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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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それ行け!! 西へ東へ冒険娘!!

遠足で思うように活躍できなかったアシェリィは肩を落としてサブクラスの召喚術サモニングの教室に入った。


するとクラスメイト達は拍手はくしゅで迎えてくれた。


皆、ナッガン教授の遠足がスパルタなのは周知しゅうちの事実なのだ。


「アシェリィ、よく無事に帰りましたね」


担任のフラリアーノはにこやかな表情で彼女の無事を確認した。


「おかえりなさい……と言いたいところですが、あなたの班以外のメンバーはこのクラスの”遠足”に既に行ってきているんですよ。そういうわけで、まだ行っていないあなたとラヴィーゼとリコットは早速、私と一緒に来てもらいます。どこへいくかはお楽しみです。楽しみにしていてください」


そう彼が言い終わるや否や、ピンクづくしのリコットが泣きながらアシェリィの胸に飛び込んできた。


「うえ~~~~アシェリィ~~~。もう不死者アンデッド妖憑フェアリー・ポゼッションさせるのはゴメンだし~~~。臭いし、気持ち悪いし、吐き気はするし、ウジはわくし、うみは出るし、おまけに包帯だらけ!! もうさんざんだし~~~!!!!! こんなんじゃお嫁にいけねぇし~~~!!!」


アシェリィはリコットを受け止めてやったが、強烈な死臭がした。


「うっ……は、はいはい。戻ってきたから心配しないでね」


それを見ていたラヴィーゼはすねた。


「ハン!! なんだか私が悪者みたいじゃん。まぁ気持ち悪いのは否定しないけどさ……」


すっかりいつもの3人が戻ってきた。彼女らは次の日の早朝、指示通りに校庭に集合した。


フラリアーノは笑顔に見える細目のまま幻魔げんまを召喚した。


「サモン!! フライヤー・ブラウン!! セントピー・ドッグス!!」


細長いヘビのような体格をした茶色の犬が出現した。


まるでムカデのようにいくつもの手足が生えている。


「え”……先生、ナニコレ……」


リコットはドン引きしながらそうたずねた。


「何……ってセントピー・ドッグスですよ。これにに乗って目的地へ向かいます」


ピンクづくめの少女は納得がいかないらしい。


「そういう事をいってるんじゃなくて~。なんでドラゴン・バッケージ便じゃないし!! それに、こんなのにどうやって乗れって……」


文句を言う彼女の横をツカツカとアシェリィが歩いていった。


そして小走りになると胴体の長い犬に飛び乗って抱え込むように脚をつかんだ。


「アシェリィ、良いですね。そうやって乗ります。流石に4名じゃドラゴン・バッケージ便は大きすぎますから彼に頑張ってもらいましょう」


不思議な犬はとぐろをまいてえた。


「ワフッ!!」


ラヴィーゼも勢いをつけて走り出してその幻魔げんまに飛び乗った。


「しょうがねぇ無茶振り先生だなっ。よっ!!」


リコットは恐怖に震えているようだった。


「落ちるし~。こんなの絶対落ちるし~」


担任のフラリアーノも飛び乗ってドッグスの手をにぎった。


「平気ですよ。こちらからにぎっているうちは相手もにぎり返してくれます。優しい幻魔げんまですから痛くしないですよ。胴体もバランスが良いですし、意外と乗り心地はいいですし。ソファーに寝転ぶような感触です」


最後に残った女生徒はヤケクソになって犬の背中に飛び乗った。


「乗り忘れはいませんね? では遠足に出発です!!」


教授が声をかけるとセントピー・ドッグスはとぐろを巻いて天に舞った。


彼はみかけによらず速く、すぐに学院は遠くなっていった。


ジャングルで思ったように修行の成果が出ずに落ち込んでいたアシェリィだったが、次なる冒険が始まると思うと胸がときめいた。


そのまま一気にテンションがあがり、彼女はベストコンディションになった。


アシェリィの魔術は冒険すると上がり調子になるというものだった。


もっとも、危ない橋をわたるたぐいの”冒険”でもポテンシャルを発揮するのだが。


本人はそれを自覚していなかったが、それが周りからお転婆てんば蛮勇ばんゆうと指摘される所以ゆえんだった。


マギ・コンパスを見ると進行方向は南南東の方角を示している。


あっという間にパルーナ・ジャングルの上空を通り越した。


ダッハラヤの豪華な宴が思い起こされる。あれはいい思い出になった。


そんなことをぼんやり考えていると海の上なのに真っ黒な噴煙ふんえんが上がっていた。


「さぁ、着きましたよ。今回の社会科見学は噴火島ふんかとうガルガンドゥです」


小回りがきくからか、セントピー・ドッグスはドラゴン・バッケージ便よりはるかに速かった。


早朝に出発して次の日の昼頃には到着していたのである。


「ガルガンドゥは見ての通り活火山で、太古から噴火をやめた事がないと言われています。ただ、島自体の拡大は止まっていて、流れだしている火山土などは周辺の海に溶け込んでいるとの説が有力です」


大気が震えと爆音が辺りに響く。


「ドカーーーン!!!! ガガガーーーーーン!!!!!」


溶岩口からは勢いよくマグマが飛び出した。


「うわ~……あつ~い……」

「うう、確かに……」

「服が汗だらけだし……きもちわる~」


島に接近するにつれて熱気と噴火は激しさを増していった。


そんな中、フラリアーノは振り返って質問してきた。


「みなさん、どうして遠足にここを選んだかわかりますか?」


その問いに答えが出せず、3人は首をかしげた。


「アシェリィ、あなたの主な得意属性は水と樹木ですね。一見すると水属性はこの噴火島ふんかとうで上手く立ち回れそうな気がしますね。しかし、このガルガンドゥはあまりに炎属性が強く、植物も一本も生えていません。水は火に強いというパワーバランスが完全に逆転しているのです」


それを聞いていたラヴィーゼはなにかひらめいたらしく、声を上げた。


「あ~~~!!! って事は不死者アンデッド属性のあたしも不利じゃん。リコットはサポートの妖精ようせい中心で、妖憑フェアリー・ポゼッションしてもあたしたちと属性は変わらない。要するにこの火山はあたしら3人とかなり相性が悪いってこと!!」


教授はうなづきながらにっこり笑った。


「ええ。そういう事です。ちゃんと課題も用意してありますよ。火口にむとされるフラム・バジリスクの卵を持って帰ってきてください。私も同行しますから最低限の身の安全は保証しますが、気を抜いているとケガしますよ。注意してくださいね」


アシェリィが素っ頓狂とんきょうな声を上げた。


「ひえ~!!! フラム・バジリスクって目があうと炭にされちゃうっていうオオトカゲでしょ!? 絶対やばいって!!」


ラヴィーゼとリコットは動揺どうようしたがすぐに教授がそれをなだめだ。


「確かにバジリスクは相手を石化する力がありますが、亜種であるフラムのほうはそういった能力が失われているんですよ。おおかたいい加減な冒険譚ぼうけんたんの内容でしょう。ただし、全長5mくらいはありますからね。侮れない相手なのは間違いないです。さて、そろそろ島に付けますよ!!」


セントピー・ドッグスは柔らかに黒い砂浜に降りたった。


その直後、幻魔げんまは消えて幻気体げんきたいになった。


「うわぁ……上陸したらもっとあつ~い……。こんなんじゃやってられないよ!!」


アシェリィは腰にくっつけたままのサモナーズ・ブックをポンポンと叩いた。


「サモン!! ベネフィティカル・ブルー!! ランフィーーーーーネ!!!!!」


彼女は雨乞あまごいの幻魔げんまで雨を呼んだ。


すぐにどこからともなくザーザーと雨が降ってきたが、それはお湯だった。


「アチアチ!!!!」

「アシェリィ何やってんだよ!!」

「うわ~も~さんざんだし~」


唯一ゆいいつフラリアーノだけは平気な顔をしていた。


「つまりこういうことですね。この噴火島ふんかとうでは安易あんいに炎に水属性をぶつけてもひっくり返されてしまうんです。こういう属性の関係性が逆転する現象はしばしばあります。しっかりと克服しておかないと痛い目を見ますよ」


すぐにアシェリィはブックをポンポンと叩いて熱湯の雨を止めた。


「ところでアシェリィ、ずいぶんお行儀ぎょうぎの悪い召喚方法サモニングを使っていますね。誰かから教わったのですか?」


緑髪の長髪の少女はコクリと首を縦に振った。


「え、あ、はい。師匠せんせいから教えてもらいました。お行儀ぎょうぎが悪いって……なにか問題でもあるんですか?」


フラリアーノは首を左右に振った。


「いえ、いずれ覚えることになりますし問題といった程のことではありません。ただ、いくつかカリキュラムをすっ飛ばして修得いるし、クセのつきやすい方法なので気になったんですよ」


ついでにアシェリィは召喚サモニングの速さについてもたずねてみた。


「そういえば先生。亡霊ファントムと戦ってみてスピードが足りなかったんですが、速く召喚する方法はありますか?」


すると彼は彼女のサモナーズ・ブックを指さした。


「バインディングが出来れいるので後少しです。本を叩くタイミングや間隔かんかく把握はあくしてまずは馴染なじみの深い幻魔げんまを召喚してみるといいでしょう。そして、寝るときなど片時もブックを手放さず慣らす。こんなとこですかね」


サモナーズ・ブックが完全に腰にくっついたアシェリィをを見てラヴィーゼとリコットは驚いた。


「あたしらぼちぼち練習し始めたときなんに、もう完璧かんぺきじゃね? ずるい~ずるいし~!!」


ぐずるリコットをよそにラヴィーゼは自分の肩に本をくっつけてみせた。


「ふふん。実は出来るんだな~。私も。ま、じいさんの修行は伊達だてじゃなかったってとこかな」


先を行く二人にピンクづくしの少女は刺激された。


「もうい~し!! あんたらが出来るんならあたしも出来るようになるまでだし!! みてろし~!!」


両のほほに泣きぼくろのある教授は満足そうだった。


(この班は伸びるでしょう。各々(おのおの)の個性が際立っているし、なおかつ互いに協力しつつも高め合っている。そして何より勇気があるメンバーがそろっている。あ、いや、リコットはそこまでではないかもしれませんが……)


3人があれやこれやと噴火島ふんかとう攻略に案を出していたが、あまりはかどっていないようだ。


このままではキリがないのでフラリアーノは声をかけた。


「ひとまず島の中を進みましょう。飛んでくる噴石はガードするか避けること。さっきも言いましたが、油断すると怪我けがをしますよ。他の班は全員無傷だったんですからしっかりしてくださいよ」


他の班を引き合いに出されると気が引き締まったのか3人は冒険者イクスプローラーの顔になった。


「私は後ろからついていきます。先頭はアシェリィからで。ではいきますよ!!」


こうしてジャングルから連続で噴火島ふんかとうガルガンドゥの遠足が始まった。


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