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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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さながら真剣!! ヒートアップ組手

ひたすら厳しい修行にはげむレイシェルハウト。


それを見守っているのはシャルノワーレやファネリ、サユキだけではなかった。


ちょくちょくパルフィーも稽古けいこの様子をのぞきに来ていたのである。


「ほえ~。あのエルフの子、ホントに武器の記憶が読めるのか!! あたしの拳から読み取ることも出来るのかな!?」


ネコの耳にたぬきの尻尾をもつロンテール種という亜人の少女は無邪気むじゃきに笑った。


「う~ん……。でもやっぱさすがウルラディール代々伝わる剣技だけあって、今までと全く立ち回りが違うなぁ。回避からの流れるような攻撃とかは前のスタイルが色濃いろこく出てるけど……」


パルフィーは屋敷にいた頃、しばしばレイシーと組手くみてをしていた。


だから以前の彼女の戦い方は熟知じゅくちしている。


もっとも剣を使うようになったのは最近でその頃はワンドを相手にしていたが。


それでも彼女の使う魔術はかなり把握はあくしていて、体にも叩き込まれている。


仮想空間かそうくうかんでの訓練を見ているとエルフの少女がこちらに手招てまねきをした。


教授室の面々から視線が集まる。


「あ、あたしか? あたしを呼んでるのか?」


マギ・モニターの中のノワレはコクリと首を縦に振った。


「そこの亜人の娘。こやつを相手に組み手をやってみろ。実戦では剣同士の戦いだけでは無いからな」


一緒についてきていた希少生物保護官きしょうどうぶつほごかんのボルカ教授はOKサインを出した。


「ファネリ教授から話は聞いてるわ。万が一のために医療班が待機してる。本来、ロンテールは激しい肉体負荷でストレスを解消する生き物なの。だからあなたも時には運動しないと体に毒なのよ。本当は危険行為はやらせたくないのだけれど、まぁ仕方ないわね」


それを聞いたパルフィーは満面の笑みを浮かべた。


「え!? いいのかボルカ!! ちょうどおじょう組手くみてがしたくてウズウズしてたとこなんだ!!」


すると2m近い高身長の亜人の少女は仮想空間かそうくうかんにテレポートさせられた。


シャルノワーレがレイシーに声をかける。


「剣を寄越よこせ。お前はこれを使え」


そう言ってにぎらされたのはただの木刀ぼくとうだった。


「ぼっ……木刀ぼくとう……」


ヴァッセの宝剣を抜いたままのノワレは断言した。


「ウルラディール剣技はSOVソーヴでしか使えないわけではない。たとえ木の棒であっても放つことは出来る。その獣娘けものむすめを倒すには十分すぎるくらいだ」


レイシェルハウトはいつもの構えで木刀ぼくとうを手にした。


一方のパルフィーは腕をぐるぐる回していた。


「へっへ~ん。おじょうがめっちゃ強くなったのはわかる。でもな、あたしもいくつか修羅場をくぐってきてるんだわ。だからそう簡単に負けるわけにゃいかないね!! あ、でもそっちは真剣じゃないからあたしも組手くみてのつもりでやらせてもらうよ。前に屋敷でやってたような感じでな!!」


2人はそれぞれ戦闘の構えをとった。


シャルノワーレが声を張り上げる。


「いざ尋常じんじょうに……始めッ!!」


初手はパルフィーだった。


「まずは軽くご挨拶あいさつッ!! 陽破掌ようはしょう!!」


内臓破壊の拳が飛んできた。そうレイシーは思ったが、彼女が知らないところでパルフィーは進歩していた。


昼夜逆転ちゅうやぎゃくてん!! 振動・内部破壊と見せかけつつの斬撃乱れ打ち!!)


陰陽刹いんみょうせつ!!」


パルフィーの流派、月日輪廻げつじつりんねは上半身が振動・内臓破壊、下半身が切断、突きの効果を持つ。


だが、彼女はそれを逆転する術を兄弟子から教わっていた。


教わったというより彼との殺し合いの中で会得えとくしたというのが正しいが。


これは流石に予想外の攻撃でレイシーは後手ごてに回ってしまった。


しかも渡された武器は本当にただの木である。


このまま斬撃を受けたら剣が輪切りにされてしまう。


「くっ!! EEエンチャンテッド・エッジ!!」


少女剣士は急速に木刀ぼくとうへ魔力を流し込み、マジックアイテムを生成した。


(速い連撃だ!! かわしきれるか!?)


パルフィーはレイシェルハウトの風属性の回避呪文「ウィン・ダ・ヴォイド」でカバーしきれる範囲と射程を把握はあくしていた。


それを計算に入れての陰陽刹おんみょうせつだったのでその呪文では避けきることが出来ない。


レイシーは呪文を発動してバックステップをんだ。


「甘い!! ウィン・ダ・ヴォイドは見切ってる!! まずは一撃ッ!!」


恵まれた体型から強烈な斬撃が繰り出される。


「フェアリアル・ウィン・ダ・ヴォイド!!」


攻撃を食らった側は一度ステップで後ろに飛んだ後、空中をって更に後退した。


これにはパルフィーも目を疑ったが間違いない。接地していない二重のステップである。


次の瞬間、今度は剣士が反撃に出た。高くジャンプして下突きを放つ。


鋭雨えいうのカルティネルヤ!!」


それをギリギリで亜人がかわすと今度は間髪かんぱつ入れずにレイシーが足払あしばらいいをかけた。


短い手足なりに当てるよう努力している。


「へへ!! あたし相手に肉弾戦を挑もうとはいい度胸だね!!」


足払いを軽くジャンプして回避した彼女だったが、足元に魔術が展開した。


鋭雨えいうよ!! 凍てついて真なる姿を見せん!! 氷尖ひょうせんのアイシクル・ランサー!!」


下突きで水属性を場にばらまいてそれを氷結ひょうけつさせたのである。


軽くジャンプしていたロンテールの少女は無防備むぼうびを突かれる形となった。


「うおっと!! これはまだとっておきたかったけど、そんな事を言ってる場合じゃない!! でえやぁ!! 覇月はげつ!!」


パルフィーは体をねじって両手の拳を迫り来る氷のやりに向けた。


するとてのひらから気弾きだんが発射された。


それが床を押しのけるパワーを発生させ、彼女は高く浮き上がった。


うまい具合に呪文の攻撃を回避することが出来た。


「なっ!! 何なのあれは!!」


KOノックアウトを確信していたレイシェルハウトはひどく驚いた。


「馬鹿者!! 慢心まんしんしているのではない!! そら来るぞ!!」


WEPウェップメトリー中のシャルノワーレが警告した。


急上昇した格闘少女は天井に到達した。


そのまま抜群ばつぐんの運動神経で両腕を天井について反動をつけた。


「いくぜ~!! 闇鷹刎あんようは!!」


まるで首をねるかのような鋭いりおろしがレイシーを襲う。


あまりにも激しい応酬おうしゅうでもはや組手くみて範疇はんちゅうを超えていた。


だが、亜人の少女の技は見事にかわされてしまった。


激しい衝撃で仮想空間かそうくうかんふるえる。


一方のレイシェルハウトは1ステップ目で回避して、2ステップ目で横っ飛びのキックをパルフィーの横っ腹に叩き込んだ。


確かな手応えがあったので彼女はそのまま追撃をかけようとした。しかし、なぜだか足が動かない。


気づくとパルフィーがレイシーの脚をつかんでニヤリと笑っていた。


「今のはいいりだったけど、やっぱ肉弾戦であたしに挑むのはムボーだね」


すぐに捕らわれの少女剣士は対策をとった。


「軽口を叩いてるヒマがあったら仕留めるべきだったわね!! 嵐旋らんせんのソルレレーション!!」


彼女はつかまれたままの脚を猛回転させて抵抗した。


亜人の少女は逃がすものかと脚を抱えていたが、エンチャンテッド・ソードから伝わる衝撃波を敏感に感じ取って手を離した。


「まずい!! このままつかんでると腕がズタズタになるッ!!」


レイシェルハウトは拘束こうそくから抜け出してそのまま攻撃に転じた。


木刀ぼくとうを横に構えたまま、全身をスピンさせる。


まるでスクリューのような動きで仮想空間かそうくうかんの壁を何度かね返ってパルフィーに奇襲きしゅうをかけた。


回避不能に思えたが、受ける側はこの光景をどこかで見たことがあった。


(これは……メーヤーの時と同じだ!! 今度は同じ目には合わないぞ!!)


彼女は自分の護衛を務めてくれていた女性に裏切られ、暗殺されかかった出来事を思い出した。


戸惑とまどうこと無く目にも留まらぬ速さで回転する剣のうず手刀しゅとうを突っ込んだ。


そして刃の合間をってレイシェルハウトの腕を掴み、地面に叩きつけるように投げ飛ばした。


「ズザザザーーーーーッッッ!!!!」


この戦いで初めて少女剣士が地をめた瞬間しゅんかんだった。


だが、少女は片手で床を突っぱねて姿勢を立て直し、再度、得物えものを構えた。


(くっ!! パルフィーの月日輪廻げつじつりんね、体術のレベルが信じられないくらいに高まっている!! どれだけ過酷かこくな戦いをすればこうなるの!? 前に戦って以来、何度も命の取り合いをしてきたに違いない!! しかもこれでいて不殺意ふさついの殺意を押し殺している……。まずい!! 迷いが生じた瞬間しゅんかん、負ける!!)


両者が見合ったその時だった。


組手くみて、そこまでッ!! もう決着はついた。レイシェルハウト、わかっているな?」


ウルラディールの令嬢れいじょううつむいた。


「……はい。私は全力で戦いましたが、パルフィーにまともな一撃を与えることが出来ませんでした。その上、彼女はまだ本気を出していない。戦場でぶつかったら私は死んでいたでしょう」


シャルノワーレは満足げにうなづいた。


「ふむ。自分の力の限界をはかる能力は生死に大きく関わる。時には無理に戦うでなく見切りをつけることも重要だ。今回はお前の負けだが、その娘は気に入った。ちょくちょく組手を組み込んでいくつもりだ」


どの代の当主かはわからないが、巨躯きょくを持つ亜人の少女は気に入られたようだ。


「えー、もう終わりかよ~。まだ戦い足りないよ~」


ノワレは目を細めて笑った。


「ほっほ。この小娘、言いおるわ。所詮しょせん、今の段階のウルラディール剣技はこの程度の完成度ということじゃ。まぁ、獣娘けものむすめも相当やり手なのは認めるが。最低でもこやつと同等でなければ次期当主としての資質は無い。屋敷の奪還も到底とうてい、不可能。これを期にせいぜい修練にはげむことだな」


なんだか今日の人格は一層、口ぶりが厳しかった。


そんな空気を読まずにパルフィーはお腹をさすった。


「あ~。お腹へっちった。おじょうもサユキもどっかご飯食べにいこーぜ。ヘーキヘーキ。あたしの分はこの食い放題の像で払うからさ!!」


この結果に暗いムードになりがちだった一同だったが、それをパルフィーが太陽のように照らした。


もっとも、太陽のような明るさはあっても暗殺拳術あんさつけんじゅつの達人というギャップはあったが。


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