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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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へいお待ち!! アツアツ・トロトロ・歯車のピッツァ

「これよりジュリスはアンジェナのチームに編入することとする。ターゲットはアシェリィチームの生き残り全員!! 代わりにジュリスといい勝負をしたら評価点を加点してやろう。無論、ジュリスにも追加点をくれてやる」


突然、ナッガンがそんなことを言いだしたのである。


アシェリィチームは当然、戸惑とまどいを隠せずざわめいた。


最も騒いでいたのはフォリオだった。


「じゅじゅじゅじゅ、ジュリス先輩相手なんてむむむっ、ムリだよぉ!! いい、いくらレーザービームを使っちゃいけないからって!! め、め、めちゃくちゃ先輩の体術は速いんだから!! どどど、ど~しよ~!! 一対一で狙われたらこ、端微塵ぱみじんのバラバラ肉だよ!! はは、早くみんなと合流しないと!!」


シャルノワーレは驚いてはいたが冷静だった。


「間違いなく強敵ですわ……。でも、飛び道具が禁止されている以上、こちらが一方的に攻撃を仕掛しかけることは可能なはずですわ。むしろ、逆に守りに入ったら負けるでしょう。チームメイトと合流して集中砲火でダウンさせるのがセオリーでしょうね。もっとも、それはジュリス先輩単体の話。まだアンジェナ、ガン、リーチェも残っていますし。そちらの方々と組まれるとますます厄介ですわね」


彼女は戦闘の構えを変えた。背中の矢筒やづつから矢を一本、取り出すと横に口にくわえたのである。


そして大弓を肩から下ろすと双剣、ヂュアルイェーガーを握ったまま器用に弓を引き絞って空打ちした。


「ちょっと照準が下にブレますわね……。まぁいいでしょう。小ぶりで発射のジャマにもなりませんし、グリップも調整済み。これだから双剣は使いやすいですわ。中~遠距離で牽制けんせいしつつ、接近されたらこっちで迎撃。敵はジュリス先輩だけではありませんのであらゆる状況を想定しておく必要がありますわね」


2Fへの踊り場のある広い部屋でアシェリィとイクセントは背中をくっつけて警戒態勢をとっていた。まだこの2人は迷宮構造ラビリンスで戦闘していない。


「おい、どう思う?」


ぶっきらぼうにワンドの少女は召喚術師サモナーに声をかけた。


「う~ん……。ジュリス先輩、体術だけでもめっちゃ強いからなぁ……。特におでこへのデコピンは超痛い。脳が揺れるし、あれでやられた人も多いよ。でも、イクセントくんならいい勝負出来るんじゃないかな? 有利に立ち回るのは難しいかもしれないけど、即KOノックアウトって事にはならなさそうだよ」


イクセントは大きくため息を付いた。


「はぁ……。それに勝たなきゃならんのだぞ? 第一、攻撃が通らなければ話にならん。お前の方はどうなんだ。勝算はあるのか?」


アシェリィは難しい顔をした。


「う~ん。先輩が『こいつらの攻撃、結構痛い』って言ってたからクリティカルヒットすればただでは済まないと思う。私のフルパワーの幻魔げんまならそこそこダメージは通りそう。だからきっと倒すチャンスはあるよ。でも相手はジュリス先輩だけじゃないからなぁ。欲を言えばノワレちゃんかフォリオくん。1人はすけっ人がほしいところだね」


2人が話し込んでいると謎の振動がその部屋を襲った。


天井からパラパラと破片が振ってくると同時にゴウゴウっと音がする。


アシェリィとイクセントは視線を合わせて互いに部屋のはじまで走った。


次の瞬間、天井をブチ破ってガンの銀の歯車「マッドネス・ギアー」が落ちてきた。


床にめり込んでもがいていたがすぐにみぞから離脱した。


「リーチェの言う通りっす!! 最初からこうしてればよかったんすよ!! 迷路のヤツの相手なんて真面目にやってやるのが間違いだったっす!! ぶち破ってぶち破ってぶち破るっすよ~~~!!!!! アシェリィにイクセント、覚悟するっす!!」


いつのまにか狂った歯車の色が銅色どういろから銀色ぎんいろにかわっていた。


「ぐっ、こいつ、いつのまにシルバー・アルケミィを……。アシェリィ!! お前じゃまともにかれたら一発アウトだ!! 部屋を出て逃げろ!! ここは僕がやる!! ガンをつぶす千載一遇せんざいいちぐうのチャンスだ!! さあ、早く行け!!」


イクセントには珍しく声を張り上げたさけびだった。


だが、アシェリィに仲間を見捨てるという選択肢は微塵みじんもなかった。


「私達、チームでしょ!? お互いに協力するのは当たり前のことだよッ!! それに、私だってそう簡単にはやられないんだから!!」


魔術師の少女は思わず笑みを浮かべていた。


なぜ自分が笑っているのかよくわからない。それでも自然と顔がほころんだ。


アシェリィもそれに反応して微笑ほほえみを返した。


開き直った人間というのは強いもので、ガンは完全にイケイケムードだった。


屋敷に対する破壊行為に一切の戸惑とまどいがなく、味方が居ても跳ね飛ばすくらいの勢いである。


そうとう迷宮構造ラビリンスにストレスを感じていたのだろう。


だが、頭に血が上った人間はスキが生じるというのもまた事実で、ハイパワーになっているかわりに細かい判断が効いていないように思えた。


軌道も脳筋のうきんのストレートが目立つ。


「ほっ!!」


「やぁっ!!」


2人は軌道を読んでそれぞれ回避バフをかけてガンの突進を回避した。


「そっちがなりふりかまわないならこっちだって!! サモン!! ゴビ・イエロー・カーキ!! サンドリス・エメス!!」


砂をり固めた大きなゴーレムが床からい出すように出現した。


「オ、オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」


砂の巨人は雄叫おたけびを上げるとガンの歯車をガッシリつかんだ。


ギャリギャリと音を立ててマッドネス・ギアーが空転する。


「こ、こんな砂木偶すなでくに!? えーい!! フルパワーっす!!!!」


銀の歯車のスパイクがよりせり出した。すりつぶす気である。


だが、アシェリィの稼いだ時間は長く、大きなチャンスとなった。


「でかした!! かなり歯車の質はいいが、これならなんとか!! くらえ!! 廃金はいきん腐海ふかい!! トローンド・アシド・オセアーヌ!!」


イクセントがワンドを突き上げると部屋の中を黄土色おうどいろの液体が満たした。


「ガボ……ガボガボガボ!!!!!」


アシェリィは息をしようにもどこにも空気を吸えるポイントがなかった。


パニックになりそうだったが、しばらくしても不思議とおぼれることがない。


恐る恐る目を開けるとイクセントが慣れた様子で浮いていた。


「あ……あれ? まるでリアクターみたいな……あっ!!」


密室を見渡しているとガンに変化があった。


なんとマッドネス・ギアーがトロトロと溶け出したのである。


「ああ!? 俺のマッドネス・ギアーが!?」


ゆっくり水位が引いていくとそこには無残にピザのようにとろけた歯車だったものが残っていた。


思わずガンはがっくりとうなだれて四つんいになってしまった。


縛兎ばくと蜘網ちもう!! パイダー・バインズ・バーナリィ!!」


少女がそう唱えるとどこからともなく、白い網が飛んできてうなだれる少年を襲った。


網はまるではりつけにされるように壁へとベッタリくっついた。


「くっそぉ!! 離すっす!!」


暴れて抵抗するがクモの網のようなネットはびくともしない。


イクセントは金髪碧眼きんぱつへきがんの少年を鼻で笑った。


「フン。離せと言われて離すアホがどこにいるんだ。アシェリィ程度にしてやられるとは慢心まんしんが過ぎたな。しばらくそこで頭を冷やしてろ」


身動きの取れなくなった少年は自分の不甲斐ふがいなさを痛感して叫んだ。


「くそぉっ!! くそおおおおぉぉぉぉ!!!!!」


ナッガンは映像を止めた。


「これでガンも脱落だ。相手の武器を無効化するのは非常に有効。この場合、決してガンの歯車が弱かったわけではないのだが、相性もあってイクセントが一枚上手いちまいうわてだったな。それもアシェリィのサポートがあってのおかげだ。案外、お前らは相性が良いのではと俺は思っているのだが」


アシェリィは苦笑いを浮かべ、イクセントはそっぽを向いて外の海をながめていた。


続きが再生される。


広めの一室でリーチェがアンジェナの手当をしていた。


「は~、回復potポットのおかげで血が止まったか。アンジェナさぁ、危険を読んで駆けつけるのは良いけど危険を逆察知されたらマズイと思うんだよね。そりゃからくりを知らない相手には通用すると思うんだけど、ノワレからしたらただのカモだったんだかんね」


リーダーはペコリペコリと頭を下げた。


「すまない。でもここで俺に出来るのは危険を読んでかけつけて仲間をリンクさせることくらいなんだ。そりゃ危険回避に使うのがベストなんだが、1人で使っても効果は薄い。でも今は君がいるじゃないか。危険を避けながらジュリス先輩と合流しよう。……む!!」


リーチェは赤く長い髪を再生させつつアンジェナの様子をうかがった。


「これは……ジュリス先輩が危ないな。反応が薄いから罠にひっかかったとかそういうのだと思うが。きっとまだグスモのわなにジュリス先輩の敵味方判定が反映されてないんだ。こっち。こっちのドアから反応がある」


アンジェナの危険占いも強力で迷宮構造ラビリンスの中でも方向感覚をつかむことができる。


扉を開けるとそこにはブリッジ姿でピクピクし、罠をギリギリで回避している先輩の姿があった。


「だ、誰だよ床にこんな大穴開けたバカ野郎は……。いきなりフロア全体が穴に……なったらどうしょもねぇ……だろうが!!」


かなりしんどそうな姿勢で彼はこらえている。


よくこのわなのてんこ盛りを乗り切ったなと扉のの前の2人は感心した。


「ジュリス先輩!!」


リーチェは髪の毛をロープ状に変形させ、ジュリスの体に結びつけてすぐに救助した。


「ふぅ。助かったぜ。誰だよあんな大穴あけたのは。しかし俺、編入されたんじゃねーのかよ。わなが発動してんじゃんか。グスモのヤツに文句言ってやる」


(穴あけたのガンだな……)


アンジェナとリーチェは同時に同じ人物をイメージした。


一方のジュリスは2人を観察していた。


「ふむ。アンジェナとリーチェか……。アンジェナは無理することはねぇからな。せいぜい回復potポット補充要員だな。よくここまで皆を引っ張ってきてくれたな」


何かと肩身かたみせまい思いをしている彼にとってこの一言はとても嬉しかった。


「この様子だとグスモは単独行動か。そっちはそっちに任せるとしようぜ。じゃあ俺とリーチェでタッグを組んで残りのアシェリィチームをぶっ潰そうぜ!!」


あまりの軽いノリに面々は拍子抜ひょうしぬけしたが、彼とフィーリングの合ったリーチェは笑顔で答えた。


「いいよ。やってやろ~じゃんか。アシェリィ達に一泡ひとあわ……いや、大泡吹かせてやろう!!」


アンジェナは頼もしげに笑ってタッグ名をつけた。


「美しいあかいい髪の2人組……ツイン・スカーレッドとでも名付けようか」


ジュリスは片手を差し出した。


「いくぜ~~~!!」


そのてのひらをリーチェは強く叩き返した。


「うっしゃあ!!」


熱く燃える2つの闘志とうしは劣勢をくつがえせるだろうか?


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