女の恥じらいを見せた。


「バッカ!! お前!! 誰があんなくらいで痛がるか!! その……ちょっとしびれただけだ!!」


初対面から彼女は強引だったのでフォリオは彼女に関して心良く思っていない。


なので過ぎたことをあえてし返した。


「し、シビレた? お、おまた押さえてガクガクしゃがみこんじゃったのに? ほほ、ホントかなぁ?」


ホウキ少年は見かけによらず、こういった言い合いには強く相手のスキを突くのは上手かった。


シャーナーに周囲の視線が集中する。


尻叩きで冷やかすどころかこんなやつに返りちにされてしまった。


そうメイドの少女は思ったが、それでも彼女は毎回、冷やかしに現れるのである。


そう、本人は気づいていないが彼女もフォリオの立派なおっかけなのである。しかも熱心な部類に入る。


だが非常に罪づくりな事に、歳の割に幼い少年としてはなぜ自分がおっかけられているのかよくわかっていないのである。


周りからめられたり、はげまされてはいるのだがフォリオはいつも自分に自信がない。


小さい頃から時代遅れのホウキ使いとしてバカにされてきた人生経験はなかなかくつがえせるものではなかった。


彼の独特などもぐせはその頃についてしまったものだ。


発言しようと思えば叩かれ、発言しようと思えば叩かれ……。


その繰り返しでフォリオはスムーズに言葉を発することができなくなってしまった。


だが学院生達は変わり者も多いし、どもり程度では誰も気にかけはしない。


それは今まで自分のしゃべり方に強いコンプレックスを持つ少年にとっては救いだった。


それでも、彼がクラスやフライトクラブの環境に馴染なじんだかといえばいまひとつ踏み込めない距離感があった。


周りからは優秀と思われていて、向こうからは好感をもって接触される。


だがイジメられていた期間が長いあまり、こちらからはどう接していいかわからないのである。


クラスで話しかけられたり、飲み会でコミュニケーションをとっても愛想笑あいそわらいするのが精一杯せいいっぱいなのだ。


フォリオは自分のこういうところが大嫌いだった。


皆の輪に加わって楽しくおしゃべりできたら。何度そう思ったことか。


でも自分はこのどもりだし、下手したらまたイジメられかねない。


そう思い込んでいる彼は負のスパイラルにおちいっていた。


フライトクラブの部長など心を開いている人物は何人か居るには居るが極めて少ない。


試合後になんとなくそんな事を考えたフォリオは自分のチームメイトに意識が行った。


(イクセント君は……何考えてるかわかんなくて怖いなぁ……)


(シャルノワーレさんもキッツイ性格してるし……。おっかないなぁ……)


(ジュリス先輩は確かにいい先輩だけど元が怪物だったし……食べられちゃいそうだなぁ……)


そこまで考えて、フォリオは自分が笑みを浮かべているのに気づいた。


(アシェリィ……。そう。入学時からずっとボクに優しくしてくれて、話も聞いてくれる。ちょっと危なっかしいけど頼りになるリーダー……。まるでお姉ちゃんみたいだなぁ……。お姉ちゃん? いや、お姉ちゃんとは違うかな。なんだろう。このモヤモヤした感覚……。な、なんだかヘンだな。このドキドキ……どうかしちゃったのかな? カゼかな?)


ホウキ乗りの少年は緑色のロングヘアを揺すり、笑顔で振り向く年上の女子を思い浮かべた。


「ハァ……」


思わずため息が出る。この体の不調はなんなのだろうか?


1人、観客席にポツンと残っているとシャーナーがやってきた。


「よっ!! 今回もすごかったなぁ!! あたし、ライネン・ラグビーはよくわかんないけど、5人抜き!! もうスカッっとしたねありゃあ!!」


興奮する彼女と対象的にフォリオは憂鬱ゆううつそうな顔をしていた。


この際、誰でも良い。この原因不明の体調の悪さをうったえたかった。


「ね、ねえ、し、シャーナー。だだっ、誰かを思い浮かべて、み、妙に胸がドキドキすることってある? ぼぼっ、ボク、び、病気なのかなぁ……」


突然の質問にガキんちょメイドは頭をひねったが、割とすぐに返事を返した。


「胸がドキドキってそりゃあお前……恋だよ」


少年は少女を見つめ返した。


「こ、こい? ささ、魚の?」


思わずシャーナーは彼の頭を叩いた。


「アホか!! 恋愛の恋だよ。恋愛の!!」


それを聞いてフォリオは今ひとつピンと来なかった。そのため、少女に聞き返した。


「じじ、じゃあさ、し、シャーナーはさ。い、今まで恋したことあるの? 胸がドキドキした事は?」


いきなりたずねられて彼女はあたふたした。


「そりゃあ、お前、恋愛の1つや2つ……。そもそも今もドキドキしてるっていうか……って何を言わせるんじゃ!!」


再びシャーナーはフォリオをひっぱたいた。


フォリオは極めて鈍感というか、まだ恋愛がよくわかっておらず彼女のさりげない好意のアピールに全く気づかなかった。


「い、痛っ、いたいよぉ!! ぼぼっ、僕、き、君みたいな乱暴な女の子、だ、だ大嫌いだから!!」


そう言い放つとフォリオはホウキと共にツカツカとアリーナを後にしてしまった。


メイドの少女はついやってしまったとしょんぼりとした。


「ガーン……ついまたやってしまった……。いや、確かにあたしが悪かったかな……。ははっ、まーた嫌われちった。いつになったら距離をちぢめられるのかな。なんであたし、あんなナヨナヨしたやつを……」


そうは言っては見たものの、胸像きょうぞうの犯人を追ったときに見たフォリオの顔は凛々(りり)しく、とても魅力的だった。


試合においても同じである。


最初の頃は逃げてばかりだった彼だったが、最近は部長や先輩ににドヤされるとしっかりそれに答えるようになった。


それはまるでムチのみが原動力の動物のようだったが、フォリオの素質もあって見てくれは一人前に見えた。


それだからおっかけが増え始めたわけである。


もちろん観客はフォリオがヘタレ気味なのを知っていたが、それと逆に試合で活躍するというギャップにかれるお姉さんたちだった。


かなり美人だったり、かわいい少女のファンも数多く居る。


自分を”並”と自覚するシャーナーは焦りを覚えていた。


「アイツ……スキなやつとかいんのかな……。それともおっかけの誰かを彼女に選ぶんだろうか……。あたしは……あたしは……」


切ない少女のつぶやきだった。


一方、フォリオは出口でおっかけにまた揉まれていた。


「うう、うわっっぷ! だ、だ~か~ら~、むむっ、胸がですねぇ!!」


フォリオは全く喜ぶわけでもなく、迷惑そうにそう反応した。


いくら邪魔だからといってファンを押しのける訳にはいかない。


そもそも非力な彼には大人の女性をどけるのにも一仕事なのだ。


そんなやりとりをしていると後ろから誰かがホウキ少年の腕をつかんだ。


そして、彼の顔を思いっきり胸に押し当てた。


「むむ、むぐっ!! むぐっ!!」


そのまま少年を人混みから引っ張り出す。


「あ、ありがとうジーネ先輩!!」


彼をおっかけから助け出したのは先輩の女子部員だった。


「ででっ、でも、じ、ジーネ先輩もむむ、胸が当たって……」


先輩はお茶目にウインクしてみせた。


「バッカねぇ。わざと当ててんのよ」


なぜ人の顔にあえて胸を当てるのか? フォリオにはそれさえわかっていなかった。


「ほんっとなんにもわかってないのね~。その調子だとそのうち背中からグッサリ刺されるわよ」


胸が当たると刺されるのだろうか? 全く関係性がわからない。


「う~ん、お姉さんがヒミツのレッスンしてあげてもいいけど、他の部員にうらまれそうだからやめとくわ。それにそういう大事なことは自分で気づくべきだからね」


自信のない少年はおどおどしながら聞いてみた。


「そっ、そそ、それって……ここっ、”コイ”ってやつですか?」


ジーネはフォリオを指さした。


「おっ、それそれ!! いっちょ前に知ってんじゃん。そこまでわかればあとは解けたも同然でしょ?」


その問いに彼は首をかしげた。


「う~ん。やっぱりよくわからないかなぁ。ぼ、僕も誰かにコイしてるのかなぁ……」


部員の女子先輩はそんなフォリオを愛おしく思い、母性を意識して強くハグした。


「ま、フォリオ君はまだ成長途中だからね。焦らずじっくり考えていけばいいんだよ」


またギュウッと胸を押し当てられ、少年は苦しさにもがいた。


「せせっ、先輩!! くくっ、苦しいですって!!」


(ありゃ。まったくデレデレしない。こりゃまだ成長して一人前のオトコになるまでには時間がかかるだろうなぁ……)


ジーネはフォリオの先行きを案じるのだった。


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