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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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いつまでも変わらない5人組

ザティスが帰還した次の休日、初等科エレメンタリィで同じ班だったファイセル、リーリンカ、ザティス、アイネ、そしてラーシェが集まった。


集まったのは海鮮レストランのディル・ヴィナーレである。


「いや~、こうして5人で集まるのも久しぶりだね。まだチーム解散から半年しか経ってないのになんだかすごく懐かしい気がするよ」


元リーダーのファイセルは感慨深かんがいぶかそうだ。


互いにちょこちょこ会うことはあっても5人全員が集まるのはたまにしかない。


「みんな、元気でやってた? まぁ見る限りみんな相変わらず元気そうだけどね」


ファイセルはつい最近、命の危機にあったとは口がけても言えなかった。


メンツというより、そんな事を言えばリーリンカに黙っていたのがバレてしまう。


「僕は特に何もなかったかな。普通に新学期から通学して平凡な毎日を送ってるよ。あ、でも師匠の師匠に出会えたのは大きな収穫かもね」


しれっと適当に誤魔化ごまかす。


次に長い青髪のリーリンカが手を額にやった。


「私は大変だったぞ。青トカレっていう風土病ふうどびょうを1人で解決させに行かされてな。なんとか解決したものの、相当ヒヤヒヤした。正直ダメかと思ったぞ……」


ファイセルはこの話をちょくちょく聞かされていたので知っていた。


それを聞いてアイネが胸に手を当てて同じように苦労を語った。


「私達はチームを組んで東部の不死者アンデッド浄化にあたっていました。他の地域ではありえないほど荒れ地が出現してしまって。激闘の連続でした。けが人も多く出ましたから、治癒師ヒーラーは休まる暇がありませんでしたね。皆が無事にミナレートに帰ってこれてホッとしているところです」


ザティスは腕を組んでイスにもたれかかった。


「俺だってサボってたわけじゃねーよ。ただ、日付の感覚が狂ってただけでな。ソエル大樹海で1人で修行してたんだが、かくかくしかじかでネーラーって女を助けてな。ミナレートまで避難させたってわけよ。飛ばしてきたから全身が筋肉痛だぜ。そいつが自称、斥候スカウト地図製作者マッパーだったんだが、少なくともマッパーの腕はホンモノだったな。いいもん見せてもらったぜ」


ラーシェも近況を報告する。


「私はセミメンターとしてアシェリィの居るナッガン先生のクラスの遠足に同行しててね。ダッハラヤ王国のジャングルに行ってたんだ。それがもう密林だから蒸し暑くて大変で。まぁあくまで補佐ほさだからアドバイスくらいしかしてないんだけど。遠足に駆り出された本人たちのほうが気の毒だったよ……」


彼女が視線を感じて顔をあげると何やら4人がニヤニヤしている。


一番最初に口を開いたのはザティスだった。


「ラーシェ、お前とうとうカレシが出来たんだってな? アイネから聞いたぜ」


「なっ!?」


突然の話題の振りにたじろいたが、すぐに彼女は平静をよそおって答えた。


「え、ええ。おかげさまで。もうひとり身とは言わせないんだからね!!」


ザティスは続けて茶化した。


「しかもお相手は強いしイケメンで通ってるジュリス先輩じゃんか。よかったな。高い理想を満たしてくれるお相手が見つかって。ジュリス先輩は前はかなり人気あったからな。戻ってきた今、元恋人とかファンに後ろから刺されないように気をつけるこった。で、先輩とはどこまで行ったんだ?」


アイネはすぐさま隣のザティスの腕を引いた。


「ザティスさん!! それセクハラですよ!! さすがに見過ごせません!!」


「へいへい」


ザティスとアイネのカップルはもう熟年夫婦のようにしっくりきている。


まだ式はげていないが事実婚じじつこん状態で夫婦となんら変わりない。


夜の方も非常に忙しいようである。


一方のファイセルとリーリンカは一応結婚済みで、互いに漆黒しっこくのエンゲージ・チョーカーを身に着けている。


一度付けると外せないと風のうわさで聞いたような気もするが。


こちらの2人は学生のうちは清い関係でいるつもりらしい。


マジメすぎる2人だなと内心ラーシェは苦笑いした。もっとも、ただウブなだけかもしれないが。


リジャントブイルは研究科エルダーを卒業するとなると早くても22歳になる。


それまでお預けということなのだろうか。それはそれで気の長い気がすると初体験を終えた気になっているラーシェは思った。


とはいっても自分も肝心の初夜の事はよく覚えていない。


実際はそういった事実自体がないので覚えているわけがないのだが。


自分は既に卒業したと思い込んでちょっと背伸びした気になるラーシェだった。


話に華をさかせていると大きなサカナと大エビの頭の乗った舟盛ふなもりがやってきた。


5人いても十分足りるくらいの大きさの船を模した器だ。


幹事かんじのファイセルはニコニコ笑った。


「ここの海鮮は美味しくてね。海鮮丼とかもいいんだけど、一番のおすすめはこの舟盛りXLサイズだね。割高だけど割りかんすればそこまで高いわけじゃないし……」


魚のおかしらとエビの頭はビクビクとのたうち回っている。


並んでいる刺し身はどれも魚介類のようだったが、赤青黄色とにじのように色とりどりでまるで花畑のようだった。


極彩色ごくさいしきで結構エグい色のもあるけど、味はどれも上質な魚だよ。僕はこれをソイ・ソースにつけておかずにしてホワイト・ライスを食べるのが好きなんだ。ジパだと新鮮な生魚をこうやって食べるらしいよ」


一応の解説を挟んだが、このメンバーでこの海鮮丼を何度か頼んだことがあるのでこの舟盛りが見かけに反して美味なことは皆が知っていた。


また、特に海鮮系が苦手という者も居なかったので遠慮なしにこの店でこの一品を頼めたのだ。


ラーシェが舟盛ふなもりのえ物についてぼやいた。


「私、ここのワサビ・マスタードって好きになれないんだよね。ツーンって辛いしさ」


聞き捨てならないとばかりにザティスが口をはさむ。


「かぁーっ!! 全く、この良さがわかんねーとはお前もまだお子様だな。臭み消しとしても優秀だし、アクセントとしてもこのワサビは重要だぜ」


それを聞いていたファイセルはラーシェと同じ意見だった。


「僕もこの緑の薬味、あんま好きじゃないなぁ。だってやっぱりツーンとするし、涙が出てくるよ。それにやっぱり辛いもの」


彼の妻はこれに敏感に反応した。


「バカを言え!! 魚の刺身といったらワサビに決まっているだろう!! この美味さがわからんとは理解しがたいぞ!!」


ファイセルはラーシェと、ザティスはリーリンカとハイタッチした。


そしてその4人の視線はアイネに集中した。


「わ……私は……強いて言うなら中立です。そんなムキにならず、それぞれが美味しいと思える食べ方でお食事すればいいのではないでしょうか……。そもそも私達の班にそこまでコダワリのある食通の方は居なかったと思うんですが」


それを聞いたファイセル、ラーシェ、ザティス、リーリンカは互いに顔を見合わせた。


「い、いい歳して……大人気おとなげなかったね。みんな、アイネの言うように好きなように食べよう」


ファイセルがまとめると一同は笑顔で食事を始めた。


「はは。これじゃ誰がリーダーかわからないね。アイネのこういうとこは尊敬するよホントに」


アイネは口元に手を当てて微笑ほほえんだ。


「争いを仲裁ちゅうさいするのもルーンティア教の教えですからね。常に人の間に立ち、衝突がおこらないようにするのは大事な事です。なによりこのメンバーでめているのはたとえ些細ささいなことでも気分が良くないですからね。もっとも、ファイセルさんのリーダーシップのおかげで大きなめ事って今まで無かった気がしますけどね」


元チームの面々は初等科エレメンタリィ時代を振り返った。


最初の頃、3留していたザティスがとんがっていた以外は特に大きな問題は無かったように思える。


チーム編成の相性が良かったというのもあって、互いにぶつかりあうようなメンバーも居なかった。


そして底抜そこぬけなくらいお人好しのファイセルの存在が4人をしっかり結びつけたのだった。


もちろん、アイネも縁の下の力持ちである。


ちょっとまずい雰囲気になったなと思ったらすかさず仲裁ちゅうさいに入る。


いくらファイセルが優れたリーダーでも、細やかな心遣こころづかいのできる彼女が居なければ少なからずぶつかり合っていただろう。


ファイセルはルーンティア教の女性に感心しつつも別人の事を考えていた。


(う~ん……ルーンティア教の人達がみんなこうならいいんだけど、コレジール師匠が言うには一枚岩いちまいいわじゃないって言ってたしなぁ。現に一緒に旅をしたサランサさんなんてひどいもので、本当に同じ宗派なのか疑うレベルだよ。おっかない女性ひとだったなぁ……)


更にそこから連想ゲームのように教会について考えが及ぶ。


(にしても……師匠はこうも言ってたな。”教会は既に専守防衛せんしゅぼうえいというには過ぎた武力を有している”って。どこかに攻め込もうとでも言うのかな。いや、そんなまさか……。教会にヘルプで入ってる程度のアイネに聞くわけにも行かないしな。でも気になるなぁ。そんなに武力をたくわえて一体どうしようっていうんだ? ラマダンザへの牽制けんせい? いや、それもしっくりこない。それは国軍の役目で……)


「……い、おい!!」


リーリンカがこちらに声をかけてきた。


「どうしたボーッとして。どうせ悩み事かなんかだろう。お前は割とあたまでっかちだからな。食事の時くらい、なんにも考えずに味わったらどうだ?」


まるで脳内を読まれているかのような発言である。


これには参ったなとファイセルは苦笑いした。


「はは。なんでもお見通しか。いや、悩み事ってほと大したことじゃないよ。気にしないで。でも食事中にあれこれ考え事をするのは確かにあまり良いとは言えないね。素直に味わうことにするよ」


「フッ……」


リリィは満足したようで瞳を閉じてコクリとうなづいた。


ラーシェはこの2人を見ていて思った。直接的な繋がりはともかく、こういう夫婦関係もアリだなと思ったのである。


あまり多く語らずとも互いのことをわかっていて、ツーカーで通じ合う。


こういう関係性もすごく素敵だなと思った。


ジュリスと深い関係になったと思い込んで浮かれている自分はまだまだ浅いのかもと反省する彼女だった。


その次の日も休みだったのでファイセル、リーリンカ、ザティス、アイネ、ラーシェは夜遅くまで酒盛りをして盛り上がった。


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