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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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迷ったらぶっ壊せば良いんじゃねーの?

グスモは入り口のドアが直線上に並んだ小部屋にしこたまわなをしかけていた。


そして、扉の上の死角である部屋の天井のすみにハンモック状のシェルターを作って陣取じんどった。


ターゲットは思ったより早くやってきた。


「ギィ……」


ドアはゆっくり音を立てて開いた。


だが、相手は用心深いようでなかなか部屋にみ入ってこない。


(コイツ……出来るでやんすね。お顔を拝見はいけんといきましょうか)


コッソリ小さな少年がのぞき込むとそこにいたのはチームメイトのファーリスだった。


「ファーリスの姉貴。ファーリスの姉貴……」


グスモはささやくように声をかけると彼女もささやきで返した。


「その呼び方……グスモくんだね? ということは一見、何もないように見えるこの部屋はトラップルームか……敵味方を区別できるんだったか」


罠師わなしは部屋の床に降りて姿を見せた。


「そう。この罠はちぃとばかし手間でやんすが、敵味方はしっかり区別するんでやんすよ。部屋の中に居たほうが安全でやんす。ささ、とりあえず入るでやんすよ」


ファーリスはうなづいてトラップルームに入った。


「しかし……本当に何も起こらないんだな。だが敵が入った途端、罠のオンパレードか……想像したくないな。その上、秀でた体術が君にはある。こと体術においては我がチームNo1(ナンバーワン)だしな」


群青の美しい長髪の少女は周りを見渡した。


「そんなこといったら姉貴だって。魔導まどうピアスの攻撃はトリッキーでかなり厄介だと思うんすけど……」


ファーリスが首をかしげると耳のついのピアスがキラリと揺れた。


「その姉貴って呼び方は気になるな。私は君の姉ではないのだが……」


グスモはかたをすくめた。


「なんていうんすかね……先輩の代わりに敬意を評して兄貴、姉貴と呼ぶ。どうでやんしょ?」


実はちょっと気になってはいたが、姉貴は寛容に接した。


「ま、君がいいならそれでいいんじゃないいかな。ところでこれからどうする?」


罠のど真ん中で2人は最適と思われる今後の行動を話し合った。


グスモもファーリスも頭の回転が速いほうだったので意思疎通いしそつうがスムーズで、すぐに作戦がまとまった。


「あっしはせっかくのこの魔術はソロ向きでやんすから。この調子でトラップルームを量産するでやんす。誰かひっかかれば万々ばんばんざい会敵かいてきしたら逃げながら迷宮構造ラビリンスを利用しつつトラップで応戦。ここの構造はあっしには有利なんでやんすよ」


罠師わなしの少年はかなり手堅い作戦を立てた。


「じゃあ私は遊撃だ。味方との合流を目指しつつ、必要に応じて戦闘、撹乱かくらん、逃走など臨機応変りんきおうへんに対応していく。特に早いうちにアンジェナと合流したいところだ。そうすればガン、リーチェと早く落ち合うことが出来るはず。もっとも4人集まっても戦うスペースがないだろうから全員集まる必要はないだろうが。それは相手チームも同じことだ」



2人は互いの無事と健闘を祈ってその場を離れた。


少しして、部屋を観察していたアシェリィチームの先輩、ジュリスが動き始めた。


「かーっ、なんだよこのだせぇ真っ赤なジャージは!! 罰ゲームかっつーの!! それは置いとくとして、やっぱこの部屋の造りのいびつさ……。自動生成ダンジョンだろうな。で、運悪くここの部屋は外に出る扉しかねぇ。この先で待ちせをくらってたらマズイことになる。かといっていつまでもここで悩んでいても仕方がねぇ。いくぜ!!」


紅蓮ぐれんの髪の青年は口調とは裏腹に慎重しんちょうに唯一のドアを開けた。


そのままゆっくり後ずさりしながら様子をうかがう。このあたりの立ち回りは手練てだれのそれだった。


「誰もいねぇか……」


だが彼は部屋に一歩もみ入ろうとしない。


(相手チームにゃ罠師わなし……グスモが居る。罠部屋わなべやを量産してる可能性だってあるだろうよ。確か補助魔法までは禁止されてなかったはずだ)


「T・マイニーング・ヴィジュアラート!!」


ジュリスがそう唱えると部屋中に所狭ところせましとしかけられた罠が見えるようになった。


「お前、こりゃ仕掛しかけすぎだろ。殺しにきてんな。どうせ味方は引っかからないとか都合のいいオプションついてるんだろうが。じゃなきゃこんな仕掛しかけ方はできねぇよな……」


青年はあごに指をやって考え込み始めた。


「ふ~む。こりゃあこのトラップルームを全くの無傷での正面突破は無理だな。かといって扉はこの1つしか無い……。となれば!!」


八方塞はっぽうふさがりかと思えたが、彼は活路かつろを見出した。


「ガガーン!!!!!」


思いっきり後ろ蹴りのソバットを壁めがけて打ち込んだのである。


互いに独立した空間で成り立っている迷宮構造ラビリンスだが、やかたとしては1つの集まりだったのでこの破壊行動は他の部屋に響いた。


「ズズン!! パラパラパラ……」


鈍い音とかすかな振動が全てのエリアに届く。


これにはジュリス以外の選手は驚いて思わず身構えた。誰かの襲撃、もしくは建物の倒壊を心配してのことだ。


壁に穴を開けて破壊した張本人はここが迷宮なのを再確認した。


「破った穴の向こうにいきなり登り階段かよ……。気持ち悪ぃ間取りだぜ。しかもこれ、本当は登ってるのかどうかわからないタイプの階段じゃね? あーめんどくせぇなもう」


ここで意地悪いじわるな気持ちがわいてきた彼は階段手前の左右の壁を蹴りで立て続けにぶち破った。


何度かやかたが震える。


「ひっひっひ!! 他の連中はビビってるんだろうなぁ……。あ~あ。くだらねぇことやってないで連中に加勢かせいしに行くか」


ジュリスのせいで天井からパラパラ欠片が降ってくるのをフォリオは腕で弾いていた。


「ああ、あだっ!! い、いいいだっ!! たた、建物がこわれる!?」


彼は螺旋階段らせんかいだんのフロアに居たが、いつまで登っても上の階につかないのでホウキで階段の脇の開けた空間を上昇していた。


リーチェも同じ階段を登っていたが、上にも下にも続いているのであきらめかけていた。


「ふええ~~。なんだよこの階段。これラビリンスじゃんか。無限階段だよ。どうにかして逃げ出せな……」


彼女は下から何かがかなりの速度で上がってくる気配を感じ取ってしゃがみこんだ。


そして、手すりの合間から下をのぞいた。


(あれは……フォリオか!! こっちには気づいてない。奇襲きしゅうをかけるなら今だ!! かなり速いぞ……当たるか!?)


真紅の髪のリーチェは息を殺した。


「スカーレッド・フィストぉ!!」


彼女ご自慢の髪を練り上げて作り上げられた巨大な拳がフォリオを襲う!!


「うう、うわぁっ!!」


ビビりつつもちゃっかりフォリオは攻撃をかわした。


緋色ひいろの拳で螺旋階段らせんかいだんの壁に大きな穴が開いた。


「ににっ、逃げなきゃ!!」


彼はその別の部屋への狭間はざまに飛び込んでいった。


「チッ!! なんてすばしっこいんだ!! だけど壁に穴を空けたのは正解だった。私もあそこへ飛び込んでこの階段とはおさらばさ!! そうだよ。まともに迷路の相手なんてしてられるかっての!!」


割と好戦的なリーチェはフォリオを追うように別の部屋へつながる割れ目に飛び込んだ。


同時に彼女は壁破壊もさない方向へとシフトしていった。


一方のノワレは孤立した部屋から始まった。


装備品はおなじみのエルフの弓、そして矢筒やづつ


そして今回持ち込んだはノワレとの剣の訓練に使っていた名もなき剣ではない。


うっかりこの武器を使ってしまうとウルラディール流剣技を表にさらしかねないからだ。


だが強力さと熟練度でいえばその剣は名も無いながらに彼女のWEPウェップメトリーの中では屈指のものだった。


使い心地とお気に入り度では不死者アンデッドによく効く大きな戦斧、パピヨーネ・アクシュエも悪くない。


だが、狭い場所での戦闘にてんで向かなかったのであえて候補にあげなかった。


そのかわりに持ってきたのが朱色しゅいろの双剣、デュアル・イェガーズだった。


この迷宮のやかたでその判断は正しかった。


また、すばやく手数の多いエルフの特性と双剣の特性はマッチしていて接近戦での相性は抜群ばつぐんだった。


双剣に手を触れると前の持ち主のメモリーがよみがえる。


(ハハ……こんな初歩的なドジやっちゃってさ……。せめてもうちょっと早く人里についてれば死なずにはすんだかもしれないのに……。あ~。血が止まらない……意識が遠のいていく……。死……? 死ぬってこういう事なのかな? イヤだな。独りじゃイヤだな。誰か一緒に……一緒にきて……きてくれない……かな……)


割とマシな記憶メモリーではあるが、未練に満ちたものに変わりはない。


これはミナレートの夜の闇バザール見つけたものだ。


優れた武器には強烈な記憶が宿っているものだ。


何らかの事情で生きている間に手放された武器はそこまで強力なものはない。


死によって遺品に宿る怨念おんねんじみたものこそWEPウェップメトリーの真骨頂しんこっちょうなのだ。


だからシャルノワーレが武器を探すということは人の死を見ているようなものである。


見るという生半可なまはんかなものではなく、まるでリンクしてフラッシュバックするようなショッキングなものだ。


時々、気がふれそうになるほどのものもあるが、その中から選りすぐっただけあってどの得物えものも一級品である。


こう言うと彼女はかなり悪趣味な蒐集家しゅうしゅうかにも思えるがそんなことはない。


武器を調達するのも必要な時のみであるし、過度に武器の記憶に感情移入することもない。


むしろ普段は中古武器なんて見たくもないくらいなのだ。


そんな彼女だからこそ掘り出す物には優れものが多い。


WEPウェップメトリーの腕前は確かだが、それにしてもまるで向こうがノワレを選んでやってきている感さえある。


「じゃあせっかく4方向もドアがあるんだし、闇バザールで見かけたギャンブラーのメモリーの宿った4面ダイスでも振ってみようかしら。せっかく相手に占い相手がいるんだし、対抗してたまには運頼みも嫌いじゃなくってよ。当たればとっても大ラッキー。外れれば大ピンチ。でもこのダイス、案の定、イカサマが仕込んであって8割5分は絶対有利な目が出るのよね。ま、いけるでしょう」


効果が怪しくてもメモリーを読み取った以上は感謝して使う。それが彼女のポリシーでもあった。


「じゃあこっちを1にして時計回りに1,2,3,4とドアを割り振って……そぉれ!!」


ノワレは天井近くまで4面ダイスをほうり投げた。


運命のさいは投げられた。


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