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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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大噴火は日常茶飯事

3人が狭いフラム・バジリスクの巣に一列で入った。


次の瞬間だった。地面が激しく揺れる。


こんな時に限って火山が大噴火を起こしたのである。


思わず3人は穴の奥へと転がり落ちるように飛び込んだ。


入ってきた入り口はマグマで大きく削られて溶岩の柱が上がっている。


「フラリアーノ先生は!?」


アシェリィは振り返ったがあまりの熱量に薬の効果が追いつかない。


「バッカ!! 先生なんだからあれくらいじゃ死にゃしねぇし!!」


無茶苦茶な理論ではあるが、あながち間違ってはいなかった。


「そうだぞアシェリィ。どっちかといえばピンチなのはこっちだぞ。マグマが流れ込んでくる前に早く卵を回収しよう。出口は噴出がおさまるか、それこそフラリアーノ先生がなんとかしてくれるだろう。さ、いこうぜ」


リコットが光源妖精ライトピクシーび出したが、ラヴィーゼは夜目よめがきくのだ。


どんな真っ暗闇、たとえそれが妨害呪文によるものだとしても視界を確保することが出来る。


元々、夜に活動することが多い死霊使ネクロマンサーの基本テクニックである。


夜目よめのきかない不死者アンデッド使いなど3流とさえ言えないのだ。


「ぐっ、まずいな。熱気は感じないんだが、ノドが焼ける感じがする。辺りの気温が上がってきてるんだ!!」

「ぐぐえ~。あちしもノドが……」

「こ、このままじゃ肺をやられちゃう……。そうだ!! ひらめいた!! サモン!! フリージング・ワイト!! ヒエルーンⅡ式!!」


さきほどフラリアーノから受け取った薬は幻魔げんまから生成されたものだ。


もしかしてそれを召喚することが出来るのではないかとアシェリィは試みたのだ。


するとスーッとノドの痛みがひいていった。心なしか熱気も軽減されたような気がする。


「アシェリィやるじゃん!!」

「うえ~い!!」

「えへへへへ……」


3人はその場でハイタッチした。


本人は意識していなかったが冒険の中でのアシェリィの伸び幅は大きかった。


今回だけでも風属性のシェルシィ、そして冷気属性のヒエルーンⅡ式を発動できている。


できればここらへんで有力な炎の幻魔げんまと契約したいところだった。


しかし一度、構築した属性関係をがらりと変えるのは難しいものがある。


アシェリィの場合は水属性、樹木属性と親和性しんわが高い。


そのどちらもあまり炎属性とは相性が良くないのである。


幻魔界げんまかいのテリトリー争いは熾烈しれつで、水属性のトップである海龍と炎属性のトップの焔龍ほむらりゅうは大変仲が悪い。


トップがそんな感じであるからして下位の幻魔は当然、その流れに従っているのだ。


実はこの活火山にも有力な幻魔げんまがあちこちに居るのだが、水属性のアシェリィには興味がないのだ。


中にはつっかかってくる者もいるし、そういった者を返りちにしてコミュニティを広げていくというのが王道ではある。


相手より強すぎず弱すぎずというのが理想的ではあるが、3人がモンスター以外に見向きもされないことからここはかなりレベルの高いエリアに思えた。


もちろんそういった高レベル帯を探索することにより新たな発見をすることもあるので決して無駄とはいえないのだが。


もしかしてこの先に幻魔げんまもいるかもしれない。


先行して歩いていたラヴィーゼが突如とつじょ、バックステップをんだ。


「ほい来た!! フラム・バジリスクさんのお出ましだよ!!」


光源妖精ライト・フェアリーがその姿を照らし出した。


「うわぁ……」

「デッカ!!」


洞穴ほらあなの横いっぱいに広がる巨大な口、なまずのような長いヒゲ、びっしりとした緑のウロコ、そして4本の背中から生えたツノ……。


複数の動物の特性をあわせ持つまるでキメラのようだった。


そいつはラヴィーゼを丸呑まるのみにしようと喰らいついてきた。


「うーし!! 口の中から骨のやり串刺くしざしに……って殺傷さっしょうNGじゃん!!」


迷いの生じた少女は口の中に飲み込まれてしまった。


「バフッ!!」


アシェリィとリコットがそろって叫ぶ。


「ラヴィーゼちゃ~~~ん!!!!」

「ラヴィーーーーッ!!!!!」


火山のオオトカゲはのっしのっしとこちらへと接近してくる。


背後からは溶岩が吹き出して壁のようになっている。


「うっ!! 万事休ばんじきゅうす!?」

「まずいし~」


2人は迂闊うかつに希少生物に手を出すわけにもいかず、ジリジリと追い詰められていった。


もうダメかと思ったその時だった。


ゆっくりゆっくりとバジリスクの口が開いたではないか。


ラヴィーゼが口の中から魔物のあごをこじ開けている。


「へへ。スケルトンによる強化外骨格きょうかがいこっかく……パワード・スケルトンさ。このくらいのあごの力なら押し返せるんだなこれが」


彼女の体の関節や節々、筋肉を補助するように骸骨がいこつのパーツが補強していた。


そして、中腰で踏ん張ったことによってわずかだが相手の背中側に空間が出来た。


「行け!! あたしはこのままでも問題ない!! さっさと卵を回収して戻ってきてくれ!!」


ラヴィーゼは片手の親指を立てて余裕のポージングをとった。


アシェリィとリコットは互いを見合わせると中途半端に開いた上顎うわあごの上に飛び乗って、モンスターの背をった。


「うわぁ……ザラザラしててネトネトしてる。気持ち悪いね~……」

「うえ~~~。おまけに生臭いし~。サカナみたいだし~~~」


散々文句を言いながら2人はおよそ4mほど匍匐前進ほふくぜんしんした。


しばらくすすむと空間が開けており、長い尻尾か続いていた。


更に暗闇の奥へと進んでいくとボゥっとランプのような暖かな光を帯びた球体がいくつもつらなっていた。


「これが……フラム・バジリスクの卵? 冒険譚ぼうけんたんにはランプ草みたいに暖色に光ってるってあったけど……」

「なんでもいいし!! ラヴィが待ってるし!! それをとっとと採取してこんなところからおさらばするし!!」


アシェリィは手に入れる卵以外を傷つけないように丁寧に拾った。


手を卵の群れにつっこむとネトっとしていていくつも糸が引いた。


「うわぁ……」


アシェリィはドン引きすると同時に、まさにこれぞ冒険の醍醐味だいごみという感触を肌で感じて興奮していた。


「よしッ!! とっととぬけるし!! 1つはあたしが持つし!!」


2人の少女は卵を大事そうに抱えた。


ラヴィーゼが口を半開きにしているからか、まだ背中側に通り抜ける余裕があった。


ランプのようにほのかに光る卵を割らないように横ばいになりながらフラム・バジリスクの背中を越えていく。


アシェリィとリコットはなんとか無事に入り口のそばに着地する事が出来た。


「よォし来たな!! こいつの口はふさいじまうぜ!!」


強化外骨格きょうかがいこっかくを身に着けたままのラヴィーゼが魔物の口から飛び出した。


「今ならマグマも止まってる!! 早く穴から飛び出すんだ!!」


そう言って駆け出していった少女は急に踏みとどまった。


「待ぁった!! タンマ!! タンマ!! 足場がねぇって!!」


ラヴィーゼが指をさすのであとの2人は火口をのぞき込んだ。


溶岩の量がかなり減っていて、浮島は完全に沈んでしまっていた。


「あちゃ~……こりゃあ飛べませんねェ……」


金髪ロングの骸使むくろつかいは肩をすくめた。


その時、上空からフラリアーノの声がした。


彼は幻魔げんま、セントピー・ドッグスにまたがって宙を舞っていた。


「3人共!! 今です!! マグマが噴出する前に飛んでください!! 私がセントピー・ドッグスで拾いますから!!」


とんだ無茶振りだなと3人は思ったが、アシェリィは担任を信用して思い切りよく飛び込んだ。


「うわぁ、ありえねぇし。勇気があるとかないとかっていうか、もはやあれはただのバカだし……」


恐る恐る落ちていくアシェリィと噴火口を見下ろしていたリコットの背中をラヴィーゼが思いっきり突きとばした。


「あ……にゃあ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”~~~~~~~~!!!!!!」


飛び込んだ少女もも突き飛ばされた少女もしっかり幻魔げんまが受け止めた。


「悪いね。あんた一人になったら飛べないだろうから。ほんじゃま、あたしもいくとしますかね!!」


ラヴィーゼはパワード・スケルトンを召喚したまま高く飛んでセントピー・ドッグスに飛びついた。


「よし!! 3人共、大丈夫ですね? 一気に離脱しますよ!! しっかりつかまって!!」


空飛ぶ胴長の犬が火口から抜けた直後だっった。


火山は大噴火を起こして真っ赤なマグマが背後一面に広がった。


飛んでくる溶岩や噴石はセントピー・ドッグスがうまいこと弾いた。


「ふう。一段落ですね。アシェリィ、リコット。フラム・バジリスクの卵を渡してください。この保温袋に入れます」


フラリアーノは細長い幻魔げんまの上を器用にてくてくと歩いて暖色に光る卵を受け取った。


それを見てアシェリィは不思議そうな顔をした。


「先生……どうして私達が希少種の卵を回収したんですか? 勝手に他の国の生態系に干渉かんしょうするのはどうかと思うんですが」


教授はにっこり笑いながら解説をはさんだ。


「確かにガルガンドゥはビーノ王国の土地です。しかし、発展途上国であるビーノはこのハイレベルな噴火島ふんかとうを持て余しているのです。そこで、生態系や環境の研究をリジャントブイルに委託しているんですよ。今回の一件もちゃんと採取許可の書類が出てるんですよ。ほら、希少生物担当のボルカ教授のサインがあるでしょう?」


ピラピラと風になびく許可証を彼は両手で押さえた。


「あちらの方は貴重な生体素材や鉱石が手に入り、こちらには見返りで貴重な火山帯のデータが入る。Win-winの関係というわけです。まぁ今回はフラム・バジリスクの繁殖を試みるための採取でしたのでこれは学院に持ち帰ってありがたく研究させていただきますが」


その頃、アシェリィのヒエルーンⅡ式の効果が切れてきて3人は火山のせいで汗だくになっていた。


「うわ~、もうサイアクだし~。早くお風呂入りたいし~」

「全くだ。あちこちススだらけだよ」

「でもこの空を切る風、涼しくて気持ちよくない?」


不満をたれる2人に対してアシェリィはスカッっとしたような表情で前髪をかきあげた。


「へへ。まぁな」

「達成感ってやつだし~~~」


こうして4人は噴火島ふんかとうに別れを告げた。


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