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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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乙女心と4人の将来有望ちびっこ

「ふぅ……はぁ……」


最近、なんだか赤髪のリーチェがため息ばかりついている。


それについてクラティス、ヴェーゼス、カルネのお節介焼せっかいやきトリオはあれこれ話していた。


「なぁ、なんかやっぱリーチェの調子がおかしいよな? ため息ばっかだぜ」


「年頃の乙女は悩み多きものなのよ……」


「さっそく事情聴取じじょうちょうしゅアル!!」


ずいっと前に出たカルナをクラティスが羽交はがめにした。


「行け!! ヴェーゼス!! こいつは任せろ!!」


拘束こうそくされたカルナはジタバタもがいた。


人のお悩み相談にのるのが上手いヴェーゼスはうなづいてリーチェに近づいた。


「リ~チェ。どうしたのそんなにため息ついて。何か悩み事?」


年上の女性は優しく悩める乙女に声をかけた。


「ハァ、それがさ、この間、魔女の夜会サバトやったじゃん? あの時、みんなに恋愛の話をしたとき、私だけなんだか遅れてるような気がしたんだよ」


確かにかっこいい人はげたが、具体的な理想や先のことについては一切触れていなかった。


いや、触れられなかったのである。


「あら~、あの時、言ったじゃない。恋愛は焦っても良いことはないって。マイペースでいいのよ?」


そういうお姉さんの顔を少女は見返した。


「でもぉ!! みんな……こう言ったら失礼だけど、あのファーリスだってカレシが出来たんだよ!? きっとすぐにミラニャンもカークスもアシェリィも、はっぱちゃんにだってカレシが出来るに違いないよ!! 気になるに決まってるじゃん!!」


夜会サバトの時はここまで追い詰められていなかったのだが、どうもあれでコンプレックスをつっつかれたらしい。


「16歳……年頃にもなって彼氏が居ないのはおかしいよ!!」


ヴェーゼスははっきりそれを否定した。


「まだ16でしょう? これからよ。じゃあ試しに聞いてみましょうか?」


彼女はリーチェが気にしている4人を呼び出した。


「……というわけなんだけど、皆は何歳くらいで彼氏が欲しいのかな?」


さりげな~くクラスの男子達は聞き耳をたてた。


青紙ミドルでぽっちゃりのミラニャンは目線を泳がせながら答えた。


「う~ん……20歳くらいまえならいいかなって感じかなぁ」


次に褐色肌かっしょくはだのカークスが屈託くったくのない笑いを浮かべて答えた。


「出来るならば今すぐにでもかな!! 東部は割と早いんだ。16歳結婚ってのも珍しくないよ」


緑髪ロングのアシェリィは後頭部をワシャワシャとした。


「う~ん、今は学院と冒険が忙しいからなぁ……。遅くとも20代前半くらいまでには……。あ、いやでもラーシェ先輩は行き遅れ行き遅れって焦ってたし……」


はっぱちゃんは無言のままニコニコしている。


ヴェーゼスはリーチェに向けて指を振った。


「リーチェがほかの娘に比べてあせってるのがわかった? カークスはともかく、ミラニャンとアシェリィなんて20歳前後でも良いかなって思ってるのよ? そりゃたしかに人によって個性はあるけれど、それにしたって貴女あなたあせってるわね」


リーチェはいじけてヴェーゼスに舌を出した。


「そりゃヴェーゼスはモテるからそんな事、言ってられるんだよ。私はガサツで男っぽいし、どうせカレシなんてできませんよぉ~だ!!」


そんな気まずい空気の中、ファーリスが立ち上がってひねくれた少女に歩み寄った。


「大丈夫さリーチェ。こんなお固くてで男っぽい私にも彼氏が出来たんだ。運とめぐり合わせを信じてまっすぐ生きればチャンスはかならず来るさ。昔は全く信じてなかったんだが、今は恋のキューピッドを信じてるよ」


それを聞いた悩める乙女はますますあせりだした。


「だーっ!! そういうのがダメなんだってば!! 恋のキューピッドなんて待ってたらおばあちゃんになっちゃうよ!!」


ファーリスの恋愛観とリーチェのそれは決定的に違った。


もっとも、実際に彼氏が出来たほうが余裕や安定感が出るのは当たり前なのだが。


その時、クラティスが声を上げた。


「お~い。男子連中でリーチェの事、好きなやつはいないのか」


突如とつじょ、彼女はそう呼びかけたのである。


「ちょ、おまっ、バカ!!」


赤髪の少女は顔も真っ赤にしてあたふたした。


「どうせ4年後に初等科エレメンタリィのクラスは解散しちまうんだ。今からコクっとけば長いこと一緒にいられるんだぜ?」


クラティスの言う通り、4年でクラスは解体される。


この時期は互いに離れ離れになってしまうことから告白が頻発ひんぱつする恋のシーズンでもある。


だから、どのみち早いか遅いかで意中の人が居れば告白することになるのだ。


男子達はゴクリとつばを飲み込んだ。


確かにリーチェは大きな瞳に小ぶりな鼻で可愛らしい顔をしている。


性格はライネン・ヤマネコのようにそっけないが、時折ときおり見せる甘えた表情は魅力的だ。


ペチャパイなのと多少ガサツなのを除けば上等な彼女候補と言えるだろう。


その時だった。突然とつぜん、ジュリスが席を立ったのだ。


ジュリス先輩にはラーシェという彼女が居る。なのに―――


彼はリーチェに歩み寄ると座っている少女にデコピンをお見舞みまいした。


「お前な、いっちょまえに色気づいてんじゃね~よ。青臭すぎて見てらんねぇな。俺は抜けるぜ」


ひらひらと手を降って先輩は教室を後にした。


「う~、あれホントにただのデコピンかよ~。脳が揺れる~」


リーチェはぐるぐると目を回した。


あんなカッコイイ退出の仕方をされたら他はどう動いてもダサいに決まっている。


余計に男子連中はだまり込んでしまった。


それにナッガンクラスは意外と許嫁いいなずけ持ちが多い。アンジェナ、ニュル、レールレールは故郷に恋人がいるらしい。


ドク、ガンは想い人が別に居るし、田吾作たごさくにいたってはファーリスが彼女である。


百虎丸びゃっこまる、ポーゼ、グスモ、キーモ、フォリオくらいしか完全な独り身は居ないのである。


イクセントは外見からすれば男子であるが、肉体的には女性だ。


もっとも、性別の区別なく恋愛をしているヒマなどないのだが。


そのうち、身長がある程度高いのはキーモだけで百虎丸びゃっこまる、ポーゼ、グスモ、フォリオ、イクセントは小さいグループだった。


この時点でおちびちゃんとして恋愛対象から外れている感があった。


ではキーモが持てるかと言うと柄バンダナに瓶底びんぞこ眼鏡、指の穴あきグローブ、奇妙なしゃべり方とこちらも恋愛対象外だった。


リーチェはひじをついて目を細めた。


「う~ん……この中で付き合うとしたら……やっぱトラちゃんかな」


特に動じる様子もなく百虎丸びゃっこまる微笑ほほえんで首を縦に振った。


「うんうん。そのご好意、ありがたいでござるよ。ですが拙者せっしゃ、修行の身ゆえ……。それにヤケクソの告白は本意でないでござるよ」


リーチェはウサミミ亜人を指さした。


「ちぇ~。ちょっとは反応してくれてもい~じゃんよ~」


年上にからんだのだ。やり過ごされても文句は言えない。


まゆをハの字にした彼女の肩をヴェーゼスが叩いた。


「ほら。消去法の恋愛なんてろくなことにならないってわかったわよね。別にナッガンクラスしか出会いがないってわけじゃないんだから気長に探してみることよ」


それを聞きつつ、リーチェは伸びをした。


「あー、もう吹っ切れたわ。そんな事で悩むの、あたしらしくないしね。恋に恋するなんてまっぴらゴメンだわ。あと待つのも向いてないのがわかった。気になる人が居たら積極的にアタックしてみるわ。まぁ相手か探しからだけどね。ありがと。クラティス、ヴェーゼス」


話が一段落すると女子達は教室から出ていった。


拙者せっしゃ、正直ちょっとドキドキしたでござる」


ネコ顔の亜人はヒゲを手でなぞった。


「あっしはモテとは縁遠えんとおいんで全く気にしなかったでやんす。精神年齢高すぎって女子連中からは言われてるらしいでやんすし」


グスモはあきれたように笑った。


「…………………………僕もちょっぴりドキドキ」


ポツリとつぶやくようにポーゼは口に出した。


「ぼぼっ、ぼくだって!! で、でもリーチェさんみたいな女の子が彼女さんだったらた、たのしいだろうなぁ……」


フォリオは空想にふけっていた。


「なぜぇ!? なぜ拙者だけ相手にもされんでござるか!!」


キーモの慟哭どうこくがクラスに響く。


「ええい!! むさ苦しい!! 貴様はまずその見た目と口調をどうにかしろッ!!」


同じくあんまり話題に上がらなかったイクセントがツッコミを入れた。


それを聞いていた百虎丸びゃっこまるは首をかしげた。


「ふ~む、拙者はこれ以上、大きくはならないでござるが、フォリオ殿、ポーゼ殿、グスモ殿、イクセント殿あたりは身長が伸びてくればだいぶ変わるのでは? 4人共、なかなか可愛らしい顔をしているからに、きっと大っきくなったらかっこよくなるでござるよ」


小さい4人組は互いを見合わせた。


「フォリオはダメだな。一生、臆病者おくびょうもののままだろう」


キツい一撃がフォリオを襲う。


「ききっ、きっとイクセントくんだってしし、身長が伸びなくて悩むんだよっ!!」


珍しくホウキ少年は言い返した。


「お~、なんかフォリオ氏はガッツわいてきましたな。あっしも見なわらにゃ。学問も、恋愛もまたしかり」


ポーゼは無表情で3人を観察していた。


からを破りかけたチキンに、何考えてるかわかんない人、おじいちゃんみたいな人……僕はどう思われてるのかな。年相応なのはフォリオ君だけじゃないのか……?)


「――ゼ!! ポーゼ!!」


気づくと灯台使いの少年は3人に囲まれていた。


「ね、ね、ねぇ、ポーゼくんは僕たち3人の中で、だ、誰が一番かっこよくなると思う?」


少し目線を泳がせて彼は答えた。


(テキトーでいいか……)


「イクセント君……かな。女の子っぽいところ……というか中性的なところがあるから美男子になると思うよ」


それを聞いたイクセントは視線をそらした。


「中性的とはよく言われる。ただ、あいにく女々(めめ)しいのは嫌いでね。うんざりしているところさ」


ポーゼはペコリと頭を下げた。


「それは失礼したね。大きく強くなれるといいね……お互いに」


そのあともちびっこたちの言い合いは続くのだった。


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