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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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ウィナシュ流(笑)

「ウィナシュ先輩――――――――ッッッ!!!!!」


アシェリィは思わず声を張り上げた。


コロシアムはアンナベリーのあおい炎によって包まれていた。


魔術障壁まじゅつしょうへきが張ってあるのに観客席にも熱風が吹き付けている。


実況のドガが叫んだ。


「皆さん!! もう少し辛抱しんぼうしてください!! ただいま会場を冷却中です!! しかし……これではウィナシュ選手は……」


そう時間が経たないうちにボワッっと燃え上がると青焔あおほむらは消えていった。


フィールドにはウィナシュの跡形あとかたもない。


マーメイドは完全に燃え尽きてしまった。そう誰もが思ったときだった。


「そんな簡単にやられっかよ!!」


ウィナシュはフィールドの上の方に退避して炎を見事回避していた。


とても避けられそうな攻撃ではなかったが、彼女のスピード&反射神経がそれを上回った。


「エアピック・ルアー……空中に任意のひっかけるポイントを作れるルアーさ。これにひっかけて瞬時に避けたわけだ。お次は……そのご自慢の大剣、もらったぁ!!」


人魚は竿ロッドを振り抜いて対戦相手を狙った。


浄化人ピューリファーは手堅くこれを大剣でガードした。


だが、釣り竿先のルアーがアンナベリーの獲物えものにピタッっとくっついたのである。


「マグネティカ・ルアー!! 金属にピッタリくっつく!! これで思いっきり引けばッ!!」


思いっきり引っ張って相手の武器を奪おうとした彼女だったがあまりの重さにその計画は狂った。


「くっそ~!! なんつーバカ重い剣使ってんだ。こんのチビ怪力女!!」


チビ怪力という言葉に相手は少しイラだっているらしい。


軽く挑発しつつウィナシュは勢いをつけてくっついた大剣と彼女の周りをクルクル回り始めた。


あっという間に浄化人ピューリファーはチャーシューのようにぐるぐる巻になってしまった。


体と大剣は密着してしまい、振るう事ができなくなっていた。


初手ではアンナベリーが有利に思えたが、それ以降のウィナシュのラッシュは目にも留まらぬ早業で繰り出されたのだ。


相性の問題もあるのだがこれだけすばしっこくかつトリッキーに動かれるとどうしても後手後手ごてごてになってしまう。


「あんま効くとは思えないんだけど、こういうのもあるゾ。そら!! エレ・ライ・ショッカー!!」


ウィナシュはルアーチェンジを魔術で行っているため、いちいちルアーを交換する手間はない。


念じれば手持ちのルアーが呼び出されてくるのだ。


だが、さすがにこんなに高速でチェンジ出来るのはありえないレベルであり、アシェリィは何度も目を疑った。


ルアーが変わるとラインを伝って電撃が流れ出した。


「バリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!!!」


アンナベリーは激しい痙攣けいれんを起こした。


人魚はなんとも言えない表情だ。


「これ拷問ごうもんみたいであんま好きくないんよね」


ラインによる締め付けと電撃。勝負あったかと思われた時だった。


「フフフ……燃えてきたわ……。タンクの実力を甘く見ないでほしいものね……」


それを聞いてウィナシュはまぁ予想通りかななどと思った。


「ぐ、ぐ、ぐぅ……はぁああああっ!!!!」


なんとアンナベリーは普通なら感電死するような電撃に耐えつつ、巻き付いているラインを肉体で無理やりブチ切った。


「マジかよ!! どっちもそれなりに本気でやったのになぁ。さすがはリジャスターってとこかな。反撃がおっかない。こりゃ次を考えるしかないな」


あまりの展開の早さに闘技場とうぎじょうはついていけないでいた。


腕利きの者以外にはウィナシュの一連の動きはあっという間で、気づいたらラインがひきちぎられていたのだから無理もない。


アシェリィも目で追うのが精一杯だった。


「あしぇ、キュワァ、わけわからん」


「大丈夫。まだどうなるかわからないけど、ウィナシュ先輩は頑張ってるよ!!」


アンナベリーは不敵に笑った。


貴女あなた、素晴らしいスピードだわ。でも、貴女あなたの攻撃力じゃ私を倒しきれないと思うわ。負け戦をするのは賢いとはいえないわね……」


一方のウィナシュはそれに言い返した。


「あのさぁ……。あんただってすげぇパワーだよ。だけど、あんたの攻撃はあたしにゃ当たらない。いくら火力が高くてもな。なのに負け戦っつーのは面白いジョークだよなぁ? どっからその自信がわいてくるんだ?」


2人は激しく闘志をぶつけ合った。


「ホイ、スキ有り!! ラインにオーラをまとわせて切断効果を付与するルアー!! フィッシュ・ザ・リッパー!!」


人魚はくるくると渦巻状に軌跡きせきを描きながら淡く光るラインをけしかけた。


その動きは完全にフェイントでアンナベリーに接近した途端、クモの巣のように隙間すきまなく展開した。


並の使い手が食らったらかなり細切れ肉になってしまうだろう。


だが、浄化人ピューリファーもただではやられない。


しゃがんで大剣を頭上に構えた。だがこれでは横からの攻撃が防げない。


そこで、アンナベリーは猛回転して三角錐さんかくすいの形でガードした。


これならば頭上、横のどちらの攻撃もカバーできる。


更にそのままブルー・ファングを発動した。再び彼女の全身をあおい炎をまとう。


それに回転力が加わって恐ろしいまでの熱気と火力になった。


「フフ……さっきは上に逃げられちゃったけど、フィールド全体に回転斬りをお見舞みまいいしたらどうなるかしら……? フフ……楽しくなってきたわ。私を失望させないで頂戴!!(ちょうだい)」


熱気でウィナシュは汗ダラダラだった。


水着が透けて男性陣は大きな歓声をあげた。


「うわっ、やばいよこれ―――」


彼女がそう言うやいなやアンナベリーが動いた。


「豪廻転破!!(ごうかいてんは)」


浄化人ピューリファーはものすごい勢いで回転し、バトルフィールドをあおい炎で染めた。


その様や圧倒的で多くの学生が畏怖いふした。


「ハァ……ハァ……魚は焼けたかしら?」


徐々に彼女の炎は消えていった。


司会のドガは驚きと高速スピードのあまり実況しそこねていた。


だが、我に返って現状確認する。


「こーれーはー……ウィナシュ選手、姿が見えません!! 緊急回避のため、OKオーバーキル・ノック・アウトで勝負がついて医務室にテレポートされたのかもしれません!!」


リジャントブイルのコロシアムでは死人が出ないように試合の展開によってはOK・KOオーバーキル・ノックアウトで強制避難させられるのだ。


試合会場が騒然としたその時だった。


(ぷくく!! 油断したなァ!? 地面を掘るドリルアーで地中に退避……からーの!!)


突如とつじょ、アンナベリーの足元からルアーが飛び出して彼女の周りを高速回転した。


「喰らえ!! ぐるぐルアー!! いくら頑丈がんじょうでもこの猛回転なら目が回る!!」


ほんの少しだが、大剣の浄化人じょうかにんはよろけた。


すかさずウィナシュは地面から飛び出した。


「あのなぁ!! そりゃ私は非力だよ。でもこの愛用のロッドは天下一品!! ホントは気乗りしないがこれでブン殴る!! 痛いぞ~!! くらえ!! ウィナシュ流(笑)ロッドメッタ打ちィ!!」


マーメイドは鮮やかにドラグナム・オーシャンでの連撃を防がれること無く叩き込んだ。


アシェリィの目で確認できるだけで8連撃決めた。実際はもっと殴っているかも知れない。


モロにムチのようにしなる竿さおで叩かれまくったアンナベリーは土煙つちけむりを上げながら大きく後ろにのけぞった。


大剣を片手に持つと親指でくちびるから垂れた血をぬぐって、血のつばを吐いた。


「ありゃ~。骨折くらいはするかと思ったんだけど、それじゃアザがいいとこだね……。あんたの硬さは称賛に値するよ……」


かなり劣勢に見えていたが教会の犬は不敵に笑った。


「フフ……まさかこんな面白い試合が出来るとは……。あなたとは学生時代に会いたかったくらいに……」


一方のウィナシュは微妙な表情だ。


「えー、いいよ。エンリョしとく。なんかあんたインキそうだし」


変人ならではの空気を読まない発言だった。


もっともかつてのアンナベリーは快活で明るく、天真爛漫てんしんらんまんだったのだが。


彼女の過去を知るのは一緒にミッションをこなしたアイネやほんの一部だけしかいない。


紆余曲折うよきょくせつを経て、彼女は業が深いこの道を選んだのだ。


「教会のお偉いさんが何人か観戦しておられる。ここで負けるということは教会に泥を塗るということ。なんとしてもそれは避けなければならない……」


ピンクのっぽを振った女性は首をかしげた。


「教会関係者が学院で勝った負けたなんて昔っからある話じゃないか。何を今更……」


浄化人ピューリファーは左右に首を振った。


「メンツを過剰かじょうに気にして自分たちの権力を誇示こじしたがる……そういう層が少なからず増えているのが今の教会なのよ。平和と博愛を重んじるルーンティアの女神は汚れつつあるわ……」


ウィナシュは腕を組んで即答した。


「は? 知らねぇよ。私はそんなこと興味がねぇ!! 釣り、ただひたすら釣りができればそれで良い!! ただなぁ、これもそのショーの一部だというのならぶち折ってやるまでさ。武勲ぶくんめて愉悦ゆえつに浸っているような連中の鼻をな!! あんたにゃ恨みはないが、恨むんなら上を恨むんだね!!」


2人の会話は観客席から見ていると戦いの間の見合い程度にしか見えなかった。


もちろん話の内容は聞こえないし、あっという間にこのやりとりは終わった。


アンナベリーが体をストレッチして痛みを和らげた。


「その釣技、ルアー、ロッド……まこと見事なり。ここで勝機を見出すには命かける覚悟で攻撃に転じねばならない……。私には恨みがないと言ったな!! ではその言葉、そっくり返そう!! 互いに恨み無しの決着と行こうじゃないか!!」


人魚は小指で耳をいた。


「あ~、熱血タイプにはついてけねーわ。はいはい勝手に決着つけてください。ただ……負ける気は微塵みじんもねぇからな!!」


アンナベリーとウィナシュの最後の衝突が始まった。


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