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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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水だけは、水だけは

アシェリィはジュリスの作戦に対抗して迷宮構造ラビリンスを破壊すべく、暴れエントを召喚した。


赤と白の縞縞しましま模様の可愛らしい実がついているが、これでもかとそれを吹き飛ばしている。


見た目は可愛いが、その威力は驚異的だ。まともにくらったら痛いではすまないだろう。


それをジュリスとグスモはそれぞれ貫通してきた別の部屋で避けきっていたが、確実に部屋のあちこちがほころび始めていた。


館もパラパラ程度の振動からミシミシへ、やがてゆらゆらと建物自体がれ始めた。


その場の誰もが近いうちに迷宮構造ラビリンスの一体化をイメージした。


一番最初に影響があったのはイクセントたちの部屋だ。


暴れエントは容赦ようしゃなく破壊行為を続けている。


すると部屋の床にヒビが入り始めてふわっとした感覚に包まれたのである。


「まずい!! 床が抜ける!! 下のフロアがわな部屋だったら一気に不利になる!! 何か手はないか!!」


1人で焦る彼女をアシェリィは支えた。


「コバルトリカル・ブルー!! サモン!! ヒスピス!!」


アシェリィ愛用でおなじみの蒼い鳥類の幻魔げんまである。


「さ、手首を上に差し出して!! 痛くないから!!」


イクセントがおそるおそる手をかかげるとヒスピスはその腕を優しくくるんだ。


アシェリィもこうして空飛ぶ幻魔げんまにぶら下がった。


「残念ながら自由に飛び回る事はできないんだ。フルパワーの召喚でホバリングが出来るかどうかってとこ。今回は2人だからかなりキツイと思うんだ……」


召喚術師サモナーは自信なさげに答えた。


「その場しのぎでもなんでも出来ればかまわん!! さぁ、飛んでくれ!!」


次の瞬間、床は暴れエントごと崩落ほうらくした。


あばれ樹木は消滅していった。


何らかのわなが底面にしかけていないかアシェリィとイクセントは目をらした。


怪しげな白い煙が底の方に充満している。


「あれは……催涙さいるいガスか? もしくは幻覚ガスかもしれないな……」


2人がホバリングしていたころ、ジュリスとグスモにも変化があった。


「お? 変な木の実が止んだぜ。部屋中べっちょべちょだな……っと、うわっ!!」


ジュリスのいる部屋の壁が押し迫ってくるのである。


扉のある壁面が迫ってくる。開けられはしない。


「くっ。ラビリンスが動いてんだ!!」


思わず後ずさりするといつの間にか彼は別の部屋へと移動していた。


イクセントたちからみたらジュリスが背後を向けていきなり壁からせり出してきたのである。


グスモも同じように部屋を追われてこちらはフロア底面のガスが充満している場所に出た。


トラップの真ん中だったが、敵味方区別のためにグスモに問題はなかった。


この絶好のチャンスを逃すまいと動いたのはイクセントだった。


「ジュ~リィ~スゥ~!!!!! その首、もらったァ!! 鎌風れんぷう刈命かいめいッ!! ソニック・シックル・リーパー!!!!」


蛍光色の黄緑色をした高速の風の刃がイクセントのワンドから発射された。


ジュリスは振り向くが間に合わない。


その時だった。グスモがハイジャンプして先輩をかばったのである。


背中に強烈な斬撃を浴びる。


「ぎゃ、ぎゃあああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!」


断末魔だんまつまを上げてグスモはフロアの底へ落下していった。


ヒスピスにぶら下がったイクセントはゼーゼーと息を荒らしている。


「く……くそ……もう、次の一発は無い……。万策尽ばんさくつきたな。完全にマナ不足だ」


となりのアシェリィは空中にただようのが精一杯だ。


「そ、そんなぁ!! 私だってもう次の手は思いつかないよ!!」


なんとかして勝とうという執念しゅうねんを見せる2人にジュリスは床に着地して感心した。


「お前らはよくやったよ。俺の想像以上だ。だがな、やった分はくらってもらわねぇと困るな!! グスモのかたきをうってやるぜ!!」


(先輩……あっしまだ死んでないでやんす……)


薄れゆく意識の中でグスモはそう思った。


赤髪の青年はフロアの壁を思い切りるとイクセントへと距離を一瞬でめた。


「例え模擬戦もぎせんだろうと仲間がやられたらマジだぜ。お前にはまだそういう心意気が足りない。狭い範囲で心をり固めてるからだ。もっと……心を開けよ!!」


ジュリスは相手があどけない少女であることを承知しつつも思いっきりほほをブン殴った。


思いっきりのけぞった彼女に突きを繰り出すように強烈なキックを打ち込む。


イクセントはまるでピンボールのように室中をねて回った。


そして物凄い勢いで壁にめり込んで死体のように動かなくなった。


体のあちこちがあらぬ方向へ折れ曲がっていた。


「悪いがここぞというときは手加減はしない主義でね!! 今度はこっちだ!!」


それと同時にアシェリィのヒスピスをり一発で幻気体げんきたいにして無力化した。


ヒスピスが撃破されるとアシェリィは床の方へと落ちていった。


「コイツは実戦には使えないな。モロすぎるぜ。アシェリィはボコす理由が見つからないからほっとくが、あの白い煙を吸ったらなにかしら悪い影響は出るだろうな」


「しょ、しょんなぁ~……。げっほげほ。えっほえほ。あ、あれ……かかっ、カラダが……ウゴカナイ……ググっググ」


ジュリスはおっこちたアシェリィに歩み寄った。


グスモとイクセントは既に医務室テレポートされていたからだ。


下手に刺激を与えると何らかの影響が出る可能性があったのでジュリスはあくまで観察にとどめた。


「アアア……ア“ア”ア“ア”……」


アシェリィは徐々に動きが緩慢かんまんになるとやがて脚部から動きが止まりだした。


そう経たないうちに微動びどうだにしなくなった。


「お~……ほぉ……こりゃあ石化ガスか!! かなり高度なトラップだな」


青年がそう言うと同時にアシェリィも医務室送りになった。


「石化は厄介だな。リアクターがあれば短時間でのリカバリが可能だ。だが薬もなにもない場合は治療できるとこまで持ち運ぶ必要がある。おまけに経年劣化があるから時間が経てば経つほど手足とかがもげやすくなるんだよなぁ。あまりに長時間放置すると元の体にゃ戻れねぇ。恐ろしい状態異常だな。おい、見てるかお前ら~。なんだかんだで俺らのチーム、勝ち抜いちゃいました~~~」


ジュリスはマギ・スクリーンに向けてニッコリ笑った。


あまりにも白熱した試合でクラスメイト達はのどがカラカラだった。


ナッガンは満足げに首を振った。


「チーム編成の結果的に当然といえば当然だが、ジュリスが手堅く決めてきた。あまりくれてやりたくはないが約束通り評価点はやろう。もちろん他の者も健闘した。実際にこういったトリック・ルームは簡単に生成することができる。そこでもし判断を誤れば敵の罠に引っかかりっぱなしになるということもありえるという好例だな。建造物の戦いでは常に隣の部屋や空間との繋がりを意識して取り組むこと」


教授は手元の資料に目を通した。


「さて、次はいよいよMVPチームの発表だ。次に流す試合の勝者がそれにあたる。あくまでカーニバラー・バトレーエーはチームバトルだ。そのため、チームワークが良かったチームは評価点を高く付けている。そのため、この結果が実力の評価に直結するかといえばそんなことはない。選ばれなかったとしても気落ちする事はないからな。それでは、しばし休憩のあと再集合だ」


しばらくすると生徒たちは教室に帰ってきた。


「皆、そろったな。では流すぞ」


ナッガンが操作するとスクリーンに2チームが映った。


「代表になるのはカークスチームか百虎丸びゃっこまるチームだ。結果は……まぁ見てみろ。ステージは湿原帯しつげんたい。今回は有利な地形、不利な地形をテーマにした回だ。それもまた模擬戦を見れば一目瞭然いちもくりょうぜんだろう。では開始だ」


開幕直後に百虎丸びゃっこまるが映された。


腰が引けていて、陸にしがみつくようにして震えている。


カルナがそれを見て呆れたように言った。


「リーダー、湿原しつげんなのに水に入れないってどうしょもないアルよ? それに川にも海にも水はあちこちにあるアル。そんな調子では湿地帯しっちたいがホームのニュルにボコボコにされるあるよ」


何卒なにとぞ!!  何卒なにとぞ!! 勘弁してくだされ!! 水だけは!! 水だけは勘弁してくだされ!!」


百虎丸びゃっこまるのチームのメンバーはレールレールの魔術で湿地帯の上を移動している。


これは便利な能力で動きにくい地形でも魔術で生成されたレールの上を滑って移動できるのだ。


もちろんレーウレールがバテれば維持出来ないし、敷ける距離などにも限度がある。


ただ、それでもリーダーはいつも通りにはいられなかった。


というのも部分的にネコの亜人だけあって彼は非常に水が嫌いだった。


れたタオルでまめに体はいているが、それが現界でシャワーを浴びたり湯船につかるなどもってのほかである。


色香いろかのヴェーゼスもやや厳しめの意見だ。


「その水嫌いは何とかしないとね~。シャワーが浴びれなくてもいいけど、水際での戦闘なんていくらでもあるし」


スイーツ大好きミラニャンは百虎丸びゃっこまるを心優しくフォローした。


「で、でもぉ。誰だってニガテなものの1つくらいあるよぉ。今ここでトラちゃんを攻めてもどうしょもないよ~」


ヒゲヅラの大男のレールレールが名乗り出た。


「こういうときのためのMe……。ただ、落ちれば間違いなくウェット」


彼が水がニガテというのは周知しゅうちの事実で映像を見ているクラスメイトたちは思わず笑わずにはいられなかった。


意地悪いじわるというより可愛げがあってのことだ。


一方のカークスチームはいい試合を繰り返した事によって盛り上がっていた。


「おらっしゃぁぁあああ!!!! 沼だ沼だ!! ガンガンいくぜぇぇぇ!!!!」


湿地帯しっちたいでリザードマンと小競こぜり合いしているタコ人間……オクトパスラーのニュルはそう叫んだ。


過剰かじょうに上がりすぎたテンションをリーダーが抑える。


「ニュル。ダメだよ。皆で足並みを揃えていかないと足元をすくわれるよ。皆もそう。常に仲間がどこにいるか、なにをしているかを常に気にしてあげて。そして助け合えばなんとかなるなる!!」


カークス、ニュル、田吾作たごさく、キーモ、はっぱちゃんは。息をピッタリ合わせた。


湿地帯しっちたいは足場が悪いから下手に動くと不利になるよ。それに向こうにはレールレールくんが居る。カタパルトも使えるから接近や離脱がスムーズに行われると思う。きっとヒット&アウェイで来るかも。ただ、今回はこっちにも秘密兵器があるよ。ね、はっぱちゃん!!」


半樹の亜人はサラサラと緑の葉を揺らした。


湿原ならばコンディションとしては万全だろう。


「相手で特に要注意なのはミラニャンとカルナの回復コンビと魅惑チャームのヴェーゼスかな。マナをやすミラニャンと体力をやすカルナのせいで、ここはかなり打たれ強いチームなんだよね。で、ヴェーゼスは男女問わず行動を支配してくるんだ。メロメロになって冷静な判断が出来なかったり、意図せず味方を裏切ったりするから要注意ね。あとは……」


カークスはほほに指を当ててつぶやいた。


「トラちゃんは水に落っことせばKOだね。レールに乗ってはいるけど、動きが大幅に制限されてるからこっちの陣営まで斬り込めないと思う。そこまで遠距離攻撃が出来るわけでもないし、本人には悪いけ水嫌いでこのフィールドじゃどうしょもないよ。さて、そろそろ向こうが仕掛けてくるよ。皆、ここで勝とうね!!」


「うっしゃああ!!!!」

承知しょうちでござる!!」

「オラもやるだべな~~~!!!」

(カサカサカサカサ)


カークスチームと百虎丸びゃっこまるのチームが衝突に入った。

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