初めての嬉し泣き
田吾作のヴェーゼスへの強烈なラリアットで洗脳呪文が解けた。
それまで彼女の下僕と化していた男たちは我に返った。
ヴェーゼスがダウンしたのを確認した後衛のレールレールはすばやく指示をだした。
「カムバッ!! カモンバッ!! 一旦、形勢不利だ!! 戻って立て直せ!!」
ミラニャンとカルナの乗っているレールが後方に伸び、カタパルトと接続された。
この湿地帯ではレールの上で滑走されると、とでもではないが追いつけない。
2人は一気に前線から離脱した。
「くっ!! やっぱ半身が水に使ってると動きが制限されるね!! でもこっちにだって作戦があるんだから!! フォーメーション・トーテム、スタンバイ!!」
そうリーダーのカークスが指示を出すとニュルの上に田吾作が、田吾作の上にキーモが、その上にカークス、一番上にはっぱちゃんが乗っかった。
「ぐうぅ!! 重てぇ!! だけどな、パワー自慢じゃ田舎もんにゃ負けねぇぜ!!」
団子っ鼻の青年は反論した。
「おらぁ田舎もんでねぇ!!」
いつものやり取りをするとタコ人間は青筋をたてて力を込めた。
「いくぜぇ!! 俺もすぐ追いつくからよ!! 先に終わらせるんじゃねぇぞ!?」
そう言うと真っ赤な亜人は思いっきり上の4人を投げた。
高く、高く上昇していく。これなら沼地もひとっ飛びだ。
4人は一気にレールレール達との距離をつめた。
先制攻撃ははっぱちゃんとカークスだ。キーモは先に降下した。
なんとはっぱちゃんが回転してホバリングしているではないか。
高度は着実に落ちてきているが、それなりに維持できている。
そこからカークスが魔法を放った。
「う~、目が回る~!! スネイク・ロンド・スネークス!! 煙巻け!! 蛇花火!!」
花火が発煙すると地上一帯にモヤがかかったようになった。敵の視界だけを悪化させる呪文だ。
キーモは落下しつつレールレールを狙った。
「あのレールさえなんとか出来れば!!」
彼はお菓子のチェルッキィーで狙撃を試みた。
「チュンチュウン!!」
狙撃はレールやフライパンで弾かれてしまった。
その下の田吾作も分離して何かを背中から抜いた。
「うおおおおお!!! ごんぼうウィップ&ソード!!」
白いライネン・ゴボウを武器に彼は相手に殴り込みをかけた。
このままでは1人で突っ込むことになると思われたがニュルが高速で追いついた。
「武器のデパート、ニュル様参上!!」
前衛2人が視界不良のレールレール、ミラニャン、カルナに攻撃をしかける。
「Don’t worry!! レールで走り回れば攻撃がHitすることはない!! 止まらず駆け抜けるんだ!! すぐに3方向に散開カタパルツ!!」
レールレールの班の機動力は半端ではなく、生半可なスピードでは追いつけなかった。
カルナが厄介で辺り一帯に吸い付いてくる鬼火をばら撒きまくってからカタパルトで離脱していった。
そうこうしているうちにカークスチームは全員沼地に降り、3人に囲まれていた。
「Hey!! まだテストだけどアレをやるぞ!!」
司令塔が声をかけるとミラニャンとカルナが頷いた。
レールにのって加速したミラニャンめがけてカルナが鬼火を投げつけたのだ。
「おおきく振りかぶって鬼火!!」
「フルスイングゥゥゥゥ!!!!!!!」
ミラニャンは思いっきりフライパンで炎を打ち返した。
それは物凄い勢いでニュルに直撃した。
「あぁち!! アチアチアチアーーーーーー!!!!!!!!」
10秒でゆでダコが完成した。
「ニュル!! ニュル!! ダメか!! これじゃ医務室行き……。みんな、あの技は速いしすごく威力高いよ!! しかもミラニャンもカルナも回復持ち。人数ではこっちが勝ってるけど不利かも。なによりチームワークがすごく良い!! ほら、また来るよ!! えーっと、あーとなにか対策を考えないと!!」
すると田吾作がダイコンを取り出した。
「でぇやこん・バット……コイツが火を噴くだ!!」
青年は真っ黒なバットのようなダイコンを取り出した。
「あたしたちの熱いソウル、なめないでほしいアル!! いくアルよ!! 一球入魂!!」
カルナはおおきくモーションを付けて炎のともる燭台から鬼火を飛ばした。
「次は田吾作くんの番だね!! いっくよぉぉぉ!!!!!」
ミラニャンはフライパンで鬼火を思いっきり打ち返した。
「ニュルとキーモのリベンジだっぺぇ!!」
なんと田吾作は鬼火をダイコンのフルスイングで打ち返した。
ただ、その軌道はホームランルートで反撃にはならなかった。
だがその時間でカークスは作戦を考えつくことが出来た。
「えっと、ニュルが抜けてる場合は……フォーメーション・アサルトフォース!! 相手はカルナにミラニャンと回復揃い!! ここは一気に攻めないと倒しきれない!! はっぱちゃん!! エネルギー注入!! キーモははっぱちゃんの上で耐火メレンゲの展開を妨害!! 田吾作は私の花火の勢いで急加速!! 相手の陣地に切り込んで!! 大丈夫。エネルギー注入と野菜のパワー、あとは私の花火があればいけるはず!!」
カークス班はすばやく指示通りに動き出した。
樹木人間のはっぱちゃんが根っこを3人に接続してマナを送った。
その結果、葉っぱは散っていき、みすぼらしい細い樹になってしまった。
代わりに残った3人のマナが補給され、気力が戻ってきた。
「チャージ完了!! 多分これが最後の衝突になるよ!! カークスチーム、ファイオー!!」
「ファイオーでござる!!」
「ふぁいおおおぉぉぉ!!!!」
「…………………………」
キーモが先手をうった。はっぱちゃんの上のちょっとした高台からミラニャンを狙撃する。
「カン、キン!! カン!!」
チェルッキィーはあっさりフライパンで弾かれてしまう。
だが、絶え間ない攻撃によってメレンゲを張る余裕はなかった。
「よ~し!! いっくぞ~!! 全力の!! マーヴェラス・ブリリアンス・アメージング・アンリミテッド・ファイアワークス!! いっけぇ!! バリバリバリ花火弾!!」
カークスが田吾作もろとも押し出すように花火を打ち出した。
発射される直前に団子っ鼻の青年は野菜を食べた。
「限界を超える赤ホウレンソウだぁぁぁ!!!!!!」
彼は赤いオーラをまとって沼地にも関わらず猛スピードで突撃していった。
ミラニャンとカルナはレールに乗ってはけて花火を見事に回避した。
だが、確実にレールの使い手を狙う者が居た。
「レールレールを討てばレールでの移動、回避はできねぇだぁ!!」
田吾作の高速タックルがレールレールに直撃する。
「Oh my go~~~~~d!!」
グレー髪の大男ははるか遠くへ吹っ飛んでいった。
百虎丸チームで残るのは2人だけだ。
互いに距離が離れてしまっている上に沼地に半身が沈んでいる。
一気に劣勢になってしまった。
だがミラニャンとカルナは諦めなかった。
「マージナル・ミキサーーーーーー!!!!」
パティシエの少女の周りに周囲を吸い込む渦が発生した。
これによって野菜の効果が切れた田吾作とカルナを引き寄せることができた。
これも敵味方を識別するので田吾作だけが渦に切り裂かれてダメージを負った。
彼はどんどん渦の中心に吸い込まれていく。
ミラニャンは頃合いを見計らうとフライパンで思いっきり青年を殴りつけた。
後頭部への強烈な殴打が決まり、青年はダウンした。
鈍器は鈍器である。少女が振り回しているからと言ってバカにしてはいけない。
しかも本人が思っている以上に彼女とフライパンの相性は良かった。
渦はおさまって彼女はカルナとハイタッチした。
「やるアルな!!」
「えへへ。そうかなぁ?」
2人は背中をピッタリくっつけて互いを完全に補い合う位置取りを組んだ。
カークスチームで戦力になるのはカークスとキーモだけでいつの間にか2vs2になっていた。
実力の拮抗した非常にいい勝負である。
ミラニャンはマナを、カルナは体力をそれぞれ回復できて互いに補いあえれば実際の持久力よりも遥に打たれ強い。
しかも主力の花火弾はメレンゲ・シールドで防がれてしまう。
カークスたちが不利に思われたが、リーダーははっぱちゃんの上に乗ったままのスナイパーに目配せした。
「さ~て、鬼火を撒いてジワジワ追い詰めるアル」
「花火弾は効かないよぉ~。チェルッキィーも弾いちゃうんだから~!!」
次の瞬間、キーモは足元のはっぱちゃんの属性付与をかけてお菓子を打ち出した。
「カホの一矢!!」
ミラニャンはそれをフライパンで弾こうとしたが、着弾したチェルッキィーからワラワラと木の根が張り出して、彼女をフライパンに拘束した。
「これならメレンゲは展開できないはず!! いっくよぉ~!! エクセレント・パーフェクティア・マニアクス・ライジング・バング!! 爆発散花!!」
花火弾は2人に直撃した。
「しまっ!!」
ミラニャンが驚いたような顔をしたがもう遅い。
……と、思われたのだがなんとカルナがこの攻撃を受けきった。
「ハァ……ハァ……炎耐性をマスターしておいて正解だったアル!!」
だが、完全に防げたわけでは無く、かなり深いヤケドを負っていた。
「待っててカルナ!! 今、回復するから!!」
相手のカークスはすぐに斜め後方のキーモの方を向いた。
「あっちがチームワークならこっちだって!! キーモ、炎がダメならアレをやるよ!!」
彼はちょっと戸惑った。
「え、ええ!? アレでござるか!? しかし、こうなっては仕方ない。みんなのためにも拙者が覚悟を決めるて体を張るでござるッ!!」
カルナが美味い料理を食べて急速に回復し始めたときだった。
「ライジング・サクリファイス・サウザンズ・ショット!!! まとえ!! 雷電のチェルッキィー・リンクス!!!!!!!」
少女はそう叫ぶとキーモに突然に電撃弾を発射した。
予想外の行動に2人は驚かずを得なかった、
「シビビビビビビビビビビビビ………………」
彼の握った菓子の箱が激しくスパークする。
激しい電撃を帯びたチェルッキィーが無数に発射された。
魔法の影響で弾速が異様に上がっており、ミラニャンもカルナも回避できなかった。
またこのトリッキーな攻撃も読むことが出来なかったのだ。
「あ、アババババババババババ…………」
「ジ、ジジジジジジジジジジ…………」
3人が同時に感電するシュールな光景が広がった。
結局、3人はプスプスと煙を上げながらトプンと沈んでダウンした。
激戦を制し、沼地に立ったのはカークス1人だけだった。
「みんなぁ……やったよ!! やったよぉ!!」
彼女は沼に膝をついて号泣した。
映像はここで終わっていた。教授が教卓に戻る。
「カークスチームは見事なチームワークだった。人数が減ってもめげないのも評価点だ。よってカークスチームをMVPチームとし、カーニバラー・バトレーエへの代表として選抜する。どの班も良い試合だった。よくやったと思うぞ」
そんな中、カークスが恥ずかしげに手を挙げた。
「あの……その……。カークスってファミリーネームで……。その、仲間はずれにされてた時の呼び名なんです。本当はみんなには”ジオ”って呼んでほしくって……。そんな勇気なかったし。でも今なら言える。私はジオです」
誰が始めるでもなく拍手が彼女を包んだ。
そしてノリの良い女子連中がジオを胴上げし始めた。
彼女にとって嬉し泣きとは初めての経験だった。




