表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
430/644

釣りたGirl

インビテーション・マッチで潰れてしまったアシェリィとキュワァの釣り対決は後日に延期された。


「さぁ~て。キュワァ有利なのは明らかだが、勝負事はやってみにゃあわからんからな。そもそもアシェが新しい釣り方でまともに釣りが出来るかを見るための場であるからそんなに勝敗も関係ねぇしな。かといって手をぬくんじゃないぞ。景品が用意してあるからな!!」


負けず嫌いのアシェリィはそれを聞いて俄然がぜん燃えてきた。


モグラの亜人もニコニコしている。


「けーひん!! けーひん!!」


オーディエンスはジュリス1人だ。


「あんれー、ジュリスくんなんで見に来てんの?」


ふてくされたように青年は答えた。


「見にきちゃわるいんすか? 先輩が変なことを弟子に吹き込んでないか見張りに来たんですよ」


ウィナシュはおちゃめにウィンクしながら手をひらりと振った。


「もう、いやだなもう。愛弟子まなでしにそんなヘンな事を吹き込むわけがないでしょ。ずいぶん信頼がないもんだねェ。それどころか彼女らのために努力してるんだよ?」


人間の方の弟子は首をかしげた。


「努力……?」


人魚は首を縦に振った。


「考えてもみてごらんよ。こんななんにも無い防波堤ぼうはていで絶滅させる勢いで魚釣りしてるのにいつまでも魚が釣れるのはなんででしょーか?」


ジュリスはあきれたように答えを出した。


「ハァ……。わざわざ外洋まで泳いでいって追い込んで来てるんでしょう?」


マーメイドはズビシッっと紅蓮色の制服を指差した。


「ザッツ・ライト!! 私が直々に外洋から連れてきてるんだよ」


それを聞いてアシェリィは素朴そぼくな疑問が思い浮かんだ。


「外洋って……さすがに泳ぐの疲れたりしません? おまけに半身は人間なわけだし、きっと息継いきつぎもしないといけないだろうし……疲れるんじゃないかなぁって」


ウィナシュは不思議そうな顔をした。


「あり? 話したこと無かったっけ? 私の呼吸器は水中でも呼吸できるよ? ずっと水に沈んでいてもおぼれることはないね。だから外洋へ行くのは陸上を走るのとなんら変わりがないのさ。闘技場コロシアムだって水中戦のほうが得意だね。マーメイド・プリンセスのウィナシュとか呼ばれてたこともあったなぁ」


そんな事をいいながら彼女は遠い目をした。


「昔話はそこらへんにしてさっさと始めたらどうですか……?」


思い出にふける先輩に後輩はツッコミを入れた。


「なんであんたが仕切ってんだよ。……さて、じゃあ始めようか。釣り対決ってことでいろいろ考えたんだが、釣った数の勝負だと、どう考えてもキュワァが勝つ。単純な大きさ勝負でもいいが、それだとザコを釣っても勝つ可能性がある」


どこからともなくウィナシュはルールブックを取り出した。


「よってライネンテ・フィッシャーマンズ協会で採用されているランク&サイズルールでやろうと思う。大丈夫。そんな難しいルールじゃないよ。これは釣った数は関係なくて一匹の質が求められるルールなんだ」


ジュリスもアシェリィもキュワァも首をかしげた。


「まずは魚種によってE~Sのランクをつける。当然、レアな魚はポイントが高い。それに加え、サイズを加算する。例えばSランクで100cmの魚が釣れたら1100スコアだ。同じ大きさの魚でもレア度がEだった場合のスコアは110。レア度Sでも10cmだったら1010スコア。どうだ? シンプルだろ? まぁ早い話がデカくてレアなヤツを釣れってこった。この日のために外洋からいろいろ引っ張ってきてるから期待していいぞ!!」


たとえ対戦相手にガンガン釣られたとしても、スコアが高ければ一発逆転を狙えるということである。


「つまり、Sランクのレアと10mの魚は同じスコアってことだな。それを両方足して合計とする。Sランクならたとえ3cmでも1003スコアだったりするから運もからんでくるぞ。まぁ、腕利きの釣り人は運をも手繰たぐり寄せるんだが」


まさに今のアシェリィとキュワァの実力のみぞを埋めるのにちょうどいいルールだった。


もっとも、釣りテク自体がかなり上がっているキュワァに勝つのは至難しなんわざであることは間違いなかったが。


「お~い。お前ら~。応援しといてやるから適度に頑張れ~」


コリッキーのジュースをちびちび飲みながらジュリスは防波堤ぼうはていに座り込んでいた。


そんな彼のもとにウィナシュが寄ってきた。


「なぁジュリスくん。どっちが勝つかお金、けない?」


その提案に後輩はひたいに手を当てて首を左右に振った。


「ハァ……なんつー先輩だよ。で、いくらけるんです?」


ジュリスはなんだかんだでまんざらでもないらしい。


「そーだなー。5万シエールくらいでどーよ?」


青年はため息をついた。先輩後輩の関係からして断れなかった。


「はあ、ハァ……。いいですよ。そのかわり、先にけますからね。キュワァの方に。彼女の実力は素人目しろうとめに見てもホンモノだ。アシェリィには悪いけど今日は勝てないでしょう。俺はキュワァに5万かけますよ」


ウィナシュは目を見開いた。


「後輩にけてやらんとはなんとまぁ薄情なヤツよのぉ~。じゃあ私はアシェに5万シエールかけてやるか。大博打おおばくちというのも悪くあるまい。どちらも手塩にかけた弟子であることに変わりはないからな」


ジュリスはあきれた表情だ。


「先輩……顔がひきつってますよ……」


その指摘を無視して人魚は腕を縦に振り抜いた。


「ええい!! 制限時間は今から90分!! いざ尋常じんじょうに……始めッ!!」


先に動いたのはキュワァだった。


「にじいろ。みみず、つける」


ウィナシュがのどから手が欲しがるほどのレアなエサを投入してきた。


一方のアシェリィは先輩からもらったシルバー・アンカーにキュワァのくれたベトベトの変なエサを溶かし込んでいた。


そのまま重いルアーを投げる構えをとる。


「せやああああああ!!!!!!!」


「ビュオッ」っと風切り音を上げて奇妙な色にコーティングされたルアーは飛んでいった。


思わず先輩の青年が立ち上がる。


「おお!! アシェリィのやつ、いつのまにあんなまともに投げられるようになったんだ!?」


マーメイドは満足げにうなづいた。


「うんうん。これも教え方がいいからだな。力の差は歴然れきぜんだがこれはどうなるかわからんぞ」


そうこうしているうちにキュワァが早速、一匹釣り上げた。


「つれたー」


ウィナシュがチェックに入る。


「これは……メダマ・トビデルー・サバだ。Aランクの36cmで936スコア!! いきなりハイスコア出してきたな!!」


一方のアシェリィもファイトに入った。


「ぐぐぐ!!!! すごい重たい!!」


徐々(じょじょ)に引き寄せてなんとか釣り上げることが出来た。


またもや審判ジャッジは釣れた魚を観察した。


「これはメグロ・マグロの幼魚だな。Cランク245cmで745スコアだ!! デカいがレア度が足りんぞ!!」


気づくとキュワァが大物と格闘している。


「いと、きれる。いと、きれる」


思わずアシェリィは応援したくなったが彼女はライバルである。


「お、お、つれた~」


一同は思わず感嘆かんたんの声をあげた。


「こっ……これは!! キラメキン・ヒラメだ!! Sランク122cm!! 1122スコアだーーーー!!!!」


その後も激しい釣りバトルは続いたが、明らかにキュワァの釣り上げる魚のレアリティが高い。


いつのまにか残り30分を切っていた。


「なー、わかったろ? 私が七色ミミズを探し回ってた理由。レアものばっか釣れるって伝説のエサだったんだよ。アシェも頑張ってるけどいまんとこBランク142cmの942スコアが最高だ。こりゃ5m超えでも狙わないと勝ち目が無いぞ!!」


アシェリィは目を白黒させた。


「5m!? 無茶ですってば!!」


ウィナシュは腕組みして厳しい態度で接した。


「出来ないじゃない。やるんだよ!! 私はあんたをそんな軟弱者なんじゃくものに育てた覚えはないよ!!」


ジュリスは無造作に頭をいた。


(キャラクターかわってますやん……。事なかれ主義の脱力人魚がよく言うよ)


キッっと人魚がこちらをにらみ返してきた。


「文句ある? ぶつよ!?」


思わず青年は冷や汗をかいた。


(なんでこうデキるヤツはどいつもこいつも地獄耳じごくみみなんだよ……)


そんなことをジュリスがぼんやりと考えているとキュワァに動きがあった。


「う~ん、おもい、おもい」


モグラ少女は釣りの腕は確かだったが体格的な問題で大きな魚とのファイトは苦手だった。


「よォし!! 頑張れモグラ娘!!」


紅蓮色ぐれんいろの制服の男子は思わず立ち上がった。


「お、あ、つれた~」


ウィナシュがすぐに魚をチェックしに来た。


「冬銀河タラ……Sランクの……174cm!! 1174スコア……記録……更新だ!!」


「ヒュ~!! やったな!! もらったぜ!!」


その直後、アシェリィの竿ロッドがありえない角度でしなった。


「う、うあああ!!!! 海に引きずり込まれる!!」


だが彼女はリールを開放して獲物を泳がせにかかった。


「デカい!! 3mは超えてる!! アシェ、なんとしても釣り上げろ!!」


引いたりフリーにしたりを繰り返して相手を疲労ひろうさせていくが、あまりにも獲物は巨大で重かった。


「んぎぎぎぎ!!!!!」


「アシェ、サモナーズ・ブックとリールを直結させてパワーを爆発させるんだ!! SENSEセンスも重ねがけして身体能力を極限まで引き上げるんだ!!!」


アシェリィはブックを竿さおにあてがうと一気にリールが回転し始めた。


「はあああああぁぁぁ!!!!!!」


魚が水面から飛び出した。思ったより大きい。


「剣山カジキか!! あまりレアとは言えないが、このサイズならいける!!」


そのまま10分ほどバトルは続いたが、やがて弱った魚が引き寄せられてきた。


「今だっ!! もらったぁ!!」


アシェリィは巨大な獲物を防波堤ぼうはていに打ち上げた。


ビタンビタンと陸で巨大魚がねている。


「ハァ……ハァ……」


すぐにウィナシュがやってきた。


「剣山カジキ、Bランク442cm……1242スコア!! あ、タイムアップ!! キュワァ1174スコア、アシェ1242スコアでこの勝負、僅差きんさでアシェの勝利!!」


思わずアシェリィはペタンと防波堤ぼうはていに座り込んでしまった。


「ハァ……ハァ……やった? やったの……? やっっっっっったああああああ!!!!!!!!!」


ジュリスは唖然あぜんとしてしまった。


「ウソだろ……。こんな大物釣れんのかよ」


キュワァは満面の笑みだ。


「あしぇ、すごい。キュワァ、まけた。でも、うれしい」


人魚も素直に彼女の努力を認めた。


「この短期間であんたはよくやったよ。まさかここまでやれるとは思ってなかった。もう半人前扱いできなくなっちゃったな」


アシェリィは息を切らしながらじっとりした汗をそでぬぐった。


だがなんだかウィナシュは微妙な表情だ。


「あのなアシェ……。その……言いにくいんだけど、さっきの剣山カジキとのファイトで釣り竿ざおがぶっこわれたのに気づいたか? それじゃ修理でどうこうなるレベルじゃ……」


「え……?」


少女は手元のロッドとリールに目をやった。


リールの破損はそんひどく、ラインが巻いてある場所はひしゃげてくの字に変形していた。


巻くための取っ手もポッキリと折れている。


ロッドもリングがもげて、しなったまますっかり元に戻らなくなってしまっていた。


「き……きゃあああああああ!!!!!!! 何コレーーーーーーー!!!!!!」


釣りガールの絶叫が水平線に響き渡った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ