チームのチカラとアクマのチカラ
ナッガン達は2ヶ月ほどかけて対人訓練をしていった。
それはその間、息をついてどこかにお茶をしに行くヒマが無いくらい厳しいものだった。
アシェリィたちの学年にはナッガン以外にオーセンとキルレーテという鬼教授が2人いるらしい。
なんでもカーニバラー・バトレーエにも大層、力を注いでいるようで、こちらのクラスと同じくスパルタ訓練をしているという。
一方、ナッガンはというとあまりそういった行事の結果にこだわると言うよりは過程を大事にする派である。
「お前ら勝たなかったらウサギ飛び3万回な」とか無茶なことを言い出さないのはせめてもの救いだった。
彼は教卓に立つと大きく首を縦に振った。
「これでクラス内模擬戦の全試合が終わったわけだが、正直言って想像以上だった。お前の成長を肌で感じることの出来る。どれもそんな試合だった。どこへ出しても恥ずかしくはない……というのは言いすぎだろうが、ある程度は自身を持っていいと思う。それでは映像を見ながらMVPの発表と行こうじゃないか」
試合の結果は負けたり勝ったりの繰り返しでどこかが飛び抜けて強かったというわけではなかった。
そのため、バトレーエの代表に選ばれるかどうかは誰にもわからなかった。
「ふむ。そうだな。まずはスララ班vsカークス班あたりを見てみるか。ステージは砂漠だ。やはりなんと言ってもスララの寄生型悪魔エ・Gをどうするかが見ものの戦いだった。では始めるぞ」
マギ・スクリーンに砂漠の光景が映し出された。
いきなりカークスたちが背中を向かい合わせて警戒態勢をとってくる。
「みんな、付かず離れず戦って!! 密着しても、離れてもスララに飲み込まれちゃう!!」
そう言いながら少女は水筒からはっぱちゃんに少し水をかけた。場に張り詰めた緊迫感が和らぐ。
その時、砂丘の上からレーネが奇襲をかけてきた。
「まるでピンみたいだよ!! ストライクレイド・シューッ!!」
ボーリングのスイングで強力な重いボールが繰り出された。このままでは5人共吹っ飛ぶ。
「ここはおらが食い止めるだよ!!」
田吾作が前に出たが、キーモがそれを止めた。
「貴重な野菜をここで使うべきではないでござる!! 拙者におまかせあれ!! スピアード・ドライ!!」
彼の投げた棒状の菓子、チェルッキィーはボーリングに当たってギリギリと音をたてると軌道を微妙に変えた。
球は5人の脇を抜けていく。
リーダーのカークスがレーネに狙いをさだめようとした時、背後から強烈な光源で狙われているのがわかった。
「くっ!! 今度はポーゼくん!? まずい。攻撃できないまま完封されちゃう!! リスキーな作戦だけど攻めていくよ!! フォーメーション、タワー!!」
するとタコの亜人のニュルが田吾作を肩に乗せた。
そしてカークスがジャンプしてその上に乗った。下から覗かないのはマナーである。
「クラッシュラッシュ・レイニー・マウス・ワークス!! いっけぇ!! 暴れねずみ花火!!」
キーモとはっぱちゃんはすぐにニュルにぴったりくっついた。
周辺に動くものを追撃するねずみ花火が出現した。
巻き込まれてはたまらないとレーネもポーゼも一旦、退いたがこれが裏目に出てしばらくは花火に追い回されることになってしまった。
カークスは直接攻撃だけでなく、妨害系の花火も多く覚えてきていた。
まだスララ、クラティス、ドクは姿を見せていない。
ドクは治療要員なので戦闘力は大したことがないが、それでも残っていると厄介なメンバーではある。
問題はスララとクラティスだ。2人は腕っぷしも強いし、頭もキレる。
どう仕掛けてくるかまったく想像がつかなかった。
「みんな!! こっからだよ!! あれだけチーム戦の特訓したんだからさ!!」
カークスはチームメイトの分身の駒を使って訓練していたが、それを知った仲間が実際にやってみようと乗り気になったのである。
彼女の心意気を買ったというのもある。
個々ではややパンチが弱いパーティーではあるがチームを組むと話が変わってくる。
この戦いではそれを十分に発揮していた。
はっぱちゃんが体をワサワサと揺すった。その異変をカークスは見逃さなかった。
「多分、地面が微振動してるんだ!! スララちゃんが近い!!」
そう判断すると同時に天高くからクラティスが襲撃してきた。
先がヤリになった応援旗で突きを放ってくる。
すばやく爆裂にんにくを食べた田吾作がそのヤリを白刃取りした。
「ギリギリギリギリ……」
襲撃をかけてきた応援団員は無邪気に笑った。
「おっ、田吾作やるじゃ~ん」
直後、砂浜からクジラのようにスララのエ・Gが飛び出してきた。
「うフふ……。かッこゲきハ……」
移動速度の遅いはっぱちゃんが飲み込まれてしまった。
そのまままたスララは砂漠の海に潜っていった。
「まぁスララは相手にしたくねーわな。あたしだって別のチームだったらイヤだよ。手加減してねずみ花火で巻いたつもりだったんだろうが、そろそろレーネとポーゼが戻ってくる頃かな。アイツらもそれなりに鍛えてるからね。それまで時間つぶしができりゃ死角はなくなる。並大抵のチームワークじゃあたしは倒せない……ぜっ!!」
クラティスは華麗に旗をひるがえしてスキを作るとまた空高く飛んだ。
「よぉし!! マッスル田吾作!! エアリアル・レイド作戦だ!! 一気にいくよ~!!」
団子っ鼻の田舎青年はライネン・バレーボールでのレシーブのように腕を構えた。
ニュルが先陣をつっきってそこに飛び乗る。
すると田吾作はタコの亜人を空高く打ち上げた。
そのままキーモ、そしてカークスも宙高く打ち上げたのだ。
「おらも行くだぁよ!!」
最後に田吾作も飛び立ち、空中に居るクラティスを4人で囲った。
カークスが叫ぶ。
「くらえええっ!!!!!! ぼっこぼこスクウェアフォーメーション!!」
まずはニュルが武器満載の足で切りかかった。
クラティスはこれを巧みにかわしたが、全くの無傷というわけにもいかなかった。
避ける彼女をキーモがチェルッキィーで射撃をかける。
これがまたかなり正確で、避ける余裕は無かった。
だが、相手もさすがクラスのエースだけあって旗の芯でこれを受けて弾いた。
「うりやあああああ!!!! 空中ラリアットぉ!!」
そう叫びながら正面から田吾作が突っ込んでくる。
流石にここまで見事な連撃を受けて応援団員は焦りを感じた。
だが、冷静を保ってひらりと旗をはためかせて目隠しをした。
筋肉質になった青年はこれにうまく惑わされ、攻撃を直撃させることができなかった。
「へっへ~ん!! 何人でもかかってこ―――」
だが、ここまでは想定内で田吾作の背後でチャージしていたリーダーが花火弾を放った。
「アンリミテッド・バースト!! マキシマム・イクスプロジェン!! フレア・バースト・プロミネンシィ!! でやあああぁぁぁ!!!!」
クラティスに回避する余裕は無く、焦げ焦げになりながら吹っ飛んでいった。
「っ!! うわああああああああああぁぁぁ!!!!」
ナッガンが解説を挟む。
「ここの空中フォーメーションは見事だったな。芸術点を高めに評価してある。クラティスが慢心していたというのもあるが、油断していなくてもこれは当たるだろう。続きを見るぞ」
ふっとんだ彼女はすぐさま医務室送りとなった。
チームの残り人数は4対4である。
カークス達は着地すると背中を守り合うフォーメーションをとった。
一方のスララチームは合流を目指して砂漠を動いていた。
レーネもポーゼもドクもどうやって落ち合おうか悩みどころだった。
唯一、ポーゼだけは光源によって位置を知らせることが出来るが、それで仲間を呼ぶのは迂闊だった。
そんな時、彼の足元が揺れた。
「!!」
彼が飛び退くとそこには口を半分だけ砂から出したエ・Gが居た。
「ふぅ……スララさんか。びっくりした」
スララ本体は砂の中に居るようだった。
「はナしハあトで。いマはナかマとゴうリゅウしマしょ。のミこムわよ!!」
ポーゼは遠慮の姿勢をとった。
「え、ちょ、まっ!!」
「バクン!!」
小さな少年はポータブル灯台ごと悪魔に飲まれてしまった。
エ・Gはすぐに砂に潜ると気配をたどってレーネの近くに顔を出した。
「うわぁっ!! ……ってスララじゃない。びっくりさせないでよ……」
白くて紅い文様のある悪魔の頭がブルブルと震えると口から少年が飛び出した。
「ごえっ!!」
それを見て更にレーネは驚愕した。
すぐに地面の中からスララが姿を現した。
「くラてィすガやラれタわ。こノじョうキょウじャどクはカつヤくデきナいデしョう。さンにンでヤるワよ。わタしがトつゲきをカけテかクらンすルかラ、ふタりハさキゅウのウえカらシえンしテ!!」
スララの班は人数的には1人劣るが、エ・Gの破壊力と突進力があれば蹴散らせられそうだった。
もし対策を練られても奇襲、撹乱攻撃としての効果は間違いなく期待できる。
あとはボーリングと光源照射でどこまで相手を追い詰められるかということになってきた。
スララの寄生悪魔であるエ・Gは反則じみていて、爆発するボーリングや超高温になる光源を喰らってもダメージを受けない。
悪魔との契約という思い代償を払っているがゆえの魔術ではあるのだが。
カークス達は砂丘の合間にある平地に背中を向けあって陣取っている。
砂丘の上だとスララの移動時の振動が鈍ってしまい、気づきにくくなり危険度が増す。
下手をすればパクリと飲まれ、一発KOも有りうる。
だから高低差の不利は承知の上で彼らはこの場所に居座っているのだ。
一方のスララ達はレーネとポーゼが移動を開始し、二箇所からくぼみを襲撃できる位置につけた。
エ・Gの出現が攻撃開始の合図で、始まったら砂丘の上に登ってそこから下方向を狙うという作戦である。
ボーリングも光源も高所からの攻撃の相性がよかった。
おまけに奇襲作戦に加え、立地的にすぐには反撃されないというメリットもあった。
そのため、彼らは人数的に不利だったがあまり不安感は感じていなかった。
頼り切るわけでもないが、JOKERの手札であるスララが居てくれるのは大きな安心感につながっていた。
ポーゼとレーネは砂丘からわずかに頭を出し、下を見つめていた。
いつでも戦闘態勢に入ることが可能な状態をキープして。
身構えていると大きな音を立てて、カークスたちの足元から悪魔が飛び出した。
本格的な正面衝突が始まった。




