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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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殺意を殺せ 即ち無殺意の殺意

ファネリ教授の部屋が秘密結社ROOTSルーツのアジトになってから少し経った。


だが、他の者も入室してくる可能性のある教授室は秘密結社は程遠かった。


それを見かねてか、アルクランツは彼らに部屋を与えた。


もっとも複製で出来た仮想空間かそうくうかんだったが。


「べ、別にお前らに期待してるわけじゃないからな!! いざというときは厄介事を引き受けてもらう!! ルーブには目を光らせておけよ!!」


そう言い捨てて彼女は部屋を後にした。


ROOTSルーツの部屋は秘密結社らしい構造になっていて、教授棟のテレポーターを決まった順番でくぐるとたどり着ける。


もちろん、偶然では絶対にたどり着けない道順であるし外部からの干渉かんしょうも不可能だ。


後をつけても最終的にはフィルターに弾かれてしまい、部外者ぶがいしゃは入れない。


監査部かんさぶの会合に出席したジュリスはテレポーターをたどってROOTSルーツの部屋へやってきた。


部屋は広々としており、ファネリの教授室より一回り広い。


これはきっと増員を想定してのことなのだろう。


それに、内部が見える戦闘用の仮想空間が設置されている。


そこならどれだけ暴れても周囲に影響を及ぼすことはない。


ジュリスが部屋に入ると激しく戦い合うレイシェルハウトとシャルノワーレが目についた。


「おー、こらまたド派手にやってんなぁ。これなら俺と互角ごかくくらいじゃね~か? なんつってな。いや、まだ研究生エルダーとして負けるわけにゃいかねぇがな。そこは譲れねぇぜ」


誰も何も言わない。不透明ふとうめいな展開にそれぞれが困惑して息が詰まっていた。


まだこの若いナレッジ達は立ち上がって間もないのである。仕方がない。


そこでジュリスは提案した。


「なぁ、あんたらその調子になっちまうのはわかるが、俺らが戦力を整えるのは最低でもあと3年はかかると言われてるんだ。そうやってこんめてるとバテちまうぞ。ちょっとカジュアルに考えて部活動かなにかと考えてやろうぜ。そりゃもちろん緊張感は保ったまんまでな」


それを聞いていた他のメンバーは驚いたような顔をしたが、やがて決意したように視線を返した。


サユキの姉、カエデが質問した。


「それでジュリスさん。ROOTSルーツ監査部かんさぶの会合はどうでした?」


彼は肩をすくめた。


「俺が圧倒的あっとうてきに若かった。っていうか若いの俺だけ。他の人はまぁ若くても50ってとこだろうな。上はマジで100歳超えだ。いや、100歳じゃおさまらねぇかもしれねぇ。それでも俺のことを邪険じゃけんにするでもなくあつかってくれたぜ。未来をつくるのは若者わかもんだつってな」


てっきり適当にあしらわれたのだろうと思っていた面々はこの知らせに喜んだ。


「組織自体もしっかりしてる。力を持ちすぎた反対派とか、意見の分かれた異端派いたんははいずれもバッサリ切ってる。母体が正当なウルラディール家ってのもあるし、ROOTSルーツ活動自体もクリーンだ。だからどことは言えないが、かなり有名な企業とかがバックについてくれている。ルーブの資金力は莫大ばくだいだがこの勢いで追い上げれば確かに3~4年で城落としも視野に入ってくる」


吉報きっぽう若人わこうど達は盛り上がった。


「だが、ルーブが先に動かないとは言い切れない。こちらからルーブに内通して情報をくれるヤツがいるが、逆もまたしかりだ。出来るだけそういう連中はツブすようにはしてるが全くらさずに戦力を拡大するのは難しいだろう。秘密結社ひみつけっしゃとは言うが、既にルーブに気取けどられているのは間違いない。ただ、こっちは魔法学院のド真ん中に巣作りしている。だから迂闊うかつにちょっかいを出すことは出来ない。だから戦力が揃うまでちぃとシャクだが、アルクランツにおんぶにだっこするしかねぇな」


その直後、激しい悪寒おかんがジュリスを襲った。


「う~ッ寒ッ!! どうしてこう出来るやつは地獄耳じごくみみなんだ!! やたらとプレッシャーかけてくんなよ!! あ~寒ィ!!」


ジュリスはガタガタ震えだした。


彼の提案と報告で今までカチンコチンだったメンバーは活気を取り戻した。


「サユキ!! 今こそ私達、姉妹の力を合わせる時ね!!」


「ええカエデ姉さん!! 近のカエデ、遠のサユキは伊達でなくってよ!!」


それを聞いていたガン似のイケメンであるリクはキョトンと目を見開いた。


「まさかサユキさんと共闘きょうとうすることになるとはなぁ……。武士交換のときは思いもしませんでしたよ」


サユキもこれには驚いているようだった。


「ホントね……。交換した後はめったに会うことなんてないはずなのに……。でもリクくんが協力してくれるのなら頼もしいわ」


青年はにっこり笑ってそれに答えた。


そしてカエデは百虎丸びゃっこまるの手をにぎった。


「トラちゃん。西華西刀さいかさいとうの武士として互いに剣を振るいましょう!!」


ウサ耳の亜人は勇ましい顔をしてその手をにぎり返した。


拙者せっしゃ、まだまだ未熟者でござるが、もっと剣の道を次第しだいでござる!!」


ジュリスはその光景を見てニタリと笑った。


「それでいいんだよそれで」


カエデなどは彼より年上だったが、ジュリスには人の心を動かすカリスマなようなものがあった。


「あとはあの2人だな」


仮想空間で激しく戦うお嬢様とエルフをながめる。


「レイシェルハウトはエースとして、あれだけ剣技が染み付いてるならノワレも下手な中古武器より片手剣装備のほうが強ぇーんじゃねぇの? WEPウェップメトリーにゃ詳しくねぇが、ありゃ記憶メモリーが体に焼き付いてるように見えるぜ。ウルラディール剣技とやらがよ」


今まではノワレが終始しゅうし圧倒あっとうしていたが徐々にレイシェルハウトが腕を上げ始めた。


今はSOVソード・オブ・ヴァッセ持ちのエルフといい勝負だ。


「剣をへし折る気でかかってきなさい!! 本来の持ち主でない者に打ち勝てぬようでは力量不足りきりょうぶそくッ!!」


勢いをつけてシャルノワーレが突きを放ってきた。


瞬穿しゅんせんのクルトリカ!!」


見えないほどの早い刺突攻撃しとつこうげきだ。


彼女はそれを横っ飛びでかわした。


「ウィンダ・ボイド・レイドストライクッ!!」


横っ飛びから回避魔法を放ち、勢いを付けて相手の脇腹わきばらりを叩き込んだ。


すかさず師匠役はヴァッセの宝剣ほうけんでこれをうけた。


そのまま振りかぶってレイシーを押しのける。


「ウィンダ・ボイド・スカイ・マスカレイド!!」


横にふっとばす力を回避魔法で強制的に浮上の力に変換して魔法剣士はちゅうった。


舞蜂ぶほうのイスタンルード!!!!」


突きのお返しとばかりに無数の貫く斬撃を地上のノワレに向けて浴びせた。


「やるようになった!! しかし、まだ殺気が見て取れる!! 見てみろ。目を閉じていても全て回避することが出来るぞ!!」


本当にノワレに乗り移ったかつての使い手は目を閉じたまま全部の攻撃を最小限のステップでかわしきった。


「ハァ……ハァ……なぜ……」


レイシェルハウトは息を荒げた。


「人は相手を攻撃しようとする時、大なり小なり殺気が生じる。今のお前は殺気が色濃い。逆に相手の殺気を読めば回避呪文の精度は上がる。今のお前に必要なのはその独特な感覚だ。ただ、これはそう簡単に身につくものではない。そう、生まれた頃から暗殺を生業なりわいにでもしない限りはな」


そう言うとひとみが怪しく輝いているエルフはモニター越しにパルフィーを指さした。


「あ、あたしか? そりゃ確かに月日輪廻げつじつりんねっていう流派は無殺意むさつい殺意さついを教えとはしているけど……。無殺意むさつい殺意さついは……なんていうかこう……説明は難しいけど、相手を殺そうと思ったときに頭をカラッポにするんだよ。体の外に殺意がにじみ出た時点で型が崩れる。稽古けいこはかなりキツかったなぁ。1年、2年じゃ無理だよ。多分」


レイシェルハウトはしょっちゅうパルフィーと組み手や稽古けいこをしていたが、得体えたいの知れない予測不可の動きをすることがあった。


家の者では珍しく、後少しでレイシーの回避魔法を破れそうな人物でもあった。


きっとそれがその無殺意むさつい殺意さついなのだろう。


彼女が猫耳にたぬきしっぽの亜人だというのも修得に関係があるのかも知れない。


小娘こむすめ、入ってみろ」


いくつの代かわからないがウルラディール投手がパルフィーを呼ぶ。


「ん~、おじょうと手合わせするのは久しぶりだな~♪」


かつては全く気づかなかったのだが、次期当主はパルフィーに本当に殺意が無いのを感じ取った。


いくら親しい仲でも闘気とうきを放てば少なからず殺意は生じる。


だが、彼女には全くそれがないのだ。まるで体かられるのをせき止めているかのように。


シャルノワーレは2人をながめた。


「すぐにこの娘の流派をマネてもよかったのだが、まだレイシェルハウトには実力がついていなかったからな。今から始めるがよかろうて……」


口調が変わっている。別の人物が表に出ているに違いない。


お嬢様は品よく剣をさやに収めようとすると剣はポッキリ折れた。


「これで何本折ったかもうわからないわね……。それに対してSOVソード・オブ・ヴァッセには傷一つ無い……。やはり代々伝わる宝剣ほうけん伊達だてではないというとこかしら。で、パルフィー。その無殺意むさついの殺意というのはどういう訓練をするの?」


巨躯きょくの亜人女子は首をかしげて考え込んだ。


「う~ん。たとえ味方でも殺意は生じるから『あ、いまなんとなく殺意沸いてるな』と思ったらすかさず無心を維持することかな。自分が気づいていないところでも殺意が出てることってのは案外珍しくないからね」


同室に居た各々のメンバーが自分が発している殺意について考えをめぐらせた。


「あとはほんの些細ささいなことでも無心状態は崩れる。『あ~、ルーブ憎いな』とか思っても無心を保たないと。下手するとムシに刺されたくらいでも無心は途切れるから油断はできないね。あたしなんか悪夢を見て途切れたからね。あ~、寝てるときもカラッポじゃなきゃダメだよ。連続してないとマスター出来ないって事はないだろうけど、殺意をらせばらすほど覚えるのは当然、遅くなるね」


ここまで聞いて相当キツい修行であるのは明らかだった。


「今まで話半分に聞いていたけど、今なら貴女の言っている意味がわかるわ。ありがとうパルフィー。あたしも無殺意むさついの殺意、つかんで見せる!!」


一方のパルフィーはあまり晴れない顔色だ。


「う~ん。正直かなりしんどいからあんまオススメしないんだけどなぁ~。もともと月日輪廻用げつじつりんねようってところもあるし、無理に修得せずにすむのならもっと別の方に力を傾けたほうが良い気もするよ? それに、あたしの動物的カンみたいなもので成り立ってるところはあるし……」


するとシャルノワーレが口をはさむようにしゃべり始めた。


「ほっほ。わし、無殺意むさついの殺意、マスターしとったよ。確かにさとるのに苦労したが、使い手に教えを受ければ月日輪廻げつじつりんねでも亜人でなくとも覚えられるはずじゃよ。そのおかげで回避率は大幅に上がったわい。家をりに行く覚悟があるのなら身につけよ。次期当主が深手を負ったり、最悪死んでしまえばウルラディールは途切れるんじゃからな。命綱いのちづなじゃよ命綱いのちづな


それを聞いていたレイシェルハウトはりんとした表情でノワレとパルフィーを見てうなづいた。


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