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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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リトル・リトル・リトル・ラガーボーイ

シャルノワーレは勝負師のダイスを振った。


これは85%の確率であたりが出るイカサマダイスである。


当たれば振ったものに有利な状況に、ハズレればフリな状況におかれる。


普段、確実性に重きを置くノワレだったが、相手にも占い師がいる以上、多少正攻法とは外れないと対抗できないと踏んだのだ。


「そぉれ!!」


ダイスは宙を舞って床に転がった。


「出目は……3ですわね。ということは背後のドアへいきましょうか」


ノワレはそーっと扉を開けた。


正面に左右とドアがある。また4方向をドアに囲まれた部屋だ。


何か仕掛しかけけがないか確認して部屋に入ると背後から音がした。


「ガチャリ……」


すぐに入ってきたドアのノブをひねるがいつのまにかロックがかかっている。


もう来たドアへ戻ることはできなくなってしまった。


もっとも、戻ったところで元の部屋には戻れないのだが。


彼女が白い扉と格闘かくとうしていたその時だった。


「ガチャリ」「ガチャ」「キィー……」


同時に背後の3つの扉を開いた。振り向くとそこにはリーチェ、ガン、アンジェナが揃って現れていた。


「え?」


「あ?」


「お?」


一気に相手チーム3人に囲まれてしまったことになる。


(うわぁ!! これは大ピンチを引いてしまいましたわ!!)


だが、向こうも突然のことですぐさま攻撃に移ることはできなかった。


互いに情報が錯綜さくそうした。


だが、一番最初に答えを出したのはシャルノワーレだった。


(この場にアンジェナが来るということは占いで味方の危機を読んでそれに反応してやってきたはず!! 裏を返せばここで仲間たちが危機におちいる事態になるということ!! ダイスが当たった可能性もありますし、一見して超不利に見えて強気に攻めれば勝機はありますわ!! ここは攻めます!!)


そう彼女が判断するかしないかのところですばやくリーチェが反応した。


髪を練り上げて無数のロープを作り、ノワレを捕縛ほばくしようとした。


だが、狙われた方は双剣、デュアル・イェーガーズを抜き取り早業はやわざで真っ赤な髪の毛を切って落とした。


「あー!! あたしの髪が~~~!!!!」


そう言っているそばから彼女の髪はニョキニョキ伸び始める。


アンジェナは戦闘手段にとぼしいのでともかく、ガンは完全に動けずに居た。


「こらガン!! 突っ立ってないで援護しないか!! 部屋の1つや2つ、ブッ潰す気でやればいいんだよ!!」


リーチェの発破はっぱに少年は戸惑とまどいの声を上げた。


「いくらなんでも部屋が狭すぎるっす!! それにここでマッドネス・ギアを使ってしまうとどうしても味方を巻き込んでしまうっす!!」


アンジェナが2人の言い合いに静止をかけた。


「いい加減にしないか!! せっかく3人で1人を叩けるんだ。このチャンスをムダにするのは―――」


そう言いかけたときにはノワレの双剣技が発動していた。


「タイフュゥームの戦武曲いくさぶきょく!!」


彼女は回転して狭い部屋の全体に激しい旋風せんぷうを起こした。


アンジェナチームの3人は巻き上げられて自由を奪われるだけではなく、スパスパと切り傷を負っていった。


リーチェは髪の毛でドアノブをつかんで体を固定した。


肉体強化フィジカル・エンチャントの弱いアンジェナはかなりのダメージを受けた。


「おーっほっほっほ!!!! ダイスは当たりましたわね!! 一・網・打・尽!!」


このままでは致命傷になると思ったリーチェはアンジェナを髪でぐるぐる巻きにして止血した。


そしてまるで触覚のように器用にドアノブを開けてそこに逃げ込んだ。


「ガン!! 私達は撤退する!! いいか、このやかたは壊れなんてしないんだ!! お前のマッドネス・ギアで思いっきり暴れてやれ!!」


空中でお手玉にされていた少年はそれを聞いて歯車を展開した。


それ自体の重さでなんとか地面に接地した。


しかし、大きさは最大時の半分にも満たず、ガンの周りをおおう程度の大きさだった、


「横に猛スピンして逆にふっとばしてやるっすよ!!」


銀色の歯車は床や壁をガリガリと削りながら激しく回転した。


だが、彼は自分の作戦を口に出してしまっていたので暴れる頃にはノワレはもうその部屋にいなかった。


「もー開き直ったっす!! ジャマな壁をぶっ壊してやるっすよ!!」


ナッガンが映像を止める。


「結局、ガンは歯車を小型化する作戦で挑んだ。結果、大幅にパワーダウンしてしまった。俺としては部屋を丸々ツブしてでも元の大きさで戦うべきだと思っている。失策だったな。もっとも、あまりにやりすぎると下のフロアへの落とし穴や意図しない空間に転移することもあるので危険性はかなり高い。だが逆に部屋を破壊して相手を放り込むことも出来る。あのケースでは味方も巻き込んでしまうが、シャルノワーレを叩き落とすことは出来たはずだ」


再びマギ・スクリーンに映像が再生された。


今度はフォリオが映っている。かなり狭い部屋でホウキには乗れ無さそうだ。


長い渡り廊下をとぼとぼと彼は歩いていた。


「うう、う~ん……ここ、このおやかた、ぜ、全体的に天井低いんだよね……。ぼぼっ僕も7割くらいは地上に居るし。こ、この状態で誰かに襲撃されるとすごくまずいなぁ」


その時だった。前方左の扉が開いたのだ。


「わわっ!! 逃げないと!!」


背後のドアノブを握るがいつの間にかロックされている。


ナッガン教授は解説をはさんだ。


迷宮構造ラビリンスには魔法生物に近いものもある。連中は人をからかったり困らせたりするのが好きでな。最初のうちはそうでもないんだが、徐々に扉をロックしたり、無限ループにはめるなどの悪ふざけが増えていくことがある。どちらも壁を破壊するのがセオリーだが、それさえもワープ先が元居た部屋というケースもある。こういった迷宮構造ラビリンスには長居するべきではないと覚えておけ。続けるぞ」


出てきたのはファーリスだった。すぐに互いに戦闘の構えを取る。


「気の毒だったな。この天井の低さではホウキの性能を活かしきれまい。先手必勝!!」


ファーリスの魔導まどうは耳についたベース部分に異なるピアスを付け替えることで効果を変える。


全体的に攻撃重視のものが多く、破壊力の高い術者として認識されている。


「ピンキー・ウェル!!」


彼女は桃色のピアスを軽く指で弾いた。


するとそれは宙に浮かんでフォリオをホーミングしはじめた。


小さいなながらビットのような動きをして強力なピンクのビームが少年を襲う。


すぐにピアス使いは使うアイテムを緑のピアスつけかえた。


またもやピンとそれを指で弾くと今度は天井からツタが生えてフォリオの飛行を封じた。


しつこくビットに追い回されるし、ツタに捕まってしまい天井高く浮くことは出来ない。


それでもフォリオは懸命けんめいにホウキで中層を飛び、攻撃を避けた。


これには思わずファーリスも驚いた。


「バカな……。なんて精度だ!! 敵ながら天晴あっぱれ!! でもいつまでもつかな?」


着実に逃げられるスペースに桃色のピアスがつめてくる。


弾の動きや軌道から貫通型である。まともにくらったら致命傷ちめいしょうは避けられない。


だが、ただでやられるフォリオではなかった。


彼の十八番おはこはホウキだけではない。マジックアイテムもあるのだ。


ギリギリで攻撃をかわしながら少年はカバンの中を漁った。


「ここっ、これだぁ!! じじ、ジャミングスモーク!! たたっ、短時間だけど魔術を妨害するんだ!! せせ、せやぁ!!」


薄い青色のけむたい気体が部屋に充満した。


「ゴホッ、ゴホッ!! こ、これは……?」


ファーリスのピアスは床に落ち、天井のツタは消えた。


不意の煙幕えんまく攻撃に彼女はひるんだ。


だが、フォリオは内心で非常に焦っていた。


(こ、このアイテムは効果抜群こうかばつぐんだけど10秒も持たない!! し、所詮しょせんは、ここっ、子供だましにすぎないんだ!! な、なんとか……なにか手を打たないと!!)


有利に立ち回っているように見えたが、逆に制限時間のあるシビアな戦いとなっていた。


そんな時、一見してまったく現状と関係しないような記憶がフォリオの中に浮かんでいた。


「もももっ、もう無理ですぶちょぉ!! やや、やっぱぼぼっ、ボクにはエアリアル・ラグビーなんて無理なんですってば!! もも、もう何度もふっとばされたか!! かか、体だってあちこちガタガタですぅ!!」


フライトクラブの部長は弱音を吐くフォリオにげきをいれた。


「まぁだまだァッ!! そんな事でヒーヒー言ってるとわが校、伝統のフライトクラブの顔にどろることになるぞぉ!! ウジウジしてねぇで目標、目掛めがけてタックル、タックル、ひたすらタックルだ!! 小柄だとか、非力だとかそんなのは関係ねぇ!! 根性と熱いソウルがお前を強くするんだ!! いいな、エアリアル・ラグビーでタックルする時はな”真正面から向かっていくんじゃなくて、肩を前に突き出して当たる面積を減らす”!! これによってブロック力と破壊力が上がるんだ!! わかったな!?」


10秒立たないわずかな時間でその鮮明な部長の言葉がフォリオの中に響いた。


「ぶぶっ、部長!! ぼぼっ、ボクやります!!」


青い煙幕がはけはじめた。そろそろジャミング効果も切れる頃だ。


だが、まだファーリスの視界は整っていない。


「うう、うわああああああああああああぁぁぁぁァァァッッッ!!!!!!」


ホウキ乗りの少年は部長に教わった通りのエアリアル・ラグビーの構えでピアスの少女めがけてタックルをしかけた。


半ば捨て身に近いその攻撃は少女のみずおち付近にクリーンヒットし、相手を激しくふっとばした。


ファーリスは壁に思いっきり衝突して土煙をあげた。


煙がおさまるとそこにはぐったりと壁に横たわった少女がいた。


「あ、あ……ご、ごめんな……さい。ほほ、本当は回復potポットを上げたいんだけど、これは勝負だから……。ふぁ、ファーリスさんが復活されても困るし……。そ、そそそれじゃあ……」


そういってフォリオはそそくさとその部屋を後にした。


渾身こんしんの一撃をモロに喰らってしまった少女は激痛に顔をゆがめた。


「くっ……骨が何本か折れたな……。それと内臓のダメージが……。決して手を抜いたつもりはなかった……。だが、弱虫と思っていたのは事実じゃないか。その慢心まんしんの結果がこれか……。あとでフォリオくんには謝らないとな……」


ナッガンはさきほどの戦闘を見て感心していたようだ。


「なんだかんだでフォリオがKOノックアウトを取った初めての戦いということになるな。フォリオはフライトクラブで上級生と当たることも多い。また、部の方針でマジックアイテムの知識に関してもあなどれないものがある。今回はそれがうまくハマって出た結果だというところだな。フォリオ、お前はもっと自信を持て。それが強さにつながる」


名指しされた少年は周囲の反応をうかがって恥ずかしそうにモジモジした。


この時点でアシェリィチームは全員戦闘可能。


アンジェナチームはファーリス以外は戦闘可能な状況だった。


また映像が流れ出した。しかしここで予想外のシーンが映った。


迷宮屋敷にアナウンスが響く。


「アンジェナ班はファーリスが撃破され、アンジェナも戦闘向きとは言えない。このままでは消化試合になってしまう。よって、アシェリィチームのジュリスはアンジェナチームに編入する。ジュリスはアシェリィ、イクセント、シャルノワーレ、フォリオを攻撃対象にするように。代わりにうまいことジュリスを倒せば大幅に評価点をやろう」


これにはクラスがざわついた。映像の中のジュリスはニタリと笑って拳を打ち鳴らせた。


「こいつぁ面白ぇ事になってきたぜ!!」


それを聞いていたアシェリィチームのメンバーは4人全員が残っていたが顔色を険しくせざるをえなかった。


あかいい長めの髪にダサいジャージがきわだった。


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