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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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ウィザーズ・ヘヴン・フォーエヴァー

「えっへへ……それじゃあせ・ん・ぱ・い。ま~たね~~~♥」


そう言ってラーシェは恋人であるジュリスと別れた。


2人は相性バツグンで仲良く交際を続けていた。


夕暮れ時がやってきていた。自分の寮の部屋に戻ろうとしていると何かが飛んできた。


「ヒュッ!!」


思わずジュリスはバックステップを取って飛来物を回避する。


彼は目を細めながら対象に集中した。


「なんだ? 敵意がぇ。ありゃあ……使い魔か何かか?」


戦いの構えを解くとコウモリのような魔法生物が降りてきた。大きなコウモリの羽をはやした少女の姿の妖精だ。


「バットリアル・ピクシーか……んで、何の用事だ?」


魔物は首をすばやく左、右とかたむけながら伝言をしてきた。


炎焔えんえんのファネリ教授よりジュリスにぐ。ファネリ教授よりぐ。直ちに教授室にこられたし。繰り返しぐ……」


学院の重鎮じゅうちん、しかも面識の薄い人物である。それがわざわざ自分に何の用だろうとジュリスは思った。


しばらくは思い当たるフシがなかったのだが、やがて思いあたりがあることに気づいた。


もしそういう機会があるとすればガリッツとして大怪我を負って魔術修復炉まじゅつしゅうふくろに入っていたときだろう。


おそらくイクセントの正体とウルラディールディール家のゴタゴタのからみの話である。


妙にカンの良いジュリスはファネリとレイシェルハウトとの関係をかんぐり始めた。


しかし、流石に情報が足りなさすぎる。


空いたピースを埋めるべく、彼はファネリの教授室へ入った。


「失礼します。研究生エルダーのジュリスです。ってなんじゃこれりゃ? ……何かのパーティーですか? 部屋を間違えましたかね?」


紅蓮の髪の青年は半身、退出して扉の名札を二度見した。


「あ~、これこれジュリス君。君は間違っておらんよ。君はここに招かれたんじゃ」


そう声をかけられた上級生は部屋中をちらりちらりとうかがった。


「やっぱりイクセント……いや、レイシェルハウトお嬢様に……サユキさん……だったか。なんだ。あんたらてっきり俺のことは無視してるかと思ったんだが、そうでもねぇみたいだな。お察しの通り、リアクター内であんたらの話は聞かせてもらってたよ。その身分もな。おっと、別に誰かにバラそうって気があるわけでもねぇ。あまり警戒しないでほしいもんだぜ。ただな、ずいぶんご挨拶あいさつが遅いと思ってな」


見たことのない幼女がファネリ教授に目線を送った。


「おい。あたしは説明するのに疲れた。お前が適任だろ。教えてやれよ。”真実”を」


ファネリは難しい解説をうまく落とし込みつつ、楽土創世らくどそうせいのグリモアとそれを争う争奪戦の話、歴史捏造れきしねつぞうについて語った。


改めて聞いても誰も反論することが出来なかった。


そもそも記憶の捏造ねつぞうや、すべての書物への改竄かいざんが可能なのだろうか?


考えれば考えるほど本当にも思えるし、作り話にも思えた。


「で、ジュリス君はどう思ったのかな?」


沈黙ちんもくを幼女が破った。


だが、ジュリスと本当の姿の校長は初対面だった。


「んん? あんた、誰だ?」


パッっとアルクランツはニセの皮をかぶった。


薄汚れた白いモップのようで髪と毛がくっついた見た目だ。


「ん? こっちが校長だろ。サーテンブルカン」


その場の面々は首を左右に振った。


「サーテンブルカンは偽名。本当の名前はアルクランツ。そして真のお姿は……」


一瞬で彼女は美しいブロンドで白いドレスに赤いくつの幼女に姿を変えた。


「あぁ、どうりでガキんちょのくせしてエラそうなわけだぜ。見た目に関しては言いたいことが無くもない。だがそれはこの際、置いておくとする。しかし……だとしてもなぁ……ウーム……」


ジュリスは難しげな表情をしてうなっている。


悪い笑みを浮かべてアルクランツ校長は問いかけた。


「なんだ? 納得行かなげな反応だな。なにが不満なんだ?」


青年は率直そっちょくに答えた。


「それがあんたらの言う真実だったとして、確かにそういう事はありうる。記憶や歴史の捏造ねつぞう改竄かいざんもありえるだろうよ。だがな、気になるのはお前らが良いように丸め込まれてるんじゃねーかって話だ。ファネリ教授と校長は何か腹に飼ってるかわかったもんじゃねぇぜ? お前らもういっぺん考え直してみろ。それからでも遅くはねぇ。俺に関してはあわよくば戦力として、ダメなら口封くちふうじって予定だったんだろうが……」


一気に部屋の気温が下がった。きっとこれはアルクランツのプレッシャーだ。


「おいおい。さすがにこんな不死身の魔女とやりあうほどアホじゃねーよ。それに、こんんなおもしれぇ事に首突っ込まねぇって手はねぇよなぁ? ノワレと同じく、ウルラディール家の部外者として協力してやってもいいぜ。内容と報酬にもよるがな」


長寿の魔女は指をパチンと鳴らした。


「買った。その座った度胸に腕前、こういうヤツが居てもいい。なぁファネリ?」


教授はコクリと首を縦に振った。


「一応、ROOTSルーツにもちゃんとした部門がありまして、特定の思想にかたむきすぎず、自浄作用をもたせる仕組みにはなっておりますじゃ。そこの一員として腕をふるってみれば納得してもらえるかと思いますじゃ。もっとも、気が向いたらで結構じゃが……」


ジュリスは意外そうな顔をした。


「なんだ。それなりにしっかりした組織じゃねぇか。お嬢様を担ぎ上げるための名ばかりの集まりかと思ったぜ。もっとも、その話が本当ならな」


それを聞いて今度はファネリ教授がうなった。


「フーム。こればっかりは実際に参加してみて判断、信用してもらうしか無いですのぉ……。まぁいきなりの話じゃからわしらが疑われるのは当然なんですがの……」


老人が幼女に目をやると彼女は知らぬとばかりにそっぽをむいた。


「それよりアルクランツ校長、問題はこっちだ。アンタ、話を聞くに限りなく関係者に近い。さては賢人会けんじんかいに参加してたろ? どの勢力の代表として参加したんだ? そしてどんな楽土らくどを欲したんだ?」


ジュリスは鋭く指で彼女を指した。


魔女は肩で笑いだした。


「クックック……。いいねェ……ガキ浮世ふぜいがあたしの楽土らくどまで嗅ぎ回ってくるとは思わなんだ。お前みたいなヤツは嫌いじゃない。前回の第三次ノットラントで私が望んだのは―――」


部屋中が緊張感であふれた。


「終わらない魔術師の楽園”ウィザーズ・ヘヴン”」……つまり、リジャントブイルとミナレートだ。陣営は……そうだな。魔術学園都市とでも名乗っておくか。いいか? 歴史の捏造ねつぞうと言っても前々回、前回、今回とターニングポイントがあるわけだ。学院そのものは太古からあるが、装備や設備なんかは楽土創世らくどそうせいの争奪戦の結果次第で大規模に拡張されたりする。あたしが校長になった時はポツンと学院だけがこのなにもない砂浜にあった。つまり……」


さすがのザティスもたじろいだ。


「おいおい……。ウソだろ? マジかよ? ミナレートは楽土創世らくどそうせいのグリモアで、あんたがパパッと作ったってのかよ!? ミナレートの発展、繁栄に関する歴史書なんて腐るほどあるし、書籍数や関連資料の数まで、しかも世界的にも数えると、とんでもねぇことになるぞ!!」


アルクランツは髪をサラリとぜた。


「アホ。それが本物の歴史捏造れきしねつぞう資料改竄しりょうかいざんってヤツだ。あと、あたしが作ったってのとパパッとってのは間違いだ。少なくとも1人で作れるもんじゃあなかったし、何代かに分けて戦を乗り切ってきたんだ。捏造ねつぞうまみれながら成長した常夏の楽園……それがミナレートだ。6回もの争奪戦の結果、お前らの先輩が守り、勝ち取ったおかげでもあるんだぞ」


校長はイラだちはじめたようで、足をパタパタさせた。クセなのだろうか?


「失った教授や生徒を返してほしいと願ったこともあった。だがな、命を落とした彼らは既に不死者アンデッドだ。過去に死者の楽園を望んだものがアンデッドに取り込まれて本当に死の世界になりかけたことがあるらしい。楽土創世らくどそうせいのグリモアでも死者の蘇生そせいは難しいんだ。ましてや楽園分割方式ではな。これはどの陣営も痛みを感じていることだ。不死者アンデッドの連中以外は……」


この話はジュリス以外には既にされていたので周りはそこまでは驚かなかった。


しかし、全くフォークとナイフは動かなかった。


誰もが石になったようにぎこちなく固まってしまったのだ。


せわしなく動いているのは金髪の幼女だけである。


「ほら、こうなる。ソーシキかよ。だからお前ら面白くないんだよ。こっちだって好きでこんな事を話してるんじゃないやーい!!」


不満が爆発したからか、彼女の本来の年齢が出てきた。


ジュリスはあれこれ考えていたが、締めとして質問を終えた。


「わかった。問答もんどうはこれで終わりな。最後に聞く。もし、明日、楽土創世らくどそうせいのグリモアが見つかったらあんたはどう指示するんだ?」


ぐずっていたアルクランツは真面目な顔で向き直った。


「ん~、そうだなぁ……。この魔術師の楽園「ウィザース・ヘヴン」の維持と死んでったおまえらの先輩のとむらい合戦用に部隊を組むかな。でも、世界征服や家の争いとかは非常にくだらないと思ってる。どーせ、賢人会議けんじんかいぎ開かれるだろうし。そこまで粘れれば上等かな」


赤髪の青年はツッコミを入れた。


「命をけてるのにスケール小さくねぇか? 日和ひよってんな。今の学院で全力出せばかなりの分前わけまえ、もらえると思うんだが」


遊びの戦闘の毎日でそこらへんがマヒした男に対し、校長は何度か拳を頭上に突き上げて抗議した。


「無茶言え!! モノはぶっ壊れてもいいけど、人命の喪失そうしつは可能な限りひかえたいんだよ!! それにスポーツじゃないんだからさァ!!  私利私欲のために力使うことなかれって学生証にあるだろうが!! 争奪戦に参加しつつ、世界秩序を護る役割……つまり武力化を進めるぶたとか、不死者アンデッドやカルト教団みたいな厄介な連中を始末して社会秩序を維持する。それが武の学院であるここの真の使命なんだよ!!」


青年は指摘を受けて反省したようだった。


「冗談だよ冗談!! いや……こりゃ俺が軽率だったな。すまない。しかし……いきなり楽土創世らくどそうせいのグリモア争奪戦なんて聞いて、いまどき信じるやついるのか?」


アルクランツは真剣な顔をした。


「いや、これがなぜだかどの争奪戦も自然と勃発ぼっぱつして自然と消えていくんだ。魔書ゆえに人を引きつけるんだろうな。きっと戦が始まる頃になったら”ナレッジ”と現代の常識が溶け合うように入り混じっていくんだろう。だから、その日が来たらあっという間だよ。みんな覚悟しておくんだよ」


すっかり日の暮れた窓の外の流れ星を少女は見ていた。


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