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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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オトナのデートと行きますか!!

アシェリィ達が必死な思いをしている頃、アシェリィの班のセミメンターであるラーシェも必死だった。


「これでヘンじゃない? ヘンじゃないかな?」


ストローハットをかぶり、長い丈の白いワンピースを着た彼女は何度も姿鏡の前で自分をチェックした。


くるりくるりと回ってファッションを何度も確認する。


「大丈夫……だいじょぶ……だよね? よォ~し!!」


ラーシェは気合を入れるとりょうの部屋のドアを開けて街へでかけた。


よくカップルの待合場所に使われる恋人岬ラヴァーズ・ケイプ入り口の看板前で人を待った。


(まだかな……まだかな……)


「よぉ。ちょっと待たせちまったかな」


やってきたのはスカイブルーのシャツにモスグリーンのズボンを着こなしたジュリスだった。


赤い長髪がえている。ちょっとスレた感じの着こなしがいい感じに男らしかった。


「せせっ、先輩!! わわっ、わたし、で、”でぇと”とか初めてで!!」


緊張のあまり、ラーシェの声はうわずった。


完全にパニクる彼女に対して、年上の彼氏は落ち着いた態度で接した。


「はは。まぁそんな固くなるなって。俺だってろくすぽデートなんかしたことなぇし、ましてや自信なんてねぇよ。ここはお互い様ってことでいいだろ。さ、行こうぜ」


ジュリスは無邪気にそう笑うとラーシェの手をにぎった。


にぎられた方はいつどうやって手をにぎるべきかなどと悩んでいたのでこの不意打ちのスキンシップで頭が真っ白になった。


恋人岬ラヴァーズ・ケイプは昼間っからカップルで溢れている。


ミナレートでも屈指くっしのデートスポットなのだ。無理もない。


2人はみさきの先端まで歩いていくと水平線をながめた。


「いやぁ……本当はもっと早くデートに誘うつもりだったんだが、この間のジャングル遠足が急に入ったからなぁ。あの状況じゃゆっくりしてる余裕もなかったし。でもまぁこうして無事に帰ってこれてよかったな」


まだ彼氏彼女という自覚は薄いが、彼女の方は彼氏の顔をのぞき込んで苦笑いした。


「あんなジャングルに放り込まれて、魔物と戦って……ほんとに心配したんですから……」


ジュリスは余裕だったと茶化してやろうかと思ったが、ラーシェの声がわずかに震えているのを聞き取って真面目に返した。


「誰かさんが心配してくれてたおかげだよ。さて、時間はまだたっぷりある。どこか行きたいところとかないのか?」


いざデートするとなるとあれやこれやと行きたいところはあったのだが、本番となるとラーシェは急に二の足を踏んでしまっていた。


「そっか。デート初心者に行き先を聞くのは無神経むしんけいだったな。うっし。ありきたりなところでいいなら行こうぜ」


デート初心者はなんとも言えずモジモジとした。それに、いい年してデートスポットの1つや2つ知らないのも情けないとも思った。


俗に言う年甲斐としがいもないというやつである。


だが、ジュリスと一緒に行けるならどこでもいいかなと今のラーシェは思っていた。


「まぁまずは素逸庵すいつあんだろ。スイーツが嫌いな女子はいねぇ……と、いうより俺が無類むるい甘味かんみ好きなんだよ」


彼が甘いものを大好きだというのは初耳だった。


まだまだ彼に対して知らないことが多いのだなとラーシェは気付かされた。


「って、俺の好みだけ押し付けてもしょうがない。君はどうなんだ? 甘い物、苦手だったりしないか?」


声をかけられた女性は我に返って首を左右に振った。


「あ、いえ……。私も甘い物、大好きです!! 特に、体を動かした後の甘味かんみはたまらないですね!!」


それを聞いていたジュリスは目を見開いた。


「おお!! 話がわかるな!! 疲れた後のスイーツは最高だぜ!! 大盛りパフェ……と行きたいところだが、今日回るのはここだけじゃねぇからな。それはまた来た時にしようぜ!!」


2人はパーラーでお揃いのホワイトボール・アンコを食べた。


このあたりになるとラーシェは自分が抱いていた不安がたんなる杞憂きゆうであることに気づきつつあった。


彼とのデートというデートはこれが初めてだったのでもしかして相性が合わないのではないかと思っていたのだ。


男女関係の経験が少ない彼女は成人してもなお少女の面を強く残していた。


それが余計にラーシェの感情を揺さぶっていたのだった。


ジュリスはジュリスで更に年上の男性であり、そんなナイーブな彼女の心をんで気を利かせる余裕があった。


その世話焼きを面倒と感じないということはジュリスにとっても彼女は相性が良いと言えるのだろう。


しっかりしているようでいて、どこか放っておけないところがある。


本人は無意識だったが、それが彼女の魅力でもあったのだ。


「さて、カフェ巡りはこんくらいにしとくか。例の人気の少ない灯台でもいいが、デートの定番といえば絨毯屋じゅうたんやのマギ・カーペッターだろうな。君、高いところは平気か?」


ラーシェは特に高所恐怖症こうしょきょうふしょうというわけではなかったので首を左右に振った。


「この人だらけの都市で二人っきりになるには空が最適だからな」


2人は魔法のじゅうたんを借りるとミナレートの空に飛び立った。


「交通ルールがあるのってのはきょうざめだが、プライベート空間ではあるからな。くつろいで話が出来る。パーラー・コクーンでも密談ができるがあっちは薄暗いし、なんか後ろめたい雰囲気だからな。それにこうやって風を切るのは気分がいい」


ジュリスは赤い髪をなびかせて気分良さげに風を浴びた。


一方のデート相手は二人っきりの空間というところに反応してスタートに戻ってしまって黙りこくってしまった。


「なんだ? 緊張してんのか?」


茶化すわけでもなく、割と真面目に彼は聞いてきた。


「あ、ああ、いや、その……」


ジュリスはにんまりと笑うと頬杖ほほづえをついてラーシェを見つめた。


「デート、初めてなんだろ? 無理することはねぇって。もしなんか面白くない事があったら遠慮なく言ってくれよな」


自分は満足に相手も出来ないのに先輩の気持ちが痛いほど伝わってくる。


気づくと金髪の少女は自分の情けなさを思い知って柄にもなく泣いていた。


それを見ていたジュリスはポケットからハンカチを取り出して手渡した。


「ほれ。涙、ふけよ。君は笑ってるほうが似合ってるからな」


ハンカチを受け取って彼女はしばらく目頭と帽子を押さえていたが、やがて真っ赤な目をして微笑みかえした。


「よし。その調子だ。でも泣きたい時には泣いたって構わないんだぜ。決して恥ずかしいことじゃないんだからな。水臭い隠し事とかはナシだぜ?」


青年はまた笑みを浮かべながら女子の肩にポンポンとタッチした。


続けて彼女からも笑顔がれた。


それを機にラーシェの緊張は吹っ飛んで、いつもと同じような他愛のない会話を続けられるようになった。


2人はきるまでじゅうたんに乗って夕方には地上に降りた。


先輩はグーッと体を伸ばしてストレッチした。


「あ~。よく飛んだな。でも、面白かったろ?」


ジュリスの問いかけにラーシェは笑って答えた。


「ふふふ……せ~んぱい!!」


すっかりペースを取り戻した彼女は一層、魅力的に見えた。


「もう日暮れ時か……。ほんじゃオトナのデートと行きますか!!」


さっきまで笑顔だった乙女は石化したように固まった。


「な~んてな。安心しろよ。なにも取って食やしねーよ。ディナーを食べたら解散だ」


ラーシェは胸に手を当てて大きく息を吐いた。


「ここだ。オススメのバー、”俺の酒場”だ。俺つっても俺のじゃねぇ。まぎらわしいが酒場のマスターの店ってことだ。ここは結構いろんな種類の酒がそろってるぜ。甘いのから辛いの、ライトなやつからハードなやつまで。ま、とりあえず入ってみようぜ」


2人が中に入るとそこにはオトナっぽいオシャレなバーの空間が広がっていた。


オーシャンビューで夕日が照っている。夜になると都市の夜景が見えるだろう。


ジュリスとラーシェはカウンター席に並んで座った。


こんなオシャレな飲み屋に入ったことがなかったのでまたもや女子は緊張した。


「マスター、今日は深酔いする気はないんでな。悪酔いしにくい新酒にいざけのフォーヌ・ルで頼む。ラーシェはどうする?」


立派なヒゲをはやしたマスターはグラスをみがきながら答えた。


「アクアラーニャ……古酒こしゅですがサッパリとした味わいが特徴です」


彼女は膝にストローハットを置くとうなづいた。


「じゃ、じゃあ、それで……」


すぐに2人の前にドリンクが用意された。


「それじゃ、乾杯~」

「かっ、カンパイッ!!」


初デートの女子はこう思った。今日の失態は大きい。こんなめんどくさい女に付き合わせてしまって彼には申し訳がない……と。


確かにいい感じになったことも少なくないが、しぶいシーンが多すぎる。


どうせフラれるのならばと半ばヤケクソになった彼女はグラスの古酒こしゅを一気飲みした。


「ズデェン!!」


ラーシェは飲みきってすぐに酔っぱらって意識を失い、カウンターに突っしてしまった。


これには思わずジュリスも声を上げた。


「あ、おまっ!! バッカ!! なんてことを!!」


彼はすばやく財布から代金を出すと彼女をおぶって店を出た。


「マスター、悪いな騒がして。今度また埋め合わせすっから」


客の視線が刺さる中、ジュリスは街に出た。


「う~ん……あんな無茶するなんてよっぽど余裕がなかったのかもな。結局、肩に力が入ったまんまでぎこちなかったし。そんな急にデート慣れするこたねぇのにな。焦り過ぎなんだよ。普通逆だろ……」


彼女をおぶって出ては見たものの、大事なことに彼は気づいた。


「あ”……女子寮入れねぇから送れねぇじゃん。宿泊まりか……?」


なんだかめんどくさいことになってきた。


「ハァ……なんで都合悪く1人部屋しか開いてねぇんだよ」


ジュリスはラーシェをベッドに横たえた。


「しょうがねぇ。俺はソファーで寝るか。送り狼なんてセコいことする気もねぇし、そもそも今日はディナーでお開きの予定だったしな……ん?」


青年は後輩の背中に着目した。


「う、う~ん……しぇ、しぇんぱい~~~」


ラーシェは息苦しそうにうなされている。


「コルセットでガチガチかよ。気合い入れすぎだろ……」


ジュリスは何気なくシュッとコルセットのヒモを引き抜いた。


「んじゃ、おやすみ~」


そして日が開けた。


「ん~あ“あ”~~、頭痛っつ~~~」


鈍いうなり声を上げてラーシェは目覚めた。


次の瞬間だった。彼女の着ていたワンピースがハラリと脱げて下着だけになったのだ。


コルセットはそう簡単に脱げる作りではなかった。つまり……。


「え……あ……え?」


あまりに驚いて彼女は何も反応できなかった。


「ん~にゃむにゃ~。たのんます~単位は……単位は勘弁してください……」


一方の彼氏は呑気のんきにソファーで爆睡ばくすいしていた。


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