今度は逆方向の螺旋階段なの!?
打倒アシェリィチームを誓ったジュリス達。なにやら小言でコソコソ話はじめた。
「おいお前ら。アシェリィ達の弱点を教えてやるよ。一見してかなりスキがない連中だが、弱点がまったくないわけではない。そこを俺とリーチェでつっつけば効果てきめんなはずだ。いいか、よく聞けよ」
アンジェナとリーチェはゴクリとつばを飲んだ。
「まずアシェリィから。アイツは最近、サモナーズブックをタッチすることによって幻魔を喚び出してる。だから本に触れる前にリーチェがあいつの腕を拘束すればいい。もっとも、すぐさま詠唱での召喚に切り替えてくるだろうが、捕まえたほんの一瞬に一発くれてやればダウン確定だ。一応、肉体強化に似た魔術も使えるみたいだが、問題になるほど大したもんじゃねぇ。まぁそれは本人もわかってるだろうが……」
言われてみれば最近のアシェリィはよく本を叩いたり擦ったりしている。
かなり速いので妨害は難しいかと思われたが、ジュリスがいるとなれば話は別だ。
少しの時間さえ稼げれば強烈な体術をアシェリィが襲うだろう。
「次にノワレな。アイツ、今回持ち込んだのは双剣だ。なんでも小刀を構えたまま弓を打てる弓術らしい。これを聞くと全レンジをカバーできるように思えるが、実はそうでもねぇ。攻撃をしかけつつ近距離から遠距離を絶え間なく動くとどっちの武器を使うかって無意識のうちに迷っちまうんだよ。おまけに2人もいたら更に判断が難しくなる。下手に器用なだけにそれがアダになるパターンだな。ノワレには撹乱作戦で当たるのがベストだ」
ここでジュリスはめんどくさそうに頭を掻いた。
「イクセントが頭1つ……いや、3つくらい抜けてるのはわかると思うが伏兵が居てな。フォリオだよ」
アンジェナとリーチェは意外そうな顔をして互いを見合った。
「確かにフォリオはとんでもねぇビビりだが、ただでさえスパルタのナッガンクラスに在籍しつつ、学院内で屈指の練習量のフライトクラブでしごかれまくっている。俺らの知らない間にアイツはかなり実力をつけてきてる」
リーチェは難しげな表情をした。
「なんとか一発ブチこんでやる手段はありませんかねぇ?」
ジュリスは頭を掻きながら唸った。
「う~む……飛んでるあれを捕まえるとなるとかなり骨だぞ。俺の全速力でもホウキの端をつかめるかどうかってとこだ。フライトクラブの連中はハンパねぇからな。だが、こっちも弱点が全くないわけでもねぇ。地面に引きずり下ろす事が出来ればあるいは。まぁ速すぎて捕まらねぇと思うが。それに、マジックアイテムの対処ができなきゃどうしょもねぇしな」
3人は頭を悩ませた。
「よくよく考えたらまだグスモも残ってるじゃねぇか。この中では一番、フォリオに対抗しやすいんじゃねぇか? アテにしすぎるのもアレだが。もし、俺らがフォリオに遭遇したら相手が逃げ出すまでひたすら攻撃を浴びせまくるしかねぇ。さすがに向こうから仕掛(しか9けてはこねぇだろ。多分」
確かにフォリオはかなり成長したものの、根っこまで変わるわけではなくビビリな側面を色濃く残していた。
さすがに仲間がピンチだったりしたら踏みとどまるかも知れないが、戦闘回避のチャンスがあれば積極的に狙っていくに違いない。
さきほども真っ先にリーチェから逃げ出したわけであるし。
「一番頭が重いのはイクセントだ。アイツが攻撃呪文を一発でも発動したらまず壊滅的なダメージを受ける。俺は避けたり、受けたり出来るがあんだけの魔術だ。アンジェナとリーチェは即、リアクター行きだぜ。ほんと、末恐ろしいガキんちょだ。弱点は燃費の悪さだな。うまく強烈な数発の呪文をやり過ごせばそれ以上は詠唱できなくなるはずだ。ただ、密室の戦いでそこまで耐えきれるかっていうとほぼ無理だわな。グスモのトラップにひっかかるとも思えねーし……」
ジュリスは内心、気を重くしていた。
それもそのはず、相手にするのはウルラディール家、次期当主のレイシェルハウト・ディン・ウルラディールである。
魔術の名門武家の跡取りだけに超一流サラブレッドなのは間違いない。
どう考えても苦戦必至である。
知らなくても良いことを知ってしまったなと彼は少し後悔した。
そして先輩は気乗りしなさそうな顔で提案した。
「となるとやっぱり詠唱妨害しかねぇな。戦闘開始と同時に俺がイクセントにつける。そこでひたすら体術のコンボを繋ぐ。んで、後ろからリーチェが援護してダメージを与えていくんだ。相手は強敵とは言え無敵ではない。俺らに全く勝算が無いわけじゃねぇしな。いくら敵が強くても諦めるんじゃねぇぞ」
リーチェは真剣な眼差しで頷いた。
「幸い、イクセントの武器は小ぶりな杖だ。接近格闘の連撃をしかければそれを凌ぐのはかなりやりにくいに違いない。今の所、俺はアイツの回避呪文は7割くらい軌道が予測できる。運悪く避けられない限りは呪文詠唱のスキを与えずコンボが繋がるだろう。あとはリーチェの火力にかかっている。イクセントは回避呪文に頼っているところがあるから本体の防御力はそこまで高くはない。お前の髪の破壊力ならいけるはずだ」
ジュリスはコクリと頷いた。
「ま、こんなところだな。ただ、もし相手がタッグを組んでたら状況はかなり悪化する。いくら相手のチームワークがイマイチだからといって互いを補うくらいはしてくるだろうしな。2人を相手にするのは避けたい。こればっかりはもう運頼みだ。いいな、アタッカーは俺とリーチェ、魔法薬による援護はアンジェナだ。ただし、アンジェナはかなり打たれ弱いから無理に前に出てこないこと。回復できたらラッキーくらいに思っとけ」
ジュリスは手を差し出して円陣を促した。
リーチェ、アンジェナが手を重ねる。
「気合い入れていくぞおめぇら!!」
「おー!!」
「おーーーッ!!!!」
先輩を戦闘にして強襲のフォーメーションを取り、3人はドアノブに張り付いた。
その頃、あまりの手応えのなさにグスモは拍子抜けしていた。
「う~ん。やっぱり罠使いとして徹底的にマークされてるみたいっすねぇ。全く誰もひっかかる気配がないでやんす。となれば、こちらから攻めるしかないでやんすかね。ただ、きっと普通にドアを開けていくだけでは返り討ちにされてしまう気がするでやんす。どうせうごくならこちらから奇襲をかけてみるべきでやんしょ」
彼は部屋の隅にガムのような粘着物をはりつけた。
そしてグッっと腕を握るとそれは爆発を起こして別の部屋へと繋がった。
土煙をかいくぐるとそこは螺旋階段だった。上にも下にも続いている。
爆発の反動で壁がパラパラと崩れた。
グスモは思わず瞳を閉じた。五感の1つを断って感覚を研ぎ澄ましたのだ。
(破片が誰かに当たった……? そしてこの風切り音……フォリオさんでやんすな!! このペースだとすぐにここまで上がってくるでやんす!!)
ホウキ乗りの少年はオドオドした。
「まままま~た建物がく、く、崩れそうだよぉ~!! しかもこの階段、さっきのと逆向きじゃないかぁ!! ま、ままた迷っちゃったよ~~~!!!!」
かなり高速で上昇するフォリオをグスモはとらえた。
「もらったぁ!!」
片手でホウキの端をキャッチする。
そのまま大車輪のようにぐるぐる回って遠心力をくわえた。
だが、フォリオはびくともしない。
(そうか……これがGキャンセラァ)でやんすね!! ならばっ!!」
グスモはぐるんと勢いをつけて周り、ホウキの上にしゃがみこんだ。
そのまま走り出してフォリオめがけてスライディングを放った。
「う、う、う、うわぁっ!!!」
今度は器用に上半身を下にひっくりかえってグスモの滑り込みを回避した。
「うーむ!! お見事!! なんとまぁ曲芸師のようでやんすね!!」
2人はもみ合いながら上昇していった。
「そろそろでやんすね!! お先に失礼するでやんすよ!!」
そう言うとグスモは螺旋階段の上の方へジャンプした。
「ふふっ、ふぅ。なんとかなったのかな。で、でももうだいぶ疲れてきてるし、そそ、ろそろ休みたいんだけどな……あっ!!」
ホウキ乗りの少年は反射神経で飛んできた仕込み式の無数のダーツを回避した。
この階段にグスモが出た時に罠は既に仕掛けられていたのだ。
下の方でもみ合ってうまい具合にダーツに誘導するのが彼の作戦だった。
グスモの罠は当然のごとく自分と敵とを判別する。
そしてダーツは小さい上に視認しにくく、フォリオは完全に避けきる事は出来なかった。
彼は疲労していたので余計にだった。
「しし……しまった……。ここ、これ……どど、毒だね……?」
逆さまのままガタガタ震えるフォリオを憐れむような顔でグスモは見つめた。
「マナが針から溶け出すダーツでやんす。暴れれば暴れるほど急速に消耗していってやがて気を失うでやんすよ。フォリオさん、見事でやんした……」
罠使いは階段から飛んでホウキ少年をキャッチすると壁を蹴って階段へ戻った。
そして彼を優しく横たえて、その場を後にした。
これでアシェリィチームの残りはアシェリィ、イクセント、シャルノワーレ。
アンジェナチームの残りはアンジェナ、リーチェ、ジュリス、グスモとなった。
数で見るとアンジェナチームが有利だが、チームや戦力的にはどうなるかまだわからない。
クライマックスが近づいていた。




