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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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ある青年の魂の叫び

レールレールの生成するレールにのって沼の上を百虎丸びゃっこまるチームは疾走しっそうしてきていた。


カークスがキーモに指示を出す。


「キーモくん!! チェルッキィーで狙撃して!! 狙わなくていいから牽制けんせいで!!」


瓶底びんぞこメガネにバンダナ指あきグローブの青年は親指を立てた。


「承知したでござる!! ほああああ!!!! 菓子千本菓子!!」


無数の棒状のお菓子、チェルッキィーが大量にき散らされる。


「ツイスト!!」


レールレールがそう唱えるとぐにゃりとレールが回ってキーモの射程範囲から逃げた。


百虎丸びゃっこまるが先頭をきっていたが、ビクビク怯えて話にならない。


「しょうがないアルね!! 鬼火・設置型!!」


カルナは蒼いキャンドルから青い炎を発射した。その炎はじわじわと敵を求めて動き出した。


「ばいばいアル~」


ヒーラー寄りのアタッカーであるカルナは前線で戦うには向いておらず、少し退いた。


「も~。しょうがないなぁ~。リーダーがあれじゃあ前衛のバックアップをしないと」


そう言うとミラニャンは大きなフライパンを取り出した。そのフライパンはごっつく、ほとんど鈍器だった。


カルナが注意をうながす。


「ミラニャン、本来の役割はみんなのマナ回復のスイーツ作りアル。調理器具での攻撃はそこそこにしてヒット&アウェイで攻めるアルよ」


ロウソクの少女は意外とこういうことには頭が働く。悪知恵わるぢえというやつである。


その前をヴェーゼスが滑っていた。


「ニュルくんに、田吾作くんに、キーモくん。男の子は3人ね。他のみんなはカークスを抑えてくれるとうれしいわ。あの花火弾さえくらわなければ私の魔力フェロモンで戦力を大きくげるはずよ。チームワークが強いだけあってそこを破壊してしまえば大きなチャンスになるわ」


彼女はウインクしてみせた。


「うう、下手すると女子まで落とすと言われる……さすが足軽あしがる……」


それを聞くとスタイル抜群の美女はカルナにゲンコツをくれた。


「それを言うなら尻軽しりがる!! それに私は尻軽しりがるじゃないわよ!! あくまで魅了するテクニックを熟知しているだけで、実際の恋愛とは別なの!! 魅惑チャームクラスにはすっごい真面目な子とかいるんだからね!! 次言ったらぶつよ!!」


エセチャイナ服の少女は頭を抱えた。


「いっつ~~~!!!! 暴力ハンタイ!! これなら肉弾戦イケるあるよ!!! カタパルトでつっこんでくるとよろし!!」


その映像を見ていたクラスメイトたちは思わず笑ってしまった。


ナッガン教授はてのひらひたいに当てた。


「どうも、こうカルナが居るとしまりにならん。模擬戦もぎせんの最中だと言うのにこれだ。もうちょっとは緊迫感を持つように」


教授はカルナを注意したが、彼女はペロっと舌を出した。


反省の「は」の字も無い。それは皆が知っていた。


だが、これでもやるときはしっかりやる。それが彼女がウザいながら愛されキャラ扱いされている理由なのだ。


茶番が終わると一番うしろに位置するレールレールがナビゲーションをした。


彼は大男で筋肉質だが、肉体を使って戦うというよりは見た目によらず繊細せんさいにレールをく事を得意とする。


いざとなればカタパルトで射出されながらの肉弾戦も出来なくがないが、それはあくまで奥の手である。


普段はサブリーダーとして後方から冷静に仲間をサポートする役割ロールである。


ただ、今回はリーダーの百虎丸びゃっこまるがあの調子なので指示はレールレールが出していた。


レールの分岐が変わって5つにわかれる。


「Hey!! トラ、斬り込みで一気にGOGOGO!! カタパルト射出!! セクシーなヴェーゼス、ヒーリンなミラニャンも同時発射!! カルナは中間を前後して鬼火をショット!! 危なくなりそうだったらすぐカタパルトでカムバッ!! So,Don’t worry!!」


彼はクセの強い独特のしゃべりで司令塔になった。


百虎丸びゃっこまるは水面のレールの上をすべった。


1人ならともかく、5人分のレールを管理している以上はそこまで1人のレールを緻密ちみつに生成することは出来ない。


せいぜいジグザグがいいところである。


「刀が届かんでござる!!」


攻撃を空振った亜人にタコの亜人がこん棒でなぐりかかかる。


「なんのっ!!」


百虎丸びゃっこまるはジャンプしてそれをかわした。


絶妙なバランス感覚でレールに再び乗った。


すぐに引き返して攻撃したいところだが、そんなに急にとんぼ返りすることは出来ない。


「ええい!!」


悔しげに振り返った彼にニュルが追撃をかけた。


「へへっ!! 沼の水だよ!! 死ぬほど浴びな!!」


タコ人間は口から思いっきり水を吐いた。


「むぅあっ!! にゃっ、みゅっ!! ぐみゅぅ!!」


まるでライネン・ネコのしっぽを踏んづけたような音を立てて百虎丸びゃっこまるはレールから落ちた。


「ドプン……」


虫が水に落ちたかのようにバチャバチャ彼はもがいていたが、そう時間が経たないうちにプカーっと浮かび上がってきた。


身長的には背がつくはずなのだが、にも関わらずあっけなくおぼれてしまった。


「あ~あ。やっぱリーダーおぼれちゃったアルよ。仕方ない。4人でやるアル」


水場のステージではいつもこんな感じなのでこれは想定内のトラブルだった。


「ヒット&アウェイ!! GOGOGO!!」


向かってくるとわかっていたのでカークスチームは迎撃体制に入った。


「近づかせない!! 花火弾で牽制けんせいするよ!! 怖い前衛は百虎丸()びゃっこまるくんくらいだから!!」


それを聞いていたミラニャンが得意げな表情をした。


「花火弾が万能だと思ったら間違いですよぉ~!! 特訓の末に編み出した耐熱のメレンゲ・シールドを張ります!!」


彼女はかき回し棒をシャカシャカ回してふんわりとした白い雲のようなものを展開した。


カークスは容赦なくファイアワークスをぶっ放した。


「ドーン!! ドドン!! バリバリバリバリ!!!!!!!」


だが手応えがない。メレンゲは花火の弾幕を抜けてカークス陣営に切り込んだ。


ミラニャン、ヴェーゼス、カルナが乗り込んできた。


カルナはあまり接近には向かなかったが、欠けた選手分を補うために攻撃に出た。


百虎丸びゃっこまるが減ったことでレールの精度があがり、複雑なき方をできるようになっていた。


花火弾発射からあっというまに懐に攻め込まれたのでカークス達は混乱した。


さらにヴェーゼスが追い打ちをかける。


「私の色香いろかにテンプテイシヨン♥ キッス・オブ・ジ・ボルト!!」


ピンクの雷撃があたりを包んだ。


「しまった!! これは魅了魔法チャームスペル!! 異性やたまに同性も魅了して正気を失わせる魔術!!」


「お~あ~、ヴェーゼスさまぁ……俺をもっと、もっとこきつかってくれェ……」


タコが気色の悪い声でしゃべりだした。


「せせっ、拙者せっしゃも!! 力いっぱい踏んでくだされ!!」


キーモは四つんいになった。


「おらぁ……おらぁ……」


田吾作たごさくも様子がおかしい。


「……………………………………」


はっぱちゃんは性別という概念がないのであまり関係ないらしい。


これを見ていたクラスメイトは爆笑したが同時にドン引きした。


ナッガンが解説をはさむ。


魅了魔法チャームスペルだな。決まればかなり強力だが、逆にまったく効かない者には効かない。それに、かかった者に攻撃すると魔法は解けてしまう。さらに、術者が攻撃を受けても解除される。これ1本でやっていくのは難しいし、パーティープレイ前提ぜんていだな。まぁソロだとしてもかけてから逃げたりするなら有効だ。続けるぞ」


ノリノリになったカルナがキャンドルで男たちをあおりはじめた。


「ホラホラ!! 女王様に従うアルよ~!! 鬼火撒おにびまき~」


洗脳された男どもはよろこびながら炎にあぶられていく。


「まずい!! このままじゃみんな丸焦まるこげになっちゃう!! でもあたしの花火弾は効かないし!!」


ミラニャンがおおきく振りかぶってアツアツのフライパンでカークスに殴りかかってきた。


「うわっっとぉ!!」


なんとかギリギリでかわす。


「あとはカークスちゃんをやっつければ!!」


カルナもカークスをねらい始めていた。そんな時だった。


「ぐ……う……。ヴェーゼスの……オモチャじゃ……」


ニュルが抵抗し始めたのである。


「せ、拙者せっしゃにもプライドというものが……」


メガネのオタクは立ち上がり始めた。


「……………………」


田吾作たごさくだまったままだ。


「こ、これは……はっぱちゃんが精神汚染を中和してくれているの!?」


ドライアドの亜人はサラサラとはっぱを揺らして微笑ほほえんだ。


映像がここで止まった。


「ドライアドは一見、ただの観葉植物のように見えるがリラグゼーション以外にもちゃんと魔術が使えるのだ。それに、ここぞという局面でのストレス軽減はバカにならない。焦ってしくじることが確実に減るはずだ。しゃべらないからと言ってかろんじるなよ。まぁお前らなら言うまでもないな」


またマギ・スクリーンは動き出した。


なんとかはっぱちゃんのおかげで我を取り戻しかけた男たちだったが、劣勢なのに変わりはなかった。


ミラニャン、カルナにタコ殴りにされていたのである。


意外とフライパン使いがパワーヒッターで殴られるとめちゃくちゃ痛い。


それに近距離~中距離でゆらゆらと揺れる設置型の鬼火は避けるのが難しい。


接近するとすいつくように引火してくるのだ。


確実にカークスチームは追い詰められていった。


「ハアッ……ハアッ……まずいよコレ……」


みんな揃ってもう青あざとヤケドだらけだ。


早くしてリーダーを欠いた割に有利に立ち回っている百虎丸びゃっこまるチームは大健闘だいけんとうだった。


やはり男どもを崩壊させたヴェーゼスがキーになったといえる。


勝敗は決した。誰もが思ったときだった。


「……おらぁには別に好きな人がいるだよ!!」


突如とつじょ田吾作たごさくがそう叫んでヴェーゼスにラリアットをぶちかましたのである。


これがクリーンヒットして彼女は気絶した。


同時にカークスチームにかかっていた洗脳が解除された。


田吾作たごさくは強い想いのチカラで魅了チャームを打ち破ったのである。


クラスはざわめいた。彼の想い人とは誰か、と。


それはそうとしてこれにより戦況は一気に変わった。


まだ、試合は終わらない。


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