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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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ウィッチーズ・サバト

「それじゃ、新学期の魔女の夜会サバト、はっじめるよ~~~ん!!!! むぎゅっ!!」


のっけから仕切りだしたカルナを押しのけてクラティスがずいっと前に出た。


「はい~。却下きゃっか~。カルナが仕切しきるとロクなことにならないから却下きゃっか~。以後、不肖ふしょうながらわたくし、クラティスがお送りいたします」


ロウソク使いを押しのけて応援団の少女が前に出た。


「やあやあ皆。元気そうでなによりだね。これより交流、情報交換の場である魔女のサバト、二学期の部を始めるよ~!!」


クラティスのけ声に応じて酒やジュースの混じった乾杯が行われた。


頼国ライネンテの飲酒可能年齢は16歳からなので入学した年齢によって飲酒できる者と出来ない者がいる。


例えば15歳で入学したアシェリィは入学後、半年の時点では飲酒は出来ない。


初等科エレメンタリィ2年目の誕生日を迎えると飲めるようになることになる。


一方、17歳で入学したヴェーゼスは入学時点から飲酒が許可されている。


ナッガンクラスの女子としては飲めるもの、飲めないものが半々くらいだ。


「うフふ……わタし、ねンちョウさンのブるイにハいルけレど、おサけノんデもヨわナいカら、あンまリよサがわカらナいノよネぇ……」


そう言いながら悪魔憑あくまつきのスララはノンアルコールの同志を探し始めた。


ミラニャン、カークス、アシェリィ、リーチェ、はっぱちゃん、そしてスララが飲まないメンツである。


それに対し、ノワレ、ヴェーゼス、カルナ、クラティス、レーネ、ファーリスは飲む方だった。


明らかに酒飲みグループは濃いメンバーがそろっている。


「みんな~。カロリー低めなお菓子作ってきたよ~~~。タンゴ・ダンゴムシ・ドーナツだよ~~~」


ミラニャンはこうしてスイーツでいつもみんなをやしてくれる。


声もふんわりとしていて、いやし系ボイスだ。


ともすれば荒らっぽくなりがちな酒の席を牽制けんせいする役割もになっている。


全員が笑顔になって雑談は始まった。


先陣を切ったのはやはりカルナだった。すでにかなり酔っている。


「ふぁ~。レーネェ……。最近、男子とのお付き合いはどうアルか~?」


小麦色に焼けた健康的な少女は目線を泳がせた。


「う~ん。何人か男の子から声をかけられたくらいかなぁ……」


さりげなく何人かと彼女は言うがそう簡単には行かないはずだ。


レーネははなやかさみたいなものはあまりないが、手堅てがたくモテるタイプである。


自分が男子連中からモテている自覚がないのが問題だ。


アスリートとしての目は一流だが、異性の目にはうといらしい。


これはガンが苦労するわけである。彼が必死にアプローチしたつもりでも気づいてもらえないのだから。


もっともはたから見ると彼の押しは弱いところがあり、まだまだ努力が足りないと言わざるをない。


クラスの女子のほとんどがレーネに対するガンの好意を知っていたが、そこは自分で解決すべきというのが共通の見解だ。


だから、知っていてもあえて誰も言わない。ガンは試されていた。


クラティスはその流れでさりげなくガンを話題に上げつつ、難しげな表情で語った。


「う~ん……あたし、第一印象だとガン君とかアリかなって思ったけど、接してみるとね~。にじみ出るヘタレ感みたいなものが……。今はフォリオ君のほうがたくましく見えるかな」


女子連中から黄色い歓声があがった。


「ちょっと、タンマタンマ。あくまで比較の話であって、あたし個人的にはフォリオ君って選択はこれっぽっちもないわ。成長株せいちょうかぶなのは認めるけど……」


早くもほろ酔い気味ぎみのカルナがクラティスにちょっかいを出し始めた。


「情報によるとクラティスはドクの大本命らしいじゃないアルか~。そこんとこどうなんアル?」


問いかけられた少女はひたいに手を当てて首を左右に振った。


「無いわぁ~。それこそ無いわぁ。ありゃ奇人変人すぎるでしょ。それはそうと、カルナはどうなんよ?」


ドクは本人の知らぬところでバッサリ切り落とされてしまった。


チアガールはすかさずスキをついて反撃する。するとカルナはおどおどし始めた。


「わわっ、私は人がワチャワチャやってるのを見るのが楽しいわけで、あたし自身はどっちでもいいアルよ!!」


脇に居たお色気いろけ担当のヴェーゼスが意地悪げに彼女をつっついた。


「ふふん。ほぉんとはカレシ欲しいくせに~。まったく、正直じゃないんだから」


酔っているからか、恥ずかしがっているからかカルナは赤くなっていた。


ヴェーゼスはこのメンバーの中ではもっとも恋愛術に長けている。


魅了チャームの魔術を使っても使わなくても相手を落とすのが上手い。


もっとも、一度にそんなに大人数と付き合えるわけもないし尻軽しりがるでもない。


今は学業専念のため基本的にお断りしているらしいが、それでも魅惑テンプテイターとしてはかんを鈍らせておく訳にはいかない。


そのため恋の駆け引きみたいなものは楽しんでやっているらしい。


下手に相手に期待を抱かせるので悪女のように思えるが、そもそもがそういう魔術なのだから仕方ないと彼女は割り切っている。


ヴェーゼスは次に反対側に座っているスララに声をかけた。


「スララも黙ってればかなりの美人さんなんだけどねぇ……」


彼女はあまり気にしていない様子でニッコリと笑った。


「あラ、いウじャなイ。まァ、こエがコんナのダしネ。いキなリきイたラびッくリすルでシょ……」


スララは寄生された悪魔のせいで発音がかなり怪しい。


クラスの人達はもう慣れたが、たまにナンパなどをされると相手が逃げていく。


「スララはクラスに誰か好きな人とかいないの?」


ミラニャンが問いかけると彼女は目線を泳がせた。


「そウだナ~。とラちャんトかワるクなイかナ。ほウよウりョくあルし」


“トラちゃん”とは百虎丸びゃっこまるのあだ名である。


またもや女子達は黄色い歓声かんせいをあげた。


この2人なら割と釣り合っていてナイスカップルなのではないだろうか。


ヴェーゼスはちょっと肩身かたみが狭そうにちぢこまっている数人を名指しした。


「リーチェにミラニャン、アシェリィにカークス、あとはっぱちゃんもかな? みんなは恋バナとか興味無いの? まぁそれくらいの年頃じゃ花より団子とも言うし……。もしくは恋に恋するお年頃かな? いずれにせよ、あんまり気負きおうことないと思うよ。焦って恋愛しようとするとロクなことがないからね」


体験談からだろうか。彼女らをフォローするように優しくヴェーゼスはみを浮かべた。


年上らしいきめ細かい心遣こころづかいだった。


はっぱちゃんがそれに答えたのか、場はとろけるようなリラックス空間へと変化した。


これならば下手に緊張きんちょうすることなく雑談を楽しむことが出来る。


最初に口を開いたのはミラニャンだった。


「私さ、自分に自信がなくってさ。ダメとはわかっていつつもついつまみぐいしちゃってさ。そうすると体重が増えてくわけじゃん? どんどんおデブに近づいてくかと思うと、カレシなんて出来るかなって……」


彼女は確かに多少ぽっちゃり体型であったが、彼氏ができるできないと心配するレベルではなかった。


顔は可愛らしく、むしろモテそうなルックスをしている。


いわゆる女子の理想体重に対する思い込みというやつである。


それを聞いた魔女たちはそろって首を左右に振った。


「み……みんなぁ……」


夜会サバト一致団結いっちだんけつした瞬間だった。


欠点があるとすればやや弱気なところだろうか。


次にリーチェが恋愛について語った。


「う~ん。興味が全く無いかって言うとそうでもないんだけど、かといって誰々が好きだとか今はそういうのは無いかな。あっ、この人カッコイイ!! とかは思うんだけどね。ジュリス先輩とかフツーにカッコイイじゃん? あ、彼女いるのは知ってるから恋愛対象ではないけど」


ジュリスがカッコイイという点においては女子の大部分が同意していて、異を唱えるものはいなかった。


「確かに先輩はカッコいいある。見た目もさることながらぶっらぼうな口ぶりに反した優しさがたまらんアルな!!」


カルナはまるでオヤジが女性をめるようなテンションだ。


「まぁね~。男っぽい割に気が利くしね~」


クラティスはそれに同意した。


「うフふ……ほカのコはドうナのかシら?」


カークスは恥ずかしそうにしながら自分の恋愛観を語った。


「私も……ジャングルでお世話になったし、ジュリス先輩かっこいいと思うな。でも、彼女がいるのがかなり辛いよ。かといってもしフリーだったとしてもアタックする度胸は私にはないんだけど~……。傷心で別の人を探す気はないし、しばらくはこのままでいっかな」


彼女はそうはにかんだが、少し悲壮感ひそうかんがあって場の空気が重くなった。


「じゃあアシェリィは?」


ヴェーゼスは話が暗くなる前にすぐに対象を変えてたずねた。


「私もリーチェと似てるかなぁ。でも私の場合は冒険が楽しくって、恋愛まで手が回らない感じだよ。あ、でも素敵な恋愛も憧れはするよ。チャンスとお相手に恵まれればぜひって感じかな!!」


意外にも冒険バカのほうが恋愛思想にかたむいていた。


アシェリィの口から「素敵な恋愛」という言葉が出てくるとは誰も予想していなかったので女子たちの意表をついた。


シャルノワーレはそう語る彼女の話を聞いてにんまりしていた。


「いまのところ、アシェリィはフリーっと。うふふふ…………」


つぶやく彼女に声がかかる。


「おぉぃい、ノワえ~あんたはどうなんアル!?」


カルナが完全に酔っ払ってますますたちが悪くなっている。


男子の集まりだとここでドクがストッパーの役割を果たすのだが。


クラティスが手を振って野良犬のらいぬを追っ払うような仕草をした。


「あ~、ノワレ、この酔っぱらいは無視してもいいぞ。もう始末しまつがつかん」


だが、周りが発言しているのに自分だけ黙っているのもアレだと思ってノワレは軽く答えた。


「本来は人間とエルフの恋は禁断なのですけれど、里に属さない私としてはそのしきたりはあまり意味がありませんわ。それに、周りにエルフもほとんどいないことですし、もしお付き合いするなら人間の方とになるでしょうね。”もしも”の話ですが……」


興味ありげにスララが質問した。


「はッぱちャんトかはどウなノ?」


彼女はドライアドという亜人種で、樹と人間のミックスである。


「う~ん。はっぱ”ちゃん”とは言われているものの、ドライアドには性別が無いんですの。まぁ厳密に言うとエルフにも性別は無くて、同性同士でタネを残すことは可能ですわ。ちょっと人間の感覚からはかけ離れたことばかりなので仕方ないですわね……」


エルフに詳しいものでもここらへんの理解には時間がかかる。


なかなか難しいものだなとその場の全員は思った。


そんな中、1人だけ発言していない者が居た。ヴェーゼスが気を使って声をかける。


「ファーリス。どうしたのそんな緊張した顔して。相談事があるならしてみなさいな」


彼女はぎくしゃくしながらカミングアウトした。


「さ、最近だけど、カレシが出来たんだ……」


その場をしばらくの沈黙が包んだ。


「わ、私が恋愛とか……そ、その……ヘンかな?」


女子達はそろって首を左右に振った。


だが、あまりに急なことに驚かざるをえなかったのである。


生真面目でお固めの彼女に真っ先に彼氏が出来るとは誰も思っていなかったからだ。


夜会やかいの仕切りをやっていたクラティスとヴェーゼスはすぐに視線を合わせた。


「ハイ、ハイハイ!!」


「ストップストップ!!」


盛り上がる前に制止をかける。


ファーリスの様子を見た2人はここで誰と交際しているかをほじくり返すのはマズイと瞬時に判断したのである。


クラティスが立ち上がって宣言した。


「誰にでも知られたくないデリケートなところはある。この魔女の夜会サバトはそういう守るべきところは守ることによって気持ちよく運営できてるんだ」


それにヴェーゼスも同意して、秘匿ひとくうながした。


「そのとおり。だから、ファーリスの恋人について余計な詮索せんさくをしないこと。これお約束ね。もしファーリスがおノロけしたくなる時が来るのをちょっぴり期待しましょ」


誰はともなく拍手はくしゅが起こった。


ファーリスは恥ずかしそうにうつむいていたが、進行役の機転に救われた気分で居た。


「みんな……感謝するよ……」


こうして実りある魔女の夜会サバトは今夜も幕を閉じた。


「が~~……ぐが~~~……シュテキな……トノガタ……」


「おい、カルナ。つぶれてんじゃないよ。おい。……ハァ、またコイツを寮まで背負ってくのか……」


仕切り役の苦労は耐えないのだった。


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