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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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3日続くよダッハラヤ

リジャントブイル学院の関係者は皆が着席した。


するとダッハラヤ国王が歩いてきてこの部屋にもある王座に座った。


「諸君、よくやってくれた。これで当分は邪神サーディスーパやぞう共におびやかされることはないだろう。国民の分も代表して礼を言うぞ」


彼は深く頭を下げた。


金にこだわるる人物だと聞いていただけにこの態度は意外で、後を追うように一同は頭を下げた。


「まぁそう堅苦しくするでない。ささ、祝杯をあげようではないか」


各々のテーブルに飲み物が置かれていく。


するとナッガンがくぎをさした。


「ダッハラヤでは14歳から飲酒が可能だが、お前らには16歳からのライネンテ国の法を守ってもらう。それに、無礼があってはならんから古酒ふるざけも禁止だ。飲酒者は新酒にいざけだけ飲むように」


それを聞いた国王は声を上げて笑った。


「はっはっは。これはこれは手厳しい。まぁそちらがそう言うのなら……。まぁたとえ酒が飲めなくても宮廷料理には自信がある。うまい料理で疲れをねぎらおう。では、乾杯!!」


「乾杯!!」


学院関係者はそれに揃えて祝杯のスタートを切った。


班ごと、補助要員ごとに円形のテーブルが分かれており、そこにイスが並べられている。


それを囲むように美味しげな料理の盛られた皿が所狭ところせましと並んでいた。


俗に言うバイキングというやつである。


部屋が広かったので酒を片手に立ち話にも花が咲いた。


「う~ん……私達、まだ16歳未満だから、ジュースだけだね……別にそこまでお酒が飲みたいわけじゃないんだけどさ……」


ノワレはなんだか得意げにアシェリィを見た。


「ふふ。今日はジュースですけどたまにはお酒もいいものですわよ。まぁこちらに来てからは飲んでませんが……。貴女あなただってどうせあと1年経たないうちに飲めるわけですし、それまではお預けですわね」


ジュースだけ少女はエルフの少女へ視線をやった。


「え~。ノワレちゃん飲んだことあるんだ~。いいな~。ちょっとだけ憧れちゃうなぁ~」


向かい合って座っていたフォリオも反応した。


「ぼぼっ、ぼくはお酒はどっちでもいいかな。な、なんだか、の、飲んだらすごいオトナって感じがするから……」


なんとも言えない感想だったがその意見にアシェリィは半ば同意していた。


「フン。くだらん。酒なんて所詮しょせん現実逃避げんじつとうひに過ぎん。酒が楽しみになるようじゃおしまいだな」


キツい一言が班員を貫いた。イクセントらしい考え方だ。


「あら、飲んでも居ないのにご立派ですわね。ま、あなたにもそのうちわかるでしょう」


少女はそっぽを向いてしまった。


クラスメイト達はさっそく料理の盛られた皿が並ぶテーブルから美味しそうな料理を自分の皿にとった。


そんな中、部屋のすみで何を取るでもなく1人だけポツンと立ち尽くす少女が居た。


カークスである。邪神にトドメをさした時にあの場にいた者だけが彼女の態度の理由がわかった。


ノワレとフォリオ、イクセントはアシェリィに視線をやった。


少し離れた位置から立ったままグスモもこちらを見ていた。


5人はすぐに集まるとカークスの元へと向かった。


「ひっ、ひぃぃ!!」


彼女は反射的にのけぞった。


てっきり彼ら彼女らに責められると思ったのだ。


カークスは頭を抱えてしゃがみこんでしまった。


激しく周りに嫌われていた過去のトラウマが鮮明によみがえってくる。


一体どうしたことだろうと一同はそちらに注目した。


意外にもまっ先に声をかけたのはイクセントだった。


「顔を上げろ。お前は悪くない。サーディ・スーパを倒すにはああするしかなかった。お前を恨んでるやつはいないだろ。……多分な」


他のメンバーもフォローに入る。


「そ、そ、そうだよ。カークスさんが決めてくれなければま、まだ遠足は続いていたと思うよ」


グスモも同意した様子で瞳を閉じて笑みを浮かべながら声をかけた。


「そのとおりでやんすよ。カークスさんが責任を感じるこたぁねぇ。むしろよく感情をこらえて強烈なのを打ち込んだでやんすよ」


口元を抑えて泣く彼女にアシェリィとノワレがそれぞれ右肩と左肩に手を置いた。


「とっても痛い目を見ましたわ……。なんてのは皮肉でよくやったと私も思いますわ。仲間を巻き込んであそこまでやるには半端ない覚悟が必要ですもの」


アシェリィはケロっとした様子でカークスをたたえた。


「そりゃあたしかにすんごく痛かったけど、あそこでトドメをさせるのはカークスちゃんしか居なかったから。あんなに逃げ回る敵によく決めたと思うよ」


ナッガンもこちらにやってきていた。


「そうだな。カークスだけでなく、お前ら全員がよくやった。今日は好きだだけうたげを楽しむと良い」



彼がさかずきかかげるとそれに応じて学院関係者は乾杯した。


それぞれが歓談したり、料理を取りに行ったり思い思いに過ごした。


「え!? ジャヤヤ象って食べられましたの!?」


驚くシャルノワーレにアシェリィが答えた。


「え? 知らなかったの? そのままじゃ不味まずくて食べられないけど、ポポンの香草の油につけると珍味になるんだよ。手間暇てまひまがかかるから黙ってたけど、一応レア度C級のトレジャーだよ」


エルフの少女は思わず顔をしかめた。


「お……お世辞にも美味しそうには見えませんわね……。私は遠慮しておきますわ」


そんなやりとりをしていると味がわかる人物が寄ってきた。


スイーツが得意なミラニャンである。


「あっ!! すごーい!! ジャヤヤぞう香草漬こうそうづけじゃないですかぁ!! 食べたいな~とは思ってたんだけど、まさかここで食べられるとは!!」


彼女は皿に肉をよそいだした。


ミラニャンはジャングルでどうすごしていたのか?


気になったノワレはたずねてみた。


「ミラニャン、貴女、今回の遠足はどうでして?」


ぽっちゃり系少女は首を左右に振った。


「ううん。サッパリ。最初の頃にポーゼくんと組んで以来はひたすら逃げるばかりだったよ」


アシェリィは不思議そうな顔をした。


「え……どうやってあのぞうから逃げ切ったの?」


ミラニャンはどこからともなくフライパンを取り出した。


「お行儀ぎょうぎ悪いけど、スイーツを作ってマナを補給しては全力で逃げて、作って補給しては全力で逃げての繰り返しだったよ」


確かにこれは彼女にしか出来ない自家発電のような芸当である。


3人で話していると体に似合わない大きな灯台を背負った少年がやってきた。


「ポーゼくん!! 大丈夫だったの!?」


彼はコクリと首を縦に振った。


「僕は……別に。相変わらず籠城戦ろうじょうせんさ。それより、君は?」


アシェリィとノワレは珍しく無口なポーゼの声を聞いた。


「うん。私はなんだかんだで大丈夫。他の皆はどうだったんだろうね? ノワレとアシェリィはサーディ・スーパを撃破した班だったんでしょ? 話が聞いてみたいなぁ」


ポーゼも小さな背丈で見上げるようにしてうなづいた。


邪神を捕獲するまでのいきさつだとか、カークスの活躍だのを話した。


指をさしたほうに居た花火少女はすっかり人気者で、大人数に囲まれていた。


彼女は自分だけの手柄てがらではないと主張し、アシェリィとグスモの名をげた。


ニュルが驚いたような顔をした。


「するってぇと……俺が投げた耳はアシェリィに届いたのか!!」


少女は恥ずかしげに目をそらした。釣りに失敗したのだから無理もない。


「あ~、確かに受け取ったんだけどさ……。その、私は逃しちゃってね……」


今度はグスモに視線が移った。


「いや、ほら、あっしはジュリス先輩のアドバイスがなきゃダメでやんしたよ……あっ……」


ポッっと口からでた”ジュリス”の一言だったが、少年は気まずく思った。


それを聞いたナッガンが彼の課題について再確認した。


「さきほど言ったように、レポートが間に合わなくともあいつを落とす気はない。まぁ多少は出来も見るが、問題ないだろう。こんなところで暗くなっていないで、お前らは素直に宴会えんかいを楽しめ。そして、結果がでたら笑ってやるのがベストだと俺は思うぞ」


それを聞いていたクラスメイト達は思わず苦笑いを浮かべた。


いつ自分にもこんな気まぐれな試練が降りかかるかもしれないと思ったからだ。


「あぁ、1つ言っておく。これはあくまで研究生エルダーに課す課題として選択したものであって、お前らにそこまで理不尽りふじん難易度なんいどの課題を出すことはない。安心するように」


そう彼は言うが、今回も前回も遠足はどう考えても理不尽りふじんとしか言いようがないのだが。


普段の授業でもかなりシビアなものもあったりする。


このナッガンの「安心しろ」という言葉はあまりアテにできたものではないなとその場の全員が思った。


皆がジュースや酒にいしれ、うまい料理に舌鼓したづつみをうち、互いのジャングルでの日々を回想しあった。


上手くパーティーが組めた者もいれば、そうでない者もいた。


だが、これは教授の狙い通りで実戦ではそううまくパーティーが合流できないということを想定しての実戦訓練だった。


だが組んだことのない組み合わせのパーティーが出来たりと、ナッガンクラスの可能性が広がったのは間違いなかった。


打ち上げはピークに達し、宴もたけなわといったところだった。


全員が飲んだり食べたりに満足しきった頃だった。


ダッハラヤ王がパンパンと顔の横で両手を叩いた。


「では諸君、明日は午前8時から宴会を開始する。今日とはまたおもむきの異なった宮廷料理を用意しておく」


それを聞いて参加者たちはざわついた。宴会が2日続くとは思わなかったからだ。


ナッガンがそんな彼らに声をかけてきた。


「ダッハラヤの祝宴しゅくえんはテーマを変えた料理で3日間行われると決まっている。ご厚意こういに甘えて明日、明後日あさってと宴会を楽しむことにしよう」


その日は昼過ぎからいろいろと飲食していたので、ダッハラヤのマナーを知らない者はお腹がパンパンになっていた。


バイキング形式をとっているのはつまりそういうことである。


あと2日間、このうたげは続くのだ。


宮廷料理など滅多にない機会だから嬉しいと言えば嬉しいのだが限度というものがある。


一部を除き、苦しくなるほど食べるに食べて学院関係者はドラゴン・バッケージ便へと戻った。


もっとも、満腹のまま出発すると酷いことになりそうだったのでしばらく休憩きゅうけいを置いてからドラゴンはミナレートへと帰還きかんした。


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