サモニング・ガールズ・トリオ
アシェリィ、ラヴィーゼ、リコットはフラリアーノが差し出してきた幻魔の生成薬ヒエルーンⅡ式を飲んだ。
飲み終わると今までの周囲の熱気がウソのようにスーッと引いていった。
回復薬としての効果もあるのか、上陸してからの疲労がすっかりとれた。
「まったく、ニコニコしながらホントに先生は人が悪いよ」
キツめの憎まれ口をラヴィーゼが叩いた。
「はは……。たまに言われます。繰り返しになりますが、この薬で軽減できるのは熱気のみです。炎やマグマが直撃すると普通にヤケドしますので慎重に行動してください。特にむやみにモンスターに向かっていくのは危険ですからね」
両目に泣きぼくろのある教授はいつもニコニコしているように見えたが、ただの細目なだけだった。
3人は体力、気力ともに回復してまた活火山を登り始めた。
相変わらずあちこちに溶岩で構成されるマントラー・ゴーレムが潜んでいたが流石にそう何度も踏みつけずに進んだ。
ようやく噴火島ガルガンドゥの中腹にたどり着いた頃だった。
「グルルルルルルル…………」
周囲から獣の唸り声のような音が聞こえる。
まるでマグマが吹き出すように狼の魔物が地面から吹き出した。
「あっ!! あれはもしやウォルフ・プロミネンシー!?」
フラリアーノはアシェリィの叫びに満足気に答えた。
「よく知っていますね。そう、あれはウォルフ・プロネミンシーです。見ての通り、マグマのような性質を持った狼です。私は見守っていますので撃破してください」
溶岩の獣は4体くらいでこちらを囲んでいる。
地面から飛び出しては潜り、飛び出しては潜るを繰り返していて、全くスキがない。
ピンク色のリコットのすぐわきをウォルフが駆け抜けていき、彼女は軽く炙られた。
「うわー!! あっちぃし!! ホントにあの薬、火山の熱さにしか効かないじゃんよ~!!」
引率の教授は頬を軽く掻いた。
「いや、だからそう言ったじゃないですか。あくまであれは探索用なんです。なんとかして自力でここを突破してください」
その時、ラヴィーゼが一歩前に出て歌いだした。
「ラヴィーゼの~ちょっといいとこ見てみたい~♪」
「ハイ!! ハイ!! ハイハイ!!」
「え~……ここでもそれやるの~?」
アシェリィを置いてけぼりにしつつ、勝手にラヴィーゼとリコットで盛り上がっている。
「いくぜ!! アッズーロ・コーティング・スケルトン・トリオ!!」
真っ青に美しく光る骸骨が3体、黒い地面から這い出してきた。
骨の剣と盾で武装している。存在しない関節は魔力で補われていた。
ウォルフ・プロミネンシーが突撃してきたが、アッズーロ・スケルトンはひるむことがなかった。
「確かに不死者は炎には弱い。でも他の属性を練り込めば弱点の克服は可能なんだよ。まぁ変わり種を呼び出すと精神汚染のリスクがあるから滅多にゃあやらないんだけどな。今回は特別だぜ」
飛び込んできた獣を横っ飛びで回避した骸骨は骨の剣を振り抜いた。
これによってまずは1匹を撃破した。
「ラヴィーゼちゃんが頑張ってるならあたしだって!!」
アシェリィもサモナーズ・ブックに手をかざした。
「さっき、先生のセントピー・ドッグスの背中で感じた感覚を思い出すんだ……。サモン!! ウィンディ・グリーン・レイド!! シェルシィ!!」
彼女は行きで乗ってきたフラリアーノの幻魔から何かを感じ取ったようだった。
少女が片手をかざすと犬の頭部が飛び出した。
そのまま緑色の渦を巻き、尾を引いた幻魔が出現した。
「バウッ!!」
シェルシィは風属性だった。そのまま強烈な風圧で溶岩の狼をねじ伏せる。
風前の灯のように魔物はフッっとかき消えた。
この一撃でまたもや1匹の魔物を撃破することに成功した。
「よっと。もういっちょ!!」
ラヴィーゼのスケルトンが手堅く3匹目を倒した。
だが、ウォルフ・プロミネンシーは仲間を呼んでいたらしい。
次々にワラワラと沸きだしてくる。
リコットは手のひらをかざして飛んでいったアシェリィの幻魔を引っ張ってきてキャッチした。
そしてそれをそのまま憑依させ、あたり一面に風圧を解き放った。
「アサルト・ビリジエン!! 我重なりて暴れよつむじの狂犬!! バースト・ソウル・シェルシィ!!」
器用に味方をよけて敵だけを風で吹き飛ばしていく。
数分としないうちに炎の狼は消滅していた。
「イエーイ!!」
「おい~す!!」
「ハァ……ハァ……うえ~い!!」
3人は駆け寄って勝利を喜びあった。
その様子は見ていて微笑ましく、思わずフラリアーノもつられて笑った。
調子に乗った一行はどんどんとガルガンドゥを噴火口に向けて登っていった。
頂上が近くなると飛んでくる噴石やマグマの数はとても多くなっていった。
おまけに火山の振動で地震が頻発するようになった。
グラグラとあまりにも大きく揺れるので足はとられるし、不安感を煽られた。
思わず足元に目が行きがちだったが、空から何かの鳴き声を聞いて全員が空を見上げた
。
「ピエーーーーーーーーン!!!」
真っ赤な羽の大きな鳥が空を旋回しているのが見える。
「あ、あれもしかして不死鳥じゃね?」
ラヴィーゼが目をまんまるにして炎のような鳥を指さした。
だが、フラリアーノは首を左右に振った。
「いえ、よく似ていますがあれは煉獄翼鳥です。不死鳥そっくりに擬態することで身を守っているんです。臆病な性格ですから、襲ってはこないでしょう。ちなみにガルガンドゥでも不死鳥の目撃情報はありますが、もう何百年も前のこととのことですよ。アテにならない情報ですね」
煉獄翼鳥を眺めながら一行は火山のへりである地獄の淵に到達した。
覗き込むとマグマがグツグツと煮立っている。
時折、まるで掴んで飲み込まんとするような勢いで溶岩が吹き出した。
「さて、溶岩の浮島をジャンプして進みますよ。いざというときは足元を氷結させますが、しくじれは熱い思いをします。くれぐれも注意してください」
そういうと担任はぴょんぴょんと軽快にジャンプしてマグマに浮く足場を進んだ。
思わず女生徒3人は息を呑む。
「えーい!!」
真っ先に飛び込んだのはやはりアシェリィだった。
「あらよっと!!」
次いでラヴィーゼが。
「うわ~。お前らちょっとはビビれし~」
最後にリコットが浮島にジャンプした。
「こういった浮島の先にあるほら穴にフラム・バジリスクは巣を作ります。本来はさほど凶暴な性格はしていませんが、卵を守る時期は気性が荒くなります。5mもの体長がありますので、狭い空間での戦闘を想定せねばなりません。なお、今回はターゲットの殺生はNGです。うまいこと卵を数個だけ採取してきてください。希少な野生生物ですからね」
予想外の課題に思わず3人は顔を見合わせた。
極めて狭い空間でかつ凶暴なモンスターに対して手加減をするというのは明らかに難易度が高かったからだ。
いっそ戦って勝ったほうがどれだけ楽だっただろうかと思えるほどだ。
だが、ここまで来て尻込んでいても仕方がない。
まずは手分けして目標の巣を探してみることにした。
3人が散開しようとした時だった。リコットが声を上げた
「こ、これは!! みんな息を止めるし!! 妖精が火山性ガスに反応してるし!! このままでは強い毒性でやられてしまうし!! サモン・フェアリー!! アンチ・ヴォルケニクス・スモッグス!! ガハーマ!!」
蛾のような羽をしたマスタード色の妖精が辺りをヒラヒラと飛び回って有害物質を中和した。
「何もあたしは妖憑だけじゃないんだし。そこんとこ誤解しないでほしいし」
自己主張する彼女の肩にラヴィーゼが腕をかけた。
「ハイハイ。わかってますよ。リコット先生のフェアリーは超一流ですからね」
わざとらしいリアクションにリコットはむくれた。
フラリアーノは首を縦に振った。
「よく対処しましたね。私が割って入ろうかというタイミングでしたが。繊細な感覚が無ければガスを感知するのは難しいですからね。よくやったと思いますよ」
それを聞くとピンクづくしの少女は親指を立ててニカッっとわらった。
「さて、召喚したはいいけどずっと召喚してると疲れるし。早いことフラム・バジリスクの巣を見つけて卵を頂いて火山口から抜けるし」
全員は顔を見合わせあって頷きあった。
「お~い。こっち穴あったぞ~」
「こっちにも~」
「穴ボコだらけだし~」
手分けして巣を探すと無数のほら穴が見つかった。
どれを探索しようか3人が悩んでいた時だった。
「あ、そうだ。呼び出してるフェアリーで気配を探ればいいし」
意外と応用力の高い能力を持つ妖精にアシェリィ、ラヴィーゼ、フラリアーノは感心した。
まぁバトルに関してはお世辞にもそのままで活躍できるとは言い難いのだが。
「数体潜んでいるけど、卵が一番多いのはこっちの穴だし」
リコットは先頭をきってマグマの浮島を飛んでポッカリと真っ黒な口を開ける穴の前に到達した。
「準備はいいかし? フォーメーションは?」
そう彼女が問うとラヴィーゼが名乗り出た。
「暗所での戦闘ならあたしが有利だな。先頭は任せとけ!!」
金髪の目立つラヴィーゼは自信ありげに笑ってみせた。
「じゃあ二番手は私かな。前衛、後衛どっちもサポートするよ!!」
それに次いでアシェリィも手を降った。
「じゃあ大将はあたしだし。じゃあ気合いれていってみるし!!」
フラリアーノが見守る中、3人娘はフラム・バジリスクの巣へと突入した。




