表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
424/644

狂喜乱舞のマーメイド

今日もミナレートは真夏の日差しだ。


麦わら帽子をかぶってアシェリィは寮をでかけた。


なんでもジュリス先輩が釣りの達人だという”ウィナシュ先輩”を紹介してくれるという。


前回のジャングルではうまいこと釣り竿ざおかすことが出来なかった。


肝心のサーディ・スーパを取り逃がしてしまったわけだし。


これは召喚術サモニングとともに課題の1つとなっていた。


そして、釣りといえば親友を連れて行かない訳にはいかない。


彼女は釣りスポットの1つであるいつものみさきに寄ってその名を呼んだ。


「キュワァ。キュワァちゃん、居る?」


防波堤ぼうはていの陰からモグラに近い亜人がひょっこり顔を出した。


「あしぇのねえちゃんおひさ。きょうはなにする? つりたいけつ?」


アシェリィはかがんで彼女と視線を合わせると首を左右に振った。


「ううん。今日はタイケツじゃないんだ。なんかスゴい釣り人がいるって聞いてね。キュワァちゃんもキョーミあるかなって」


それを聞いて亜人の少女はにっこり笑った。


「スゴいつり、みてみたい!! キュワァもいく!!」


目をキラキラと輝かせるキュワァを微笑ましく思って緑髪の少女も期待を高めた。


「じゃ、いってみよ~!!」


「お~」


キュワァはまるでモグラが二足歩行しているような見た目の亜人だ。


身長はかなり小さく、5~6歳の女の子程度の大きさしか無い。


それでいて、釣りがとても得意で大きな魚も釣ってのけるやり手だ。


魚を引く時の力のかけかたとか、バランス感覚が絶妙ぜつみょうのように思えた。


アシェリィも見よう見まねで動きを取り入れたりしているがサッパリだ。


2人は手をつないで海岸線を歩いた。


途中、恋人岬ラヴァーズ・ケイプの入り口を横切った。


ここは待ち合わせ場所にはピッタリだが、こんな場所で待ち合わせたらどんな恋愛トラブルになるかわからない。


そのため、いつもジュリスが居る人手ひとでの少ない防波堤ぼうはていへとやってきていた。


「よぉアシェリィ……とそちらの方は?」


ザティスは相手を怖がらせないようにしゃがんで声をかけた。


こういうところは気がくなぁとアシェリィは感心していた。


キュワァは少女の陰に隠れながら名乗った。


「キュワァ……キュワァ、いう。あしぇのつりともだち」


言わんとすることが伝わったのか、ジュリスは返事を返した。


「そっか。俺はあしぇのセンパイのじゅりすだ。よろしくな」


彼が手を差し伸べるとキュワァもその手をかるくつかんだ。


「しかし、おっかしいなぁ……。ウィナシュ先輩とは確かにここで待ち合わせしたんだが……。あ、アシェリィ、お前、なんか変わったエサつけて釣ってみ。ひっかかるかもしんねぇ」


釣り竿ざおにひっかかる人ってどういうことなのだろうか。


アシェリィは疑問が晴れないまま、とりあえずキュワァに教わったエサの幻魔をくっつけて海面へと投げてみた。


すぐに反応があった。しかも大きい!!


「!! ぐぬぬぬぬぬぬっっっ!!!!!」


釣りガールは全力で竿さおを引き上げ、リールを巻いた。


格闘すること数分間、それはザバッっと大きな音を立てて飛び出してきた。


上がってきたものは人の形をしていた。頭には海藻がからまっていて、服を着たままだった。


力なくブラーンと上半身を垂れて水から半身を出している。


「きゃ、きゃあああああああ!!!!!! 水死体、釣っちゃった~~~~!!!!」


アシェリィはパニックにおちいったがすぐにジュリスが彼女に声をかけた。


「おい。よく見ろ。生きてるって。あれがウィナシュ先輩だよ……」


釣り上げられた人物は頭にからまった海藻をつかむとそれを放り投げた。


「ジュリス君の頼みだっていうから来てみたらこの程度なんじゃな~い……ムダ足だったわね~……」


あまり乗り気でなさそうなウィナシュにジュリスは突っ込んだ。


「そうは言われてもちゃっかり釣られてるんじゃないですか……。まんざらでもないんでしょう?」


黒い前髪がだら~んと垂れて不気味に顔が隠れたジュリスの先輩は髪の毛をかきあげた。


その素顔はとても美人で思わずアシェリィは思わずポカーンと口を開けてしまった。


よく見ると着ているTシャツは透けていて、真っ赤な水着があらわになっていた。


「ジュリスくんのえっちぃ!! いまどきホタテ貝のブラなんかしてるわけないでしょ!! ほっ!!」


彼女はみずから水中から防波堤ぼうはていへと飛び出した。


驚くべきことにウィナシュの下半身は人魚マーメイドだったのだ。


美しいピンクのウロコが日光に反射してキラキラきらめく。


「まっ、人魚マーメイド!? マーメイドなのに魚釣り!?」


彼女はれたTシャツのすそしぼって水気みずけを切っている。


ジュリスはあわてて後輩の口をおさえた。


「もご!! もご!!」


「バッ、バカ!! それは禁句なの!! えへ、えへへ……先輩、悪気はないんです。聞き流してやってください」


アシェリィもモゴモゴ言いながら頭を何度か下げた。


「あなたがそれなりに出来るのは認めるわ~。でもねぇ、私の貴重な釣りの時間をいてまで稽古けいこをつけてあげる義理はないの。たとえジュリスくんの頼みでもこればっかはね~」


ジュリスとウィナシュの関係に疑問を持った後輩はそれに関して背後の先輩にこっそりたずねてみた。


(ジュリス先輩とウィナシュ先輩ってどういう関係なんですか?)


ふさいでいた後輩の口から手を離すとジュリスは語り始めた。


「ウィナシュ先輩は俺が中等科ミドルんときのセミメンターでな。今は卒業してリジャスターとして活動してるんだ。こう見えて滅茶苦茶に強い。今の俺でも歯が立たないと思うぜ。釣り竿ざおさばきに関しては学院屈指がくいんくっしの腕前だ。そこらへんを見込んでアシェリィの弟子入りを頼みに来たんだけどなぁ……」


紅蓮色の制服の先輩はリジャスターの先輩にチラッチラッっと目線をやった。


「ハァ……。あなたになんて負けたらおしまいよ。それに、おだてても乗らないわよ。繰り返すけど私にとって釣りより重要な時間なんて無いんだから」


ウワサには聞いていたが、かなり変わり者のようである。


「お、おお!?」


その時、彼女の目の色が変わった。


「そこのモグラの亜人ちゃん、いいエサ持ってるねェ!! 私に見せてくれないかな!?」


ウィナシュはやや興奮気味である。


「キュワァのことか? そら」


彼女が短くて可愛らしい手を差し出すとそこには虹色にじいろに輝くミミズがピタピタと跳ね(は)ていた。


「こっ……これは!! かなりレアなエサ、7(なな)つ色ワームじゃない!! こっ、これをどこで?」


必死の形相ぎょうそうで人魚は質問した。


「これ……キュワァたちよくみつける。べつにめずらしくない」


亜人特有の鼻が効くとでも言うのだろうか。そういったニュアンスで彼女は答えた。


「お、お金は……いくらでも払う。だからそれを譲ってくれないかな。でゅふ……でへ……でぇへへへへ」


ウィナシュ先輩の表情は完全にゆるみきっていた。


欲望に忠実な様子を隠すつもりはさらさらないらしい。


それに対し、キュワァは首を横に振った。


「おかね、いらない。かわりにあしぇにけいこつける。やくそくする。そーすればこれやる」


正直、どこまでキュワァが話の流れを理解しているのかと思っていたアシェリィはこれに感動してモグラ少女に抱きついた。


「キュワァ!! ありがとう!! いいの? 私のために……。だってこれ貴重なんでしょ?」


亜人少女はギュッと抱きしめられてもがいていた。


「あしぇ……ちょっど……ぐるじい……」


あわててアシェリィは彼女を握る腕をゆるめた。


「あ、ゴメンゴメン……」


アシェリィはこどもをあやすかのように彼女の頭をなでた。


気持ちいいのか、キュワァは心地よさそうにしている。


ニコニコしながらモグラの亜人はピョコピョコとジャンプした。


「さっきも、いった。キュワァたち、よくこのエサつかう。そんなに、とくべつなものでない。あしぇにきょーりょくするなら、いくらでもやる」


ウィナシュの様子がおかしかったのでジュリスは彼女の顔をのぞき込んだ。


「せ、先輩?」


突如とつじょ、ウィナシュ先輩は叫んだ。


「うっそぉ!! 超ウレピー!! ありえなーーーーーい!!!!!!」


彼女は大量の鼻血を吹き出しながら仰向あおむけに海に飛び込んでいった。


「ブシャアアアアアアアアッッッ!!!!」


海がどす黒く染まっていく。


全く別人のように彼女のテンションはうなぎのぼりだった。


「じゅ、ジュリス先輩……。ウィナシュ先輩っていつもあんな感じなんですか? わ、私、なんか不安になってきました……」


紅蓮ぐれんの制服の青年は腕を組んで首をかしげた。


「……だよなぁ。俺も最初に会ったときはそう思った。ホントにこんなんで大丈夫なんかよって思ったよ。マジで」


ゴポゴポと音を立てながら首から上を水面に出した人魚マーメイドは文句をたれた。


「あら……。聞こえてるわよ。2人、そろってずいぶんな後輩達ね。別に調子に乗るわけじゃないけれど、それ相応そうおうの実力はあると思ってるんだけど?」


特に殺気を放っているわけでもないのだが、彼女のプレッシャーはすさまじかった。


「うっ!!」

「あわ……あわわ……」


ウィナシュは更に浮上して拍手を送った。


「あら、ジュリスくんだいぶやるようになったわね。そっちの、え~、アシェは全然ダメ。釣り竿ざおに関しては1から鍛え直し」


独学だったので仕方ないと言えば仕方ないが納得がいかない。


「そんなぁ!! これでも必死にテクニック本とか読んで!! それに私、アシェじゃなくて、アシェリィです!!」


ウィナシュは煙たげな仕草で顔の前で手を払った。


「あー、うるさいうるさい。そんな小手先こてさきの本じゃどうしょもないの!! あと、めんどくさいから呼び名はアシェで決定。先生の命令は従うこと!! 以上!!」


話が落ち着いたかどうかといったところでキュワァは7(なな)つ色ワームを人魚マーメイドに投げた。


「うっひょぉ!! たまんねぇ~!! これなら海中の龍族りゅうぞくとか釣れるんじゃないかなぁ!! ワクワク!! ワクワク!!」


ジュリスもアシェリィも完全においてけぼりだ。


「このみみず、まだたくさんある。あしぇのけいこつけたら、もっとやる」


魚釣り人魚は狂喜乱舞きょうきらんぶして何度も海面をねた。


さすがにやりすぎたらしく、暴れ人魚マーメイド出没しゅつぼつうわさになってしまったが。


こうして人気ひとけの少ない場所でウィナシュによる釣りの特訓が始まるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ